第527話 魔神第1位
「さすがに早いな。」
魔導列車に乗った日の夜、ミチナガ一行は英雄の国へとたどり着いた。魔動装甲車ではもう2日はかかったであろう道のりをあっという間と言うほどではないが、かなり早くたどり着いた。
ようやく今日の目的地に着いたミチナガは席から立ち上がり身体を伸ばす。なかなか良い席ではあったが、座りっぱなしと言うのは流石に身体に堪える。そして人が減ったところでミチナガたちはゆったりと魔導列車を降りた。
「ご乗車ありがとうございました。出口はこちらです。ご乗車ありがとうございました。出口は…セ、セキヤ・ミチナガ……ほ、本物?」
「本物だよ、お静かにお願いね。」
「わ、わかりました。あ、あの…ファンです。握手してもらっても良いですか?」
「いいよ。」
ミチナガがさっと手を出すと嬉しそうに握り返してくる。うっすらとその男の目に涙まで見える。よほどミチナガと出会えたのが嬉しかったのだろう。
「しかし…なぜこの車両に?最上位車両はこの先のはず…」
「あっちは貴族多くて挨拶だのなんだのめんどくさいからさ。あ、そうだ。明日王城まで行きたいんだけど、車両の予約してくれないかな?」
「もちろんです!あ、そういえば…明日の朝の時間で最後尾車両が空いていたような。」
「最後尾車両…もしかしてあの超特別車両とかいうやつか?わざわざ4人で乗るようなレベルでもない気がするけど…まあ空いていたらそこに予約しちゃって良いよ。せっかくだしね。」
「わかりました。それでは…す、すぐに終わると思うので少々お待ちいただけますか?」
それだけ言うと大急ぎで駆けていく。ミチナガたちはゆっくりとその後を追った。そしてミチナガたちが改札をでた瞬間に先ほどの男がこちらへと駆け寄ってきた。
「お、お待たせしました…予約しておきましたのでこの時間にお越しください…」
「ぜ、全然待ってないけど…やるなぁ。ありがとう助かったよ。」
息を切らしながら渡してきたチケットを受け取ったミチナガは男の対応に驚き、そして喜んだ。本来はもっと手続きが必要なはずだが、無理やり手続きをすっ飛ばしたのだろう。ミチナガはその場で男にチケットの代金を渡した。ただ値段が値段なので男一人では運べないだろう。
予想外の散財になったミチナガだが、男の対応とまだ一度も乗ったことのない超特別車両へ乗れると言うことに喜んだ。そしてその日は近場のホテルで一泊すると翌日、その超特別車両へと乗ることになった。
「おお…すっげ…」
「これは流石にすごいな。この車両まるまる一つ貸切か。」
ミチナガは上を見上げてこれから乗る車両を確認した。4階建ての超巨大車両。普通に乗れば数百人が乗れるクラスの広さだ。それをわずか4人で使用する。クラウンも規模の違いに大口を開け、その口が塞がらない。
「列車内見て回ったら目的地に着いてそうだな。」
「そんなわけない…って言えないな。だけどミチナガ…お前驚いてないのかよ。」
「俺一度特別車両は乗っているし。それに…うちの飛行機とか装甲車とかと比べればまあ慣れるよ。」
ミチナガは何事もないように列車に乗り込んだ。すると入ってすぐの場所から丁寧な装飾が施されている。それによく見れば数多くの防御魔法が込められている。これだけで貴族や王族がこの車両を使いたがる理由がわかる。
さらによく調べると専用の厨房や防御結界の魔道具設置場所などの設備が整っている。厨房があるのはおそらく外敵に毒を盛られるといった暗殺対策だろう。そして乗ってわかったことだが、車両全てが客車というわけではなく、半分以上は護衛のための設備であった。
「…外から見ていた時の方が夢はあったな。俺別に暗殺されるようなことないし、特別車両とかでよかったわ。大金無駄にしたなぁ…まあいい勉強代か。」
知りたくなかった真実を知ったミチナガは席に座ると、そのまま目的地に着くまでゆったりと過ごした。そしてその日の昼過ぎ、目的地である中央国へとたどり着いた。
「この辺は変わらんな。」
「…こっちの世界ってこんなに進んでいたのかよ……」
ミチナガはすでに見慣れた高層ビル群をチラッと見ると魔導装甲車を用意して王城へと向かった。魔導装甲車の中ではクラウンがキョロキョロと周囲を見回していた。
そして1時間ほどで王城へとたどり着いた。ここも見慣れた王城、と言いたいところだが色々と変わっている。併設されている研究所などがより大きくなっている。他にも練兵場といった多くの施設が規模拡大している。そして何より大きく目を惹く存在が王城の門の前に鎮座している。
「勇者王カナエ・ツグナオの像か。他にもあったけど、もう一つ建てたのか。なになに…世界に混沌と絶望溢れる時、かの勇者は降臨された。」
勇者王カナエ・ツグナオの再臨。それは多くの人々に勇気と希望を与えた。あの時の物語は本になり、絵本になり、映画になった。そして数多くの人々がそれを求めた。ミチナガもあの時の映像を編集し、映画として上映している。
これまで全世界で累計数千回は上映されているが必ず満席になる程の人気だ。おそらく今後数十年は空席が出ることはないだろう。
そんなツグナオの像をじっと見ていると王城の方から一人の男が歩いてきた。それは懐かしい顔であった。
「フィーフィリアル!久しぶり!」
「よう、ミチナガ。うちの王に用事だろ?ユウから聞いているぞ。」
「ちゃんと話通しておいてくれたんだな。それじゃあ行こうか。」
12英雄の一人、森弓のフィーフィリアル。12英雄の中ではミチナガが最も見知った男かもしれない。そしてそんなフィーフィリアルに案内されながらミチナガは王城を進んだ。
ミチナガの出現に周囲の人々からはざわめきが聞こえる。話は通してあるといっても一部の人間にだけらしい。そして長い廊下を進んだその先の玉座にて勇者神アレクリアルは待っていた。ただしその表情は実に不満そうだ。
「お久しぶりですアレクリアル様。」
「…何の用だ。」
「いや…まあ色々と話したいなと思って……怒ってます?」
「別に…ただわざわざ様なんてつけなくても良いんじゃないか…」
「今でも私はアレクリアル様の臣下ですから。」
「けっ!自分より上の臣下なんていらねぇよ。」
「いや…そんなこと言われても……ちょ、フィーフィリアル。どういうこと?」
「そりゃお前…ようやく魔神第1位になったと思ったら…なぁ?」
「そんなこと言われても悪気あったわけじゃないんだから良いじゃない。こんなに懐狭かったっけ?」
「懐狭くて悪かったな!!ようやく争う敵がいなくなったと思ったら…お前が!お前がぁ!!」
「ご、ごめんなさいって!」
実に不機嫌なアレクリアルの機嫌は一向に治らない。しかしこればっかりはどうあがいても許してくれることはないだろう。
「その…機嫌なおして…ね?ちゃんと自己紹介からしましょうよ。」
「はいはい。魔神第2位勇者神アレクリアルですよ。それで?史上初の商売の部類で魔神に至った商神。さらに軍を率いる神である軍神まで授かったイレギュラー。史上初の2つの魔神の名を授かった男、通称ニコカミ、魔神第1位、二神セキヤ・ミチナガ様が何用ですか!」
アレクリアルはますますふてくされた。まさか自身の臣下に憧れであった魔神第1位の座を奪われることになるとは夢にも思わなかったのだろう。ミチナガもこれはどうしようもないと諦めて肩を落とした。