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第467話 勇者の帰還

 魔神第1位、勇者王カナエ・ツグナオ。それは過去の魔神が大勢蘇ったこの世界においても彼だけはまごうことなき世界最高の魔神であるとこの世界が認めた瞬間であった。その事実をツグナオは知らない。しかしその事実は世界中に広まった。


 そしてツグナオは自身の目の前に広がる光景に未だ実感がわかなかった。そして生前こんな状況に陥ったことがないため、どう対応して良いかまるでわからなかった。冷や汗を流しながら困惑するツグナオだがそんなツグナオの元へ一人のドワーフが近づいて来た。


 他の英雄たちからすればあまりにも不敬な態度。しかしそれを諌めて良いのかもわからない。他のほとんどの英雄たちはそのドワーフが何者なのかを知らなかったからだ。そんなドワーフはツグナオの近くまで来ると両膝をついて声を震わせながら尋ねた。


「あ…あの…わしのことは……わしのことは知って…おりますか?」


 突然自分が誰か知っているかという奇行。しかしそれは奇行ではない。英雄たちはその物語を生み出し、それをあの世のツグナオの元まで轟かせるという目的があった。だから自分の名がツグナオの元まで届いたかを知りたかった。


 しかし死人にそんな話が届くはずもない。死者に声が届くわけがない。だからこそツグナオに最も近い場所にいたアレクリアルは動いた。この状況を解決できるのは自分しかいないと。しかしツグナオは笑みを見せながらそのドワーフに近づいた。


「その特徴ある髭、赤茶に染まった髪。そうか、君がかの有名なドワーフの伝説であるクッシュハルンのドラゴン狩り、ハドモンドの戦いの英雄か。」


「え…あ……わ、わしのことを知って……」


「ドワーフの英雄、ドルガンデ・グリフォラーを知らない者はいないだろう?しかし…挿絵よりも随分とたくましい男だ。トレードマークの戦斧がないから少し考えてしまったよ。会えて嬉しい。」


「わしの名は…わしの名はあなたの元まで……届きましたか?」


「ああ、届いたぞ。来てくれて嬉しく思うよ。人々のために英雄としてあり続けてくれてありがとう。」


「う…うぅ…わしの名は……わしの名は天まで届いたぞぉぉ!!うおぉぉぉぉぉ!!!」


 雄叫びをあげるドルガンテ。そしてその遠くではツグナオによって召集された他のドワーフの英雄たちが涙を流して雄叫びをあげる。彼らは自分の名がツグナオにまで届いたことが嬉しくてしょうがないのだ。


 しかしなぜツグナオはドルガンテの名を知っていたのか。それはこの神剣であるおもちゃの剣の能力だ。記憶の保持。このおもちゃの剣には認められた英雄の記録を保持する能力がある。


 もちろんアレクリアルもそのことを知っているが、記録を引き出すのは簡単なことではない。しかし真の所有者であるツグナオにとっては容易なことだ。そしてツグナオは周囲を見渡し、一人の英雄に目星をつける。


「白騎士!機動力が高く、騎士団まとめて英雄となった君に頼む。僕たちの国の防衛が弱まっている。手を貸してやってくれないか?」


「ぎょ、御意。」


 突然声をかけられた白騎士は驚きと嬉しさのあまり動揺する。白騎士は英雄の中でも珍しい100人の騎士団まとめて英雄と認められた英雄である。そんな白騎士の近くに一人遅れて召喚されて来た英雄がいる。その姿を見た白騎士は体を震わせて驚いた。


「ふぁぁ〜〜…眠い。ん?なんだお前。白いけど私の鎧に似ているな。」


「クロちゃんに似せて作られた騎士団だよ。黒騎士の役割をこなすならこのくらいの戦力じゃないとってことで作られたんだって。それよりも遅かったね。」


「私が遅いんじゃない。お前が遅かったんだ。待ちくたびれたぞ。何年待ったと思っているんだ。…おかえり、勇者。」


「待たせてごめんね。ただいま、英雄。」


 少し遅れて黒騎士がやって来た。その後も少し遅れてやってくる英雄たちの姿がある。どうやらまだまだ戦力は集まりそうだ。しかし今はそんなことよりも黒騎士はツグナオに駆け寄り、飛びついて抱きしめた。


 黒騎士とツグナオ。今ここに史上最高と呼ばれる大英雄と勇者が揃った。その光栄に他の英雄たちは言葉なく感動に震える。これほどの光景はもう2度と見ることはできない。これほどの歓喜はもう2度と味わえない。


 そんな中使い魔のユウが急いで配置取りをする。これは間違いなくこの戦争の転換期だ。敗色濃厚であったこの戦争に一筋の希望が差し込んだ。そしてその光景を絶望しながら眺める者たちがいる。吸血鬼の軍団だ。


