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第325話 新たな天才との出会いは前途多難

「メリアの方も順調みたいだなぁ。何か入用になったらいくらでも支援してやってくれよ。」


『ポチ・もちろん。今度新しい撮影スタジオ建設する予定だよ。あ、ここ右ね。』


「ほいほい。スタジオまで建設してんのかぁ…一度そっちの方も見に行きたいなぁ…ルシュール辺境伯のところもずいぶん様変わりしているみたいだし。」


 あれから数日が経過した。ミチナガは基本的に様々なパーティーに呼ばれ、それに出席し、空いている時間はメリアの活動報告を読んだり、セキヤ国、アンドリュー・ミチナガ学園国に指示を出したりしている。


 そんなこんなでミチナガが忙しくしている間、街には使い魔たちが散開して例の絵の上手いと思われる子供を探していた。そして今朝、ようやく使い魔の一人がそれらしき人物を発見してコンタクトを取ったという。


 ミチナガも急いでその場所へ向かいたかったのだが、幾つも用事があるためすぐには出られず、午後すぎになってしまった。あまり遅くなると日も暮れてしまいそうだ。足早にポチの誘導の通り進んでいくとそこには今まさに絵を完成させた子供の姿があった。


 どうやら使い魔が先に絵の具を渡して描かせていたらしい。いきなり現れたミチナガにその子供は驚きと怯えを見せたが、ミチナガが優しく話しかけるとゆっくりと警戒心を解いてくれた。


「こんにちは。私の名前はミチナガ。君の名前は?」


「うぅ〜…うぅ〜エリー、エリー。僕エリー。」


「よろしくねエリー。エリーの描いた絵を見せてくれないかな?」


 うめき声をあげながらも絵を指差して見ることを許可してくれた。初めて絵の具を使って書いた絵なのでそこまで期待はしていない。しかしその絵を見たとき、ミチナガの身体に衝撃が走った。


 それはまさに芸術作品であった。写真のように精密な絵ではない。抽象画というものだろう。色の使い方も独特だが、その色使いがまた良い。そしてその絵を見ただけですぐにどんな絵なのかわかった。それはエリーにとって一番大事な人、エリーの姉の姿だ。


 その絵は優しさに満ちている。しかしどこか苦悩や悲しみ、辛さも感じさせる。ミチナガは自分がこんなにも芸術というものを理解できるのかと驚いた。きっとこの絵は感受性が乏しくてもこの絵の良さが伝わるのだろう。


「とても良い絵だ。優しい気持ちが伝わってくるよ。だけどこの絵からはそれ以外の感情も感じさせる。その感情は君の感情かな?それとも…」


「だ、誰ですか!」


 突如背後から女性の声がした。振り向くとどこかエリーに似た顔つきの女性が立っている。それはまさに今エリーが描いた女性の姿だ。間違いなくエリーの姉だろう。そしてエリーの姉はミチナガに対して警戒している。ミチナガが優しく話しかけようとするがビクついてしまい会話ができそうにない。


「怪しい人じゃないから。ね?少し話を聞いて…」


「エリーこっちに来て。…早く!」


「うぅ〜〜…」


 エリーは少し悩むそぶりを見せるが、姉の言葉に従いすぐに姉の元へ駆け寄る。ミチナガはなんとか落ち着くように声をかけるがすぐに何処かへ走り去ってしまった。どうやら簡単には話すことはできないらしい。





「エリー!知らない人と話しちゃダメって何度も言ってるでしょ!!」


「うぅー!うー!あー!」


「唸ったってダメなものはダメ!お姉ちゃんの言うことを聞きなさい!!」


 エリーは不平不満を態度に表すが、姉はそれを抑え込めた。エリーと姉はボロボロの家屋の中で暮らしている。至るとこから隙間風が入ってきて夜にもなると随分と冷える。寒さから身を守るために布を体に巻きつけるが、布も穴だらけでまるで暖かくない。


 ひどく貧しい家庭の生まれ、と言うより親というものはいない。ずっと昔に捨てられ今は姉の収入だけで暮らしている。しかし若い少女の収入など高が知れている。体を売ればもう少しまともな暮らしができるだろうが、姉はそれだけは拒んだ。


