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第5話 釣りアプリ

 ついにこのわけのわからない場所に来てから一月が経過した。

 そして今日、ようやく金貨30枚まで貯めることができた。

 正直もっとたまると思っていたのだが、重要なことを忘れていた。それは需要と供給の問題である。


 ラディールは本来この時期の作物ではない。

 そのため希少価値があって金貨1枚以上という金額になっていたのだ。

 しかしそんな貴重なものも毎日500本も持っていけば、それは価格割れも起こす。

 今では持って行っても大銀貨5枚にもならなくなって来た。


 なので最近は他の作物として、ソウ草と呼ばれる野菜の種も買って交互に売っていたのだが、それでも供給が多すぎて値段が安くなってしまっている。

 今では販売数を減らし、在庫として一部を保管してある。


 それでも金貨30枚まで溜まったのは女神ちゃんガチャのおかげだ。

 初回特典の時は金貨10枚と破格だったが、それ以降は金貨1〜2枚とだいぶ少なくなってしまった。その上、素材アイテムの輩出率が高くなかなか金貨は手に入らなかった。


 それでも貯めることができたのは、この生活のおかげというものもあるだろう。

 一日のほぼ全てを、部屋の中でスマホをいじることに費やしている。そのせいで外で金を使うことは飯以外ほぼない。

 なので金が貯まりやすいのだ。


 しかし今日をもってこの生活にもおさらばする。

 なぜならあまりにも不健康的すぎるし、何も情報が入ってこない。

 元の世界に戻る方法も、この街がどんな街なのかも、もう一月もいるというのにほとんど知らない。

 それにこの調子だともう一つの問題に直面しそうなのだ。


 それは金の問題だ。アプリの購入には最低でも金貨2枚。

 その上、アプリ内の機能拡張にまた金貨が必要になる。

 つまりこの調子で金を稼いだとしても全然足りないのだ。

 それにいずれ冬になる。

 すると今までの生命線であるラディールが普通に市場に回るようになってしまい、さらに収入が減るのだ。


 だから今あるこの金貨30枚を使って、何か金になる仕事を始める必要がある。

 そのために今日は街を歩き回り、金になる商売を探していく。しばしスマホはお預けだ。




 街を出歩くといつものように店々は賑やかだ。街の雰囲気も明るい。こんな中で引き篭もっていたと思うと、少し自己嫌悪に陥る。

 店先には多くの品物が並んでいる。

 その中におそらく、俺が育てたと思われるラディールが売られていた。

 まさかこんな露天に並ぶほど価格割れを起こしていたとは思いもしなかった。これは本格的に、今すぐどうにかする必要がある。


 それから数時間ほど店々を歩き回った俺は昼食をとりながら、ここまでの結果をまとめていた。

 多くの店があり、どんなものでも売っていそうに見えた。しかし、一部のジャンルだけ販売数がほぼなかった。

 それは鮮魚と甘味だ。


 おそらく、この街の周囲には海や湖といったものがないのだろう。

 時折干物が見られたが、なかなかにいい値段だった。

 つまりこの街は内陸にあり、近くに河川がないため新鮮な魚を入手することができない。ならば魚を販売するのは一つの手だろう。


 それともう一つは甘味だ。

 果物は数多くあったが、砂糖を使ったような菓子類はほぼなかった。

 菓子類は女性に根強い人気があるから、商売としてはなかなか良いだろう。


 さてこの二つのどちらかにあったアプリはあるか探してみると、すぐに見つけることができた。

 釣りバカ野郎と、どこでもクッキングだ。

 この二つならこの問題も解決することができるだろう。

 しかし大きな問題がある。このアプリが異常に高いのだ。両方とも一つ金貨20枚もする。


 今の俺ではどちらかしか買えない。

 だが俺は迷うことなく釣りバカ野郎の購入を決定する。

 理由は簡単だ。菓子作りの方は砂糖がないからだ。

 ファームファクトリーの方で砂糖の原料となるサトウキビ、甜菜のタネも売っていた。しかし値段が金貨100枚と、これまた異常に高い上に、今のレベルでは育てることができないらしい。


