第495話 神剣vs神人
大地が隆起し、突如溶岩が噴火すると思えばその溶岩が次の瞬間には凍りつく。空から落ちる稲妻は数百に枝分かれし、地上を破砕する。そんな破砕された地上を全てを切り裂く竜巻が溶岩を巻き上げながら通り過ぎる。
地獄のごとき環境。しかしそんな環境下でもその環境に適応したモンスターが闊歩する。そのモンスターはどれも一体で国を傾けるほどの戦力を持つ。しかしそのモンスターたちが突如走って逃げ出した。
「ふむ、なんだここは?」
「終末の地と呼ばれる島です。以前神魔と戦った影響でこんな環境になってしまってみんなに怒られました。あの日からこの地は人類立入禁止区域なんです。」
終末の地。人類史上最恐のこの土地に上陸し、生きて生還したものは指の数よりも少ない。特に今イッシンのいる終末の地の中心部まで入ってきたものはイッシンとフェイ以外ではアレクレイが初めてだろう。
「ここなら本気で戦っても文句は言われないので連れてきました。」
「ふむ、なるほどな。ちょうど良い環境だが、雑音が酷いな。」
確かに常に自然の災害が巻き起こるこの地では騒音が絶えない。会話するのもやっとの状態だ。するとアレクレイは周囲を見渡すと両手に魔力を込めて手を打ち鳴らした。
その瞬間、周囲の荒れ果てた魔力がアレクレイの手から発せられた魔力により静まり返る。植物が生えることのできない荒れ果てた環境から草花が芽吹いた。
「多少は静かになったが、まだ騒がしいな。やれやれ…どんな暴れ方をすればここまで酷くなるのか。」
「おお、すごいですね。僕はこの手のことはできないので羨ましいです。」
数種類の荒れた魔力を一瞬のうちに平常に戻すことなど余程の魔力コントロールと知識がない限り不可能だ。直感的に魔法を扱う神魔ではこれほどの芸当は難しいだろう。これだけでアレクレイの魔法に関する技術力というものがわかる。
「まあまた暴れれば意味もなくなるか。さて、それでは始めよう。その前に…お前の武器はそれだけか?」
「ええ、居合しかできないんです。ですので武器はこの刀一本です。」
「ふむ、まさかそれだけで魔神の域を超えることができるとは思わないが…まあそういうことにしておこう。ではそちらの土俵で戦ってやろう。」
アレクレイは魔法で空間をこじ開けるとそこから一本の剣を取り出した。その剣から発せられる力はトウショウの武器よりも強く感じられる。これほどの一品はイッシンも見たことがない。
「うわぁ…煌びやかなすごい剣ですね。」
「ダンジョンからの出土品で、この世に二つと無い名剣だ。今まで本気で使ったことはないのだが……お前は耐えてくれるだろう?」
そういった次の瞬間、アレクレイの姿はその場から消え去りイッシンへと数十の斬撃を繰り出していた。イッシンはその攻撃を全て跳ね除けてみせるが、その額からは冷や汗が流れ出た。
「ほう!今の攻撃を容易く躱しきるか。大抵これで終わることが多いのだが…随分楽しめそうだ。」
「そ、そうですか。こっちとしてはハラハラしちゃって…」
「ふっ…そんな冗談を言える余裕もあるか。」
それだけ言葉を交わすと再びアレクレイの無数の斬撃がイッシンを襲う。並みの魔神ならば確かにこのアレクレイの高速の攻撃に耐えることもできずに倒れることだろう。しかしイッシンは史上最強の剣士と呼ばれる実力者だ。アレクレイの攻撃全てを捌ききる。
それを見たアレクレイは嬉しくなったのか今度は魔法攻撃まで加え出した。これで手数は倍以上に跳ね上がった。しかしイッシンはその全てを捌ききる。
「素晴らしい!この攻撃をいとも容易く絶え切ったのはお前が初めてだ!」
「け、結構ギリギリなんですけどね…」
その言葉の通りイッシンの表情には焦りがみえる。息も上がっているようだ。それを見たアレクレイは一旦攻撃をやめ、少し退くと考え込んだ。
「確かにお前の斬撃は目を見張るものがある。それだけの高速の連撃。並大抵ではないな。居合か…あまりやったことはないがやってみよう。」
そういうと今の剣から刀へと武器を入れ替えた。入れ替えた刀もとてつもないオーラを放っている。それを見たイッシンはさらに冷や汗を流した。
「ふむ…こういう感じだったな?よし、それじゃあやってみようか。」
アレクレイはイッシンとの距離を近づけると居合の応酬を始めた。時には体をよじらせ、時には刀をぶつけ合わせて斬撃から逃れる。ただ常人の目には映らないほどの速度だ。アレクレイはイッシンの居合と同等の攻撃をしている。
「ハハハハハ!!面白い!面白いぞ!!もっとだ…もっと速度をあげるぞ!」
「ちょ…それは勘弁……」
アレクレイはさらに居合の速度を上げる。イッシンはそれに対しなんとか斬撃を捌ききっている。しかし表情から不安が拭えない。だがアレクレイの居合はさらに速度を増していく。刀の軌道も動かしている腕も何も見えない。
どんどんどんどん速度を上げるアレクレイ。イッシンからでる冷や汗は顎から垂れるほどだ。どんどんイッシンの限界が近づいてきた。そしてその時はパキンという綺麗な高い音を出してきてしまった。
「何……」
「あ!……やっちゃった…サエちゃんに怒られる……」
光を乱反射させながら地面に突き刺さる物体。それは刀の先端であった。そしてその刀の主人はイッシン…ではなくアレクレイであった。
「馬鹿な…この刀が折れることなど…」
「ご、ごめんなさい。これって直りますか?いつも妻から高い武器を切るんじゃないって怒られてて…いつもはちゃんとセーブするんですけど、少し早かったからそれができなくて…」
「切っただと?…そんな馬鹿なことがあるか。これは複数のダンジョンアイテムを複合して作られた世界最高の一振りだぞ。それを切るなど…」
「そ、そんなお高いのなんですか!?!?ど、どうしよ…こういうのは美術的価値、歴史的価値もあるからすごいお高いって…い、いや値段の問題じゃないか…ど、どうしよ……」
イッシンはアレクレイが武器を取り出したその時から焦っていた。どの程度の力を入れればその武器を切らずに済むか、どう対処したら良いか、そんなことを考えていたせいで戦いに集中できなかった。
そして不器用なイッシンはついに力を制御しきれる速度を超えてしまいアレクレイの持つ刀を切ってしまった。そしてこのことが一つの事実をアレクレイに突きつけた。
「手を…抜いていたのか?」
「ええ、もちろんですよ。そうじゃなきゃこんなにゆっくり刀を振るいませんもん。」
そう言った瞬間、アレクレイの目の前からふわりと何かが落ちた。アレクレイは視線を真下に下ろす。そこには自身の毛髪があった。そして自身の額の髪に触れると確かに切られた痕があった。
「これがいつもの僕の剣速なんですけど…見えました?今まで会ってきた人で今の僕の剣速見えた人っていないんですよね。」
アレクレイは背中が凍りつくのを感じた。しかしそれがなんで起きたのか理解できなかった。アレクレイが今までの人生の中で背中が凍りつくことなど一度もない。そのせいで体の方もどうしたら良いのか解らず、大量の汗を吹き出すことでごまかしている。
「まあその…居合対決しても良いんですけど、武器壊しちゃうと大変なので普通に戦いませんか?正直このままだと…普通に終わっちゃうんで。」