第346話 港町の発展
章管理やりました。まあだからと言ってそんなに変わってはいないのだけれど…
「最終確認しろ!魔力系統!船体に異常ないか徹底的にやれ!」
船大工一同で徹底的な検査が行われる。船体の結合部分に甘いところがないか、設備に問題がないか、一つ一つ細心のチェックが行われる。検査だけで丸3日かけるほど徹底的に行われた。そして完全にチェックが終わった今日、ついに進水式が行われる。
ついにシドリア商会がミチナガ商会に依頼されていた300m級の船を完成させた!…というわけではなく230mの船が完成したのだ。さすがにいきなり300mの船を作ることは難しい。そこで今日という日まで新しい造船所を作り、練習に100m級の船を4隻作り、そしてようやく200m越えの巨大船を完成させたのだ。
目標の300mではないが、この進水式には大勢の人々が駆けつけた。なんせ世界最大級の船の進水式だ。かつて法国が火の国に攻め込んできた時の船でさえ100mちょっとの大きさだ。それの倍近いこの船の進水式は世界でも早々見ることのできない光景だ。
大勢の人々が見守る中、進水式が始まる。巨大船を造船していた沖合の海上フロートで徐々に徐々に降ろされていく。陸地から見守る人々にはただただゆっくりとクレーンで下ろしているように見えるが、船大工たちの顔は船を点検していた時よりも真剣だ。
ここでもしもクレーンの下ろす速度を間違えれば、幾本ものクレーンで吊り下げられているこの巨大船のバランスは崩れる。下手にクレーン一つに負荷がかかるようなことがあればクレーンが壊れ、一気に船が着水するだろう。そうなれば船体が破損する可能性さえある。
慎重に降ろされていく巨大船はついに海水に着水した。陸地からは拍手喝采が送られる。しかしまだまだ船大工たちの表情は険しいままだ。これからこの巨大船はさらに海へと沈んでいく。大変なのはここからだ。
「荷重魔法を起動させろ!荷重速度は下ろす速度に合わせて事前の計算通りやれ!クレーンは下ろす速度を少し落とすぞ!絶対に間違えるんじゃねぇぞ!」
この巨大船はこれから様々な設備を導入する。さらにこれから食料や人を乗せればさらに荷重が増えるだろう。つまり今この船は一番軽い状態だ。そんな軽い状態だと船のバランスを取ることが難しい。そこで荷重魔法という特殊な魔法を用いて巨大船の重さを調整していく。
この荷重魔法を用いれば、巨大船に想定以上の貨物が乗せられたとしても荷重魔法を用いて逆に軽くしてやれば大量の貨物が乗せられる。ただ軽くするのは魔力消費が激しいため、色々と使いどころは限られる。
そして浸水は続き、ようやく一つ一つのクレーンが取り外されていく。そして最後の一つのクレーンが外された時、ようやく船大工たちから歓声が上がった。ドルードもこれには思わず涙ぐむが、すぐに点検作業に入る。
どこかに海水が入ってきていないか、海に浮かべたことにより魔法機器に影響が出ていないか、一つ一つ入念なチェックが入る。それから2週間の間、船乗りたちと共にこの船で生活して問題点を洗っていく。
次なる300m級の巨大船のために一つ一つ情報を集めるのだ。そんなシドリア商会は船上でミチナガが英雄に至ったという一報を聞いた。自分たちの雇い主が英雄に至った。これにはドルードもその弟子たちも大いに喜んだ。自分たちは英雄の船を造るんだと。
そんな一報はもちろん丘にも伝わっている。今日もカレー工場をフル稼働させているロッデイム商会のハルマーデイムはこの一報を聞いて大いに喜んだが、仕事が忙しくてちゃんと喜べない。冒険者の間で一大カレーブームが起きているせいで生産がまだまだ間に合っていないのだ。
それに幾つか新作の注文も入っている。具材を野菜のみにしたベジタリアンカレールウや色味を変えたグリーンカレールウなどやらなくてはいけないことは数多い。とりあえずミチナガからさらなる融資を受けて工場を増設しているが、それが完成するまでは忙しい毎日が続くだろう。
