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第67話 死の湖

 死の湖。それは言葉だけ聞くとなんとも恐ろしい場所だが、実際はモンスターも近づかない草木も生えぬ荒地だ。岩石砂漠という分類に入るだろう。しかし湖なんてものは存在せず、小高い山があるだけだ。


「これが死の湖ですか?確かに生き物のいない環境ですけど…湖なんてありませんよ?」


「湖はあの山の上だ。まあ山というより丘に近いがな。下の平地だとモンスターが時折くるからあの上まで登るぞ。そしたら安全だし、ここが死の湖と呼ばれる所以もわかる。」


 ナラームの指示のもと、手早く移動を開始する。そのまま休むことなく山登りを開始するが斜面がなかなかに急なのでそのまままっすぐ登り切ることができない。なるべく斜面を緩やかに登るために斜めに登って行く。


 登り始めてどのくらいがたっただろうか。辺りをほのかに赤く照らしていた夕日はもう数分で沈もうとしている。しかしなんとか沈む前に頂上にたどり着くことができた。


 山頂から眺める夕日はなんとも綺麗だ。思わずスマホを構えて写真を撮る。そしてすぐに分かったがこれは山ではない。山頂にあたる部分は真っ平らな平地だ。マックの言うとおりここは丘という表現の方が正しいだろう。そしてその丘はなぜか真っ黒だった。


「ここが…死の湖?この黒いのは一体……」


「この黒いのが死の湖の水だ。試しに触ってみろ。」


 言われるがまま手で触れてみると硬い。岩のように硬いが少し指で押し込んでみると動くのがわかる。柔らかめの物質なのだろうか。


 少し指先についた黒い液体を指でこすってみるとヌルヌルする。それにこの匂い。現物を見たことはないがなんとなくわかる。


「これって石炭ですか?ここ一面全て。」


「石炭?そいつはよくわからねぇがここは湖っていうだけあって液状なんだが…魔法関係だからウィッシが詳しいな。説明してやってくれ。」


「この黒い液体は可燃性でそのまま放っておくと大地を覆い、草木が生えなくなるため、随分昔にこの場所に封印措置が取られたのだ。当時はもっとドロドロとした液体だったが、封印後もどこからともなく溢れ出てきて結界内に溜まり続けたためこうなったのだ。だから硬いのは固形だからではなく液体がびっちり溜まっているだけだ。」


「え、液体ってことは…これ全部石油ってことですか!?しかも今も出続けているとしたら…ものすごい価値ですよ!一生暮らせますよ!」


 まじかよ!こんなところで急に石油王ルート発生かよ!もう勝ち組決定じゃん!この石油を全部精製してガソリン作ってそれから……


「おいおい、そんなにすごいものなのか?これが?」


「そうですよ!例えばこれを燃やして、その熱で電気を発電して、それから…」


「燃やす?電気を作る?よくわからんがそんなもん魔法でやった方が早くないか?電気系の魔道具使って…」


「あ……」


 そうか…この世界ではエネルギーは全て魔法でどうにかなるんだ。しかも石油なんかと比べてもはるかに環境にも良いし、コストだって自分で魔力使って飯食って寝れば回復する。これほどエコロジーなエネルギーは他に存在しない。


 つまりこの世界では石油は必要ないんだ。石油から作る化学繊維なんかもあるけど、そこもモンスターの素材とかでなんとでもなってしまうのだろう。石油の必要性がない世界なのだ。


 では必要のない石油はどうなるか。それは邪魔なものとしてこうしてどこかに封印される。なんせ漏れ出したら鳥などの動物や植物にも悪影響を及ぼすだけの物質だ。しかも一度燃え出したらそう簡単には消すこともできない。


 はぁ…ここで一気に人生勝ち組コース突入とか思ったけど無理そうだな。石油が使い物にならないんじゃ必要性が全くない。するとスマホに通知が届いた。社畜からだ。


社畜『“我が主人殿。その石油を確保することは可能であるか?”』


ミチナガ『“わからないけど…必要ないだろ?この世界では全て魔法でどうにかなるし。”』


社畜『“しかし我が主人殿。我輩たちは魔法が使えないのでこの石油は十分エネルギーとして使えるのでは?”』


 …………確かに。


「ウィッシさん!この石油は結界内から取り出すことは可能ですか?」


「ああ。先ほど触れることができたように手で取り出すことは可能だ。あくまでも自然に漏れ出ないようにするためだからな。しかし何に使うのだ?」


「まあ色々と!」


 どうやって取り出すか。いちいち桶で救うなんて馬鹿な真似はやっていられないからな。一番早く取り出す方法は…


「そうだ。妖精の泉から水を組んだ時みたいにスマホを収納状態にして石油の中に入れれば…」


 だけど硬くて中に入れられそうにないな。じゃあ画面をこすりつけるように押し当ててやれば…


「よし!収納され始めたぞ……ってこのままだと手が届かなくなるか。」


 収納アプリではスマホを押し当てた部分だけしか収納されない。しかしそれではすぐに手が届かなくなり効率が悪い。もっと手軽に入れる方法は……


 そんなことを考えていると肩を優しく叩かれた。この感じは…


「ピースか。いつの間に出てきたんだ?それで何を持って…なるほど釣竿か!」


 釣り竿の糸の先にスマホをくくりつけてやれば手が届かなくても収納することができる。これなら楽だ。


 すぐに釣り糸の先にスマホをくくりつけ、今収納したことによってできた穴の中にスマホを入れてやる。するとみるみると石油が収納されていく。これならしばらく放っておいても問題ないな。


「あ、つい夢中になりすぎたけど飯作らないと。」


「あ、もう済んだっすか?なら飯作ったんで食べるっす。今日は干し肉のスープスパっす。」


 あ、なんかもう飯作ってあるし、というか待て待て待て…


「そ、そんなとこで火を起こしても大丈夫なんですか!?」


「問題ない。この封印は土と水の結界だ。この結界に通った時点で火は消えるし、可燃性のものは結界の外には漏れ出てこない。」


「あ、そうなんですか。」


 魔法って本当に便利だな。なんでもありかよ。




 あれからまったりとスープスパを食べた俺たちはまったりと談笑していた。ちなみにスープスパはなかなかうまかった。干し肉から出た出汁というのは初めて味わったがこれはなかなか癖になる。


「そういや予定では明日帰ることになっているがそれで構わないか?」


 そういや今回の予定は一泊二日だったな。しかしそれだと石油の収納する量がちょっと物足りないな。夜の間も収納していればそれなりの量にはなるだろうけど、これだけあるのならもっと欲しくなる。


「すみませんが一泊追加で。予想外の事態の対応というのを見せてもらいましょう。」


「かぁ〜…嫌なことしやがる。一泊増えると食料の問題が出てくるからな。一応多めには持ってきているが…ケック足りるか?」


「今日の昼はご馳走になったっすからその分の食事はあるっす。あと一食分さえまかなえばどうにかなるっすね。」


「なんだ。割と余裕だな。なら明日はここで護衛するのと食料調達に出るのに分かれるか。一食分なら適当にモンスター狩ってくれば余裕だな。それと夜の見張りはいつも通りのローテーションで行くぞ。ああ、もちろんミチナガは寝てていいぜ。」


「それは頼もしいですね。ではよろしくお願いします。まあ一泊伸ばした詫びがわりに軽く一杯酒でも飲みますか?」


「そいつはありがてぇ!まあ仕事中だからほどほどにしとくが一杯飲むくらいならかえって目も冴えるってもんよ。よっしゃ!今夜は楽しく過ごせそうだ!」


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