第541話 無敵の使い魔
何も存在しない真っ白な空間。そこに鎮座する簒奪者。これでミチナガたちが来る前と変わらぬ日常へ戻った。強いていうならば無数の魂を失い、神の力も大きく使用してしまったことだ。
これだけの神の力を回復するのには数年がかりになるだろう。しかしミチナガたち以外にこの地にたどり着けるものは今後存在しない。仮に存在したとしても自身の脅威になるとは思えない。
それに勇者王カナエ・ツグナオが破壊した金貨の呪いと魂回収の結界も100年がかりにはなるが再び元に戻すことは可能だ。全て元通りにリセットできる。再び神として揺るぎない力をつけられる。
だがその時、そんな神の空間に亀裂が走った。そしてその亀裂を無理やり押し広げるようにして中からイッシンとフェイミエラルが現れた。
「着いた!破壊されたとはいえ神の世界だ。世界の位階が同じならやっぱりたどり着ける。」
「真っ暗で怖かったのだ。でもこれで…」
「ああ」「お前たちならたどり着けると信じていた」「やはりお前たち二人は別格」「ならばこそもう一度」「この世界ごとお前たちを破壊しよう」「ワールドエンド」
「「ちょ!!」」
簒奪者はこうなることを予期していた。イッシンとフェイミエラルは限りなく神に近い怪物だ。一度のワールドエンドならば耐えることは可能だろう。だからこそもう一度ワールドエンドを使用する魔力を練り上げていた。
再び崩壊していく世界。世界すら破壊する崩壊の波に2度も耐えられるわけがない。あの神の力を手に入れたミチナガたちも1度目のワールドエンドから抜け出てはこなかった。そして簒奪者は再び世界を創る。
「ワールドクリエイト」
再び現れる白い空間。簒奪者もこの二つの魔法を連続して2回も使ったのは初めてのことだ。そしてその代償は大きい。簒奪者の持つ神力の半分近くを失った。それに自身のワールドエンドの影響により魂を数千万は失った。
「これでようやく終わりだ」「久々の戦いは実に面白い」「だが不愉快でもあった」「神を倒そうなどとおこがましい」
だがその時、再び空間に亀裂が走った。だが簒奪者にそこまで驚きはない。イッシンとフェイミエラルならば可能性は0ではなかった。世界ごと崩壊させてもあの2人ならなんとでもなる可能性はあった。
だからこそ出てきた瞬間に追い打ちをかけるために攻撃態勢に入る。2度のワールドエンドによりかなり疲弊しているはずだ。そこを狙えば倒せる。
そして再び大きく開かれる空間からイッシンとフェイミエラルが飛び出して来る。そしてそこを迎撃しようとする簒奪者であったが、その手が止まった。二人の背後にいるはずのない存在が見えたからだ。
「外だぁ!!」
『『『『『わーーい!!』』』』』
「ば、バカな…」「ありえない…」「なぜお前たちも世界の崩壊に耐えられる!!」
空間から水のごとく溢れ出るエヴォルヴの群れ。ミチナガの持つ使い魔全員が世界の崩壊を耐えて生還した。しかしよく見ればそれだけじゃない。世界の崩壊に巻き込まれたというのにイッシンやフェイミエラル、そして使い魔たち全てが傷もなければ疲弊した様子もない。
「ふざけるな!」「我が世界の崩壊からどうやって逃れた!」「一体何をしたんだ!!」
簒奪者は怒りと混乱から乱雑に魔法を放つ。無数の魔法の攻撃。そしてその全てが使い魔たちにぶつかり、何事もなかったようにかき消された。
「一体何が…」「我が攻撃まで…」
『無駄だよ。今の僕たちは無敵さ。』
一人出て来るエヴォルヴ。よく見ればそのエヴォルヴだけ魔力の消耗が激しい。確実に何かをしている。しかしそれが何かはわからない。だがそんなことはどうでも良い。今必要なのは簒奪者のあらゆる攻撃が無効化されているという点だ。
そしてミチナガ自身、この使い魔のこのことを知ったのはつい最近のことである。それはミチナガが簒奪者を倒すために使い魔一人一人の能力を改めて精査していた時のことだ。ある一つの疑問が生まれたのだ。
それはピースの能力についてだ。ピースの能力は対使い魔用の能力と思っていたが、改めて検証してそうではないことがわかった。
「基本的に使い魔全員の攻撃を無効化することは可能。だけどそれだけじゃない。ラルドの時もそうだったけど、一緒に遊んだりした子供とかの攻撃も無効化できる。FF無効の条件がよくわからない。」
『ピース・え、えっと…ラルドさんは友達だし、さっき遊んだ子も一緒に遊んだから友達というか…』
「そう、そこなんだよ。条件があまりに曖昧……いや、そんな細かい条件なんて存在しないのか。ピース。お前が友達だと認識した時点でその攻撃は無効化できるのか。」
『ピース・そ、そうですよ?』
「ならピース。もしもお前がこの空気や大地。木々や動物までも友達だと認識すれば…この世界にお前を傷つけられる存在はいなくなる。そういうことなんじゃないか?」
『ピース・え、えっとそれはわからないです…そ、それになんでも友達なんて…』
「きっとできるさ。お前は良いやつだ。お前を嫌いな奴なんていない。お前は愛されている。万物皆友達。敵でさえも友達だと思え。そうすればお前は…真の無敵だ。」
ピースはミチナガにそう言われてもよくわからなかった。しかし今、神々から神力を与えられた時に気がついた。自分は神に愛されているということを。神に認められ、愛された存在。ならば多少高慢になっても良いのではないかと。
ピースは神力を得たことで新しい極地へと至った。元の能力フレンドリーファイア無効。通称FF無効は万物皆友達と思い込むことであらゆる攻撃を無効化することが可能となった。そして自身のもう一つの能力、能力付与を合わせることで仲間をあらゆる害悪から守る無敵の状態にさせた。
たとえ神からの攻撃を受けようとも、たとえ世界が崩壊しようともその全ての無効化する。ピースが能力付与を行えば闘争は無意味となる。世界は平和になる。
ピースが進化したことで得た無敵能力、world of the peace。それは平和な世界という意味、そしてもう一つ、ピースの世界という真の意味。
『僕の前では君すら友達だよ。だからもう…君の攻撃は効かない。』
「何をバカなことを…」「そんなことあり得ない」
簒奪者は気がつく。自身がわずかに後退していることを。ピースという使い魔一人に怯えているのだ。何せピースが存在する限り、もうワールドエンドを使用したところでなんの意味もなさない。むしろ自身の力を消耗させるだけだ。
そして簒奪者はピースの残りの魔力と神力的に、同じように能力を使用するのは1分にも満たないことを知らない。ずっと能力を使い続けることはできないとは思っているが、それがどの程度なのかまるでわからない。
むやみな攻撃は自身の力の損耗を早めるだけ。簒奪者は打つ手を失った。だがピースができるのはあくまで絶対的な無敵能力。攻撃力に関しては0に等しい。しかし敵はピースだけではない。数百万もの使い魔達がいる。
そしてその中から一人の使い魔が出てきた。その手には厳重に封印された剣を持っている。
『はぁ…闘争とかそんなものにまるで興味はない。料理さえ作っていればそれで十分なのに』
『そう言わずお願いしますよシェフさん。あなた僕たちの中で一番攻撃力高いんですから。』
『高くないよ別に。まあでも…とっとと終わらせたいからやるよ。』
シェフはその手に持つ封印された剣の封印を解き放つ。それはトウショウが蘇った際に打ちあげた最後の一振り。
そしてその剣を手に、使い魔最強の一角が動き出す。




