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第59話 砂糖の原料


「いや、それは無理ですよ?私の領地は農業に秀でていますから、製鉄に関しては輸入で済ませています。」


「そ、そうですかぁ…」


 あれから翌日、あの鉄鉱石をなんとかしてもらえないかと尋ねたところ、少し意外な結果になってしまった。まさかの製鉄業は一切執り行っていないということなのだ。


 そもそも鉄が取れないのにそんなものを作る意味がないということだ。鉄の加工ならもちろんある程度はやっているが、鉄を作るのは輸入に頼った方が早い。


 じゃあもしも戦争が起きたら…なんて質問は愚の骨頂だろう。魔帝の上位であるルシュール辺境伯の領地に好き好んで戦いを挑むアホなどいない。それにすでにある程度の武器の備蓄も流通もあるらしいのでそんな心配もいらないか。


「もしも製鉄を頼むとなると…ここから英雄の国とは反対方向に馬車で5日はかかりますね。行きたいなら紹介状くらいは書けますよ。」


「いえ…大丈夫です。」


 わざわざそんな遠回りするほどのことではない。それにそこまでの量もないし元が取れない。鉄鉱石が100kg取れても、そこから鉄は半分も取れないだろう。難儀なものだ。


 そこで例えば製鉄所を作るのに必要な材料が手に入らないかとも考えたが、それも無理だろう。この領地において鉱石類の類は一切取れないのだから。


 耐火煉瓦でも手に入れば、反射炉を作ってみるのも良かったなぁ…作り方は前にテレビでやっていたし。そういやもうこっちきたから続き見られないなぁ…あれは結局どうなったんだろ?一番作業に優秀なメンバー抜けちゃったし。


 まあそんなもう見ることもできないこと考えていてもしょうがないか。とりあえず今は鉱石の類をとりあえず集めておいて、そのうちどうにかできそうならどうにかしよう。


 ちなみに木材に関しては乾燥までに半年かかるので、預けてもしょうがない。そのうち使えそうな施設ができるだろう。社畜には頑張ってもらわないとな。


「それで…話は終わりですか?」


「あ、それともう一つ大事なことが。この領地の製糖工場の見学をさせてもらいたいんです。」


 これも大事なことだ。実はこの領地では砂糖造りが盛んに行われているのだ。まだまだ市井にはそこまで出回っていないが、この領地の大きな収入源となっている。


 まあそれだけ砂糖が作られているからこそ、おはぎとかを共同開発ってことにしたんだけどね。砂糖がないのにおはぎなんて作れないし。砂糖がなくては共同開発にしたところで意味はない。


「製糖工場の見学ですか。いいですよ、そのくらいならすぐに許可が出せます。」


「ありがとうございます。」


 ルシュール辺境伯はすぐに紹介状を書いてくれた。別に飛び入りでもこれと言って問題もないので、このまま行っても問題ないらしい。では善は急げということで早速行ってしまおう。




 さて、野菜が甘くなるために一般的に必要なことはなんでしょうか。豊富な栄養?そういう品種?まあそれも間違いではない。というか普通に正解だし。


 まあそれ以外で大抵の野菜を甘くする方法、それは寒暖の差だ。ほうれん草やニンジンだって寒さに当てることによって甘くなる。雪の下で育てた人参の糖度はすごいらしい。


 砂糖の元となる甜菜という野菜もこの寒暖の差によって糖分を生成する。だから北海道などの寒い地方でしか作られていないのだ。野菜というのは不思議なものだ。


 え?そんなくだらない話はもういいって?そうか…だけどなぁ…だってなぁ……今の現実がなぁ…


「これが砂糖の原料かぁ…」


「ええ、長年研究して品種改良した甘糖マンドラゴラです。他国にもこの技術を売り渡したのでかなりの利益が出ていますよ。この発明は世界を変えましたから。」


『ワキャァ!モキャキャァ!キャキャァ!』


 目の前には大量のマンドラゴラの群れが蠢いている。これも一応モンスターなので危険は危険なのだが、特殊な施設内で徹底管理されている。見た目はでかい大根に似ている。いや、喋って歩いてという点を除けば巨大な大根だ。


