第317話 強大なる最弱な男
新型コロナが蔓延して卒業式ができるかわからない、人が集まるのはできるだけやめたほうが良い。そしてトイレットペーパーが無くなるなんてデマも蔓延する。まさにパンデミックですね。
皆さんもできるだけ不要な外出を控えて感染しないように気をつけてください。ゲームしてアニメ見て漫画読むのが一番安全ですね。
「奴らを中に入れるなぁ!侵入者はすぐに片付けろぉ!」
アンドリュー子爵が救援を求めてから3日、ジェルガルド王国の周囲には日に日にダエーワの兵士たちが集まっていた。そして昼夜を問わず攻め込んでくるダエーワの兵士にジェルガルド王国の兵士たちは疲弊していた。
どこからともなく集まってくる敵に、終わりのない戦い。それだけで兵士の気力は失われそうだが、2日目にジェルガルド国王が目を覚まし、傷が完治していない状態で兵士たちを奮起させたおかげで戦線は維持できている。
そして何よりアンドリュー子爵を守るというその強い思いが兵士たちを奮起させていた。ジェルガルド王国は辺境の地にある王国だ。これまで幾度となく戦争に巻き込まれたが自然の要塞によりずっと守られてきた。
しかしそんな辺境の地であるため、国民全員の食料を賄うのにやっとな食料生産事情があった。しかしそれもアンドリュー自然保護連合同盟へ加入したことにより、ミチナガ商会がやって来たため全て解決した。今では自然を観光資源にするために大きく動き始める余裕まで出てきた。
だからアンドリュー子爵には国民も感謝している。だからこそ、こうしてアンドリュー子爵を守るために奮起できるのだ。しかしこれだけダエーワの猛攻が続くと弱音を吐きたくなる。それでもなんとか立ち上がり、戦い続けるのだ。
しかしそんな戦いに変化が訪れた。敵がおかしな行動にで始めたのだ。敵は急に反転するとジェルガルド王国に背を向けた。そして聞いたこともないくらい大きな雄叫びと戦闘音が聞こえ始めた。それからわずか数分後にはダエーワの戦線は崩壊した。そしてそこには新しい旗が立った。
「見ろ!アンドリュー自然保護連合同盟の旗だ!我らが同志たちが助けに来たぞ!」
アンドリュー自然保護連合同盟の旗は一人の釣り人を枝葉が囲うデザインだ。葉の数はこのアンドリュー自然保護連合同盟へ加入した国の数と同じになっている。そんな旗が何十、何百と上がり始めた。
そしてしばらくした後に数人の男たちが近づいて来た。それはアンドリュー自然保護連合同盟に加盟した国の王たちである。すぐに門を開いて中に通すと、アンドリュー子爵の前で最敬礼を始めた。
「アンドリュー殿、ご無事で何よりです。そして遅くなって申し訳ない。道中のダエーワどもを蹴散らすのに少々時間がかかりました。」
「なんと…私の呼びかけに応じてくれたのですか…ありがとう……ありがとうございます。」
アンドリュー子爵は感涙を流しながら助けに来てくれた国王たちと熱い抱擁をかわす。そして一通りの挨拶を終えたところで、その場に傷を押さえながらゆっくりとやって来たジェルガルド国王が目に入った。
「おお!ジェルガルド王か!よくやった!よくぞ守ってくれた!その矢傷は我らを救った、世界を救った勲章だ!すぐに治療班を呼ぼう!おい!何をぐずぐずしている!この英雄を早く…」
「よせよせ。今も言った通りこの傷は勲章だ。私は死んでもこの傷を消す気はないぞ。」
「それもそうか!なんと羨ましい…おお、それよりも何か必要なものはあるか?とりあえずしばらくは我々もここに駐屯してこの国を守ろう。」
「それは助かる。兵士たちをようやく休められるな。それで…一体何人ほど連れて来たのだ?木々が鬱蒼としているから何人来たかまるでわからない。」
