第61話 鳥の唐揚げ
平成の夏が……終わった…
「う、う〜ん…美味いけど物足りないな。」
あれから街で材料を揃え、鳥カラのレシピを買って、さらにシェフが鶏の解体のレシピも必要だからっていうからそのレシピを買った。レシピ購入だけでもかなりの出費となったが、ようやくの思いで鳥カラが完成した。しかしなんというか…物足りない。
前々から薄々思っていたが、このどこでもクッキングのレシピは最も美味しい調理法で料理ができるのではなく、一般的な作り方で作ることができるようになるだけなのだ。だからどこでもクッキングで作った料理を食べても感激するほど美味い!とかは無い。
さらに美味しく作るためには誰かが作っている光景をスマホで撮り、レシピ化するしかない。ファルードン伯爵のところでだいぶレシピは手に入っているが、まだまだ足りないだろう。
「今回、作り方を知っているのは…俺くらいか。なんとか作ってみるかなぁ…」
メイドさんに頼み厨房を借りる。料理はそれなりにできるつもりだが、今後もこういう機会が増えるのならば少し練習しておくべきだろう。
「さてと…材料の下ごしらえは全部シェフに任せてあるから俺は混ぜてあげるだけだな。ピース、ちゃんと撮影の準備はできているか?」
ビシッと合図を送ってくれた。撮り逃がしが無いように眷属達も取り囲んで撮影にあたっている。これなら万が一のこともないだろう。
「じゃあ作業に取り掛かるか。鶏肉にすりおろした生姜とニンニクを入れて、醤油に失敗作の日本酒を少々…後ごま油を少々…ゴマとニンニクと生姜はファームファクトリーで作っておかないとな。いろんな料理に使えるし。そんで揉み込んだらスマホの醸造蔵に入れて強制的に30分間時間を経たせる。あとは小麦粉をまぶして油で揚げて…」
あれ?俺がやったのってなんだ?混ぜて油で揚げたくらいかな?3分クッキングの出来上がったものがこちらですみたいな感じになりそう。まあいいか。
「よし完成。ちゃんと撮れていた?」
ピース『“うん!ばっちりだよ。”』
「よしよし。じゃあ試食……うーん、美味いけどなんか違う。」
カリカリっと感もないし、ジューシーでもない。それになんか生姜とか効かせすぎていまいち。もう一回作り直すか。
「ピース、すまんけどもう一回作り直しな。次こそはうまくいくから。」
「…あれ?俺って何作っているんだっけ?鳥の…なんだっけ?あれ?これなんだ?俺は一体何してたんだ?俺は一体何をしてどこにいってどこへ向かって…」
そこでスパァンとピースのツッコミが入る。あんまり痛くないけど正気には戻った。あれ?この目の前にある料理はなんだ?なんの肉?
「あ、危ない危ない。次こそは平気だろ。あれ、これで何回目だ?」
ピース『“85回目です…本当に大丈夫ですか?”』
「だ、大丈夫だ。そっか…63回目あたりから記憶ないや。ちょっと一回休むわ。」
鳥の唐揚げ…おそるべしだな。ここまで奥深いものだったとは…鳥カラなんて略せないよ。鳥の唐揚げ様だよ。あれ?それもなんかおかしいような。何言ってんだ俺?
「よし、次こそは成功させてみせるぞ。」
もうシェフに材料を揃えてもらうのはやめだ。自分で一つずつやろう。そうじゃないともうわけがわからなくなってくる。ほんと、そこの奥にあるその料理はなんだよ。なんか動いているし。きもいし。あ、なんか目があったような…
さ、さて、まず唐揚げに新たに加えるのは牛乳だ。これで臭みを消せるというのを昔聞いたことがある。それから溶き卵を加える。これで冷えてもカリッとするって聞いたことがある。…全部聞いたことがあるだな。けどさっきやって見たらうまく行っていたしいいよね。
それから小麦粉に片栗粉を加えた。これでもっとカリッとするはずだ。後、鶏肉は漬け込んだタレの水分をしっかりと切っておく。衣がべちょべちょになるとカリッと感が出ない。
それから二度揚げだ。初め低温、間休ませ終わりに高温だ。これで美味しくできるはず!揚げ時間もこれで完璧なはずだ!さあ、実食!
