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第350話 英雄の初めての仕事

 長く続いたパーティーだらけの日々がようやく落ち着きを見せた今日、ミチナガは英雄の国の王城へと赴いていた。護衛に幾人かのセキヤ国の騎士達が同行している。すでにイシュディーンたちは飛行機でセキヤ国へと帰っている。


 正直ミチナガもその時に帰ってしまおうかと思ったのだが、まだパーティーは続いていたし、重大な問題があった。ミチナガがそれを知ったのはイシュディーンたちが乗る飛行機が出発する時だ。


「え?安全に帰れる保証無いの?」


「はい。なんでもバードストライクやモンスターストライクで期待が破損する可能性があるらしく、無事に本国まで帰れる確率は半分しかないと。我々はこの鎧と私の魔法でなんとか身を守れますが、無傷の保証はできません。ですのでミチナガ様が乗ると…」


「魔法防御のできない俺は死ぬ可能性もあるってことか……うん、俺絶対に乗らない。」


 まだまだこの飛行機は試作機だ。この世界で飛行系の乗り物が流行らないのはモンスター問題が多いからだろう。それに着陸もまだまだ安定しないらしく、2割の確率で胴体着陸になり機体が爆発するとのことだ。


 イシュディーンがいるのでなんとか死に至ることはないとのことだが、ミチナガの場合はその命の保証ができないという。そんな危険を冒してまでミチナガのパレードに参加したかったというのは嬉しいが、さすがに心配する。


 なおそんなイシュディーンたちの帰りの飛行機は5機のうち2機がエンジン停止、もう1機がバードストライクによる機体の破損が起きたことで、途中で全員脱出したのことだ。その後何も異常がなかった2機のうち1機は着陸に失敗し爆発したとのことだ。


 幸いであったのは海を渡り、セキヤ国がある大陸で全機全員脱出をしたこと。事前に全員脱出したことで機体の着陸時には操縦手の使い魔しかいなかったこと。それから墜落時に周囲に人がいなかったことだ。


 まさかの無事に着陸できる確率が20%しかないなんて予想を上回る最悪の結果だ。しかも墜落した機体は全て大破しているので、かけた費用も消え去った。大損失であるのだが、社畜たちは良い実験結果が得られたと喜んでいる。


 陸と海の乗り物は充実しているが、空に関してはまだまだ時間がかかるらしい。空の乗り物ができればセキヤ国まですぐに帰れるのだが、まあそこまで急ぐこともないので帰りも同じようなルートでゆったりと帰ろう。


 そんなことよりも今大事なのはこれからのことだ。ミチナガは案内されるがまま王城の中を進んでいく。そして一つの部屋を開くとそこには勇者神アレクリアルがいた。


「やあ英雄ミチナガ。英雄としての日々は充実しているか?」


「パーティーだらけで疲れましたし、飽きました。本日はお招きいただきありがとうございますアレクリアル様。それから重ねてお詫びします。やってくるのが本当に…本当に遅くなってしまって…」


「気にしていない。ミチナガの功績を考えればこのくらい遅くなったところで気にもしないさ。それよりもまずは掛けたまえ。積もり積もった話をしよう。」


 ミチナガはアレクリアルの前のソファに腰掛ける。メイドがコーヒーを置くとそのまま部屋を後にした。これからする話が外に漏れぬようにしっかりと防衛魔法が発動されている。


 ちなみにコーヒーは妖精猫コーヒーだ。日々改良が加えられているため味が良くなっている。アレクリアルは世界有数の妖精猫コーヒーの愛飲家だ。


「さてと…話したいことは山ほどあるが…どの話からにしようか。セキヤ国の近況、火の国の近況、アンドリュー・ミチナガ魔法学園国のことも聞きたい。それからなんでも巨大船を作っているという話も聞いたぞ。」


「お耳が早いようで。それじゃあなるべく簡潔に…時間も限られていますからね。」


 ミチナガは自身の報告を始めた。あらかたのことは使い魔経由ですでにアレクリアルにも伝わっているが、ミチナガ自身から報告すればまた違った一面が見えてくる。途中ポチが用意した資料も使いながら2時間程度かけて報告を済ませた。


「やり方が豪快だな。巨額の資金を運用し続け、支出分はすぐに儲けて…しかし正直なところ……手元にはそんなに残っていないのではないか?」


「あ、あはは…おっしゃる通りです。正直…何か一つ頓挫するとかなりの痛手になりますね。」


 アレクリアルの言葉にミチナガも思わず本心を漏らす。年商金貨1000億以上と言われているミチナガだが、結局年商であり純利益ではない。ミチナガは儲けの99.9%を新しい事業や事業拡大に使用している。


 一応手元に多少は残っているので生活には困らないが、何か失敗したらそこからかなりの破綻が起こる可能性がある。何よりミチナガの支出の中でも使い魔に対する出費がなかなかバカにならない。


 飛行機開発もそうだが、使い魔たちを戦えるようにするためには大規模な研究が必要不可欠だ。魔動装甲車だって現在も改良、増産が続いている。人型魔導科学兵器もまだまだ研究途中だ。少しでも戦力を増やすためには研究は必要不可欠。


