第479話 第10世代
『社畜・…と、いうわけである。』
「ふ〜ん。つまり第9世代は汎用型の量産機。クセがなく同一の兵器を搭載することで連携力をあげる戦法か。オリジナリティを出すのは賢者の石による固有兵器。賢者の石による強化に耐えられる機体を作ることに注力したんだな。」
『社畜・そうなのである。だけどそれだけで終わらないのである。こっちが本命である。』
「へぇ…これが第10世代完全専用機体。」
『社畜・個人の賢者の石による強化をベースに能力を特化させるための機体である。完全オーダーメイド品であるので量産は難しいのである。ただし性能は折り紙つきなのである!』
「スペック的には第9世代で魔王クラス、第10世代で魔帝クラスに匹敵することが可能…ね。……嘘くさ。」
『社畜・理論上は可能なのである!瞬間的な火力は十分比敵するのである!』
「はいはい、まあ机上の空論ってやつだな。そんな簡単にあのレベルの怪物を相手にできるとは思わんことだ。近しい性能が出るってことだけは理解しておくよ。」
これはまだミチナガが9大ダンジョン、神域のヴァルハラを脱出中の頃の会話。エヴォルヴ研究の成果の報告を受け、話半分で聞いていた。エヴォルヴの性能が上がったとはいえ、そこまでの成果が出せるとは思ってもみなかった。
しかし実際は第9世代を用いて妖精神アキュスを押さえ込んだ。社畜の当初の予想をはるかに上回る性能だ。そして今、第10世代に搭乗した3人の使い魔たちがゴディアンの前に立ちはだかる。
「何者だお前たちは…いやそれよりも……なんと濃厚な世界樹の魔力…そうか!お前たちがもう一つの世界樹の守り人か!!」
『いかにも。草の大精霊の弟子が一人。ファーマー。』
『花の大精霊が一番弟子〜フラワ〜〜。』
『森の大精霊……一番弟子…ドルイド…』
エヴォルヴの機体に内包される世界樹魔力を感じ取ったゴディアンは思わず唾を飲み込む。ゴディアンにとってこの3人はえも言われぬ芸術品でありご馳走だ。
だが今すぐに取り込むことは体が耐えられないため出来ない。目の前にあるご馳走をお預けされる犬の気持ちを味わうゴディアンは歯がゆい気持ちでその光景を見る。
「それで?お前たちでこの私に敵うとでも?」
『試してみよう。ドルイド、お前はもう少し機体に慣れるまで下がってろ。』
『任せた……』
ドルイドの前にフラワーとファーマーが立つ。そしてファーマーが手に魔力を込め始めると賢者の石が手に集まり一本の鍬になる。これがファーマーによる賢者の石での錬成武具だ。
『それじゃあちょっと…様子見だ!』
ファーマーは鍬を振り下ろすと地面を穿った。そしてそこから魔力が地面に浸透すると大量の植物が生え、一斉にゴディアンに襲いかかる。
「ほう!そこの精霊には見劣りするがこれはこれで…」
余裕を見せるゴディアンであったが襲いかかる植物に四肢を封じられ、口を抑えられた。そしてそこに追撃するようにフラワーが動く。
フラワーの両手にもファーマーと同じように賢者の石による錬成武具が見られる。その武具は一対の針だ。その針をゴディアンの胸に深々と突き刺す。
そして針の先から液体が注入されていく。その液体は毒のようで突き刺した部分をわずかに変色させるが、すぐに元に戻ってしまう。そしてゴディアンにまとわりついていた植物も解けていく。
「なるほど、そこの精霊の弟子というだけあるな。戦い方が似ておる。しかし…その程度の攻撃でこのわしに通用するとでも?」
世界樹の核を持っているゴディアンにとって他の世界樹による攻撃であったとしてもわずかな時間があればその攻撃を完封できるらしい。使い魔たちの攻撃など避けるまでもないということだ。
世界樹の魔力を持つ使い魔たちと世界樹の核を持つゴディアン。どちらが強いかと言われれば明らかに後者になる。だがしかし、世界樹に詳しいのは使い魔たちの方だ。
『世界樹は世界の平和を愛する。しかし…世界樹にも敵はおる。』
『魔力と〜血液の〜採取完了〜それじゃあ〜産むよ〜〜』
フラワーの持つ針の根元の部分が膨らんでいく。ゴムのように柔らかく膨らんでいくそれはやがて硬質化すると内部からおびただしい数の蟲の群れを生み出した。
「何!?これはまさか!!」
『この世界では随分昔に絶滅させられたらしいけど、おらたちの世界樹の元では生まれておった。世界樹喰らいの害虫どもも今だけは役に立つ。』
世界樹を喰らう生物というのはいくつか存在する。例えば前にナイトが助けた糸の村の芋虫なんかがそうだ。ただこの芋虫のように人に益をなす虫もいれば世界樹を食べて繁殖し、人々に攻撃する虫もいる。
そういった虫たちをフラワーは孵化させたのだ。そしてその孵化の際にゴディアンの血液を飲ませた。虫たちはゴディアンの味を覚えている。そういった虫たちは味を覚えた餌を食べるために危険も何も考えずにただ襲いかかる。
「虫ケラどもが!!神に仇なす害虫がこのわしに触れようなどとふざけるなぁ!」
ゴディアンはこれまでに見せたことのないほどの怒りをあらわにする。世界樹を信仰する者にとってこれほどの害悪は存在しない。たとえ世界樹を奪ったゴディアンであったとしてもその気持ちはあるようだ。
虫ごときがゴディアンに一矢報いられるとは思わないが、それでも無数の虫たちを相手にするのは手間がかかる。それにこの虫たちには一つの特徴がある。
ゴディアンは世界樹魔法で虫を絶滅させようとする。だが妙なことに魔法の効きが悪い。そして追い払っているうちに気がつく。この虫たちには魔法が効かないと。
虫たちは世界樹を食べるために進化した。そして世界樹を食べるためには世界樹魔法に対抗することが重要視される。かつて世界樹を守ろうとした人々は魔法を使わず、武器だけでこの虫たちを絶滅させたのだが、絶滅させた後に生まれたゴディアンはそのことを知らない。
たかが虫ケラに翻弄されるゴディアン。その間に使い魔たちは再び動き始める。ゴディアンとの戦いで最も重要視されるのはゴディアンの持つ世界樹の核を奪い返すことだ。
しかしゴディアンと世界樹の核の結びつきは強い。生半可な力では取り戻すことはできない。この場でゴディアンの持つ世界樹の核を抜き取ることができるとしたらこの世界の世界樹に認められているリリーだけだろう。
使い魔たちはリリーが動ける場面を生み出す必要がある。しかし使い魔たちの今の攻撃ではそれだけのダメージを与えることは難しい。今の蟲達であっても時間稼ぎがせいぜいだろう。だからこそ早々に切り札を出す必要がある。
『ドルイド、準備は?』
『問題…ない…』
『それじゃあ〜みんなで〜やろう〜〜』
使い魔達は一斉に魔力を放出させ始める。それは空間に巨大な亀裂を入れ、大地を揺れ動かした。
「まさか…!おお!!これぞまさにもう一つの世界樹だ!!!」
歓喜の声を上げるゴディアン。世界にもう一つの世界樹が顕現した。
次回お休みします。