第40話 帰還と建設
ルシュール辺境伯に守られながら、なんとかみんなと合流できた。合流してみると全員よっぽど心配していたらしく、帰って来た俺を歓迎してくれた。はっきり言って俺みたいのが、この森の中でこれだけ生き延びていること自体が奇跡だったらしく、正直もう無理だと諦めていたらしい。
「それにしても…本当に、本当に良かったです。」
「運が良いのミチナガ。」
「途中までは妖精の魔法によって姿を隠されていたんですけどね、皆さんの声真似をする鳥に騙されましたよ。ルシュール辺境伯がもう少し遅かったらもうダメでした。」
「妖精の姿隠しですか。あれは妖精独自の魔法ですからね。看破するのも難しいんですよ。そのおかげでここまで持ったんですね。」
本当に妖精たちには感謝だ。最後にバレてしまったのは俺の油断によるものだからな。あれさえなければもっと安全に帰ってくることができただろう。まあ逆に妖精の姿隠しのせいで、ルシュール辺境伯に発見されなかったということもあるみたいだ。
とにかく俺と合流できたのだから、いつまでもここに居座る必要もない。いつまでも喜び合って、時間が遅くなる前にどこか安全な野営地を目指すべきだ。
馬車は移動の最中も度々襲われた。しかしなんの問題もない。むしろ襲撃があったことさえ気が付かなかったことがあるくらいだ。ルシュール辺境伯とその仲間の力は凄まじい。馬車は素早く移動していくと一つの空き地にたどり着いた。
そこに馬車を停泊させ、周辺の安全を確認する。ここってもしかして初日に大量のモンスターと戦ったところか?
結界を張り、点呼を取っている。おそらくここで野営をするのだろうと思っていたのだが、何やら様子がおかしい。馬車を囲むように何かをしている。
「アンドリュー子爵、今は何をしているんですか?」
「そういえば先生は来た時は寝ていましたね。転移の準備です。」
「転移?ここまでは馬車で来たのではないのですか?」
「はっはっは、さすがに無理ですよ。馬車だけできたら一ヶ月はかかります。王都周辺の空き地から龍脈を繋いで転移して来たんですよ。」
何やら俺が寝ていた間に、何やらすごいことが行われていたらしい。話をまとめると、この世界には魔力の流れがある。小さなものから大きなものまであるが、利用できるほど大きな流れを龍脈という。龍脈の中には大龍脈など、他の種別もあるが今回は関係ないので割愛する。
今回はその龍脈を利用し、龍脈がつながっている目標地点に転移することで、簡単に転移の魔法を使ったのだ。普通に転移をすると、かなり膨大な魔力と複雑な魔法を使うので一般的ではないらしい。そもそもこの規模の転移ができるのは魔王でも魔法特化でないと不可能らしい。
そういえば、釣り旅行の初日は俺が少し仮眠をとったと思ったら、目的地周辺にたどり着いていた。あの時は王都の周辺にこんなところがあるのかと思っていたが、そうではなかったのか。
転移の準備が済むと、ルシュール辺境伯は使い魔の鳥を出した。その鳥を先に転移させ、転移先の安全を確認しているのだ。転移先に何か他のものがあると、干渉を起こしてしまい、荷物がひっくり返ったりと危険らしい。体内に転移するというのは不可能なのでそこは問題ないらしい。
安全が確認できると、光が馬車を包み込む。その光はどんどん輝きを増していき、あるところまで光を強めるとふっと消えた。そして消えた頃には、すでに王都の城が見えるくらいのところまで来ていた。
「す、すげぇぇ〜〜……」
「少し遅いですが、このまま帰ることにしましょう。わざわざここで野営をする意味もありませんから。」
ここから数時間はかかるが、それでも十分帰れる距離だ。ルシュール辺境伯の指示に従い、馬車は帰路へと向かう。俺はそこまで来て、ようやく安心して深い眠りについた。
翌朝。起きた頃にはベッドの上だった。どうやら眠ってしまった俺を誰かが運んでくれたらしい。あとで礼を言いたいが、誰かわからないので言いようもないか。起き上がろうとすると、体が重だるい。
おそらく昨日のモンスターの群れの中から逃げる時に、神経をすり減らし過ぎたのだろう。それが疲れとして体に出ているのだ。今日はゆっくりしておこう。
とりあえず、朝食だけはきちんと摂り、アンドリュー子爵に疲れのことを伝え、部屋にこもる。そういえばここ最近は、あまりスマホをいじれていなかった。色々と新しい機能が追加されているというのにそれを試さない手はないだろう。
