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第472話 伝説の男トウショウ

「いいか!何としてもここを通すな!俺たちがやられたら前線で戦う兵士たちの武器が足りなくなる!死ぬんじゃねぇぞ!」


「「「おう!」」」


 ドワーフたちは武器を片手に勇み声を上げる。しかしその手は震えている。なにせ相手は他でも無い自分たちの死んだ家族だ。親兄弟、親戚からかつての友まで様々だ。それらが相手になるとなるとさすがに苦しみで戦意がなかなか奮い立たない。


 だが相手にはそんなことは関係ない。ただ生者を襲う、それだけだ。先頭で必死に自らを奮い立たせようとするグスタフもその目に映り込む光景のせいで唇がちぎれるほど歯をくいしばっている。


「ちきしょう…兄弟子たちめ…昔っから俺の迷惑なんて何も考えちゃいねぇ…くそ…くそぉ!俺にあんたらの死に目を二度も見せるんじゃねぇ!!ちくしょう!!」


「やかましい!てめぇこのやろう。何こんなところで油売ってんだ!」


「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!し、師匠!!」


「「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」」


 グスタフの目の前にぬるりと現れたトウショウという伝説の存在に皆慌てふためく。しかしトウショウにはそんなの関係ない。グスタフの頭に拳骨を落とすと動揺するグスタフの目をまっすぐに見た。


「いつも言ってんだろ!サボってんじゃねぇ!ほれ、とっとと仕事に戻るぞ!」


「し、師匠…師匠!師匠師匠師匠!!」


「やかましい聞こえとるわ。そんな物騒なもん持ってないで仕事だ仕事。」


「なんで師匠普通に喋れて…って今はそんな場合じゃないんですよ!あっち見てあっち!」


「何があるっていうん…な、なんだあいつら…病気か?馬鹿弟子どもも一緒じゃねぇか。」


 トウショウは蘇った死者たちの群れを見て動揺する。トウショウ自身先ほどまで彼らと同じ状態であったのだが、その記憶はないらしい。いや、単純にそうであったという事実に気がつかなかっただけかもしれないが。


 グスタフは手短に現状の説明を行うが、トウショウはまるで理解しない。弟子たちの変わり果てた姿に動揺してしまい、オロオロしている。


「こういうのは母ちゃんに任せてきたから俺はからっきしなんだ。ったくどうしたら…そうだ。こいつならなんとかなんだろ。」


 トウショウはその手に持つ金槌に力を入れる。するとトウショウの目の前に魔力で形成された金床現れた。その金床をトウショウは金槌でおもいっきり叩く。


 その衝撃は光り輝く衝撃波となって周囲に広がっていく。それはまるでツグナオの持つおもちゃの剣の人々に生気をもたらす光と同じであった。そして光が消え去った後には生者に戻ったドワーフたちの姿があった。


「あれ?俺たちは一体……」


「おう、治ったか。ああ、良かった良かった。それじゃあ仕事に戻るぞ。」


「お、お師匠様!そんな…お師匠様が戻られたのか!!うおぉぉぉ!!!」


 自分たちの今の状況を理解するよりも目の前にいるトウショウの姿に感動したドワーフたちは一気に走りよりトウショウを胴上げする。ドワーフたちの馬鹿力により胴上げされたトウショウはあまりの胴上げの高さに早く下ろせと声を荒げた。


「馬鹿野郎!俺を殺す気か!ったく…そんなことよりも仕事するぞ。その前にまずはお前らの腕が落ちていないか見てやる。」


「し、師匠が見てくれんのかよ…き、緊張してきた…それよりも師匠。なんで普通に喋れるんですか?」


「あ?んなこと俺はしらねぇよ。」


 生前のトウショウはドワーフたちとまともに喋ることはできなかった。なんとか覚えたカタコトと身振り手振りでなんとかしていたのだが、今のトウショウはなんの不自由なく同じ言葉を話している。


 実はトウショウはこの金槌の能力というものがよく理解しておらず、言語翻訳能力を獲得せずに暮らしていた。今はツグナオと同様に一定の能力値が溜まったため自動的に能力を取得したのだ。


 しかし今はそんなことはどうでも良いと早速自身の直属の弟子たちを集めて鉄を打たせた。自分がこの世にいなくなってからどの程度腕を上げたのかを確認することを一番に優先させた。


 これには弟子のみならず多くのドワーフたちの注目を集めた。トウショウの弟子というのは誰もが歴史に名を残すようなドワーフの名工である。この世の全ての鍛治師が師と崇めるだけの腕前を持っている。そしてその中の最若手としてグスタフの姿もあった。


