第301話 変わりゆく使い魔たち
『ミニマム・いやぁどんな国でも野良犬、野良猫、ネズミはしっかりといるね。それじゃあ僕たちはこの子たちに捕まっていくからそっちはそっちで頑張って。』
ミニマムは自身の能力、ミニマムを使用して自身を小さく分裂させた。その体長は5mmほど。その数は眷属の分も合わせて500人に分裂している。
『シノビ・やはりその能力は優秀でござるな。しかし以前は10人ほどではなかったかな?』
『ミニマム・まあね。だけど…なんというか力が溢れてくるよ。みんなだってそうでしょ?それじゃあおしゃべりしている時間ももったいないから行ってくるね。』
そういうとミニマムは周囲の動物にしがみついて何処かへ行ってしまった。野良猫や野良犬は仲間がいるため、その仲間伝いでバラけていけば明日にはこの街のさまざまな動物にくっつくことができるだろう。
『シノビ・さて、我々も行動に移そう。八雲、お主は屋根伝いに移動してこの国のマップを作成せよ。その後は怪しい奴にマークしてミニマムを助力。暗影と一影は影に潜め。怪しげな住居内に侵入し情報を収集。』
『八雲・わかったで。ほなシノビはんはどこへ?』
『シノビ・城内を調べる。一番有用な情報は城にあるだろうからな。では行け!』
各自散会する。使い魔たちは己が有能さを示すために。
『ミニマム・バイバーイ!』
『ミニマム・いってらっしゃーい!』
ミニマムの分裂体は途中、現在くっついている野良犬が他の野良犬と挨拶をした際に飛び移った。これでさらに広範囲に移動することができる。ミニマムの分裂体は力が弱く、普通に移動しようとすると10cm移動するのにも十数秒かかる。だから何かにくっつくのが一番効率が良い。
さらにその後、野良猫やネズミに飛び移り、さらにそこから人間にもとびうつることに成功した。かなり順調なペースだが、これといった情報源にはたどり着いていない。重要な情報を持っていそうな偉い人は野良犬やネズミに近づくような生活はしていない。ミニマムが良い情報を得られるのはしばらく先のことだろう。
そんなミニマムの上方を何かが通り過ぎていった。ふわりふわりと移動していくその正体は使い魔の八雲だ。現在眷属たちとともに等間隔にならび、この国のマップを作成している。
そんな八雲はシノビに弟子入りし、一定量の経験値を得たことで固有の能力を得た。その能力、というより特性は雲。雲のようにふわりふわりと移動することができる能力だ。そして雲というのは霧とほとんど同じものだ。違うのは地上にあるか上空にあるかという違いだ。
だから八雲は霧の特性も得ている。それによる能力は光の屈折。今八雲を見たものには白くぼんやりした何かがあるようにしか見えない。有用な能力だが、八雲は自身の能力に驚いている。それは普段よりも能力による影響が大きくなっているからだ。
『八雲・うはぁ!これおもろいなぁ!見てみぃ!こんなにふわふわ動ける!』
『八雲#1・ほんまやなぁ!いやぁ…すごいわ!』
『八雲#2・これならすぐに仕事済みそうやなぁ。』
ふわりふわりと飛び回る八雲の下。そこでは数人の取り巻きに囲まれた男が道を歩いている。見るからに良い服装のその男は書類を見ながら次の目的地へと向かっている。
「ったく忙しいっていうのにまた面倒ごと増やしやがって…おい!生産所に人が足りない!何人か連れて行け!それから農場も人が足りない!そっちにも人だ!」
「はい。…おい行くぞ。」
指示に従い数人の部下がその場を離れる。その時、護衛されている男の影がわずかに揺れたように見えた。しかしそんなことには誰も気がつかずそのまま移動して行く。
やがて男は一つの建物にたどり着いた。そこで書類仕事を行なって行く。やがて一通りの仕事を済ませると部屋を出ていった。静まり返る部屋。すると灯りもついていない部屋の中に突如白い塊が現れた。
『一影・ようやく出ていったか。当たりだ。幹部…いや、幹部の小間使いレベルか。それでも重要な情報を任せられているな。』
一影は書類を見て行く。一影もシノビに弟子入りし、一定量の経験値を得たことで固有の能力を得た。その能力は影。影に潜むことのできる能力。ここまで影に潜んでやってきたのだ。