「あ、もう食べ過ぎてよくわかんねぇや。誰かに食ってもらお。」
その後、近くにいたメイドさんに食べてもらったところ、大変高評価をもらった。これならきっと売れるはずだ。…価格設定どうしよ。明日調べるか。もう疲れたし寝よ。
さて翌日。鳥の唐揚げ様の価格設定もなんとか済んだので、ミチナガ商店を開店させている。まだ開店させたばかりだというのに列ができつつある。これは今日も休む暇なく売り続けないとな。ちなみに鳥の唐揚げ様の販売はまだしていない。
しかし…これから人を雇って6人を働かせるというのにこの店の大きさで平気なのだろうか?正直、4人もいたら結構狭い。元々1人で働くつもりでルシュール辺境伯から借りていたのでこの大きさで問題はなかった。
しかし今後のことを考えたらもっと大きい店にする必要があるな。明日商業ギルドに入ったらそこらへんも聞いてみよう。
そんなこんなで翌日、早速商業ギルドに着くとあの受付のエルフの人が奥へと案内してくれた。案内された部屋には今回の従業員の応募書類が積み上げられていた。…これ結構な量だな。
「二日間の間だけの短い募集でしたが、それでも結構な人数が集まりましたよ。全部で137名の応募がありました。」
「そんなにですか…その中から選ぶのは大変そうだな。」
とりあえず時間もかかることなので早速片っ端から書類を精査していく。こんな風に人を雇うことなんてしたことがないからどういう点を見ていけば良いのかわからない。見た目だけで選んでいけばいいのかなぁ…けど、それは違うよなぁ。
「すみませんけど何か人を雇うので見たほうが良い点とかありますか?経験がなくてどこを見たら良いのか…」
「えっと…すみません。私も他に仕事があるので…」
仕事があるんじゃ仕方ないか…なんて思わないぞ。そこはあんころ餅やおはぎの甘いものづくしの賄賂で興味を引かせる。それと新しい店舗を買いたいと言ったらすぐに書類を揃えてくれることとなった。ちょろいぜ!
しかしエルフの人は本当に他に仕事があったので、他に人を呼んで一旦退席してしまった。しかし、他のギルド職員の人が入れ替わり立ち替わりでやってきて、あんころ餅を食べながらどんどん書類の中からダメなものを抜いていった。
さすがにギルドの職員ということはある。一人一人の細かい普段の情報までしっかりと持っている。前の店をなぜやめたか、普段の行いはどうか、仕事の働きぶりはどうか。そんな細かい情報を聴きながら書類を減らしていくと、いつの間にか残りの書類が10名分になっていた。
「じゃああとはここから面接でもして減らせば良いですかね。」
「それでも良いですが、一応全員合格にしておいても良いかもしれませんよ。他にも応募していて、ここを滑り止めがわりにしている人も多いでしょうし。」
すると部屋に一人のギルド職員が入ってきて、書類の中から一人を抜いてしまった。その人は他に受けていたところで決まったので、こっちは辞退するとのことらしい。なるほど、確かに滑り止め扱いにされているらしい。
「今残っている人々はかなり良い人たちだらけです。なので早いうちに合否を出しておかないと、これから他のところを受けにいってしまうかもしれません。決めるのは早ければ早いほど良いですよ。」
「そうですか…まあそういうならそうしてみます。ではこの9人に合格をつたえておいてください。働き始めるのは…店舗を決めてからですね。働き始める日は後日伝えるでも大丈夫でしょうか?なるべく早くするので。」
「大丈夫ですよ。店舗はどうしますか?空き店舗の書類はすでに用意しました。」
「そうですね…」
それから店舗探しをしたが、良さげな立地の店舗を金貨1500枚で購入することとなった。しかし使える金貨はさほどないので、金貨1000枚以上の借金となった。
この世界に来てから定期的に借金しているな。流通禁止金貨さえ使えれば余裕で払えるんだけどなぁ…まともに使える金貨は前金でほぼほぼ無くなっちゃったよ。
店舗は決まったが、これから新店舗の掃除や備品を揃えたりするのに時間がかかるので、1週間後、新規開店ということになった。備品揃えるのどうしよ…お金ないんだけど。明日は今の店開けて金稼ぐかぁ…
次回更新は未定です。
なるべく早いうちにはしますが、これから多少修正もしていくつもりなので少々お待ちください。