第414話 内緒に
「はぁ…確かにその可能性は大いにあり得る。あり得るが…」
「だ、大丈夫ですか?」
風呂の中で今まで考えもしなかった考えに至ったアレクリアルは頭を悩ませている。なんせ黒騎士が勇者王の妻だとするならばそれは国を揺るがすほどの大発見となる。歴史研究家が失神するほどの大発見だろう。
だが、これまでの固定観念があるせいで黒騎士が女性で勇者王の妻で、アレクリアルたちの先祖ということが違和感がありすぎて素直に受け止めることができない。もちろんミチナガのただの妄言という可能性もあるが、ミチナガの言うことが真実だと考えると一つのことがスッキリする。
それは勇者王の家系が魔神クラスに至るほどの強者になりえたという事実だ。勇者王には武芸の才能はこれっぽっちもなかった。従来はガンガルド・エリッサという鬼人族の血が入ったおかげだということになっているが、魔王クラスにも至っていないエリッサの血が入ったくらいで魔神の家系になるというのはあまりにもおかしい。
だが黒騎士の血が入っているとすれば十分納得できる。黒騎士は史実では魔帝クラス止まりだったと言われているが、吸血鬼神と呼ばれたヴァルドールとまともに渡り合い、撃退までしている。つまり実力は魔神クラスに匹敵する。だからその血が入れば魔神の家系になってもおかしくはない。
色々と納得できてしまうからこそアレクリアルは頭を悩ませているのだ。ミチナガのいうことはかなり正しいだろう。おそらく真の歴史はミチナガのいう通りだ。しかしそれを証明することがあまりにも難しい。
「はぁ…このことは私とお前の2人の間で留めておくか…」
「いいんですかそれで?他の人にも知らせなくて…」
「どうやって知らせる?まさかヴァルドールがそう証言したと言って教えるか?そんなことをすれば大問題になる。今でもヴァルドールは英雄たちの天敵、英雄殺しの吸血鬼の王などと呼ばれているのだぞ。お前の地位も危うくなるし、このことを隠していた私も危うくなる。」
「お、俺ならまだ可能性はありますけど、勇者神と呼ばれ、この国の王でもあるアレクリアル様までそうなることは…」
「ヴァルドールの名はそれだけのものということだ。」
それだけ聞くとミチナガも黙った。英雄たちの物語が語り継がれている間はヴァルドールの悪名は消えることはない。一つの真実を周知させることでいくつもの大騒動を生み出すことになるのであれば、黙っている方が何倍も良い。
ミチナガはその場でアレクリアルにこのことを墓場まで持っていくことを約束した。アレクリアルもその言葉を聞いて小さく頷いた。そしてアレクリアルは立ち上がり風呂から出た。
「リラックスするつもりが返って疲れたな。そろそろ私は仕事に戻るが、お前は好きなだけ入っていて良いぞ。」
「いえ、私ももう上がります。気持ちも晴れたので少し街の様子でも見てみようかと……あれ?その胸のとこ…そんな刺青ありましたっけ?」
「ん?ああ、動揺しすぎたか。勇者王の家系に伝わるものでな。魔力を込めると浮かび上がる紋様だ。代を重ねるごとに少しずつ変化しているのだが、どういう意味かはわからない。かなり昔の古代文字らしく解読法は伝わっていない。」
「へぇ〜…じゃあそれが勇者王の家系であるということを示す証拠でもあるんですか。なんか由緒代々伝わる感じがして良いですね。」
そんな軽口を話しながら風呂を上がり服を着る。随分とスッキリした様子のミチナガを見てアレクリアルはホッとため息をつく。これでアレクリアルの悩みのタネも一つなくなった。その後ミチナガはアレクリアルからいくつか仕事の書類を渡され、そのまま王城を後にした。
スッキリした様子のミチナガは、帰りは魔導装甲車を使わず徒歩で帰ると言い出した。そんなミチナガのためにポチは幾体かのエヴォルヴを呼び出し、ミチナガの警護に当たらせた。
「随分ボロボロになっていたように思ったけど…随分復興しているな。」
