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第360話 勇者神アレクリアル

 アレクリアルは再びあの怪物アレルモレドへと向かった。すでに戦っている12英雄たちはいくら攻撃しても疲弊しないこの怪物に辟易としていた。そして徐々にこちらの攻撃パターンが読まれて対応され始めている。


「陛下、こいつどうしましょうか。思いっきりぶった切ってやってもいいですけど、決定打に欠けるからまだ本気は出したくないんですよね。」


「すでにミチナガたちとは話がついた。私が注意を引くからお前たちは援護してくれ。」


「了解。それじゃあ…やっちまってください。」


 ザクラムはアレクリアルと軽口を聞いてから戦い方を変更する。アレクリアルが戦うと言うのだから自身はそのバックアップだ。他の12英雄たちもそれに気がつきすぐに戦い方を変える。めったに見ることのできないアレクリアルの戦闘だ。


 そんなアレクリアルの戦い方はミチナガたちとの期待からは外れ、ごくごく平凡に戦っている。やっていることはただ敵に向かって切り進む。しかしその剣技と防御魔法はやはり魔神と言うだけあって超一流だ。


 しかしいくら超一流でも魔神と呼ばれる別格の強さは見られない。その様子を見ていたヴァルドールもアレクリアルの戦い方に疑問を感じていた。


「あのカナエの子孫だと言うのだから期待して見たが…普通だな。」


「そういやヴァルくんは初代勇者王の頃から知っているんだもんね。正直どうなの?」


「私が知っているのも一時期だけなのでなんとも言えませんが…あの太刀筋は黒騎士に近しいものがあります。しかし明らかに黒騎士には劣ります。まだ本気は出していないようですが、それでも正直…」


「ふ〜ん。まあもう少し見ていよっか。魔神がちゃんと戦うところなんて見たことないからね。」


 以前神剣イッシンに助けられた時も軽く流す程度の戦いしか見られなかった。しかしこの状況下なら本気で戦うところが見られるはずだ。しかし一向にアレクリアルの戦い方は変わらない。平凡な戦い方だが、それでも触手のような頭ではアレクリアルに触れることもできない。


 すると痺れを切らしたのか怪物アレルモレドから魔力の高まりを感じ取り、先ほどまでよりも触手の速度も数も増やしてアレクリアルに襲い掛かった。12英雄たちも援護するがそれでも捌き切れない。だがアレクリアルはこの状況下で笑みを浮かべた。


「我らが英雄よ。そのお力をお貸しください。」


 アレクリアルの構えが変わった。先ほどまでとはまるで別人だ。すると一瞬のうちに全ての触手のような頭を切り裂いた。そしてさらに突撃すると武器である神剣に魔力を込め、その魔力を大槌の形に固定した。


「英雄ガザラム、あなたの力をお借りします。」


 アレクリアルは咆哮しながら大槌を振るう。普段の温厚なアレクリアルからは考えられない形相だ。大槌による一撃は広範囲に効果を及ぼすことはできないが、範囲内のものを全て砕け散らせた。その様子を見たヴァルドールはその目を見開いて驚いた。


「あれはまさにあの筋肉馬鹿の…なるほどな!やはりあれはカナエの子孫だ!!」


「そ、それってどういう…」


「奴は観察力に長けていた。おそらくあの神剣の能力なのだろうな。奴は過去の英雄たちの力を行使できる。英雄に憧れた奴の子孫らしい力だ。」



 英雄の国。そこに住まう代々続く勇者と呼ばれるものたちの城の中に、限られた人間しか入れない場所がある。英雄の国の中で最も神聖な場所、そこは英雄たちの霊廟だ。そこにはこれまで英雄の国で神剣に英雄だと認められたものたちの銅像が祀られている。


 英雄たちは死した後にも英霊として永遠に人々の心に生き続ける存在となる。彼らの生きた記録は生涯を描いた本になり、絵画になり、銅像になりと様々な形がある。そして勇者神と呼ばれる英雄の祖たる一族の間でも英霊たちを語り継ぐために一つの継承が行われている。


 それは技の継承。英雄たちが生前に最も得意としていた技を勇者神が継承するのだ。もちろん本来はそんなことはまず不可能だ。これまで英雄として認められたものは数多い。その使用する武器も違えば体格も違う。それらを全て覚えることなどまず不可能だ。必ず継承していくうちにどこか歪んでしまう。


 だがこの神剣はそれを可能にする。神剣の主人と認められれば神剣は英雄たちの断片的な記憶を見せてくれる。その記憶を何度も見ることで技を覚えるのだ。それでも並の人間なら覚えることは無理だろう。しかしそれを可能にするのが勇者神と呼ばれるものだ。