『一影・麻薬の栽培に製造か。それに特殊な合成もしているな。それに…人身売買か。…なるほどな。良い情報が入手できる。しばらくここを拠点にして情報収集を行うか。』
一影は部屋に近づく足音が聞くと再び影に潜った。さらなる情報を求めるために。
そんな一影が潜む屋敷の近く。そこでは一人の老人が連れ去られていた。数人の男たちに連れ去られている老人の顔にはいくつかの傷がある。男たちに殴られたものだろう。そしてその連れ去られて行く老人は一つの建物の中に入り、そのまま建物の地下へと連れて行かれた。
「おい!一人連れてきたぞ!」
「ッチ!またジジイかよ。またすぐにくたばるんじゃないか?」
「そう思うならもっとちゃんと使え!ったく…お前らがそんなんだと人が足りなくて困るんだ。こっちの身にもなれ。」
「わかったわかった。そう怒るなよ。こいつらを使ったお遊びはしばらく控える。」
男たちは軽い話をしたのちに老人を引き渡した。老人を連れた男たちはさらに地下深くへと降りて行く。そこでは何人もの人間が何かの薬品を製造させられていた。その薬品の製造をさせられているのは皆老人や老婆だ。そしてその表情はどこかおかしい。まるで白昼夢を見ているようだ。
老人が連れてこられた場所、そこは巨大な麻薬製造所だ。複数の麻薬植物を加工し、混ぜ合わせて独自のブレンド麻薬を製造している。その麻薬はこの組織、ダエーワの大きな収入源となっている。
老人を無理やり働かせ始めると男たちは周囲を巡回し始めた。さぼるものがいないか、薬をくすねるものがいないか、逃げようとするものがいないか監視をしているのだ。そんな男たちの影を利用して移動するものがいる。使い魔の暗影だ。
暗影も一影と同じ能力、影を身につけている。その能力を用いて影をどんどん移動して情報を集めながら一つの倉庫の中に入った。そこは完成した麻薬の保管場所であった。
『暗影・この麻薬…火の国で流通していたものによく似ている。火の国にも進出しているのか。いや、法国とつながりがあると見た方が良いか。どちらにしろ…厄介なものだ。』
この麻薬は火の国で流通していた。主な使用目的は兵士への安定剤だ。戦場というのは常に死の危険、さらには怪我人の悲鳴などがつきまとう。そういったものは兵士へのストレスとなり、精神病の元となる。
だからそういったものを忘れさせるために麻薬を用いることがよくある。無理やり脳内麻薬を分泌させ、恐怖を無くすのだ。兵士の安定剤として重宝されるが、その代わり良く戦った兵士ほど麻薬中毒となり、戦争が終わっても薬を求め続け廃人となることが多い。
これは冒険者にも言えることで、モンスターと戦う恐怖を紛らわせるために麻薬を用いることがある。しかしこんなことをすれば経験の長い優秀な冒険者ほど麻薬中毒で使い物にならなくなる。
そのため大国では兵士への麻薬の使用を禁止、冒険者ギルドも麻薬使用を禁止している。しかし一部の国や冒険者ギルドでは秘密裏に使われていることがあるという。
『暗影・おそらくいくつかある製造所の一つだろう。今すぐ破壊したいが…難しい。燃やしでもすれば地上に悪影響を与えかねん。しかしここに製造所があるということは…農園も近い。その辺りの情報も調べねば。』
暗影は再び影に潜み情報を求める。しかしここはあくまで製造所。有用な情報は多少あるだろうが足りない。さらなる情報を求めるためにはもっと警備が厳重そうなところへ赴く必要があるだろう。
そしてそんな警備の厳重そうな所といえば、この国の中心にある王城。そこは幾人もの男たちが厳重に見張りを続けている。厳重に守られているこの城は他の国と比べても比較にならないほど警備が厳重だ。そんな厳重な警備の城の門番があくびをしている。
「おい、何眠たそうにしてんだ。死にたいのか?俺までお前の責任負わされるんだぞ。」
「わ、わりぃ。でもよ、こんな城に侵入しようなんて奴はいないだろ。それにあくびは一瞬だし、この城はいくつも魔道具使って侵入者警戒しているんだろ?問題ないって。」
