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第35話 教会と戦い

 『ポチ、いずでっど』と書かれたスマホを片手に呆然とする。あんなにいいやつだったポチが、こんな簡単に死んでしまうとは思いもしなかった。しかし現実は告げている。ポチは死んだのだと。俺はその通知をスライドさせ、ロックを解除する。


『使い魔が死んでしまったそこのあなた!辛いですか?悲しいですか?けど安心してください。特定の条件さえ解除すれば復活させることが可能です。』

『特定条件の解除を確認。アプリのロックが解除されました。』


 スマホを見てみると、新しいアプリが追加されている。アプリの名前は教会。どうやらこのアプリを使うことでポチを復活させることが可能のようだ。悩むことなんてない。すぐに買ってやろう。


「アプリの購入条件が金貨1万枚と木材、石材、釘に聖水?素材は女神ちゃんガチャで手に入っているけど、俺聖水なんて持ってないぞ。あれ?だけど少しだけ持っていることになってる。」


 聖水なんてどこでもらっただろうか。アンドリュー子爵から貰った?いや、貰った覚えなどない。そんな高価そうなものをもらうことなんてない。


「あ、この湖の水か。ファルードン伯爵が聖水として売られることがあるって言っていたな。さっき魚を収納した時に少しだけ水が入ったのか。」


 そうと決まれば話は早い。スマホを湖につけて、収納を開始する。すると水がみるみる入っていく。お風呂の栓を抜いた時なんてレベルではない。台所に水を溜め、それを排水溝に一気に流し込んだ感じ。ものすごい吸引力だ。


 それから規定量を収納するため、数分待ってからスマホを持ち上げた。材料が足りているかどうか、アプリの購入から確認してみると、どうやら必要な量は揃ったらしい。早速アプリを購入するとダウンロードの画面が表示された。バーの進み具合を見る限り、しばらく時間がかかりそうだ。


 ただ待っていても仕方ないので釣りを再開させるが、気持ちが落ち着かなくて魚が全くかからない。復活すると言っていたが、本当に元どおりに復活するのだろうか。もしかしたら思い出が全部消えているとか。


 いや、そんな嫌な想像はやめよう。そういえば、ポチの竿にかかった魚はそのままだ。どうせなので回収しておこう。


 湖を見渡すと遠くの方にポチの竿が浮かんでいた。結構距離はあるが、ここから届くだろうか。今持っているルアーの中から一番重いものに付け替えてキャストする。すると風切り音を立てながらルアーは飛んでいき、見事なまでにちょうどいいポイントに落ちた。俺も随分と釣りのスキルだけは上がったようだ。


 そのままスルスルと巻き上げていくと、ポチの竿のどこかに針がかかったようだ。そのまま巻き上げ、手の届く距離まで近づける。なんとか竿を回収できたが、すでに魚は針から逃れてしまったようだ。


「ポチの文字どおり命をかけた一匹は逃げられたか…」


 ふぅ、とため息をつくとシェフが慰めてくれた。お前は竿に何も魚がかからなくてよかったな。魚に食われて死ぬとか、いろんな意味で辛いぞ。


 それからも落ち着かなかったが、なんとか待っているとようやくロードが終わったらしい。急いでアプリを起動させると、西洋の教会のような内部が映し出された。ただ、なぜかレトロ調なんだが…


『おおポチよ。死んでしまうとは情けない。マジで魚に食われて死ぬとか情けなくて本当、恥ずかしすぎて死にたくなる。』


「そんなにディスるなよ。確かに情けないって俺も思ったけど。」


『これより復活の呪文を唱える。ただ唱えるのもなぁ…疲れるしなぁ…大変なんだよなぁ…』

『金貨10枚のお布施をしますか?』


「がめついな。まあ課金は必要だと思っていたけどさ。いいよ、そのくらいしてやるよ。」


 金貨10枚のお布施という名の課金をすると何やら祈祷が始まった。


『では復活の儀式を行う。復活の呪文やまあ きらぺ ペペペペ』


「おいやめとけ、それはあかん方のやつや。」


 画面がレトロ調だと思ったら、そんな理由があったとは。クエストなやつから、色々怒られそうだからその呪文は辞めてくれ。あ、なんか棺桶出てきた。


 すると棺桶の中からレトロ調の白い人型が出てきた。おそらくポチだと思うが、レトロ調だと見分けがつきにくい。するとその白い人型は教会の外へと駆けて行った。するとすぐにポチがスマホから飛び出してきた。


「ポチ!よかったなぁ!」


 しかしポチは復活の喜びというよりも、なんというか憤慨している。怒らせるようなことしたっけか?まあポチが魚に食われた時、すぐに助けに行かなかったけどさ。それはしょうがなくない?俺だって怖いもん。


 するとポチは俺の方へ向かって近寄ってきた。怒られる、と思ったらなぜか俺の釣竿のルアーに掴まった。するとそのまま湖の方へと、ルアーを持ったまま進んでいき、湖を泳ぎ始めた。何をしているかわからなかったが、とりあえず糸を送り出してやる。


 すると再び、先ほどポチを食べたと思われる魚がポチに襲い掛かった。遠目だとわからないが、何やらごちゃごちゃやっているようだ。すると突然釣り糸が急激に引っ張り出される。慌てて、送り出しを止めて、糸を巻き上げる。


