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第36話 妖精

 辺りも暗くなり、スマホのライトで周りを照らしながら急いで馬車のあるところへ向かう。すでに野営の準備は済まされており、外で今日の釣果の自慢合戦が始まっている。


「どうだ!わしのこの魚こそが今日一番の大きさよ。」

「貴様のはただ太っとるだけじゃ。わしのは誰よりも全長が長い。」

「そんな外道ばっかりを釣りおって。見ろ、この魚を釣ったのはわしだけじゃ。」


 かなり白熱しているな。このままだと殴り合いの喧嘩でも起きそうだ。


「おお!先生ではないですか。遅かったですね。」


「すみません。ちょっと熱中してしまって。」


「きたか!ミチナガ、お主の釣果はどうだ?」


 全員の視線が集まる。ここで正直に魚を出したら、さすがに空気が読めていないことくらいわかっている。今並べられている魚の最大が1mちょっとだ。それに比べて俺のは平均が1mを優に超えている。ここは一番小さい魚を一匹出してそれで済ませよう。


 あれ?そういえば俺が釣った一番小さいのは、あの手本を見せる時に釣った妖精魚一匹だけだ。これ、まずい気がする。一度みんなに見せたから、この人たちなら覚えていそうな気がする。ちょっと冷や汗を書いているとルシュール辺境伯が近づいてきた。


「ミチナガくん。大丈夫です、正直に言っていいのですよ。この場においてそんなに緊張する必要なんかないのです。もう何日も一緒に過ごしてきた仲ではないですか。」


「ルシュール様…」


 そうだ。そんなこと気にする必要はなかったのだ。この人たちはもう俺のことを仲間のように扱ってくれている。だと言うのに俺が変に気を使う必要なんてなかったのだ。


「ルシュール様。ありがとうございます。私も正直に言います。ではまずこれから…」


 空いているところにどんどん釣った魚を並べていく。改めてこうして出して見ると1mくらいの魚が三十匹ほどか。5mを超えるのは三匹、6mいったかな?と思えるのが一匹、あとは2〜3mクラスが二十匹くらいか。


 もちろん俺一人で並べるのは大変だったので護衛の人に手伝ってもらった。なぜかその護衛の人の顔が酷く間抜けだった。護衛のボランティに至っては苦笑いをしていた。


「これが今日の釣果です。いやぁなかなかいい引きでした。……ってあれ?みなさんどうしたんです?」


「先生…流石にそれは……」


「空気を読まぬか。」


「だ、だってルシュール様が…」


「すみません…勝手にボウズだったと勘違いを……」


 急に場の空気が白けてしまった。俺が悪いのか?だって気を使わなくていいっていってくれたじゃん。なにこれ、この扱いひどくない?しかも俺が何も釣れていないと勘違いしていたって…


「ん?その魚……暗くてわかりませんでしたが、もしかして妖精喰いですか?」


「なんですかそれ。」


「妖精の住む湖にしかいない魚です。餌は妖精しか食べないと言うことで、妖精女王から、妖精たちに注意喚起している魚だと聞いたことがあります。駆除しようにも妖精たちを体内に取り込んでいるせいで手が出しづらいとか。」


 危険な魚なのか。あ、もしかして妖精を食べているなら、お腹捌けば妖精見られるんじゃないか?溶けてドロドロとかは勘弁してほしいけど。


 試しに一匹の妖精喰いの腹を開く。その腹の中身は異様なものだった。なんと胃袋しかないのだ。腸も心臓も何もない。これが魚だとでも言うのだろうか。


「私も実物は初めて見ました。妖精喰いは基本的に警戒心が強くて、そんな簡単に捕まえることができないそうなんです。この胃袋の中に妖精を詰め込み、妖精から出る魔力だけで生きていると言われています。」


「そうなんですか?すごく簡単に釣れましたよ?もう落ちパクです。」


「えぇ…」


 なんとも遣る瀬無い表情をしている。だけど事実は事実だ。釣り上げるまでが、もっとスムーズだったらもっと大量に釣れたぞ。そうするともっと復活のせいで金貨が無くなったけど。


 とりあえずその胃袋を切り開いてやると、ふっと何も出て来ずに胃袋が縮んでしまった。どうやら妖精は食べていないみたいだ。


「すごい量の妖精ですね。30はくだらないですよ。」


「え?どこですか?」


 辺りを見回しても何も見えない。不思議そうにしていると、ルシュール辺境伯がふっと微笑みながらこちらを見ている。


「妖精は普通の人には見えないんですよ。稀に子供だと見えることがあるらしいですが、大人になると見えません。精霊視と言う魔法を使わないと誰にも見えませんよ。あなたにお礼を言っているようです。私も言葉は十分にわからないですがね。」


「そうなんですか…見てみたかったのにちょっと残念です。」


 少ししょんぼりしていると、ふと思いついた。見える人には見えるってことは、幽霊みたいに写真に写るんじゃね?幽霊だって霊感強い人には見えるらしいし。妖精だって似たところはあるだろ。試しにスマホのカメラを起動させて見る。しかし何枚写真を撮っても写らないようだ。


 仕方ないから諦めるか。…いや、待てよ?課金機能でなんかいいのがあるんじゃね?