 吸血鬼たちの本来の予定とは全く異なる状況。アレクリアルが絶望し狂気に落ちる姿を見たかったはずなのに、ツグナオの完全復活により、今ではこの場に最強の英雄軍団が揃ってしまった。戦力差は絶望的だ。


 しかしその絶望はさらに加速する。突如ツグナオがおもちゃの剣を掲げると周囲に光が満ちた。


「開け宝物庫よ。我らが英雄に神器を与えよ。」


 その瞬間、英雄の国の地下深くにある英雄たちの霊廟に飾られる武器が消えていく。そしてこの場に集まった英雄たちの元へその武器が召喚された。全ての英雄が自身の相棒とも言える武器を手に取るとその気迫は数段増した。


 さらにツグナオはおもちゃの剣の能力をさらに使用する。これまでおもちゃの剣こと神剣を武器としてしか見てこなかった者たちはその真の力に驚く。おもちゃの剣による支援能力を受けた瞬間、まるで体が羽のように軽くなり、指を弾くだけで大岩を粉砕できそうであった。


 人々は知ることとなった。ツグナオの持つおもちゃの剣こと神剣とは兵器にあらず、武器にあらず。神剣とは夢であり願いである。人々の夢や願い、その願望を聞き届ける願望器である。それは1人の少年の誰かを助けたいという願いを具現化した力である。


 その力の本質は信仰。人々が助けを求めた時、神剣はその声を聞き届け所有者に教える。世界のあらゆる強大な力に対抗するため、神剣は人々を導く。


 今や神剣から武器としての輝きは失われた。プラスチックの剣に変わり果てたおもちゃの剣だが、その輝きはかつてないほど光り輝いている。かつてないほどの力に溢れている。


 そしてツグナオは目を閉じ、耳を世界へ傾けた。未だ世界の各地から人々の絶望の声が聞こえる。助けを求める声が聞こえる。ならばツグナオが成すことはただ一つ。人々の希望となり、助けとなることだ。


「世界は今、混沌の中にある。明日をもわからぬ状況で人々は希望を待っている。誰かがやらなくてはならない。誰かがその希望にならなくてはならない。だけど一人ではその希望足り得ぬかもしれない。しかし僕らは一人ではない。僕らには仲間がいる。僕には…こんなにも頼りになる英雄たちがいる。だから英雄たちよ。力を貸して欲しい。人々を助けられるヒーローになるために今一度人々を助けるためにその力を貸して欲しい。」


 思うより大きな声ではない。しかしよく通る澄んだ声だ。今の一言一句聞き漏らした英雄などこの場にはいないだろう。そして今、英雄たちはかの勇者より助力を請われている。これほど喜ばしいことはない。これほど英雄としてあり続けてよかったと思う瞬間はない。


「ガーシャ族が英傑!ガルネンド・エルシャード!かの勇者にこの全てを捧げます!」


「ヒュルガ王国の英傑、バルバンゴリ・キュル・エメランデ。我が力は勇者王、あなたのために。」


「キュッサンド国の王、英雄ベデランド。あなたの力の一端になれることを喜ばしく思います。」


 その場にいる英雄全てが声を上げる。誰もがツグナオの力になれることを喜んでいる。ツグナオはその声を聞いて涙を流した。ツグナオにとってもこの瞬間は夢のようなひと時である。


「ありがとう…ならば英雄たちよ!今こそ再び立ち上がれ!人々の安寧のために!人々の笑顔のために!そして人々に襲いかかる厄災よ!待っていろ!今すぐに我々が向かうぞ!」


 おもちゃの剣が再び輝き出す。新たな力の行使だ。このおもちゃの剣はツグナオの理想を詰め込み、それを成し遂げる力を持っている。そして今ツグナオが行使した能力。それはまさに子供の夢だ。


 今、世界中で悪が蔓延っている。ならば勇者は、ヒーローはどうするか。それは簡単だ。すぐにその場に駆けつけて正義を執行する。どんな時でもヒーローは困っている人々の元へと駆けつける。


 今、おもちゃの剣の能力によって世界中の人々の元へ英雄たちが、ヒーローが召喚されていく。


 前話好評のようで良かったです。

 次回一回休みます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 13日の夜地震がありましたが、先生無事ですか?次回の更新を無事の確認とさせてもらいます!!!
[良い点] 黒騎士も復活!!!…鎧を外したら機動力を活かせるとエリッサが言ってましたし、黒騎士の本気を見てみたいです! [気になる点] 今回大量の英雄の名前が登場して嬉しいですが…登場人物紹介を作るの…
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