 そしてその様子の一部始終をミチナガの使い魔スミスが屋根の梁から記録していた。これほどの光景はこの時を逃せば二度と見ることができない。


 トウショウの弟子全員が一斉に鉄を打つ。その集中力は先ほどまでの大喜びし、浮かれたドワーフたちとは別人だ。仕事には一切の気を抜かない。ましてやそれが師匠であるトウショウの前ならば一切の油断ができない。


 そして研ぎの工程まで行い、トウショウの弟子たちは全員ミスリル合金を用いた新魔剣を完成させた。その一本一本はどれも個性が出ている。だが新魔剣としてのレベルは今市場に出回るものとは格が違う。それを見たトウショウも満足げだ。


「ん、なかなかの出来じゃねぇか。」


「「「「ありがとうございます!!」」」」


「…あの……横から失礼します。その…トウショウ様のも見て見たいな…なんて…」


「ん?俺かい?」


 我慢できなくなったのだろう。横槍を入れるような形で一人のドワーフが口を挟んできた。本来ならあまりにも無礼なことだが、他のドワーフたちも同じ意見のようだ。


「そうだな…俺も腕が落ちてないか確認するか。グス坊。材料準備できるかい?」


「も、もちろんです!すぐに用意します!」


 走り出すグスタフ。雑用を言いつけられただけなのに子供のように喜んで走り回っている。もはやこの世でグスタフにこんな雑用を言いつけられるのはトウショウだけだ。


「それからよ、誰か槌打ってくれ。俺だけじゃ力たりねぇからな。」


「「「もちろんです!!」」」


 トウショウは老人だ。まあ金槌を振るう力はあるのだが、やはりドワーフたちの手を借りた方が早く仕事が済む。そして一通りの準備が終わると早速トウショウの仕事が始まる。


 トウショウの相槌の元、弟子たちが鉄を叩く。世界に名を残すドワーフたちがトウショウと共に鉄を打つ。これほど贅沢なことがあるだろうか。


 その光景を全てのドワーフたちが瞬きすることもなくじっと見つめる。そして弟子たちと同様に研ぎの工程まで終わらせたトウショウの手には一本の剣が握られていた。しかしその剣を見たドワーフたちはざわつきを見せる。


「おい…あれって…」


「失敗じゃないか?」


 トウショウの完成させた剣はただのミスリル合金の刀だ。普通の新魔剣ならばミスリル合金と鉄が層になっているのだが、それがまるで見られない。明らかな失敗。しかしそれは常人にはそう見えるだけだ。


「まあまあの出来だな。誰か…使ってみるか?」


「え?ちょ…な、なんだこりゃ!?!?魔力の浸透力が半端じゃねぇ!こ、こんな新魔剣…見たことねぇ……」


 普通のドワーフたちはその刀を手にとってようやくその凄さを理解したが、トウショウの弟子たちはとっくに全て理解していた。自分たちの打った新魔剣とトウショウの新魔剣では天と地ほどの格差があることを。


「さすがです…お師匠様。我々ではまだまだ研鑽が足りませんでした。」


「いや、今のお前たちの腕前があったから俺も安心して相槌が打てた。それにしても随分と資源が豊富だな。ミスリル合金の出来も見事じゃねぇか。こんな合金があるから打つのが楽しかったぁ…」


「師匠。これは弟子のトウが作ったものです。」


「トウか!あいつは鍛治の腕は伸びなかったが作るのはピカイチだったからな。そうか…トウか……あいつはどうしているんだ?兄貴を探すと言っていたが…」


「今は他国におりまして…その兄は亡くなっており会うことはできませんでしたが、その息子には会うことができたようです。」


「そうか!そうかぁ〜…残念だが、良いこともあったなぁ。そうか……あいつもまだ生きてんのか。」


「えぇ。最近までやり取りはなかったのですが、最近は時折連絡もくれまして。トウの作った合金が山ほど地下の貯蔵庫に保存してあります。」


「…そいつを見してくれ。」


 トウショウはグスタフに案内させ、地下の貯蔵庫を確認しに行く。そこにある合金はどれも一級品だ。あのトウショウの伝説の作品桜花に使われている合金と遜色ないものまである。それを見た時、トウショウの目の色が変わった。


「弟子たちは問題なく育った。合金もこれだけのものが大量にある。よし、お前らこの金属使ってまずは何本か打つぞ。」


「へい!…ってまずは?そのあとは何かあるんですか?」


「ああ、今ならやれる。お前らのおかげだ。大昔に大事な注文が入っていてな。それを完成させる。良いか。またあの世に戻る前に…桜花を超える一本を作るぞ。」


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― 新着の感想 ―
[良い点] トウショウ…かなりバK…規格外な人だなぁ…彼の腕前は使い魔が記録したから子々孫々受け継がれるでしょう!…ミチナガさん…というかスマホが無いからトウショウとトウさんとのやり取りは今難しいです…
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