第438話 終わりの始まり
『ポチ・定刻通り準備完了しそうだよ。これだけの大連合だからうまくいけばささっと終わるかもね。』
「何事もなく終わるならそれで良いんだよ。ただ一応準備はしておけよ。魔神が7人…敵も含めりゃ9人動くんだ。天変地異の一つや二つ覚悟しないとな。大飢饉に自然災害…他にもいろいろ起こる可能性がある。」
『ポチ・全世界の住人が半年は生きられる食料がスマホの中に貯蓄してあるよ。各国だってその辺りも考えて貯蓄してあるし心配いらないよ。心配性だなぁ。その確認何回目?』
「そんなに言ったか?……結構言ったか。まあこれが終わればしばらく静かな世界が訪れるんだ。そしたらセキヤ国に戻ってゆっくりするぞぉ!」
英雄の国の王城の一室から外を眺めるミチナガは背伸びをして体をリラックスさせる。今回ミチナガがやることは法国と龍の国に派遣されている各国の兵たちへの後方支援だ。戦闘そのものに関わることはない。
そもそもこの作戦の大部分は神剣のイッシンと神魔のフェイによって完了される。二人が敵国の中央で大暴れしたらほとんど片付いてしまうのだ。それだけの実力が二人にはある。だから周囲で待機している兵たちは残党狩りだ。
戦いそのものは1週間もかからずに終わることだろう。おそらく世界初の9人の魔神が動く世界大戦はそんなちっぽけなもので終わる。ただ結果としては大陸を治める2つの国が消え去る大ごとにはなる。
その後は利権争いになるだろう。2つの大国があった土地を手に入れられれば大きな国力増加につながる。ただその辺のこともある程度話し合いが済んでいる。利権争いによる新たな世界大戦を防ぐためだ。
だからその後の一番の問題は次の魔神だ。魔神の石碑が効果を失ったせいで魔神の名が世界に広まりにくくはなったが、10人の魔神は存在し続ける。法神と神龍の後釜が誰になるかによって、また世界は動くだろう。
今のところ候補としてはヴァルドールにナイト、それに煉獄があげられる。アレクリアルはミチナガも次の魔神に選ばれる可能性が十分あると言っているが、ミチナガ自身はそんなわけがないと軽く流している。
あとルシュール辺境伯は自身の師である霧の魔帝が魔神の地位につくのではと考えているようだ。ただ世間一般にあまりにも名が知られていないため、可能性は限りなく低いだろう。そもそもどれほど強いのか弟子であるルシュール辺境伯もわかっていない。
あと可能性があるとしたら各魔神大国のナンバー2だろう。イッシンの妻であるサエやフェイミエラルの父であるガンドラスはもしかしたら一番可能性が高いかもしれない。ただそうなると魔神列強のパワーバランスが大きく崩れることになるため、アレクリアルとしては避けたいようだ。
「一難去ってまた一難か……世界の安定化ってやつは遠い話だなぁ…」
『ポチ・どうしたの急に?』
「色々考えていたんだよ。一段落して2〜3年経ったらまた忙しくなりそうだなってな。さてと!もうそろそろ時間じゃないのか?」
『ポチ・あと5分だよ。もう全員準備整っているから後は合図次第。』
「よし。それじゃあ使い魔たちを周囲に配置しておけ。ある意味これは見せしめのための戦争だ。この映像を記録して、後世にいかに戦争が愚かかと言うことをしっかり知らせないとな。この結果として今後戦争が大きく無くなることになれば彼らの死にも意味があったと少しは慰めになる。」
『ポチ・はいはい。…サクラ、こちらポチ。全艦に撮影指令。飛行機飛ばして空撮。それからドローンと地上部隊を動かして撮影して。いい映像頼むよ。これでオッケー。映像繋げるから見る?』
「…なんか悪趣味な気もするけど見るか。この戦争は俺の影響も強いからな。目を背けちゃいけない。飲み物だけ用意しておこうか。」
ミチナガは長時間見ることを予想して準備を整え始めた。まるで映画鑑賞の準備のようだ。ただ一つだけ違うところは残虐な映像によるストレスにより吐き気を催した際にいつでも吐けるようにバケツが用意されていることくらいだ。
そんなことをしていると残り時間は後1分を切った。すぐに使い魔たちの映像が繋げられ、目の前に十数の映像が投影された。そこには法国と龍の国を上空から撮影した映像が投影されている。
「法国も龍の国も未だに幻術をかけて地上を視認できないようにしているのか?」
『ポチ・そうみたいだね。幻術の下には一体なにが待ち構えていることやら。鬼が出るか蛇が出るかってやつ?』