 巻き上げながら糸の先を見て見ると、先ほどの魚がポチの持っていたルアーを咥えたまま水面から飛び出した。そしてその魚の頭には、やってやったと言わんばかりのポチの姿があった。まさかの自分を餌にして魚を釣るという荒技をやってのけたのだ。


「おぉ…」


 思わずのことに感嘆の声が出る。俺の隣にいたシェフからは拍手喝采だ。それを見てポチはさらに誇らしげに胸を張っている。表情の変化はよくわからないが、完全にドヤ顔していると雰囲気でわかる。


 そのまま俺は糸を巻いていくと、さすがに魚の方も暴れて必死の抵抗を見せる。そしてその反動で誇らしげにしていたポチは魚から落ちた。なんとも無防備に落ちて行き、暴れていた魚の尾に当たり飛んで行った。そして着水した瞬間、まさかの再び他の魚に食われた。釣りで言うところの落ちパクである。


『ポチ、いずでっど』


「ポチィィ…ってもう2回目になると反応しづらいわ。」


 ポチの復活に再び金貨10枚かかるが、その前に復活のためには10分のインターバルが必要らしい。とりあえず今はこの魚を釣り上げよう。かなりしっかりと針が刺さっているため、抜けそうな雰囲気はない。しかし引きだけは強いので、釣り上げるまでに数分の格闘を要した。


 釣り上げた魚は1mを超える巨大魚であの精霊魚とはまるで違う種類の魚のようだった。とりあえず収納して、普通に釣りを始めようとしたら、下の方から視線を感じた。


「もしかして…シェフもやるの?」


 シェフは頭を縦に振るう。どうやら意思は固いようだ。いや、どちらかというとテーマパークの遊具の順番待ちをしている子供のような気がする。復活できるとは言ってもタダではないんだけどなぁ…


 俺の意見を聞かずに、シェフはすでにルアーにしがみついていた。しかし自分で泳ぐつもりはないらしい。


「投げろってか…じゃあしっかり捕まっていろよ?」


 シェフが落ちないように軽く投げてやる。シェフは高い放物線を描きながらゆっくりと落ちていく。そしてまさかのシェフも落ちパクである。しかもさっきより魚体がかなり大きい気がする。


「と言うかこいつら餌として万能すぎだろ。美味しそうなのか?白くてプニプニだし…魚が幼虫と勘違いしている?」


 これで復活の代金だけで金貨30枚かかることになるのか。まあ珍しい魚みたいだし、高値で売れるだろ。一匹で金貨10枚になればいいなぁ…


 今回の魚とは10分以上も格闘した。あまりの引きに、竿が折れるのではないかと危惧したほどである。それでもなんとか手元まで寄せることができたので、エラに手を突っ込んで無理やり持ち上げようとする。しかしあまりにもデカすぎる。それに暴れるので油断すると逃げられてしまいそうだ。


 なんとか引きずって丘まで引き上げたが、大きさは全長3m近くある。俺もよくここまで持ち上げられたものだ。丘にあげてもまだ大暴れしているので、エラにナイフを入れてトドメを刺す。最後の抵抗なのか、巨大魚はものすごく暴れ、その勢いで血が周囲に飛び散る。


 しかし暴れすぎたせいで血が早く抜け、すぐにぐったりとした。もう少しこのまま放っておいてから収納しよう。とりあえずポチを復活させようとすると、巨大魚の口が開き、中からニュルッとシェフが出てきた。


「あ、人魚だぁ。」


 もしも本当に人魚だとしたらあまりにもバランスが悪い。魚の方が全体の8割を占めているとか奇妙すぎるだろ。どうやらこの巨大魚が巨大すぎたため、シェフは丸呑みになって無事だったようだ。無事なのはわかったから、もう人魚の真似しなくていいぞ。なんかヌルヌル動いてキモい。


「それにしてもお手柄だなシェフ。今日一番の大きさだし、お前も無事だから無駄に金もかからず済んだよ。」


 シェフは褒められたことで嬉しくなったのか、照れながらも喜んでいる。いや、喜ぶのもいいけど、いい加減その魚の口から出てこいよ。そんなところで照れられても正直キモい。魚の滑りがついてテカってさらにキモいぞ。


「はっ!」


 何やら背後から視線を感じる。思わず唾を飲み込む。ゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはこちらを恨めしそうに見ているポチの姿が…


「ってなんでもう復活してんだよ。もしかしてお前勝手に金貨使ったな?な、なんだよその目は。もしかしてさっきの会話聞いて……い、いや…違うぞ?無駄にお金かかったとかそんな…ぽ、ポチが無事で、う、嬉しいなぁ…ほんとだよ?ほんとなんだよ?」


 その後、恨めしそうに見るポチと今日一番の成果を出したシェフによる、どちらがより大きな獲物を釣り上げる餌にふさわしいかという対決が行われた。そのせいで俺の金貨が何百枚減ったかは聞かないでくれ。俺もこんなくだらないことで金を消費したなんて泣けてくる。


 そして日も暮れたところで、勝負は終了となった。


「そ、そんなに拗ねんなよ…ポチも頑張ったって。ただ…全部1mくらいの魚だったけど。き、今日はシェフの運が良かったんだって。最大で5mのやつがかかったけどさ。だ、だから……どんまい。」


 もうなんて声かけていいかわからないじゃんか。と言うか自分を餌にして争うなよ。褒めていいのかどうか、わけわからないじゃん。



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