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第487話 彼の名は

『ヨウ・ヴァルくんが…ピンチ?』


『白之捌拾捌・名縛りとかいうやつで動けなくて…近くで隠れている使い魔もどうして良いかわからなくて…』


 突如知らされた予想もしていなかった事態。ヴァルドールが窮地に陥ることなど誰にも予想できなかった。たとえ肉片になろうとも、髪の毛一本になろうとも、そこから数秒もかからずに復活できるような怪物を誰も心配してはいなかった。


 この事態は寝耳に水の知らせだ。しかしヴァルドールで対処できないような事態を使い魔たちだけでなんとかできるとは思えない。ヴァルドールの力になれそうなことを思いつかない。


『ヨウ・しっかりしてくれよ…ヴァルくん……君のことをどれだけの人が待っていると思っているんだい。君が死んだらどれだけの人が悲しむと思うんだい。なんとか…なんとかしてくれよ…』


 ヨウは身体を震わせながら無力な自分を嘆く。今や親友であるヴァルドールの窮地であるというのに何もできない自分を嘆く。駆けつけて颯爽と助けることもできない自分を恥じる。ヨウができることと言えば遠く離れたこの地から応援することくらいだ。


『ヨウ・応援?いや…だけどそんな都合の良い……でも可能性があるならやろう!』


 ヨウは動き出す。孤軍奮闘する親友ヴァルドールのために今できることをする。


 ヨウのいる地はヨーデルフイト王国のVMTランド。そこは今や英雄の国や周辺国の避難場所に認定されている。ヴァルドールが周辺に配置しておいた防衛術式はかなりの敵を退けている。十本指による被害が唯一ない場所でもある。


 それ故子供達はいまの戦争が起きている事態を知ってはいるが、危険もなく楽しく過ごせている。そんな中で突如アナウンスが流され、子供たちが一つの施設に集められた。


「みんなー!集まってくれてありがとー!!」


 司会の女性の声が聞こえると子供達はより一層盛り上がり、声をあげる。子供達にとってこれは突如始まったイベントの一つに過ぎない。しかしこれはヨウにとって緊急の超重要なことなのだ。


「みんな元気いっぱいだね!そんな元気いっぱいのみんなにお願いがあります。いま、世界中で大変なことが起きています。みんなも知っているよね?それでね。そんな中でみんなも大好きなリッキーくんが大変なことになっているみたいなんだ。リッキーくん今ここにはいないよね?今みんなを助けるためにリッキーくんも頑張っているんだ。」


 リッキーくんの着ぐるみは基本的にヴァルドールしか着用しない。それは暗黙のルールであり、着ぐるみ自体がヴァルドールの体に合わせて作られているため、当然と言えば当然である。それにリッキーくんの着ぐるみはヴァルドールがツグナオに会いに行くときに着て行っている。


「リッキーくん頑張ってー!」


「そう!みんなでリッキーくんを応援しよう!みんなが応援してくれれば応援してくれるほどリッキーくんも頑張れるんだ!みんな!大きな声で応援して!」


「「「リッキーくん!!」」」


「「「がんばれぇぇ!!」」」


「「「「「リッキーくん負けないでぇ!!!」」」」」


 割れんばかりの大歓声。司会の女性ももっともっとと子供達に頑張るように促す。しかし内心焦っている。司会の女性にはヴァルドールの窮地の情報を伝えられている。それなのにこんな悠長なことをしていて良いのか。たかだか声援一つで状況が変わるとは思えない。


 しかしそれでも頼まれた仕事をこなす。それが必要だというのだから。そしてヨウはその様子を直接ヴァルドールの元へと届けた。それが唯一の起死回生の方法だと信じて。


『ヨウ・心技体。技術と肉体は十分なものを持っている。あとは心だ。これまでも十分満たされていたとは思うけど、まだ脆い部分が残っている。ヴァルくん。君が本当に心を満ち溢れさせたその時。君なら全てを覆せると信じているよ。』





 そして今ヴァルドールの目にはヨウから送られてきた映像が映っている。数多くの子供たちの声援。彼らは必死に応援している。それは誰のためか。それはリッキーくん、そしてヴァルドールのため。


「なんだこのふざけた雑音は。」


「おい、そこの草陰のやつだ。捕らえろ。」


「人間のガキじゃないか。美味そうだ。奴らの血肉を残らずたいらげてやりたい。」


 吸血鬼たちは映像に対しそれぞれの反応を示す。そんな中ヴァルドールはその映像に釘付けになっている。そんな中映像の下にテロップが流れる。それはヨウがとっさに付け加えたもの。それはヨウの本音の叫びだ。


『ヴァルくん。君はもう一人じゃない。』


 それを見た瞬間、映像は消えた。映像を投影していた使い魔がやられたのだ。しかしヴァルドールに伝えるべきことは全て伝えられた。そしてヴァルドール自身先ほどまでの殺気が消え、闘争心も消え去り、ボロボロのまま笑い出した。


 ヴァルドールの目には涙が流れている。笑いながら泣いているのだ。それを見た吸血鬼たちは気が触れたかと思う。そして笑い声が止み、涙を拭き取るとなんとも清々しい表情をしたヴァルドールの姿があった。


「我ながら情けないことだ。頭に血が上り、思考が停止していた。そうだな…ヨウ殿。我はもう一人ではないな。……やめだやめ。我はもう…闘いには飽きた。」


「闘争とは我ら吸血鬼の本能!人間の血を啜り、人間を家畜として扱うのが我らだ。人間どもよりも上に立つ存在が我らだ!我々に従えぬのなら仕方ない。死ね!*****!!」


 ヴァルドールの真名により死を命じられる。その効力は凄まじく、不死の怪物であるヴァルドールの心臓が握られていく。心臓を締め付け、徐々に心拍数が下がっていく。か細い蚊のような心音しか聞こえなくなる。


 だがその時、ヴァルドールは再び笑い出した。そして心臓の締め付けが消え、心音が戻ってきた。


「馬鹿な!何をした!いや、そんなのは関係ない。何度でも命ずれば良いだけだ。自ら命を絶て!*****!!どうした*****!」


「我の名はそんな名ではない。そんなくだらぬ名で我を呼ぶな。」


「馬鹿な…ありえない。真名は魂に刻まれた名だ!何があろうと変えることはできない!*****!*****!!」


「くだらぬ名で呼ぶな。我が魂の名ならば他にある。」


 ヴァルドールの名縛りの術が解けていく。ヴァルドールの唯一の弱点とされていた名縛りの術が崩壊し、吸血鬼たちが真に求めた究極の存在を目の当たりにする。しかしそれはあまりにも予想だにできぬ姿で、あまりにも目の当たりにしたく無い姿であった。


「僕の名前はリッキーくんだよ!」


「「「……………」」」


 吸血鬼たちに沈黙が訪れる。そんな中一人テンションを上げたリッキーくんが歩き回る。



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― 新着の感想 ―
[一言] それは子供たちのアイドル、リッキーくんが真の意味でこの世界に降臨した日のことであった?
[一言] 魂の名前がリッキー君はちょっと予想出来てた。 だって中の人なんて居ないからねw
[良い点] 更新お待ちしておりました! …そうだねぇ…ヴァルくんにとって、もはや、リッキーくんも君の名前の一つだ!そもそもヴァルドールはいくつかある君の名前(仮)だ! [気になる点] 司会のお姉さん…
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