 だがそんな中でも一番金貨を使用している分野がある。それは魔力生成炉の増産だ。金貨の消費方法である魔力生成炉は最低でも金貨100万枚消費する。できることなら使い魔一人一人にそれを渡したい。


 しかし使い魔の数はすでに1万を超えた。使い魔全員に魔力生成炉を渡すのには数億どころか数兆の金貨でないと足りない。さらに使い魔を増やすのにも白金貨が必須。実は現状ミチナガはかなりの金欠なのだ。


 正直なことを言えば金貨3000万枚クラスの魔力生成炉を使い魔全員に渡したい。そうでないと現状では人型魔導科学兵器は長期運用、最大限活用できない。ただそんな金を儲けるのはさすがに不可能に近い。


 なんせ魔力生成炉に金貨を消費すれば市井に出回る金貨の量が減ってしまう。そうなれば経済的な問題も起きる。世界的な大問題になりかねない。もちろんこのことはアレクリアルにも言えないがミチナガは困った表情だけ見せる。


「やはりそうか。だがミチナガ、君は今や大公だ。英雄の国の大公であるのに巨大な領地を持たないというのはまずいだろう。この国の近くに新しい君の治める国を作らなくてはならない。」


「も、もうすでに2国も運営しているんですけど3国目って…金もないし…それに土地ってあるんですか?」


「ない。土地の限られたこの状況で新しい国を生み出せばこの国に大きな問題が起こるだろうな。離反する国も出るかもしれない。」


「はぁ?…ってすみません!すみません!!だけどだったらなんでそんなこと言うんですか!」


 ミチナガの当然の疑問。思わず素の反応が出てしまったミチナガに対しアレクリアルは笑っている。そんなアレクリアルは懐から何かを取り出した。


「まあこれが本題だ。ミチナガ、お前はこの国から南方へ向かったことがあるか?」


「南?氷国なら行きましたけど…この国の真南ってことですよね?西か東ならあるけど南はないなぁ…」


「だろうな。9大ダンジョンは知っているな?基本的に9大ダンジョンは魔神が治めることになっている。まあ火の国のような例外はあるがな。我が国も2つの9大ダンジョンを所有させられている。これが実に厄介な代物だ。」


 9大ダンジョンはその昔は富を与えてくれた至宝であった。しかし金貨が消費できない現在では金貨によってダンジョン内は埋まり、本来ダンジョンの中で発生するはずのモンスターが地表で発生するようになり、人も近づけない超危険地帯になった。


「我が国で保有する9大ダンジョンの一つ、人災のミズガルズはその危険性から完全封印の処理を行っている。だがもう一つに関しては封印することも叶わず、現在も常時12英雄を数人配置してモンスターが氾濫しないように見張っている。そのダンジョンは巨大のヨトゥンヘイム。世界最大の9大ダンジョンだ。」


 アレクリアルが懐から取り出したのは地図だ。そこには細かくこの国の所有する土地が書き込まれている。その地図の中で最も広く場所をとっている場所がある。そこが9大ダンジョンの一つ、巨大のヨトゥンヘイム。その大きさはおよそ半径約1000キロ。


 日本列島を北海道から九州まですっぽりと覆ってしまうほど広いその場所は巨大な壁が建設されているそうだ。その巨大な壁はあらゆるモンスターの氾濫を防いでいる。数人の魔神により建設されたその壁はこれまでの間一度もモンスターを壁の外に出したことはない。


「今、法国は自国内の問題で手一杯だ。各地にゾンビらしきものが出現しているようでその対処に手が離せない。つまり法国との戦闘が一時停止している今なら9大ダンジョンに挑むことができる。ミチナガ、君ならその道具の中に9大ダンジョンを塞いでいる大量の金貨を収納できるはずだ。」


「ちょ、ちょっと待ってください。それって…」


「今なら私も動ける。それにミチナガ、君のところのナイト、それにヴァルドールも動かせるはずだ。戦力的には十分。もしもダンジョンを解放することができれば我が国は世界唯一のダンジョン国ができる。その国をミチナガ、君に任せても良いと思っている。大量の金貨、大規模な誰のものではない土地。ダンジョンから算出した魔道具があれば我が国はさらに強力になる。いずれ来る法国、龍の国のどちらも相手にできるような武器を手に入れる。」


「それじゃあつまり…!」


「ああ、ミチナガ。9大ダンジョンを解放するぞ。」





 次回、新章スタートです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者神、ミチナガのこの状況で国をもう一つ作らせようとする非道な奴かと思ったら、まさかの九大ダンジョンとは、これは予想外。 とはいえ、戦闘能力のないミチナガが統治しても定番のダンジョン攻略は多…
[一言] 熱い展開!!!! さらに続きが気になります!
[良い点] 9大ダンジョンかいほうもしくは開拓編とは!いつかやるのではと思ってましたが今とは!法国のゾンビはヴァルくんのグールですよね!まだ居たんだ・・・半年も経っているのに・・・本当にグッジョブ!で…
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