第69話 旅立ちのために
あれからマック達の護衛も無事済んで、数日が経った。マック達の護衛は十分に信頼できると言えるだけのものであった。英雄の国に行く時の護衛は彼らで問題ないだろう。
戻ってからはミチナガ商店のために細々と雑務をこなしていった。売り上げは毎日のように伸びていく、なんてうまい話はないがまあ平均して1日の売り上げが金貨15枚を越すようにはなった。
つまりは10日で金貨150枚、月に金貨500枚近くの売上になるのだ。これはうっはうっはだ、とこれまた言いたいところだが、給料で一人金貨6枚に繰り上げたから金貨48枚…あ、ティッチにボーナスって言ったから給料だけで金貨50枚は使うなぁ…
さらに店舗開店のための借金が金貨2000枚以上…売上の半分以上は返済に当てておきたいな。利子がかさむのは嫌だし。じゃあ月の返済は金貨300枚として…
儲けは約金貨150枚くらいかなぁ…それもマック達の護衛に使うから下手に使えない。儲けているようで結構かつかつの運営になりそう。
これで材料費がかかっていたらマジで終わっていたな。材料費だけで売り上げの半分は持っていかれるから借金の返済と給金だけでも精一杯だ。
さて、店はもうだいぶ落ち着いたので俺がやることは特にないだろう。次にやらなくてはいけないことはルシュール辺境伯からもらった流通禁止金貨の消費だ。あれから社畜がしょっちゅう研究費として使っているがそれでもまだ残っている。
この金貨を使い切らなければこの領地から出ることはできない。また採掘アプリのガチャでも回そうかなぁ…だけど勿体無い気がするな。
本当はスミスとか親方から申請があった家の増築をしたいところだが、いかんせん材料がない。街で普通に使用できる金貨で木材を買うという考えもあるが、店に何かあった時に金貨を使えるように取っておきたい。
残りの流通禁止金貨は180万枚近くある。レシピをどんどん買ってはいるが、結局材料の問題や道具の問題で作れないものがほとんどだ。いつかは使えるかもしれないが、正直当分必要ない。どうせならすぐに使えるものがいい。
「あ、とりあえず釣り場でも買っておくか。用水路みたいに副次的に使えることもあるし。」
釣りバカ野郎のアプリで海の釣り場を買っておこう。あ、海水使えば塩も作れんじゃん。今、塩は買うしか方法なかったからな。またこれで料理の費用が浮くぞ。
「え〜っと…海の種類は…砂地に砂利、岩場に岩礁帯、砂浜……マジで細かく分かれすぎだろ…暖流系と寒流系…温度の変化でも釣り場が分かれているからそれぞれで購入しないといけないとか…」
マジで鬼畜というか外道だよな。こんなアプリの評価なんて星つかねぇよ。まあ今は金に余裕があるから割と一通り買えるな。全部で金貨6000枚くらいかな。安い。
「さてさて、じゃあ早速釣りを…ん?対応魚種がいないため釣りができません。……まじか。」
そこは初回特典で1種類くらいいないもんかね。じゃあ買っても意味はないのか。あ、しかも釣り場も砂浜とかしか使えない。それ以外は船がないと釣りできないのかよ。じゃあ砂浜以外いらねぇ…
じゃあ川の方も色々買っておくか。河口に上流、中流、下流…細かいの色々あんなぁ…
そして金貨1万枚を課金した頃だろうか。ついに…
「あ、なんか夢中になって課金してたけど…も、もしかして…これで……全課金完了だ!」
やった…遂にやったぞ。合計で多分金貨2万枚くらい消費したけど遂にフル課金アプリが完成した。あとは自分で魚を入手して釣れるようにするだけだ。これからが長いがこれで課金をしなくちゃとか余計なことを考えずに済むようになったぞ。
『よくやった!実績を達成したぞ!……実績の達成を確認…実績、および特定条件の達成を確認しました。新規釣り場が解放されます。新規釣り場『妖精の庭池』が解放されました。』
「え?まだあんの?というか妖精?ってもしかして…あの妖精の泉とおんなじようなやつのことかな?」
もしもそうだとしたらこれはかなりすごいぞ。なんせ妖精の泉の水だけで十分金になる。それに日本酒造りだってできるようになるぞ。
「これは早速買わないと……って金貨100万枚!?高すぎだろ!」
いやいやいや…これはさすがに……でもここで釣れると考えられる妖精喰いを売ればすぐに回収できる?買う人間は限定されるが、割とすぐに元が取れるな。じゃあ買って損することはないな。じゃあ早速買おう。
『『妖精の庭池』を購入したな!ここは制限付きの釣り場となる。魚体は最大30cmまで、1日に釣れるのは3本、水は5Lまでしか汲めないぞ。』
「おい…そういうことは先に言えよ。当分元とれねぇじゃねぇか。」
なんだよ制限付きって。そんなのありかよ…しかも妖精喰いは1mを優に越す大きさだぞ。もう釣れないこと確定じゃねぇか。
残りの金貨は80万枚を切ったな。無駄金使って金貨がなくなった気もするがまあきっとそのうち役に立つ。
「だけど課金することによってさらに課金要素が増える可能性があるのか…これもう終わりがないな…」
料理のレシピや作物の種なんかもまだまだ今後も増えていきそうだ。一体いくら課金したら終わるんだろうか。別に俺はスマホゲーは好きだけど課金は好きじゃないんだよなぁ…
とりあえず残りの金貨は他に使うこともないし、全部レシピと作物の種に費やそう。金貨80万枚もあればもしかしたらこっちも全部買えるかもしれないな。
「久しぶりですねミチナガくん。どうやら金貨を全て使い切ったみたいですね。」
「お久しぶりですルシュール様。いただいた金貨をようやく使い切りました。なのでそろそろ英雄の国に向けて旅立とうと思います。」
2日間かけて全ての流通禁止金貨を使い切った。途中から全部のレシピを買いきるには金貨が足りなくなることがわかったので、いくつか選別しながらの課金をしたので少し時間がかかった。
ルシュール辺境伯は俺のスマホに流通禁止金貨が収納されていることがわかるようなので、流通禁止金貨が無くなったことにもすぐに気がついた。
「そうですか。長いような短いような…その様子だと既に護衛の冒険者にも当たりがついているのですか?」
「ええ、しっかりと選んだので問題はないと思います。店の方も私がいなくても問題なく進んでいるので、こちらも問題ありません。それと、もしも何か私に用事がある場合には店の者に言えば一応伝わるようにはしておきます。」
「店の方の話は聞いていますよ。なかなかの好調ぶりということですね。私もそのうち伺わせてもらいますよ。」
「ルシュール様に来ていただけるは光栄の極みです。その際は歓待させていただきます。」
その後、2、3言葉を交わした。しかしそれ以上は忙しい中時間を取らせるのもまずいと思い、失礼することにした。
「ああ、ミチナガくん。これを餞別として渡しておくよ。」
そう言って手渡されたのは前に見せてもらった拳銃である。小口径のものは火力不足で使い物にならない。しかし大口径の方は銃弾に十分な魔力が籠もっているので、武器として十分成り立つ。まあ俺が使ったら一発で両肩外れそうだけど。
「よろしいのですか?」
「構いませんよ。ただのコレクションの一つですから。ミチナガくんなら、そのうち役に立つかもしれせんしね。」
まあいざという時の武器は一つでも多い方が安心できる。これで俺のいざという時の対抗手段が一つ増えた。どれもまともに使えるものではないけどね。
「ありがとうございます。いざという時が来ないことを願うばかりです。」