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第400話 変貌


 第400話到達!

 …いやまあ数的には413だけどね(笑)

「前方当たりを強くしろ!攻め立てるんだ!!」


 ミチナガは慎重な攻めを一転させ、猛攻へ切り替えた。ただ相手は法国の精鋭。数はこちらが勝っているが、あまりにも無茶な突撃にどんどん数を減らしている。だがその分こちらに注意が傾いている。今なら忍び込むことも可能なはずだ。


 本当なら蛍火衆を潜入させたいところだが、万が一のことを考え使い魔たちだけで潜入させている。その成果は今の所は問題ないようだ。そしてヴァルドールの闇の帳が生み出した暗闇の中を移動していく使い魔たちはラルドの天幕のすぐ近くまでたどり着くことに成功した。


『ガンマ443・ここまで来られたね。ここから先はやら闇が晴れているから見つかる可能性も高い。できる限り慎重にいこう。』


 使い魔たちは統率の取れた動きでゆっくりと動いていく。するとあれよあれよとラルドのいる天幕までたどり着いた。ここからの行動は迅速に行う。ラルドを確保し、全速力で走って逃げる。ラルドに繋がれている魔道具が外れれば洗脳電波も止まりヴァルドールがラルドの保護に動いてくれる。


 使い魔たちは息を整え、カウントダウンを開始する。そしていざ突撃と飛び出そうとしたその時天幕の中からメイドたちが飛び出した。そしてメイドとぶつかり合う寸前に使い魔たちはエヴォルヴを召喚し搭乗した。


「あら、強そうな見た目。でも…そこまでではないわね。」


『ちょ!メイドさん強すぎ!!3対1…いや5で当たれ!』


 強烈なメイドの一撃の前になすすべなくエヴォルヴが破壊される。なんとか人数差で戦力差を埋めようとするが、あまりにも戦闘能力が高いメイドたちに翻弄され続ける。メイドたちは全部で10人にも満たないというのに50体以上のエヴォルヴが足止めされている。


『戦闘技術が半端じゃない…なんなの!』


「私の教え子ですよ。まあ正確にいうのであれば…聖人機関の学生です。彼女たちは落第生として私が預かりました。卒業生は聖人の精鋭として選ばれるんですがね。まあこの子たちの場合は闇の方ですが。」


 聖人機関。ハロルドが笑いながら答えたそれは法国の学校というべき場所だと言える。ただ学校とみなすのにはあまりにも過酷すぎるため、他国からしてみれば実験場という言葉が適切かもしれない。


 入学生は平民及び孤児だけだ。在学中の死亡率は60%を超える。卒業できるのは入学時のわずかに20%だ。途中で落第した残り20%の生徒はどこかで雇われることもあるが、基本的には法国の研究施設に連れて行かれ、その後はわからない。


 基本的にこんなところに臨んで入学するものは少ない。農家の口減らしのためや、借金のかたに売られた子供、街にいる浮浪児を無理やり捕まえて入学させるなど異常なやり方だ。


 卒業できれば聖人の精鋭部隊に配属されるが、その頃には人格は変わり果てていると言われる。そして目の前にいるメイドたちはその中でも闇の聖人部隊側の学びを受けた。人体改造手術などは当たり前だ。


 そんなのが相手なせいで使い魔たちもエヴォルヴに搭乗してもまるで勝てそうにない。だがそれを知った他の使い魔たちが今増援として向かってきている。数で押し込めばいけるはずだ。


「いやはや…しかしよかった。やはりラルドを見せればミチナガならば救出に来ると思った。下手に大規模魔法で攻撃されては敵わんからな。お前たち程度ならばなんとでもなる。」


『なめてもらっちゃ困るね。ラルドを救出しお前たちを滅ぼしてこの戦争はお終いだよ。この一帯にお前たち以外の軍はいない。そこらへんで暴れていた軍もどんどん討伐されている。ジリ貧で終わりなんだよ。ちなみに今投降すれば命は助けてやっても良いよ。どうする?』


「おや、随分と寛大ですね。そのお言葉に甘えたいくらいです。…ですが、これより世界は我らが神のものとなる。我々の死後、神の元へ行くために捧げなければならない。我らが神への供物を。お前たちはその供物だ。1人でも多く供物を捧げれば我が神はお喜びになられる。私が神の元へ行くためにお前たちを殺す。」


 ハロルドは笑みを浮かべながらそう言ってのけた。そこに嘘偽りはない。本当にそう信じているのだ。使い魔たちはこんなやばい奴には何を言ってもダメだと頭を切り替えて戦いに集中する。そしてそんな戦闘音を聞いて1人の男が目を覚ました。





「あ…な……ん…だ…。」


 かすれた声で呟いたのはラルドだ。ラルドはほとんど何も見えないその目で前を見た。そこではチカチカと光が光っている。魔法による戦闘の光なのだがラルドにはそんなことはわからない。ただその光がまるで夜空の星のように美しくて思わず腕を伸ばした。


 もう体を動かすのもやっとだ。度重なる投薬の影響で肉体はボロボロだ。もういつ死んでもおかしくないとまで言える。そんなラルドはほとんど聞こえない耳に入る戦闘音でようやく戦いが起きていることを知る。そして目の前の光は戦闘による光なのだと知ると上げた腕を下ろした。


 そんなラルドの耳にかすかに戦闘音ではない何かの音が聞こえた。視覚も何もほとんどの五感が失われつつあるラルドは音にだけ集中した。するとそれは人の声だとわかった。しかもその声の主人はミチナガであった。