そしてこの港町の3大商会の残り一つ、メランコド商会では未だ商売は振るっていなかった。ミチナガによる購入はあるのだが、店を訪れる人というのは数少ない。まあこの辺りでは売れるものではないので仕方ないといえば仕方ない。
時折やってくるのは値下げばかり求める商人や貴族ばかり。今ではそんな奴らに売る必要はないので全員お引き取りしてもらっている。しかし今日やってきたのは今までとは違う面倒なやつだ。侯爵クラスの貴族が自らやってきて値を下げろと要求してきたのだ。しかも大量に。
「私が誰だかわかっているのかね?かのエイドリヌ王国で侯爵の地位を賜ったミラドーヌ様だぞ。」
「申し訳ありませんがミラドーヌ様。さすがにそのお値引きには対応しかねます。」
先ほどからわざわざこんな辺境の地までやってきてやったのだから安くしろと8割引した値段を要求してくる。いつもなら叩き出してやるところだがさすがに侯爵が相手となるとそうはいかない。下手をすれば国際問題、戦争にだって発展しかねない。
仕方ないからミチナガの名を使って追い出そうかと考えていた時、外が騒がしくなった。これにはミラドーヌも何事かと従者に調べさせる。すると調べ終わった従者が血相を変えて戻ってきた。その報告を聞いたミラドーヌは慌てて何処かへ行ってしまった。
ミラドーヌの対応をしていたメイリヤンヌも何事かとすぐに確認に向かう。するとそこには海一面に広がる大船団があった。何者かが攻め込んできたのかと思ったが、そうではなさそうだ。しかもよく見ると船は幾つもの種類に分けられている。それにいくつも煌びやかな船が見受けられる。
「いったいどこの船か調べなさい。」
「はい!すぐに行ってまいります。」
メイリヤンヌは傍にいたマッテイに指示を出した。マッテイは今や昇進し、臨時の店長を任されることすらある。ただそれでも癖のようなものが残っていて指示が出されると小間使いのように働いてしまう。
そんなマッテイはすぐに情報を持って戻ってきた。そしてその報告を受けたメイリヤンヌは大急ぎで波止場へ向かう。そこにはすでに先ほどの大船団から下船した人々の姿があった。マッテイからの報告を受けていたメイリヤンヌであるが目の当たりにするとやはり驚いた。
そこには幾人もの王の姿があった。これほど様々な国の王たちが一堂に会しているのは見たことがない。そんな王たちの元へ先ほど侯爵だと名乗っていたミラドーヌが近づく。
「お、お初にお目にかかります。エイドリヌ王国のミラドーヌ侯爵と申します。失礼とは知りつつもご挨拶にと…」
「エイドリヌ王国…どこかね?」
「おお、わしは知っておるぞ。あの辺境の地の国だ。何度か攻め込まれたことがある。今では降伏勧告を受けて停戦という扱いになっておる。だが野心家でな、何を考えておるかわからん。」
「同盟には入っているのか?」
「いや、エイドリヌ王国が同盟に入ったという話は聞いておらん。まあ辺境だからそういった話が入ってこないのだろうな。まあミラドーヌとやら、ご苦労であった。しかし我らは休暇中だ。もうそのくらいで下がって良いぞ。それよりもメランコド商会と言うのはどこかね?」
「め、メランコド商会は私の商会です。」
突如話題に上がったメイリヤンヌはつい声に出してしまった。しまったと焦るメイリヤンヌの元に幾人もの王たちが近づく。
「女性の商会長とは聞いていたがなるほど。」
「そんなことはどうでも良いわ。それよりも黒真珠はあるのかね?」
「わしはできれば未加工のものが良い。それも大粒のな。」
「も、もちろんございます。」
メイリヤンヌがそう言うと王たちは、にんまりと笑顔を浮かべて大急ぎでメランコド商会へ向かった。やってきた王族に下手なものは出せないとメイリヤンヌは店の奥から最上級の黒真珠を大量に持ってきた。
「こちらが2年もの、こちらが5年ものになります。5年ものは色艶も大きさも何もかもが最高級品です。」
「おお!これだこれだ。すごい…本物だ。」
「いやぁ…良いものが見られた。こっちのものも良いな。」