「どっちも出ないでいてくれると助かる。」
『ポチ・じゃあ白旗を振って許しを請う両国民とか?』
「……それが一番困る。ここまで来て談話とかありえないだろ。やばい…その可能性忘れてた。」
『ポチ・まあ法国の国民が異教徒に許しを請うなんてありえないから。龍の国も戦闘狂だから徹底抗戦するでしょ。』
「まあそうだよな。元々そう考えてたし。っと、時間だぞ。」
『ポチ・長話になってたね。それじゃあ…作戦開始。』
ポチがすべての使い魔に作戦決行の合図を出す。そしてその合図は各国に送られ、司令官に伝えられ、兵士に伝えられた。一気に緊張感が増していく。今まさにこの世界の誰も経験したことにない戦争が始まるのだ。
そんな緊張感増す国々の一方、大きくあくびをしながらのんびりしている二人の最強もいる。その二人にも作戦開始の合図が出される。
「それじゃあ始めようか。まずは…幻術の結界を切って……どうすれば良い?」
『ケン・敵が多くまとまっているところで暴れてくれれば良いです。多少の取り逃がしは氷神と海神がなんとかしてくれますから。ただ魔帝クラスの取り逃がしは無いようにお願いしますね。』
「じゃあ強いやつから片付ければ良いのね。こう言う時、神魔は楽で良いなぁ…魔法でチョチョイでしょ?こっちはひたすら剣振るわないと。」
イッシンはこの時ばかりは神魔を羨んだ。いや、元々才能ある神魔のことはイッシンも憧れていた。この時はそれがよりいっそう強くなったのだ。魔法で早く片付ければとっとと仕事を終えて子供達の面倒が見られる。
そんなイッシンたちの元から遠く離れた法国の上空では噂されている神魔のフェイがくしゃみをしていた。
『白之拾壱・風邪でも引きました?』
「ん〜〜…誰かが噂している。誰だろう……まあいいや!大丈夫!」
『白之拾壱・よかったです。それじゃあ作戦決行なのでよろしいですか?』
「いいよ!今隕石呼んでおいたから。あ、その前にあの幻術解いておこう!」
フェイは軽く口にするが、それがどれほど強大な魔法かよくわかっていないのだろう。空中に岩を生成し降らせる魔法でも大魔法だと言うのに、宇宙空間の隕石を魔力で引き寄せるなどフェイくらいしかできない芸当だ。
そんなフェイは魔力を込めて幻術の結界を捻じ曲げていく。かなり強度のある結界のようで目に見えるほど捻れ曲がっているのだが、それでも簡単に破れそうに無い。
「むぅ…こう言う時神剣ならすぐに切って楽なんだろうなぁ。いいなぁ…捻るのめんどくさい。」
神剣が神魔を羨むように、神魔も神剣を羨んでいる。1週間にわたり本気で戦った二人だからこその想いだろう。そして神魔の言う通り神剣は紙切れを切るかのごとく幻術の結界を切って見せた。神魔も神剣に一歩遅れて結界を捻り切った。
これでようやく結界の中が見える。ここからが本当の戦いの始まりだ。ミチナガもその映像をリアルタイムで見ている。その時わずかに白旗を振って許しを請うような真似はやめてくれと願っていた。
しかしこの時ばかりは後悔した。結界の中を見たミチナガはまだ白旗を振ってくれていた方がましだとしてしまったからだ。映像を見たミチナガは思考が停止し、なんの反応も見せることができなくなっていた。
「なんだよ……これ……」
『ポチ・ほ、報告を頼む……映像見ているけど…これは現実?それとも幻術を見ているの?』
ポチは現場からの報告を求めた。その光景はあまりにも異常で、あまりにも信じられる現実とはかけ離れていたからだ。神剣と神魔もこの光景にはさすがに驚きを隠せないようだが、すぐに現状を理解しようとした。
「え〜…こちらイッシン。魔法に詳しく無いのでわからないけど…これは現実だと思う。眼下は人でいっぱい。総勢…これ総勢何人?1億くらいいる?」
『ケン・それで済めば良いけど…本を並べるような感じで人が並んでいるよ。上からだと頭しか見えない。』
結界が消えた後にはおびただしい数の人間がいた。上空から見ても結界の端から端まで人間で埋め尽くされている。その数は常人の理解の範疇を超える。ただその数をすぐに測定したものがいる。その人物は法国の上空で目を見開いて驚いている。
「魔法で測定したけど…敵総勢約5億人。あ、まだいるかも。」
5億人。その報告を受けた使い魔によって龍の国側にも同数の敵がいることが判明。総勢10億人を超える大軍勢が結界の中に潜んでいた。
わけわからんところですが次回お休みです。