 栽培できる作物には地球のものも多くあるが、どれも値段は高いし、レベルが足りない。

 つまり菓子作りは材料がないので諦めたのだ。

 ちなみにこの世界の砂糖の原料は名前がわからなかったので、安く手に入るかもしれないが、その線は諦めた。


 まあ今すぐ買っても良いが一度商業ギルドに寄ってみよう。

 あそこにはその時々の商品の最低買取価格が表示されている。そこで他にも良いものがあるかもしれない。




 商業ギルドについた俺は早速掲示板から販売価格が高く人気の多いものを探す。

 するとやはり鮮魚はかなり良い値段がついていた。

 海産物の鮮魚は書かれていないが、川魚の場合でも鮮魚は1匹当たり大銀貨3枚の値がついている。


 しかし正直ここまで高いと買う人間もいないのではないかと思う。

 売れなくては困るので、近くにいた職員に尋ねてみた。


「魚ですか?買うのは裕福な商人や貴族が多いですね。時折冒険者が釣ってくるのですが、大体は専用の依頼が出ているのでここまで回ってくることはないです。もしもあれば、すぐにでも全て買い取りますよ。」


「それは生きたままの魚ってこと?」


「さすがにそれは無理ですね。この街は防衛重視で作られていて川からはだいぶ離れたところにあるんです。運んでいる間に死んでしまいますよ。もしも生きたままなら倍額で買い取る可能性だってありますね。」


 そんなことは不可能だと笑いながら説明してくれた。

 しかし、これはなかなかいいことを聞けた。

 生きたまま取り出すことが可能かどうかはわからないが、もしもできたらかなりの金になる。


 俺は早速宿に戻り、釣りバカ野郎を購入する。

 金貨20枚はなかなか痛手だが、うまくいけば十分に元を取ることができる。

 早速起動すると、しばらく追加のダウンロードが始まる。

 5分ほどすると、ようやくゲームが始まったようだ。


『釣りバカ野郎! このゲームは魚を釣って釣って釣りまくるゲームだ。始めに釣竿と仕掛けを5セット、餌を10回分くれてやる!あとは釣って釣って釣りまくれぇい!』


「あ、初めて男の声になったな。男性ボイスもあったんだこのスマホのアプリ。」


『釣り方の説明だ!針に餌をつけたら投げてウキが沈むのを待つだけだ。ウキが沈んだらスマホが振動する。そのあとは魚との駆け引きだ!うまく引き上げることができればお前の勝ちだ。ただし失敗すると餌はなくなる。場合によっては仕掛けも切れるから気をつけろよ!』


「よくある感じの釣りゲーだな。まあ釣りゲーも一時期やり込んだから余裕だろ。お、これ餌つける時から自分でやるのか。なんか無駄に本格派なんだよな。」


 餌をつけ早速投げ入れてみる。

 すると餌が着水する前に、何かが飛んでいったようなエフェクトがかかった。

 試しに竿を上げてみると餌がついていなかった。


『竿を勢いよく振りすぎたな!それに餌のつけ方も甘い!やり直し!』


「む、無駄にシビア…鬼畜ゲー多すぎないか、このスマホ。」


 再び餌をつけて投げるがなんども失敗する。

 しかもその失敗した理由が毎回シビアすぎるのだ。


『ウキの位置が高すぎたな!針が川底にかかって仕掛けごと持って行かれたぞ!ウキの位置を調節しろ!』

『川上から流れてきた流木に引っかかったな!仕掛けを付け直し!』

『魚が大物すぎて仕掛けごと持って行かれたぞ!』


「こ、これ…まじでシビアすぎるだろ。もう餌も仕掛けもないんだけど…購入できんのかな?」


『仕掛けと餌がなくなったな!仕掛けは5セットで金貨1枚だ!餌は10個で大銀貨1枚だぞ!』


「……クソゲーじゃんこれ」


 まずい。

 このままだと魚が釣れるのが早いか俺の貯金が尽きるのが早いかどっちかだろ。

 だけどここで引くわけには行かない。

 金を搾り取られるだけ搾り取られて終わりなんてそんなのは許されない。


 それから釣りを開始すること1時間。

 金貨4枚ほど使ったところで、ようやく待望の一匹を釣りあげることに成功した。

 正直喜びよりも安堵の方が強い。

 このゲームは本当に釣ることができると確認できて安心した。


「どうせなら他の場所も行ってみたいな。他にステージはないのかな?」


 色々いじくっていると場所を移動するアイコンを見つけた。

 早速見てみると池や海、下流域など様々な場所があった。しかし…


「池のロック解除料金金貨100枚!?海なんて色々種類あんのに最低でも一つ金貨200枚とかどんだけだよ!重課金どころじゃねぇぞ!これ全部買ったら廃課金すら超えそうだよ!」


