特別編 ミチナガとリリーの結婚式 承
ミチナガが連れて行かれてから半月後、ユグドラシル国の周辺で大規模な工事が始まっていた。ただその工事の光景はどこか異様だ。人間が一人もいない。人型の機械がそこら中で動き回っているのだ。
『あれ?ここの術式これで良いんだっけ?』
『それ一個横じゃない。ほら、これがここに入るからここがこうなって…これで正しいはずだよ。』
『それにしても術式数多すぎじゃない?ここまでやったら…1000年先でも手入れなしで残ってそう。』
防衛術式、保存術式、強化術式、監視術式、捕縛術式etc…
ここまで術式を組み込んだ建築は他にない。はっきり言ってこの世界のレベルから考えればオーバーテクノロジーだ。だからこそ人に見られぬように使い魔達だけで作業にあたっている。
しかしなぜここまで徹底した神殿を建設しているのか。それは単純に面白そうだからという理由もあるが、一番の理由は権力の誇示だ。
権力の誇示などミチナガはあまり好まない。しかしミチナガは完全に子供の姿になってしまった。これは明らかな使い魔達のミスだ。そしてこのミスにより、ミチナガをガキだと舐める輩が出てくる可能性がわずかにある。
世間的にはミチナガは商人として魔神の地位まで至ったと思われている。使い魔達の武力もあるのだが、それはちゃんとは知られていない。だからこそ、子供の商人だと馬鹿にするものがわずかでも出る可能性がある。
そしてそれが理由で揉め事や荒事が起こる可能性もある。それを防ぐためにも力を誇示して馬鹿が出るのを防ぐ。そのための神殿だ。
『ピース・作業順調ですね。』
『ポチ・まあそこまで焦る必要もないからね。リリーちゃんが落ち着いたら結婚の話切り出してそこから各国に招待状送って…1年か2年先で考えた方が良いかな?』
『ピース・それじゃあこの神殿の周りにお花畑作りませんか?フラワーさんが華やかにしたいって言っていて。』
『ポチ・ん〜やるのは問題ないけど、しばらく待ってほしいな。参列者を入れるための街道整備やモニュメントも追加する予定だから。みんな各々やりたいことがあるらしくて大変だよ。セキヤ国の方でもお祝いしたいっていうことでそっちにも神殿作ろうって話出ちゃっているから。』
使い魔達は大忙しだ。神殿作りに伴い、結婚式の参列者を止めるためのホテル作りもしなくてはならない。しかも相手は国王や魔神、世界有数の権力者ばかりだ。そんな彼らを泊めるとなると生半可なものではダメだ。超一流の宿泊施設を完成させなければならない。
その建設の規模はユグドラシル国の隣に新しい国ができるのではないかというレベルだ。使い魔数百万人による大規模工事は昼夜を問わず行われ、遠目でその様子を見ているユグドラシル国の国民達の興味をそそった。
そしてその興味は他国の商人達が金になる何かが起こると思わせ、大量の人々がユグドラシル国へと押しかけた。ただでさえ好景気であったユグドラシル国がさらなる好景気へとうなぎ登りだ。
しかしその好景気にかこつけて悪事を働こうとするものが現れ始める。徐々に不穏になっていく治安。だがその治安問題は獣人街のゴウ氏族によって解決されていく。
そして半年ほどが経った頃、世界樹の護人リリーが現れ治安問題は完全になくなった。さらに好景気になったことで税収が前年度の数倍になったことで、大規模な改修工事などが行われる。半年間も仕事をサボった影響でしばらくリリーは仕事詰だろう。
そしてそれにより解放された男がいる。その男はリリーに連れられ、突如神殿工事のど真ん中に降ろされた。
『ボスだ!お帰りなさいボス!』
『おかえり〜』
『久々だね。どうだった?』
「ばぶ〜あうあ〜〜」
『…これはやばい。ポチさん連れてきて。あと医療班も。』
急いで駆けつけたポチと医療班によって検査されるミチナガ。だが健康状態に何の問題もない。しばらくしたら正気に戻ったミチナガは頭を抱えながらコーヒー…ではなくカフェオレを飲んだ。
『ポチ・大丈夫?』
「…俺助けてって言ったのに……」
『ピース・ご、ごめんなさい。その…なにされたんですか?』
「何って……なんだろう。この世の快楽全て味わった気分。すごかった…なんか色々すごかった……ばぶぅ……」
『ポチ・また幼児退行してる。けど…それは良かったんじゃない?』
「すごく良かったけど…あんなのを味わい続けたら脳みそとろけちゃうよ。頭が馬鹿になっちゃう。やばい…あれはやばい……」
気をぬくと目が虚ろになっていくミチナガ。その度に使い魔達が声をかけて現実に引き戻す。しばらくはリハビリが必要だろう。ただそれよりも大切なことがある。
『ポチ・結婚式の話なんだけど…話した?』
「え?ああ…そんな話したと思う。いや…したな。お前らがなんかやっているみたいだからそれに任せるっていう話だったよ。」
『ポチ・それは良かった。リリーちゃんのことだから世界樹を通して観測したんだね。じゃあ滞りなく進めていこう。結婚式は1年後を目安にすれば良い?』
「良いんじゃないか?俺はしばらく使い物にならないと思うからその辺頼むわ。」
ぼんやりとカフェオレを飲むミチナガ。ミチナガの言う通り確かにこのままでは役に立ちそうにない。しばらくは休暇をしてもらってまともになるのを待つ必要がある。
『ポチ・それじゃあ結婚式の招待状を書いて送っちゃおうか。その日が来るまでに仕事全部終わらせるよ。』
『ピース・招待客何人になるんだろう。仲良い人だけなら良いけど、国王呼んだりしたら護衛もついてくるだろうし…』
「そういうのは外で待たせとけば良いだろ。全員が全員会場に入れる必要はない。招待状は俺も書くよ。そのくらいなら何とかなるはずだ。」
『ポチ・じゃあよろしくね。あとは移動手段か。陸路も海路も時間かかるからね…空の方力入れておこっか。』
『ピース・船と列車を組み合わせるのも良いと思いますよ。線路拡充させましょう。』
「好きにやって良いぞ。金なら山ほどあるからな。」
『ポチ・お許し出たから派手にやろうか。全部ぜーんぶやっちゃおう!』
悪巧みをする使い魔達。だが全部が全部1年のうちにやろうというのは流石に無理がある気がする。しかしその無理を通すのが使い魔達でもある。
まあ神殺しと比べればこの程度のことはたやすいことだろう。そして1年という歳月はあっという間に過ぎ去るのであった。