「何人…おらそく10万…20万ほどかな?途中でなんども合流したから一体何人おるのか把握しておらぬ。ハハハハハ!」
20万の援軍。その言葉を聞いたアンドリュー子爵とジェルガルド国王は驚愕する。それよりもこのままだとどんどん援軍がこの国に集まってくるので、すぐに使い魔を通して全世界にアンドリュー子爵の無事を知らせた。これにて騒動は終わる、なんてことにはならなかった。
「おお!アンドリュー殿をお救いできたか。よかった…本当に良かった。」
アンドリュー子爵救出の映像を見たとある国の王はアンドリュー子爵の元気そうな姿を見て涙している。しかしそれと同時に悩みもした。
「我らは全軍率いて来たがもう救出のための援軍は必要ないとなると…どうするか。」
そう、せっかく軍を率いて来たのにその意味はなかったとなると兵士たちに混乱を起こさせる上に、王の信頼にも影響が出かねない。そんな中、近くを偵察していた偵察班が戻って来たとの報告が入った。
「報告します。南に見える山に廃城を見つけました。どうやらそこはダエーワたちの隠し拠点となっているようです。」
「そうか……そうなると、もしかしたら其奴らがアンドリュー殿の元へ向かいかねん。我々はアンドリュー殿の障害となるものを叩き潰そう。皆に伝えよ、山狩りを行う。隠れているダエーワどもを一人たりとも逃すではないぞ。」
「はっ!」
そしてアンドリュー子爵を助けるという目的のためだけに動いていたものたちはとりあえず手柄を立てるためにダエーワの拠点を潰し始めた。そしてそこで他の国の兵士たちと合流し、共同戦線を取り始めて再びダエーワの拠点探しを行なっていく。
そして中には過激なダエーワ撲滅部隊もいる。彼らの多くはダエーワによってなんらかの被害を被ったものたちだ。その恨みを抱えたまま生き続けて来たが、このダエーワ撲滅の流れに合わせて大きく動いた。
今も捕えたダエーワの残党に拷問を行い、仲間の位置を吐かせている。その情報を元に新たなダエーワの残党狩りを行うのだ。あまりにも非道な行いではあるが、結果として彼らが一番ダエーワ撲滅に貢献している。そしてそんな彼らが得た情報を元に大きな動きが起きていた。
とある国。その国は表向きは普通の国だ。しかしその闇の部分は深く、毎年多くの失踪者を出している。他にも怪しげな動きがあるが、その情報は出回る前に全て消されている。その国を治めるのは一人の女王。そしてその女王の正体はダエーワの大幹部、ドゥルジである。
「アンドリューってやつを助けるために幾つかの国が動いた…おまけにダエーワを潰すための動きまである……あの辺りはサルワの野郎のとこね。あのクソ野郎…面倒ごと起こしてくれるわね。」
各地に潜ませているダエーワの諜報員から断片的な情報を受け取ったドゥルジはその情報を精査して今後の活動を考える。周囲の配下は冷や汗を流しながら命令を待つ。明らかにドゥルジの機嫌は悪い。八つ当たりで罰を受けないためにも必死である。
「当面の活動は全て中止しなさい。どの程度の動きかまだわからないこの状況で下手に私まで巻き込まれたくないわ。落ち着いたらサルワに今回の損害を全て補填させるわよ。できないなら…たとえ大幹部であろうと罰は受けさせる。」
「はっ!すぐに伝えます。」
すぐに各部署に伝令を伝えに行く。ドゥルジはこの状況が実に面白くないようで苛立ちで眉間にシワがよっている。おそらく今回の件でダエーワの活動が以前と同じように立ち回らなくなるだろう。そういった部分を改善するためにも色々と策を講じなければならない。
しばらくの間は忙しく動くことになりそうだ。そのことを思うと苛立ちが止まらない。とりあえずこの苛立ちを治めるために久しぶりに何人か壊してしまうか考える。そんな残虐なことを考えていると一人の部下が震えながらやって来た。