 簡単に計算して見ても全て買うのに最低でも金貨5000枚は軽く必要だろう。

 一つのアプリに金貨5000枚…さらに釣りの費用も考えたら…


「クソが!絶対に元取ってやるからな!」




 翌朝。

 気がついたら朝日が出ていた。もっと他のことにも気がついたら手持ちの金貨どころか、大銀貨以上の金全てが消え去っていた。

 しかしそれだけの釣果はあった。手持ちのアイテム欄には数十匹の魚が生きたまま保管されている。


 このまま持っていくのもまずいので運ぶ方法を考える。

 数も多いが一度に売るのではなく、小分けに売っていこう。

 とりあえず街に出て水の漏れない大きめの容器を買う。

 それとホースと麻袋も買った。

 別に高いものでもなかったので、手持ちの残り少ない金でなんとか買うことができた。


 それから人目のつかない場所に移動して早速作業を始める。

 とは言ってもホースに麻袋をくくりつけて、容器に井戸水を汲み入れるだけだ。

 そこまでしたら麻袋をくくりつけた側のホースを入れ、反対側から息を吹き込む。

 これは人力の酸素ポンプだ。さすがに酸素がないとすぐに魚が弱ってしまう。


 準備ができたところで水の中に魚を入れていく。

 取り出すのは初めてだったが、ちゃんと生きた状態で魚を取り出すことに成功した。

 そこからは急いで商業ギルドにむかった。




「魚生きたまま持ってきたんで買い取ってください。」


「あなたは…もう何度驚かせれば気がすむんですか?とりあえず見せてください。」


 俺はいつも通り裏手に回り、いつものように受付嬢と話していた。

 もうこの人はほぼ俺担当みたいになってきている。

 ちなみに名前はサラス。金髪ショートの美人さんだ。

 俺はサラスに持ってきた魚を見せる。すると物珍しそうに眺めている。


「初めて生きている魚見ました。こうなっているんですね。なんだか感動しました。」


「サラスさんに喜んでもらって何よりですよ。それより買取の方お願いできますか?」


 そう言うと慌てて担当のものを呼んできますと何処かへ行ってしまった。

 待っている間に生きたままの魚が物珍しいのか多くの人が集まってきた。

 しばらくしてサラスが担当であろう男を連れて戻ってきた。


「うわ…本当に持ってきたんだ…」


「あれ?あの時聞いた人じゃん。生きたままなら倍額っていうから持ってきたよ。」


 担当は前に魚のことを訪ねたあの男だった。

 これはちょうど良い。あの時しっかりと倍額って言ったのを聞いていたからな。言質はすでに取ってある。


「可能性とも言いましたよ。でも大きさも良いので、本当に倍額で買い取れるかもしれませんね。少し待ってください。今冒険者ギルドの方にも連絡して依頼がないか確認してもらいますから。」


「いいけど早くしてよ?空気送り込むので俺もなかなか大変なんだから。」


「空気ですか?それが必要なので?」


「魚だって生きてるんだから呼吸しないと死んじゃうよ。」


 そういうと何やら感心したように頷いている。

 どうやら生きたままの魚を取り扱うのは本当に初めてだったようで、扱い方を全く知らないらしい。

 しかしこのままだと俺の呼気と気温で水温が上がり、魚の弱る原因になる。


 それを教えると男は連絡を他のものに任せて、どこからか大きな入れ物と何かを持ってきた。


「容器を移し替えましょう。それと空気を送り込むのはこれでも問題ないですか?」


「その石ころはなんだ?」


「風の魔法式を組み込んだ魔石です。空気を作り出すのでこれで代用できないかと思いまして。」


 そんな便利なものがあるのか。

 試しに使ってみると良い感じの風が流れてきたので麻袋に入れ水に沈めてみると実に良い感じで細かい泡がたくさん上がってくる。

 これなら問題ないのですぐに魚を移し替える。


 それからしばらくすると、冒険者ギルドにも依頼があったそうでそこから様々な場所に連絡したらしく、多くの貴族の使いとやらが集まりあっという間に完売してしまった。

 しかも買取価格が貴族の使いということで見栄もあったのか1匹大銀貨5枚で買い取ってくれた。

 結果として一日で金貨8枚も稼ぐことに成功してしまった。


 しかもまだ買いたいという貴族が多いらしく、手に入り次第すぐに連絡してくれと幾つも依頼があった。

 これは魚ブームきたかもしれないぞ。




また明日12時の投稿します。

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