 そしてこれがアレクリアル本来の戦い方。これまで神剣に認められた全ての英雄たちの技を継承し、それを行使する。英雄の国の王たるものにふさわしい力。数多の英雄たちがアレクリアルを強くする。数多の英雄たちが今尚こうして人々を守る剣となり、盾となる。


「英雄ヴォルモント、あなたの力をお借りします。」


 アレクリアルは魔力の形を大槌から槍へと変える。そして一直線に本体の中心部へと加速する。もちろん怪物アレルモレドもそれに対処しようと大槌により破壊された箇所の再生をしようとする。だが再生が行われない。


「諦めろ化け物。ガザラムの一撃はこの我を持ってしても再生に刻を要した。お前のようないびつな怪物では再生はまず不可能だ。」


 13英雄ガザラム。勇者王が生きていた頃、黒騎士と共に肩を並べ100年戦争を戦った英傑の一人だ。彼の13英雄入りは遅く、ヴァルドールが戦った時はまだ一人の傭兵であった。しかしその頃からガザラムの名は世に知れ渡っていた。


 ガザラムの一撃はハチャメチャな魔力を込めた力任せの一撃。しかしそれが魔力による自然回復を阻害し、回復不能の必殺の一撃と化す。ヴァルドールであっても腕一本の再生に十数秒を要した。たとえ肉片になっても数秒で復活するヴァルドールがそれだけ時間を要するのであれば、この怪物アレルモレドではまず再生は不可能だ。


 そして12英雄ヴォルモントは騎士たる英雄。彼の騎士道は今尚騎士団で語り継がれる高潔なる騎士。その一撃は何者にも止めることはできぬ突撃。アレクリアルはそのまま突っ込み、怪物アレルモレドの中心部までたどり着き、瘴気の塊の一部を砕いた。


 まさか砕けると思っても見なかったミチナガは驚愕する。これならばミチナガの活躍なく、アレクリアルだけでこの怪物をなんとかできると思った。しかし怪物アレルモレドは触手の数本を切り離し、その触手に瘴気の塊の破片を喰わせた。


 するとただの触手が一体のモンスターへと変貌した。瘴気の破片を核にしてモンスターとして産まれ変わったのだ。今砕けた破片は大小合わせて10以上。下手に砕けば敵の数を増やすことになる。しかしそんなことがわかったのが遅かった。新たに産まれた十数体のモンスターがアレクリアルに襲い掛かった。


「砕くのは失策だったか。…ちょうど奴もいることだ。久々にやるか。」


 アレクリアルの魔力が変質する。しかしその姿はすぐに襲いかかるモンスターたちによって見えなくなった。しかしヴァルドールはそれに気がつき体を震わせた。その姿はまさに懐かしき永遠のライバルと同じであった。


「大英雄黒騎士。あなたの力をお借りします。」


 アレクリアルから漆黒の魔力が解き放たれる。それはまさに破壊の渦であった。アレクリアルは近づく全てを斬り伏せ、全てを破壊した。一瞬のうちに瘴気の破片が持つ再生力を使い果たしたモンスターたちは消えてゆく。怪物アレルモレドも触手を切り離し、すぐにその場を飛び退いた。


 圧倒的なまでの破壊力。かつて戦場で数多の伝説を生み出した大英雄黒騎士の力は怪物アレルモレドを一瞬のうちに恐怖に陥れた。核である瘴気の塊がある限り死ぬことがないこの怪物の根源的恐怖を掘り起こしたのだ。怪物アレルモレドはすぐに自身の形態を変えた。


 アレクリアルを強敵と判断し、単体対人用の龍の形態へと変えたのだ。アレクリアルはちゃんと当初の目的を果たした。そしてアレクリアルは再び突撃する。可能な限り自身へと意識を集中させるために。


「英雄の数だけ強くなる…か。豊富な技により対応力にも優れているな。やはり魔神と言われるだけの力はあったか。懐かしいものを見させてもらった。」


「そんな悠長に言ってる場合じゃ…アレクリアル様は仕事済ませたんだから次はこっちの番でしょ。ナイト、ヴァリーくん。頼んだよ。」


「ああ、それじゃあ行くぞ。」


 ミチナガはナイトの背中にしがみつく。念のため固定用の器具を使うほど徹底的に。ヴァルドールはミチナガのバックアップのために準備する。そしてミチナガはスマホを片手にナイトと共に動きだした。この戦いを終わらせるために。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 数は力!ミチナガが恐れるだけのことはある! いや、英雄の数だけ師が存在するとでも言うべきか!アレクリアル様の強さと英雄に関する衝撃の事実が明らかに! [気になる点] 語り継がれる英雄の部屋…
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