『元から被害も少ないからね。ただ一部ではかなりの損壊だったよ。まあ元から古い建物だったってことで1から作り直しているみたい。』
『ウガァ!』
「ん?出店か。小腹すいたし寄っていくか。」
『いいね!行こう行こう!!』
食欲も出てきた様子のミチナガにポチも嬉しそうに買い食いに賛同する。軽く買い食いをする予定だったミチナガも少し食べたら誘い飯になったのかあちこちの出店に寄り始めた。そんなミチナガは黙々と食事をとるバーサーカーに注目した。
「なあポチ。バーサーカーが超強化されたのって…」
『うん。賢者の石の影響。今バーサーカーを元に研究しているけど、謎が多すぎて全くわからない。ずっと強化されたままなのかと思ったけど、今は元の球体に戻っている。オンオフができる強化外骨格っていう感じなのかな?もっと調査したいんだけど、バーサーカーにもう一度使うように頼んでも使ってくれなくて…』
「そうなのか…なあバーサーカー。前にやったすごく強くなるやつ見せてくれないか?」
『ウガァ?』
「お前のかっこいいやつちゃんと見てなかったから見てみたいんだよ。ちょっとでいいから。」
『ウガァ…ウガ…ウガガガガ……ウガァ!』
「おお!やっぱりかっこいいな!…ほらポチ、今の内に。」
『ちょ!きゅ、急すぎない!?』
突如賢者の石を用いた超強化モードに変化したバーサーカーのエヴォルヴ機体に大慌てで観察を開始する。バーサーカーは面倒な様子であったが、ミチナガが褒め続けているおかげでじっくりと見せてくれた。
『ウガァ…』
「お疲れ。ありがとうな。魔力の消耗が大きいんだな。体内の魔力生成炉をもっと良くしないとダメか。ヨトゥンヘイムの金貨まだあるよな?気にせず全部使っちゃえ。最低でも1時間はこのモードを続けられるようにな。」
『うん。データはしっかりとったよね?』
『社畜・問題ないのである。持続するのに必要な魔力量とか戦闘時の消費魔力量もある程度データは取れたのである。それに金属組成にも変化が起きていたのである。より強固な機体にするためのデータもバッチリである。』
「最新世代のエヴォルヴができるのを期待しているぞ。まだまだ…やらなくちゃいけないことも多いからな。」
バーサーカーの賢者の石のおかげで使い魔達のさらなる強化の目処はついた。ただそのためにも色々と必要になってくるだろう。ひとまずは9大ダンジョン巨大のヨトゥンヘイムのおかげで莫大な流通禁止貨幣を入手したため貨幣の不足は起こらないだろう。
それに大陸中に及ぶミチナガの権力を用いれば貴族などが所有する流通制限金貨なども入手しやすい。場合によっては普通の金貨も多少経済に混乱が起きない程度に消耗させることもありかもしれない。
「そういやナイトって今どうしているんだ?ヨトゥンヘイムに潜っているんだっけ?」
『今99階層突破するかもしれないってとこまで来ているみたい。このままうまくいけばもしかしたら…』
「今生きている人間の中で唯一のダンジョン攻略者になるかもしれないのか。偉業の達成だぞ。ちなみに…」
『ダンジョン内部のマップ作成とアイテムの回収は問題なく進んでいるよ。これ使えば…莫大な富を得られるよ。』
「まあ元々ナイトは使い切れないような財産持っているからな。とりあえずナイトの名義で孤児院作りまくるか。それに学校とか…冒険者育成施設とか作るか。モンスター研究施設にも出資してやろう。かなり金かかるけど全く問題ないだろ?」
『作りまくっても半分も減らないと思う。他にもいろんなイベントに出資しておくよ。』
ミチナガとポチはナイトの資産の消費の仕方を考える。とにかく使って使って使いまくらないとあまりにも莫大すぎるナイトの資産のせいで経済に混乱が起こる可能性がある。使い魔達の中にナイトの資産消費部門というのを作るくらい重労働なのだ。
そんなこと全く気にしていないナイトは今まさに巨大のヨトゥンヘイム99階層を守護する階層主を打ち倒し、最終階層第100階層へ至るのであった。