 試しに購入画面を開いて探してみると、見事に精霊視モードの追加があった。


「けど金貨2000枚かぁ…高すぎだなぁ…だけどなぁ…」


 なんて口に出してはいたが、すでに購入済みだ。だってこれはロマンだろ。妖精だよ?それが見られるんだよ?UMAの一種だよ?なら見て見たいじゃん。今はお金もいっぱいあるんだし。


『購入ありがとうございます。モード切り替えは画面下からいつでもできます。』


 すぐにモードを切り替えてやる。するとそこには画面いっぱいの妖精たちが溢れていた。初めて妖精を見たが、想像していたよりも綺麗だ。


 瞳は宝石のようで、個体ごとにその色は違う。肌の質感は人間に近いが、どこか違うように思える。服装も自然のものを使っているが、とてもおしゃれだ。魚の腹にいたようには全く思えない。


 羽は予想通り虫っぽかった。羽も個体によってまるで違い、蝶のようなものもいればトンボのような羽を持った個体もいた。お人形さんみたいと言う褒め言葉があるが、それがまさに当てはまるような美しさだ。


「※※※※※※※※」


「あ、何言ってるかわからねぇ…」


 何かを伝えようとしているが、何を言っているかまるでわからない。完全に言葉が通じていないのだ。しかし、そんなこともこのスマホなら解決できる!なんせ翻訳機能があるのだから!課金は必要だけどね。


「って翻訳するのに金貨10000枚!?ちょっと待て、それは高すぎ!!」


 さすがにこれは手が出しにくい。しかしこちらに向かって何か言っている妖精たちを無視すると言うわけにも…


「ああ、買っちゃった…」


「ありがとうね、人間さん。って何度言ってもわからないか。」


「あ、わかりますよ。そちらも無事で何よりです。」


「え?」


 目をパチクリさせながらこちらを見ている。あ、こっち見られても見えないんで、スマホ見てください。


「あなた私たちが見えるの?それに言葉も理解できるの?」


「このスマホを使えばなんとか。とりあえず、おしゃべりは一旦やめておきますか。まだお仲間が入っているので。」


「そ、そうね。でもあなた、面白いものを持っているわね。」


 ペチャクチャと話しながらどんどん胃袋を切り開いていく。その光景はアンドリュー子爵たちには俺が独り言を喋っているように見えるが、ルシュール辺境伯には異様に見えた。


「ミチナガくん…精霊が見えているのかい?それに言葉も完全に通じている。いったい…」


「まあそれもこのスマホでなんとか…黙っていてすみません。」


「そんな小僧の言うことは気にしなくてもいいのよ人間。それはまだまだ半端者なんだから。」


「ルシュール様が半端者ですか?それはいったい…」


「エルフであり、力だけは持っているけれど、力のつけ方を間違えたのよ。そのおかげで強くなれたとも言えるけど、真祖にはかけ離れたわね。」


 なんだかよくわからない。そこまで関係のありそうな話でもないし気にしなくてもいいか。そのまま作業を続け、全ての妖精を解放した。


「ありがとうね人間。おかげで30年ぶりに外に出られたわ。」


「30年も腹のなかにいたんですか。それはなんとも…」


「まあこの妖精喰いの寿命は100年だからもうすぐ出られたんだけどね。やっぱり押し込められるのは好きじゃないの。」


 100年でもうすぐって…まあルシュール辺境伯を小僧扱いするから相当な年なんだろうな。もしかしたら不死ってやつなのかもしれない。面白い存在がこの世界にはいっぱいいるなぁ…


「みんなが助けられたお礼をしたいって。人間は何か望むものはある?」


「うーん…珍しい種とか石とかでもいいですよ。妖精の間では珍しくなくても、人間の間では珍しいものでもいいです。あ、それと人間じゃなくてミチナガって言います。」


「そうミチナガね。ミチナガは明日までここに居られるから、明日の日中にみんながお礼の品を持ってくるわ。私はやることがあるから、これで帰らなくちゃいけないの。私からもお礼をしたいけど…そうね、そのスマホってやつを見せて。」


「いいですよ。」


 スマホを見せると、その妖精はそこに軽くキスをした。


「これでいいわ。そのうち役にたつと思うから、そのスマホ、大事にしてね。」


 そう言うとその妖精はどこかへ去って行った。なんの役にたつのか全くわからないが、まあどちらにしろこのスマホは肌身離さず持っている。まあそれが役にたつ日を心待ちにしよう。



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