「そう思うんだったら上の方々にそれを言ってこい。ただし俺の知らないところでな。……この前居眠りしていたやつがどうなったか覚えていないのか?」
「うぐっ…思い出させんな。あれほどおぞましい公開処刑はなかった。」
門番たちは再び黙って門番の仕事を始めた。少しでも警戒を緩めればどうなるかわかっているからこそ、その警戒を怠らない。しかしそんな彼らの背後を白いものが歩いている。使い魔のシノビだ。
『シノビ・侵入成功。やはりこの世界の魔道具はなんでも魔力で判断したがる。』
シノビは体内の魔力生成炉を一度スマホに収納したのちに魔力を使いきった状態で侵入した。この世界のありとあらゆるものには魔力が宿っている。しかしミチナガと使い魔はその例外だ。自身で魔力を生成することのできないミチナガと使い魔は通常の魔力感知に引っかからない。
それはある種、透明人間とも言える。それから一応動体検知魔法もあるようだが、使い魔ほどの大きさだとうまく反応しない。これほどまで潜入に向いている存在はいない。そんな使い魔の元へ数人の男たちが向かってきた。巡回中の兵士である。
しかしシノビは何事もないかのように普通に歩いていく。そして巡回中の兵士たちがシノビを目視できる範囲まで来た時、まるで何事もないかのようにそのままどこかへ歩いて行った。そんな兵士たちの目には一度も使い魔の白い姿は映らなかった。
これがレア度スーパーレアの使い魔シノビの能力、隠密である。この隠密能力はナイトからの師事もあり大幅に能力が向上している。しかしそれでも以前ならばさすがにバレたはずだ。かつてのような使い魔の能力はあるけど使い物にならない、というようなことはなくなっている。
使い魔たちの能力が飛躍的に向上しているのだ。この急激な能力の向上には使い魔たち自身驚きを隠せない。城内に侵入したシノビはあまりのことに体が震えている。
『シノビ・ここまで能力が上がっているとは…やはり繋がりが強くなっている。』
使い魔たちの能力の向上。それはミチナガのスマホが超最新式になったことによるものだ。使い魔たちはスマホから生まれる使い魔。そのスマホが神魔との一件で大幅にアップデートされた。そんなアップデートで一番使い魔たちに恩恵を与えたのは通信速度、8Gである。
使い魔たちはこれによってスマホとの繋がりが強化された。そしてその繋がりは使い魔たちを飛躍的に成長させた。彼らはスマホが良くなれば良くなる程、まだまだ強くなる。スマホから力を受け取り、それを行使できる。このことに使い魔たちは歓喜している。
『シノビ・さて…仕事に取り掛かろう。どこまで潜入できるか……腕がなる。』
「いやぁ…大量大量!バカが入国して来てくれたもんだぜ。なかなかの金持ちみたいだからよ、また明日にでも行くか。」
「バカ!ああいうのはゆっくり搾り取る方が良いんだよ。俺たちの手元にも入れるためにもすぐに搾り取るなよ。いいな?」
「わかったよ…ッチェ!なかなかいい女も連れてたから早く遊びたかったんだけどな〜」
ミチナガからたんまりと金を獲った男たちは少しばかりの金貨を抜き取った後に自分たちの成果としてその金貨を建物へ運び込んだ。そこはこの国にいくつか分散させてある金庫の一つだ。中にはこれまでこの国周辺でダエーワが稼いで来た金貨が山ほどある。
そんな中にミチナガの金貨が帳簿をつけた後に収納された。これからもミチナガの金がここに収納されていくことになるのだろう。
彼らさえいなければ。
『ミニマム・侵入成功!いやぁ…すごい光景だね。』
『ミニマム#1・念のため残しておいた僕たち分裂体が役に立ったね。』
『ミニマム#2・それにしてもザルなチェックだったね。あれなら侵入し放題。』
『ミニマム#3・侵入されると考えていないんじゃない?まあそのおかげで助かったんだけど。』
『ミニマム#4・僕たちまるで怪盗みたい!とりあえずこの金貨みんな持って行っちゃう?』
『ミニマム・まあまあ落ち着いて。とりあえずしばらくは待機だよ。ここから他の金庫に移動できないか待とう。それでいろんな金庫に分散したら…一斉に盗み出す。僕たちミニマム怪盗団がね。』
『『『『ミニマム#1#2#3#4・イェーイ!!僕らはミニマム怪盗団!!!』』』』