 元々のマンドラゴラはもっと違う見た目なのだが、糖分を上げるための品種改良で甜菜と掛け合わせたせいで今の姿になったらしい。甜菜って見た目はでかいカブだからなぁ…それが立って歩くために少し細長くなって大根みたいになったのだろう。


 その甘糖マンドラゴラの育成から収穫までは流れ作業なのだが、めちゃくちゃシュールだ。いや、シュールなんていい言葉を使う必要ないか。正直きもいし酷い。


 初めは普通に土の中で成長させるのだが、大きくなると土の中から這い出してくる。本来はそこから他のモンスターを襲って自身の栄養としているのだが、ここでは土から這い出てきたマンドラゴラを部屋に集め、寒気に当てている。


 ここの所長曰く、この段階で糖度を上げているらしい。寒暖の差によって糖度を作らせているのだ。


 その光景は結構ひどい。冷えて凍えているマンドラゴラを容赦なく寒気に当てている。身を寄せ合い寒さに耐えようとしているが、一人、また一人と寒さによって倒れていく。土の中に逃げようにも地面は鉄で覆われている。逃げ場はない。


 ほどなくして全員倒れた頃に温度を徐々に上げていく。すると倒れていたマンドラゴラたちが少しずつ立ち上がっていく。


 ある程度まで温度が上がったところで部屋から外に出してやる。するとマンドラゴラたちは我先にと土の中に戻っていく。


 マンドラゴラたちは自身が凍りつかないように体内で糖度を生成する。その際に大量のエネルギーを使うので、そのエネルギーを回復させるために土の中に戻るのだ。


 この工程を4回繰り返す頃にはマンドラゴラは寒気に当てても平然としていられるようになる。見事完全に環境に適応して見せたのだ。この頃のマンドラゴラの糖度は50%を平気で上回っている。


 ここまできたら収穫だ。収穫といっても土から抜いてダンボールに詰めてお終いというわけにはいかない。その収穫方法は職員たちが問答無用に1匹残らず切りふせている。マンドラゴラの虐殺だ。


 ちなみにこの職員たちはこの領地の兵士だ。このマンドラゴラの収穫は兵士の訓練にはもってこいらしい。


 切り倒されたマンドラゴラたちはその後細かく裁断され、糖分を抽出される。この抽出機を元に砂糖の抽出方法を学ぼうと思っていたんだけど…


「これは…魔道具ですか?」


「ええ、特別に作ったもので糖分のみを抽出できるんです。それ以外は全て横から廃棄されます。廃棄されたものは畑に撒いて肥料になるんですよ。」


 無駄なくやってんなぁ。だけど一番重要な部分が魔道具じゃあどんなに見ても俺じゃあ作れないし使えない。これに魔力を人が注入しているけど、かなりの量の魔力が必要らしい。


「魔力を生み出す装置みたいなのはないんですか?」


「大気中の魔力を取り込むものや、魔力のこもったものから抽出する方法ならありますが、生み出す装置なんてものはありませんね。そんなものがあったら一大発明ですよ。」


 そうなのかぁ…そういや前にシンドバル商会から買ったあのガスコンロも大気中の魔力を自動補充するんだったな。魔力さえ生み出せれば俺でも色々な魔法道具が使えるんだけどな。


「この魔道具を少しお借りすることはできますか?砂糖の原料ならあるのですが、加工手段がなくて…」


「うーん…こちらも作業があるので止めることは難しいですね。あ、昔使っていた小型のものなら貸し出せますよ。ただそれなりの魔力量が必要なので、魔法師も用意する必要がありますね。そこまで合わせると…2時間でこの程度の金額に…」


「う〜ん…すぐにというわけではないので、もう少し後になりますがその値段では…大量にあるので8時間は使うつもりです。なので少し割り引いてこのくらいでは…」


「それでは魔法師が雇えませんよ。せめてこのくらいはもらわないと…」


「いやいや…練習台ということで新人にやらせればこのくらいの値段には…」


「いやいや…そういうわけには」


「いやいやいや…そこはですね…」


 かれこれ争うこと2時間。なんとか金貨3枚で借りることに成功した。ただ今すぐにというわけにはいかないので、3日後に借りられることとなった。それまでに大量に砂糖の原料を作成しておかないとな。




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