第299話 超最新式のスマホ
「あ゛〜〜…よく眠れんかった……ちゃんとスマホあるよな?…よし、ある。」
早朝。日の出とともに目を覚ましたミチナガの目の下には隈ができている。昨日のあのショックな出来事のせいで悪夢を延々と見続けたのだ。おかげでこの通り寝不足である。
「そういえば…俺の要望全部叶えたって言っていたけど……何がどう変わったのか確認してないな。あの後ショックと怒ったこと2つが合わさったせいで倒れるように寝たからな。まあ悪夢でちゃんと眠れてないけど。…あ!カメラレンズが4つになっている!何これすげぇ!」
ミチナガはすぐにカメラを起動させる。すると普段のカメラ倍率に加え、広角や望遠レンズなどのモードが増えている。さらに4つのカメラを同時に使用して魔力視、サーモグラフィー、暗視、鑑定眼などを同時に使用して周囲を撮影できるようになった。
「これ使えば目に見えない敵でもすぐに写せるな。まあ普段使いはしないけど。あ!360度カメラもある!しかも全天球!何これ最高かよ!うひょぉぉ!!あとは何が変わって……っは!まさかこれは……夢の8G、超高速通信だと……やべぇ……あれ?でも今まで通信にラグあったことないよな?それに使い魔くらいしか連絡相手いないし…なんだよクソだな。」
画面の左上には通信速度を表すマークが描かれており、そこには8Gの文字があった。誰もが憧れる夢の超高速通信なのだが、使い魔とのやりとりでは今まで0.01秒の誤差も生まれたことはない。それこそ世界の反対側にいても問題なく通信できる。
だからこれに関しては何の意味もない。しかし超高速通信というミチナガの願いを叶えてくれたことに関しては感謝しているし満足している。ただ、正直これ以上は特に変わったところは見られない。
もうスマホが壊れることがないか、バッテリーの減りは無くなったのかなど心配になる点はあるがそれを確認する方法はない。いや、壊れないかどうかは近くに神魔であるフェイがいるので確認することは可能だろう。しかしそれを確認する度胸はない。
「後の変わったところはおいおいかな……あ!世界樹がでかくなってる!すげぇ!」
現在スマホにある世界樹は聖国、熱国、魔国の世界を生み出した。そして新たに氷国、岩国、水国、使い魔の国を生み出した。まさか同時に4つもの国を生み出すとは思いもしなかったが、すでに世界樹は9つの世界を保持できるだけの大きさまで成長している。残り2つの世界も取得条件を解放すればすぐに手に入るだろう。
世界樹の国をひとつひとつ調べていくといくつかのことがわかった。ほとんどの国にも山と泉、それに海がある。それぞれがその世界の影響を反映しており、例えば氷国ならば凍った大海に巨大氷の山が大陸の中心にある。逆に熱国ならば南国の海にジャングルのように鬱蒼とした森と山がある。
少し特殊なのは水国と岩国だろう。水国は一面の海とところどころに巨大な世界樹の根っこが飛び出している。この水国は世界樹にある全ての国から流れる水の終着点だ。そして世界樹の大事な水の補給場所でもある。そしてそこには水温に関わらず、全ての世界の魚たちが集まっている。
そして水国と対する岩国は逆に水がない。あるのは大量の山々と岩だけだ。植物さえも生えていない。岩国には世界樹が栄養源にできなかった土と岩が集まる場所だ。世界樹の排泄物、という考えが一番わかりやすいだろう。
じゃあ何も役に立たないのかというとそうではない。世界樹が栄養源にできない物質等は大抵が鉱物だ。つまりここは金属や宝石の宝庫である。鉱山ガチャで得た鉱山もここに集まっている。この岩国のおかげで、鉱山ガチャから得た鉱山からの1日の産出量が倍になるボーナスも得た。
そしてもう一つ気になるのが使い魔の国だ。確認してみるといつものシティアプリの使い魔たちの居住区と何ら変わらない。これなら何の意味もないと思うのだが、使い魔たちからしてみるとそうではないらしい。
