第478話 vsゴディアン
「ふう、俺で終わりね。後は細々としたのを片付けるわよ。」
「「「はい!女王様!!」」」
ピクシリーの号令のもと妖精たちは残りの片付けを始める。妖精の回復薬がある以上、そしてアキュスを討伐した以上、妖精界に脅威と呼べる脅威は存在しない。
完全に妖精界の戦闘が終われば今度は人間たちに力を貸す予定だ。そういう契約のもとミチナガ商会から大量の妖精の回復薬を供給された。
「またしばらくは忙しくなりそうね。じゃあもう一働き…って何この気配……」
ピクシリーは驚きと焦りを見せる。ピクシリーが焦るほどの事態。それをもたらした気配は妖精界ではなく、人間界の方から感じ取った。
そんなピクシリーが驚きを見せる事態から時間はだいぶ遡る。今尚激しい争いが続く国々の中の一つ、ユグドラシル国の中心部では巨大な植物の球体が鎮座していた。そしてその球体の表面で暴れている影が見える。
「くっ!!頑丈すぎる……」
『それだけ奴も必死と言うことだ。なんとかして突破する。』
リリーと大精霊たちは巨大な植物の根を引き剥がしていく。しかしどれだけ剥がしても内側からさらなる植物が生まれ出てくる。ゴディアンは世界樹の力の大半を失い弱体化したかに思われたが、逆に世界樹の魔力を抑え込むために割いていた能力を戻すことができた。
そして真に神樹と呼ばれていたゴディアンの完全復活が始まろうとしている。今はリリーによって受けた痛手を癒すために回復に専念している。かなりのダメージだったため数日に渡り防御と回復に注力せねばならないようだ。
そしてその防御を必死に破ろうとしているがまるで突破できない。しかしリリーたちは急いでこれを突破せねばならないと理解している。この樹木による防御はまるで繭だ。恐ろしい怪物が復活するための繭。そしてその繭が今、ゴディアンによって破かれていく。
繭が開いた瞬間に感じ取る強烈な魔力、そして死の気配。あまりのことにリリーはその場で膝をつく。先ほどまでのゴディアンとはまるで別物だ。先ほどまでよりはるかに恐ろしい。先ほどまでよりはるかに強い。
「はぁ…なんたることだ。この身が内包する神力が20%も無いではないか。だが…はるかに動きやすい。少しずつ慣らすのが吉か。」
ゴディアンはようやく全盛期の力を取り戻した。いや、まだ取り込んだ世界樹の核がある以上全盛期を超える力を得ている。そしてその力を十全に使える。
そして大精霊たちの攻撃はゴディアンが世界樹の核を保持している以上通用しない。リリーや使い魔たちも魔神相手ではなす術がない。
『プリースト・リリー様お逃げください。奴はもう我々ではとめられません。』
「…逃げて解決するの?そもそも逃げられるの?」
『プリースト・もう一つの世界樹に認められたあなたならばゴディアンも殺そうとは思わないはずです。ここで下手に捕まるよりかは遥かに懸命な判断だと。』
緊張感が生まれる。この後のゴディアンの一挙手一投足で命運が決まる。そしてゴディアンは音もなくリリーたちの間に立った。
以前とはまるで違う。膨大なまでの魔力量などは失われているが、それ以上に威圧感や強者としての覇気が格段に増している。ゴディアン以外誰も動き出すことができない。
「まったく…よくもやってくれたものだ。見ろ。あれほどまでの芳醇な神力が失われておる。動きやすくなったのは確かだが…まあもっとゆっくりと慣らしていくか。いつまでもグチグチ言っていても仕方ない。それに新たな発見もあった。この小娘は貰っていくぞ。」
『させると思うか?』
「精霊ごときに指図できるとでも?これはわしの決定事項だ。この小娘からもう一つの世界樹の魔力を入れられた時は死ぬかと思ったが、発見もあった。2つの世界樹の力が混ざり合ったその時、膨大な魔力が発生した。あれを自在に駆使することができたその時……わしに比肩する生物は消えて無くなる。」
ゴディアンは恍惚の表情を浮かべる。一度は死にかけるほどの一撃を与えたが、それが原因でこの状況が生まれてしまった。できることならばあの時に確実に仕留めるべきであった。そしてリリーを守るために大精霊たちはゴディアンの前に立つ。