 エリーの姉は清い体でいること、弟を守ること、この二つだけは決して譲らない。この二つだけは守ろうと誓いを立て、必死に生きている。これを守りきれなくなった時、きっと自分の中の何かが崩れ去ってしまうとわかっているから。


 そんなエリーの姉の1日は早い。まず起きたら最初に火を起こして暖をとる。その際に湯を沸かし、それで体を洗う。働きに行くのに臭い体で行っては客にも他の従業員にも嫌な顔をされる。それからカチカチのパンと野菜クズを使ったスープを飲む。


 エリーは姉より少し遅く起きる。そんなエリーに対し姉は何も言わず食事を取らせて仕事に出かける。なるべく外出しないようにエリーには言っているのだが、いつもどこかへ遊びに行ってしまう。姉の心配などエリーにはわからないらしい。


 そんな姉の勤め先は小さな商会だ。主に冒険者相手の商品を取り扱っている。規模はそこまで大きくないが、冒険者相手に一定の売れ行きのあるこの国でも中堅の商会だ。そんな商会で姉は裏方の商品の品出しの仕事をしている。


 まあそうは言っても品出しの仕事があれば良い方だ。基本的には品出ししやすいように倉庫の整理をしている。かなりの肉体労働だが、なんとかこなせている。あんな朝食と夕食ではエネルギーが足りないが、お昼には特別にまかないが出るのだ。そこで1日の栄養を補給できる。


 エリーに申し訳ない気持ちになりながらも、姉は働くためには必要なのだと自分に言い聞かせて食べている。そんな姉はこの商会の商会長には感謝している。自分の身の上を知った上で雇ってくれた上に、こうして特別に賄いまで食べさせてくれるのだから。


 そんな姉が久しぶりに品出しのために店頭へ向かうとそこには昨日エリーに話しかけていた男がいた。すぐに自分のことを嗅ぎつけてやってきたのだと理解した姉であったが、仕事をサボるわけにはいかない。なんとか顔を隠しながら歩いて行ったがすぐに見つかってしまった。


「ああ、いたいた。商品の品出し中?終わったらで良いんだけど少し話聞いてくれない?」


「仕事をサボるわけにはいかないので。私たちに関わらないでください。」


「いや、少し話を聞いてくれれば…」


「おいお前!一体何をしている!」


 ドスンドスンと足音を立てながら一人の男が歩いてくる。それはここの商会長ディッドだ。すぐに姉の横に立ち、かばうように腕を掴む。これで何事もなく終わる、そうホッとしようとした姉だがディッドの手つきが何か気持ち悪い。


 前々から感じていたものだが、今日はまた一段と気持ちが悪い気がする。しかしそんな思考はすぐに消し去る。ディッドは自分を雇ってくれた恩人だ。そんな恩人に対して気持ちが悪いなどと思ってはいけない。


「あ、ここの商会長?ちょうど良いや、少しこの娘と…」


「これは私のだ!私が先に目をつけたんだぞ!それを横から…」


 姉の体に鳥肌が立つ。私の、先に目をつけた、この言葉からは嫌な想像しかされない。しかしそんなわけはない。そんなわけあるはずがないと自分に言い聞かせる。しかし腹の奥底から吐き気がこみ上げてくる。拒絶したくても理解できてしまう。


 すると店内の騒ぎを聞きつけたのか外から何人かの男が店内に入ってくる。その男は綺麗な鎧を身につけている。これは冒険者ではない、騎士様だ。


「陛下、何か問題でも起きましたか?」


「陛下…だと?」


「あ〜…このままだと話が進まないか。騒ぎにはしたくないんだけどなぁ…はぁ。俺の名はセキヤミチナガ。ミチナガ商会商会長にしてセキヤ国国王、んでもって商国の魔帝でもある。そこの女に話がある。しばらく貸せ。」


「こ、国王…魔帝……も、もちろんでございます!さあ、とっとといけ!今日はもう上がりで良い。」


「え…あ…え……」


「許可は出たな。こういうのは無理やりは嫌なんだが、まあ仕方ないな。」


 そう言うとミチナガは姉を先導するように店の外へと歩いて向かった。もちろん平民の姉にそれを断る権利などない。こうしてようやく姉とミチナガは接触することに成功した




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