大喜びで黒真珠を眺める王たちにメイリヤンヌは疑問を覚えた。この辺りの王ならば黒真珠は持っている。だから黒真珠を見ても特に喜ばないだろう。逆に黒真珠を初めて見たのであればどうやってそのことを知り、ここまできたのだろうかと。そんな疑問を思わずぶつけると王たちは嬉々として語り出した。
「それはもちろん我らがアンドリュー様からだ。」
「あの方の映像で紹介されてな。釣りにしか興味を持たないアンドリュー様が興味を持たれたと言うことで気になって気になって…」
「我々は船を持っていないから船を持つ王に頼んでここまで乗せてきてもらったのだ。半月も船に乗って各国を旅すると言うのは初めての体験だったがなかなか楽しかった。」
「沿岸部にもアンドリュー自然保護連合同盟の加盟国は多いからな。何の心配もせずに旅ができた。」
「これができるのもアンドリュー様のおかげだ。しかし…見たことがないのか?」
「も、申し訳ありません。最近は黒真珠の増産で忙しく…」
「それもそうか!皆欲しがるのは一緒だからな。ではここで鑑賞会を開くのはどうだ?」
そんな一人の王の申し出は大いに賛同され早速アンドリュー作品の映画鑑賞が始まる。何本か関係ない映像を見た後にアンドリューによって黒真珠が紹介された。
「私は宝石の類には疎いのですが、これは素晴らしいですな。白い真珠というのは聞いたことがありましたが黒い真珠。これを貝が生み出すというのですから…自然の神秘というのは本当に美しい。どうせですのでつけましょうか。これで私も少しは貴族らしく見えますかな?はっはっは。」
王たちは笑みを見せながらその映像を楽しく鑑賞した。しかしメイリヤンヌはわずかこれくらいの映像で各国の王が自ら船に乗って半月がかりでここまでやってくるというこの出来事をひどく驚いた。
そこまで人々を魅了するこのアンドリューという男の凄まじさに思わず恐怖し体が震えた。それに映像を見ていくにつれてこのアンドリューという男に惹きこまれていく自分がいることにも驚いた。
映像を鑑賞後、満足げな王たちに先ほどアンドリューが映像で紹介していたものと同じものを見せると皆二つ返事で購入を決定し、アンドリューの真似をしている。
「いやぁ…満足満足。これだけ買えれば十分でしょう。」
「今日の夕食はカレーはどうですかな?カレーもこの街の商会が作っているという話ですから。」
「では今日はアンドリュー様尽くしということで…もちろんカレーは」
「「「「シーフードカレー!」」」」
大笑いをしながら帰っていく王たち。その様子を見ていたメイリヤンヌに各国の王の従者たちがその日の代金を手渡していく。正規の値段よりも桁が違う額を。
「こ、こんなにたくさん…よ、よろしいのですか?」
「騒がしくした迷惑料込みです。それに我々もお土産を購入しましたので。それでは…」
そういうと従者たちも嬉しそうに王の元へと向かっていった。メイリヤンヌは未だにこれまでの出来事が夢のように思えて仕方ない。しかし今日以降、時折どこかの王族や貴族、はたまた商人が黒真珠を買うためにここまでやってくる。しかも値切りなんてしようともしない。むしろ多く払うくらいだ。
おかげで店には人が入るようになった。しかし黒真珠の生産は数年がかり。徐々になくなっていく在庫を見て笑みを浮かべていたメイリヤンヌにも焦りが見えてきた。より一層生産に力を入れないと大問題になることだろう。
あれだけ楽しみにやってきた王族や貴族に在庫はありませんなどということになったら…メイリヤンヌは繁盛し始めた自身の商会に恨み言を吐きながら大慌てで今日も働く。
ゴールデンウィーク始まりましたが、皆さんはどうお過ごしですか?私はこれを書きながら体を動かすためにDIYをやろうと思います。家から出られないゴールデンウィークは寂しいものですが、今までやったことのないことをやるのもなかなか楽しいものです。
まあ色々言いましたが、皆さんもステイホームで新型コロナの蔓延を食い止めましょう。秋のシルバーウィークまでには何とか抑え込んで、紅葉狩りなどを楽しみましょう。それをモチベーションに私も頑張ります。