「……ルド…ラルド……ける……助けるぞ………ラルド…助けるぞ!気を…しっかり持て!」


「た…す……けに……お…れ……を……」


 ミチナガは天幕の中でラルドが腕を上げたのを見て意識があると知り、必死に何度も呼びかけた。拡声器を使い何倍にも増幅させた声はラルドの耳にも聞こえたのだ。


 ラルドはミチナガが助けに来てくれたことを知り、水分の枯れ果てたようなシワくちゃの肉体から最後の一滴を絞り出し、一粒の涙を流した。助けが来たという喜びでもう尽きたと思われた気力がどこからともなく湧き上がり、体に力が入る。


 すると無理やり突撃をかましたエヴォルヴが一機天幕内部へと入った。さらにそれに続くように幾体ものエヴォルヴが天幕内部に侵入した。ハロルドはそんなエヴォルヴとラルドの間に立った。


「はぁ…ここまで侵入するとは。まあしかし…あなたたちが来た時点でもうこの作戦は破綻していましたからね。仕方ありません。ぼっちゃま、最後の仕事ですよ。」


 ハロルドはそう言うと懐から厳重なケースを取り出した。それを開くと中からは一本の注射器がでてきた。それを見たエヴォルヴたちは危険を察知し、突撃を敢行する。だがそんなエヴォルヴたちの進行をメイドたちが防ぐ。


「さあぼっちゃん。最後の仕事です。あなたは随分と利用価値がありました。しかしそれも今日で最後です。最後に我々の役におたちなさい。父君のためにも…我が法国、我が神のためにその身を捧げなさい。」


『ダメだラルド!抵抗しろ!立ち上がれ!!』


 ラルドは目の前で何を話されているのかわからない。音がごちゃごちゃしていてわからないのだ。だがそのぼやけた目でも憎き男、ハロルドはシルエットだけでわかる。そして何かをしに来ていることも察した。


 ラルドは肩を掴まれ、頭を押され首をさらけ出した。きっと何かされる。今抵抗すればミチナガが助けてくれる。そう思ったラルドは身体に乗る最後の力を振り絞った。助かるために最後の力を振り絞ったその瞬間、ラルドは思い出した。


 今ここで助かったからなんだと言うのだろうか。今助かってそれでそのあとどうなる。ミチナガに助けてもらい身体も元どおりになったらどうなる。英雄の国が迎え入れてくれるのか?ブランターノ公爵を殺したのに。


 ラルドはその手でブランターノ公爵を殺した。目の前で死んで行くブランターノ公爵を、ラルドを世界貴族に推薦し、実の親のように親身に接してくれたブランターノ公爵が死んで行く様を見た。そんな自分がこうして醜く助かろうとしている。自分は誰も助けないのに…


 ラルドの身体から力が抜け落ちた。これは罰だ。操られていたとかそんなことではない。もっと必死になって抵抗すればブランターノ公爵は助かったかもしれない。殺さずに済んだかもしれない。それをしなかった自分にはこんな最後がふさわしいと、全てを受け入れた。


「ミ……ナ…ガ…に……す…ま…な……」


 ブスリとラルドの首に注射器が刺し込まれる。そして何かの液体が全てラルドの身体の中へ入り込んで行く。使い魔たちは止めることはできなかった。ラルドは最後に気力を振り絞って笑顔を作った。そしてそんな笑顔は首元から膨れ上がる肉塊によりすぐに見えなくなった。




『なんだ…何が起きて…』


 使い魔たちの目の前でラルドだったものが膨れ上がっていく。ただ使い魔たちはそれに近しいものに見覚えがあった。そして肉塊がこちらに向かって来たのを見ると大急ぎでその場から離脱した。


 あの肉塊はホタルのキメラ化した肉体に近い。しかも飢えた時のだ。あの肉塊は食料を求めている。そしてその食料はすぐ近くにあった。


「あぁ…私は先に神の元へ行きます…」


「おお、私もすぐに行こう。その前に…これだけ射ってからな。」


 目の前で肉塊に取り込まれていくメイドを見ながらハロルドも自身にラルドに射ったものとは違う注射を射ち、そして自ら肉塊に取り込まれた。そんなハロルドは喜び、声高く笑っている。


「さあ今こそ神の力の一端と同化し、神の御元に近づくのだぁ!!神よぉ!我が身を捧げ、多くの供物をあなたの元へ!!」


『ちょ、あれ何?キメラ化の注射?』


『そんなものはないでしょ。ホタルだって世界樹なしにキメラ化したら肉体が持たなかったんだから。そんな簡単には……待って、なんか見覚えあるような……』


『法国の…龍の国にはもう実績がある。人間をバケモノにした功績が。エラー物質だ。奴らエラー物質を注入してバケモノを作り出しやがった。』


 使い魔たちは全速力でその場から離脱した。そんな使い魔たちの背後では肉塊がどんどん大きくなり、天幕から飛び出し、何かへと変貌していった。




 徐々に重い話になって書いてて辛い……


 そんでもって次回お休みです。最近休み多くてすみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] ラルドくん最後まで気合出せなかったかー、まあ一般人は普通そうですよね
[気になる点] 仮にラルドの命を奪ってもエラー物質注射で復活してしまったでしょう、ミチナガを責めるのはお門違い! [一言] ラルドさんが最後に言ったのは…“ミチナガ…逃げろ…すまない…”でしょうか?関…
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