「ほ、報告です……て…敵が…敵が来ました……」
「チッ!こっちにまで飛び火して来た。それで敵の数は。本当に使えないグズね。とっとと報告しなさい。」
「わ、わかりません……」
「…あんたはおもちゃ行き決定。使えないグズは必要ない。」
「あんな…あんな数見たことない……」
「何を言って…」
ドゥルジは窓際に近づいた。そして外の様子を見て報告に来たものが混乱し取り乱している理由を知った。あまりのことにドゥルジは笑いがこみ上げ、そして怒りが湧いて来た。
「サルワァァァァ!!あのクソ野郎ぉ!!一体……一体何に手を出したぁぁぁ!!!!」
アンドリュー自然保護連合同盟合従軍、総勢150万を超える大軍が現れた。その大軍を前になすすべもなく1週間後にその国は落ち、ダエーワの大幹部ドゥルジは殺害された。
「報告が途絶えて随分経ったな。これでは一体何が起きているかまるでわからん。」
とある森の中、その森の中に建てられている一軒のログハウス。そこには一人の初老の男がいた。この男こそがダエーワの大幹部の一人、サルワである。手下を大勢育て、自身の仕事を手下に任せる放任主義の男だ。
ただその育成能力は高く、ダエーワの中でも一目置かれる存在だ。ダエーワ所属幹部の半数以上はサルワが自ら育て上げた。その功績からダエーワのナンバー2と評されている。そんなサルワは定期連絡が途絶え随分と時間が経っていることから何か問題が起きていることを把握した。
「やれやれ…いい加減引退しようと森の中に引きこもったのが裏目に出たな。問題が起きても対処できるように育てたつもりだったが…どうやら教育不足だったみたいだ。」
サルワはこの状況下でも非常に落ち着いた様子でお茶の準備をしている。サルワは実に慎重な男だ。少しでも危険そうだと思えばすぐに隠れてしまう。そして今いるこのログハウスはいくつもの結界に守られ、隠されているため世界で一番安全な場所だと言える。だから特に動くこともなくいつもと同じように生活するだけだ。
そしていつものようにハーブティーを飲むために庭からいくつかのハーブを収穫する。そしていつものようにハーブティーを入れ、お気に入りの席でいつもと同じように座って飲むのだ。その対面には少し前まで自身の息子が座っていた椅子が置かれている。
実地訓練をしている自身の息子のことを思いながら紅茶を飲み干した。そしてゆっくりとカップを下げると目の前の誰もいなかった椅子に男が座っている。突如現れた男にサルワは目を見開き、手を震わせた。
「良い香りのハーブティーだ。調合の腕もさすがだな。私にも一杯いただけるかな?」
「…結界もまだ残っている。侵入された気配も感じなかった。そしてその軍服…かつて滅んだあの国の……ではお前は…監獄神カルアトラズ……どうしてここが…」
サルワの目の前で微笑を浮かべる小さな男。この男こそが魔神第6位、世界中にある脱出不可能、難攻不落と呼ばれる監獄全てを運営する魔神。罪人収集家とも呼ばれ、世界中の犯罪者が恐れる魔神、監獄神カルアトラズ。
「こんなところで引きこもっているから何も知らないんだ。君は…決して手を出してはいけない相手に手を出した。すでに彼の影響力は我々魔神にも匹敵する。言うなればこの世界で11人目に手を出してはいけない相手に手を出したんだよ。」
「魔神にも…匹敵する……だと…」
「彼の一声ですでに数十の国々が、数百万人の人々が動いている。恐ろしきカリスマ性だ。彼を敵に回せばたとえ魔神であろうと滅びかねない。人々は彼のことを釣りバカだの釣り貴族だの呼ぶものが多いが……我々はこう呼んでいる。」
釣竿一つで世界を動かした男、釣帝アンドリュー・グライド。
世界で最も弱い、魔神すら恐れさせる男である。