『逃げよ。我らで時間を稼ぐ。』
『行きなさいお嬢ちゃん。』
『振り向かないで駆け抜くのよ。』
「で、でも……」
大精霊たちの決死の覚悟が伝わる。今の大精霊たちにゴディアンを打倒する力はない。しかしそれでも一矢報いると言う気持ちは伝わる。だがそれがリリーの足を鈍らせる。
大精霊の死は世界に大きな影響をもたらす。大精霊が死ねばその大精霊の治める土地の魔料は荒れ果て死の荒野が広がることだろう。そしてそこから荒れた魔力が周囲に侵食しさらなる被害をもたらす。
それに何よりこの3大精霊は世界の宝だ。それが守ろうとするリリーにそれだけの価値があるのか。リリーは不安でいっぱいになる。そしてその鈍る足取りが致命的となった。
「失せよ。お前たちにもう微塵も興味はない。」
ゴディアンは力に任せて大精霊たちを払いのけようとする。もちろん大精霊たちも抗おうとするが、世界樹の核を持ったゴディアンに対抗することができない。ものの数秒で弾き飛ばされた大精霊たちは再び立ち上がろうとするが絡みつく植物により動くことができない。
『逃げよ!早く!!』
叫ぶ大精霊の声はリリーに届かない。もうリリーはゴディアンという圧倒的な存在を前に動くことができずにいる。もうなすすべはない。……彼らを除いては。
『リリーお嬢様から離れていただこう。』
「何…オゴォ!!」
ゴディアンに振り下ろされるメイスは頬を撃ち抜いた。そして一瞬ひるんだすきにリリーを抱えて離れる。突然のことに理解ができぬゴディアン、そしてリリー。そこに現れたのはエヴォルヴであった。
「何者だ…一体どこから…」
「ぷ、プリーストなの?」
『ええ、お嬢様。ようやく戻ってまいりました。我らが王が。しばらくそちらでお待ちください。裁きを下してまいります。』
「何者かは知らんが、たかがその程度の魔力でこの私に立ち向かうだと?お前…死んだぞ。」
『ではやってみなさい。』
プリーストは再びメイスを振り上げる。ゴディアンはそのメイスに宿る魔力量を確認し、片手で軽くあしらえると判断するとメイスを無視して突撃した。プリーストはゴディアンめがけてメイスを振り下ろす。それを片手で抑えるゴディアンだが、その次の瞬間。ゴディアンの腕はメイスに砕かれ、そのまま弾き飛ばした。
「なんだと!そんなバカな!あの程度の魔力量ならば問題なく防げる!何をした!?」
『我が一撃は裁きの一撃。ゴディアンよ。汝の罪はそれだけ重いということだ。』
プリーストの能力は神官。だがその力は神に願うことではない。神の僕としてその権能を地上にて発揮すること。その力は対象の悪行に対する威力増大効果。悪人に神の鉄槌を下すための暴力装置。
そしてゴディアンの悪行はプリーストの能力を最大限まで発揮するものであった。それこそ魔力量は魔王クラス程度まで底上げされたプリーストが神樹の魔神にダメージを与えるほどに。
『甘んじて裁きを受けよ。』
「なめるな小童ぁぁ!!」
正面からの攻撃の応酬。プリーストの攻撃は確実にゴディアンにダメージを与えられるが地力の差が全く違う。あっという間にボロボロにされていくエヴォルヴの機体は力なく振り上げたメイスを落としたところで停止した。
「ゴミが!ナメくさりおって……貴様にできるのはそこでガラクタになることだけだ。」
『い…え……なか…ま……ため…時間……稼ぎ……』
「何?」
その瞬間、ゴディアンは突如出現した強大な魔力を感じ取った。それは自身に迫るほどのものではない。しかしこれほどまでに濃密な魔力…世界樹魔力を感じたのは初めてだ。
『いやぁ…プリーストさん。ありがとうございます。おかげでオラたちの準備ができました。』
『遅れて〜ゴメンね〜〜』
『師よ……今戻った……』
いつの間にか姿を消していたドルイドがフラワーとファーマーを連れ、エヴォルヴの機体に乗り戻ってきた。大精霊たちの三弟子がゴディアンを打倒するために新たなるエヴォルヴの機体と世界樹の力を携え、その力を発揮しようとしている。