第300話 不穏な街
投稿遅れました。
ついに300話到達しました。…まあ閑話など含めたらとっくに300話超えているんですけど。
「そういえば次の街はどんな街なんですか?」
「正直…良い街とはいえませんね。金回りは多少良いようですけど、犯罪も多いです。立ち寄って知り合いのところで荷物を降ろしたら、次の街へ移動する方が良いでしょう。その先にある街は良い街ですよ。そこまで我々はお伴しますのでご安心ください。」
「そんなに良くないのか〜…それはお国柄…的なこと?」
「ずいぶん昔に飢饉が起きまして…その際に頼った商人がサルワと繋がりがあったようなんです。そのせいで……」
「誰です?その男。」
ミチナガの聞きなれないサルワという男の名をごく普通に知っているように話すハルマーデイム。どうやらかなり有名人なようだが、ミチナガは全く聞き覚えがない。
「そういえばミチナガさんは英雄の国の方でしたね。あの国はあいつらとは関わりを絶っているので知らなくて当たり前でした。闇商人ですよ。麻薬に人身売買、暗殺集団までいる何でもありの悪党です。組織名はダエーワ。世界でもトップクラスの犯罪集団です。」
「へぇ〜…でもそういうのってあれいるじゃないですか…えっと……監獄神。悪人を捕らえる魔神なんでしょ?」
「彼らも簡単には手を出せないんです。国の奥深くまで根ざしているせいで末端を潰すことしかできないんです。幹部級を捕まえることができることなんて滅多にありませんし…それに7人の大幹部はどんなやつなのか誰も知らないそうです。」
「どの世界にも悪いやつはいるなぁ…」
考えてみれば今までミチナガは犯罪組織のようなものに関わったことがない。そういった裏の世界を知らないため、話を聞いてもあまり実感がわかない。ただ、そこで一つ思い出した。
「そういや前に奴隷を解放したことあるな。ブラント国のミミアンとかあの辺はそうだよな。」
『ポチ・合ってるよ。今少し話を聞いたけど…多分そのダエーワって組織の末端の仕業だと思う。それから何件か同じような組織の連中を捕まえて投獄したこともあるよ。ちゃんと調べなかったけど繋がりあるのかもね。』
「あ、もう関わりあったのね。……見逃しとかある?」
『ポチ・ミチナガ商会はクリーンな商会ですから。悪党は許しません。それにうちが店舗広げているのは英雄の国とか魔神が治めるところだから安全だと思うよ。…ただアンドリュー自然保護連合同盟関連はちょっと怪しいかも。少しずつ調査進めるね。』
「危なくない程度にな。犯罪組織相手じゃ何されるかわからないからな。」
「ああ、ミチナガさん。見えて来たようですよ。それにしてもやはり早いですね。普段の半分以下の時間で着きましたよ。」
遠くの方にうっすらと街が見えて来た。巨大な城壁に囲まれたその国は見るからに安全そうで、見ているだけで嫌悪感が湧いて来た。こんな感情を抱くのはミチナガも初めてである。何かあの国からは嫌な感じがする。
それは他の面々も感じ取ったようで言葉数が少なくなる。その国にたどり着くと壁の外で行われている検閲の待機列には人は並んでいない。そのまま検閲を行い、入国税を支払おうとするとその額にハルマーデイムは驚いている。
それからハルマーデイムはしばらく話し、検閲官に賄賂を払うとまた別に入国料を支払って入国することになった。車内に戻って来たハルマーデイムは何も話さず、そのまま壁の中へと入っていった。
「…何が合ったんです?」
「……異常です。私が知っている時より入国料が倍以上に膨れ上がっています。なんとか賄賂を支払って以前より少し高いくらいの入国料ですみましたが……」
「少し…情報を手に入れた方が良いですね。お前ら、頼めるか?」
『ポチ・任せておいて。まあ密かに探るなら…ミニマムとシノビ、八雲、暗影、一影に任せるのが一番かもね。』
「よし、その布陣で頼んだ。お前ら、頼んだぞ。」
すぐにスマホから5人の使い魔たちが飛び出して何処かへ行ってしまった。これで多少の情報は得られるはずだ。他にも情報を聞き込んでも良いのかもしれないが、何があるかわからない。下手に聞き回っている奴がいると噂になれば面倒なことになりかねない。
そのまま魔動装甲車は走っていくとハルマーデイムの馴染みの店にたどり着いた。そこは昔から世話になっている店で信用できるという。すぐに店内に入るとハルマーデイムはそこの店主と目があった。そして目が合い驚いた。そこにいるのはまるで別人に見えるからだ。
ふくよかで優しそうな、人の良いそこの店主は痩せ細り、肌はざらつき、目はギョロリと動いていた。
「テインズ…どうした…一体……」
「ハルマー…ハルマーか!ああ…なぜ来たんだ……お前まで…あぁ……」
「どうした!一体何があった!」
「地獄だ…ここは……もう地獄になった…」
テインズはその場でへたり込み泣き出した。一体何が起きているかわからない。すると外から数人の男たちがやって来た。
「よぉ!外から来た商人っていうのはお前だな?食いもんと…女も持って来たのか。上出来じゃねぇか。女は金貨10枚、食料は物にもよるが1キロ金貨1枚の税金を払ってもらうぜ。」
「な、なんだお前らは…それになんだそのふざけた税金は!我々はすでに入国税も支払っている!ふざけるな!」
「おっと、俺らへの暴言は金貨10枚だ。今のは3回分だから罰金金貨30枚だ。全部払ってもらうぜ。」
「な、何を…」
「まーまー落ち着いて。今お支払いしますから少々お待ちくださいね。計測してからでもよろしいですか?」
ミチナガはとっさにハルマーデイムと男たちの間に立った。ここで下手に動くのは危険だ。ミチナガは男たちと話し合い、税金を支払った。しかし人頭税として女は金貨10枚、男は金貨3枚、さらに獣人は5割り増しだと言われたのにはさすがに青筋を立てそうになったが、必死にこらえた。
「たんまり持っているじゃなねぇか。おい、同じ額を来月も払ってもらうからな。良い金づるになってくれよ。それじゃあな。」
「ははは、お手柔らかに。」
男たちはそのまま帰って行った。これで一難去った。そして後に残ったのは怒りだ。奴らに対する怒り、そしてへこへこと言われるがまま従ったミチナガへの周囲の怒り。もちろんミチナガだって怒っている。しかしそれ以上に今の状況で暴れるのはあまりにも危険だ。
「ハルマーデイム。とりあえず一回テインズを休ませてやれ。それから全員今日はこの商店に泊まろう。狭いが下手に分散するのは危険だ。それから外出は禁ずる。行動する際には3人以上…いや、騎士の誰かをつけろ。これは命令だ。」
「わかりましたミチナガ様。…それで……一つだけお聞かせください。どうなさいますか?」
「そうだな…どうするか。まあ基本的には使い魔たちからの情報待ちになるからしばらくは待機して……それから動く感じだ。うん。そんな感じ。ただ一つだけ言うのであれば………舐めた真似しやがって…俺は今この国に何が起きているのかは知らない。だがな、こんなふざけた税金の搾取をしやがって……お前ら、これは戦争だ。すでに敵からは宣戦布告を受けた。後は奴らの規模を調べて事と次第によっちゃ……この国獲るぞ。」
ミチナガの瞳に闘志が宿った。これはブラント国以来の、カイの騒動以来の国取り合戦が始まる。