ひとまずは妖精の隠れ里で妖精たちからもらったものを確認していく。しかしどれを見てもなんなのかよくわからない。種が多くあることがわかったので、試しに育てようとして見たが、土壌が妖精の力を受けていないと育てることができないとして、種を蒔くことすらできなかった。
仕方ないので後回しにして、急いで作ったアプリの教会を見てみる。教会は基本的に使い魔を復活させるだけのものらしいが、課金していくと聖水を作ることもでき、色々と効果が増えるらしい。さらに教会を強化していくと復活までの時間とかかる金貨の数も減らせるとのことだ。
とりあえず今の所は特に問題はなさそうなのでそのまま放っておく。聖水を作ったりと、教会内の施設を増やして見たいところだが、必要なアイテムがなかったり、かかる費用がバカに高い。これではそうそう手が出せない。
それと教会のように俺が知らない隠れているアプリが無いか調べてみる。シティ内をくまなく調べていけば何かしら見つかりそうだ。そんなことに時間を費やしていると一つの通知が来た。
『ポチから家の建築依頼が来ています。シェフから家の増築依頼が来ています。』
「そういやそんなことあったな。すっかり忘れていたわ。」
前に家を建ててやろうと言ってから色々あった。それに釘も調達がものすごく大変だった。まあ作る必要がなくなったので今はものすごく楽だけど。確認してみると材料も全て揃っているらしい。すでに金は払ってあるので、早速建築にかかろう。
建築を開始すると、建築完了予定時間が3日後となっている。無駄に長い。まあ無視して他のことをやっていようと思うと、チュートリアルが始まった。
『建築開始おめでとう!建築完了時間がかなり長いね。時間短縮のために手伝おう!建築している建物をタップして時間短縮を選んでね。』
「へぇ…そんな救済機能があるなんて珍しい。このクソスマホにも優しさはあったか。」
金を分捕るだけのスマホかと思っていたが、少し見方が変わるかもな。試しに時間短縮をしてみると、大量の木材が並べられている。
『まずは指定された長さに木材をカットしてね。』
「……やっぱ鬼畜仕様はそのままっぽいな。何本切ればいいんだよ。」
ノコギリはエルフの木工場で作業台に課金した時に手に入っている。そのノコギリを使って切るが、一本切るのにいったいどのくらいかかるのだろう。ノコギリをただひたすらにスライドさせていくだけなのだが、面倒だ。
しばらくやっていると、ポチとシェフが応援に駆けつけてくれた。しかしなかなか進まない。それでも昼を回る頃には、半分以上切り終えることができた。
俺のスマホスキルだけは、この世界に来てからグンと上がったな。はっきり言ってスマホに対する根性と技術力だけならこの世界の誰にも負けない。まあ俺以外誰もスマホ持ってないけど。
昼食を食べた後も部屋にこもる。今日は飯とトイレ以外は部屋から出ない覚悟だ。ベッドの上で完璧な体勢を作り、再び建築の時間短縮をする。するとポチたちが頑張ってくれたのかもう残りの材木が切られている。しかも建築完了予定時間が残り1日半まで縮まっている。
「これ今日中に完成するな。もうちょっと頑張るか。」
本当は少し別の作業をするつもりだったのだが、もう完成するのなら仕方がない。やるっきゃ無いだろ。次の作業は土地の整備かと思ったのだが、そちらもすでに終わっている。いや、さすがに早すぎないか?
すこし何もせずに何が起こるか確認していると、何か不思議な力によって少しづつ建物が作られていくのだ。そういえば俺が何もしなくても3日後には完成していたのだ。つまり、自然にこの建物は完成する。そういうゲームの設定なのだ。
まあそんなに待っているのも面倒なので、どんどん手伝うけどね。下地はできているので、あとは柱を立てて、その柱に合わせて木材を釘で固定していく作業だけだ。
「釘を全部打つには…タップ回数10万回か。ちょろいな。」
今の俺は高橋名人並みにタップできる。まああの人はボタンだけど。一箇所の釘打ちが終わったらスライドさせて他の場所もタップして釘打ちをする。正直脳が追いついていないが、反射的に作業ができるようになっている。正直俺自身キモいと思う。
するとわずか4時間ほどで全ての作業が完了した。あとで気がついたが、どうやらポチの家とシェフの家を同時進行でしていたらしい。
『おめでとう!無事に家が完成したよ。実績を解除したのでロックが解かれます。新しいアプリを発見しました。』