ポチ『“世界樹の中の国を行き来するのは意外と手間だったんだよ。だけどこの使い魔の国ができたおかげでどこの国にもこの使い魔の国を一度経由すればすぐに行けるんだ。おかげで仕事の効率もはかどってみんな助かっているんだよ。”』
ミチナガ『“そういう恩恵もあるのか。便利だなそれは。”』
ミチナガにはわからないところで色々と変わっているところがあるらしい。使い魔が喜んでいるようで何よりだと喜ぶ。そしてスマホをいじっていると気がつけば皆起き出してきた。そして朝食の準備も済んでいる。その朝食の輪にはフェイの姿もある。あの後眠いからもう一眠りすると言ってそのまま一泊したのだ。
「そういやお前はこの後どうするんだ?何なら次の街までついてくるか?」
「ん〜〜…ふぇいふぅ!」
「飲み込んでから喋りなさい。」
「もう帰る!遊びすぎたからきっとパパも心配していると思う。それに今日はおやつの日だから帰ると美味しいおやついっぱい食べられるんだ〜。あ、そうだ!ミチナガにこれあげる!友達の印!」
「何だこれ…お守りか?」
「ミチナガはあんなにひどいことしたけど許してくれる良いやつだからな!それを持っていればいつでも魔国に遊びに来れるよ!それから困った時にはそれを持ってフェイちゃん助けて!って言えばすぐに助けてあげる!」
「へぇ〜ありがとうな。それじゃあ俺からも何か…よし、このお菓子の詰め合わせをやろう。みんなで食べな。」
「おお!やっぱりミチナガは良いやつだ。」
スマホから使い魔がお菓子の入った大きな袋を持って近づいていく。するとフェイは嬉しそうに使い魔ごとお菓子袋を抱きかかえた。
「それじゃあもう行く!朝食ごちそうさま!それからお菓子もありがとう!バイバーイ!!」
『白之拾壱・ちょ、自分はぁぁぁぁぁぁ……』
「じゃあな〜〜。それからお前は魔国のこと頼んだぁ〜〜。」
ミチナガとしては使い魔を連れて行ってくれるのは好都合だ。これで魔国とも繋がりを持てる。それにしても嵐のように去って行く。正直まだあんな子が神魔の魔神であるだなんて信じられない。しかしスマホの許容量を軽々と超えるほどの魔力を保有しているというのは確かこの異世界にもそういないのではないかとも思う。それを合わせれば確かにフェイは神魔であるのかもしれない。
「しかしお守りか…失くしたら怖いし…とりあえずスマホにしまっておくか。」
「ミチナガさん…すごいですね。運が良いですよ。神魔フレンズになれるなんて……」
「何ですかそれ?」
神魔フレンズ。それは神魔が認めた友達にのみ渡されるお守りと称号である。世界中に100ほどはいるのだが、大抵は子供であることが多い。そして神魔フレンズになると時折現れるフェイと遊ぶ代わりに、ありとあらゆる敵や害悪から身を守ることができる。
「かつて神魔フレンズである一人の少女の村を襲った盗賊がおりまして…詳しい詳細はわからないのですが、その村は何事もなく、盗賊たちは消え去ったと言います。ただ噂によると少女がそのお守りを持って助けを求めると魑魅魍魎が飛び出して盗賊を襲ったと。」
「やばい自衛アイテムゲットってことですか…まあ危ない時には使わせていただきます。まあ基本的には自分で自分の身は守りますよ。頼りになる仲間たちもいますから。」
何だか不思議なものを手に入れたが、これは本当に非常事態の時にならない限りでも使わないようにしよう。しかし一つでもとっておきを持っておけると心強い。ミチナガはいざという時にこれを取り出せるようにその存在をしっかりと覚えておく。
「それじゃあ朝食も終わりましたし、そろそろ出発しましょうか。」
なにやらいろいろあった1日だったが、結果的に丸く収まった。いや、結果だけ考えればスマホが完全版になり、神魔とつながりを持てた。大収穫と言えるだろう。
ただしばらくは、一度はスマホを失ったショックのせいで悪夢を見続けることになりそうだ。とりあえず出発した魔動装甲車の中でミチナガは再び眠りについた。