第288話 新しい街へ
三が日明けたので投稿開始します。
そして気がつかなかったけど前回の話で300話到達しました。新年一発目が300話目の話だったとは…
あ、ちなみに今回から新章です。章題はもうしばらくしてから付けます。
「う〜み〜は〜広い〜な〜〜大きい〜な〜ついで〜に〜お船〜も〜大きい〜な〜」
『ポチ・上機嫌だね。船旅を満喫しているようで何よりだよ。』
「そりゃお前このでかい船でゆっくりできるのなんて最高じゃん。この船を持ってきた法国の連中とそれを奪ってきたヴァルくんには感謝だね。みんなはまだ寝ている感じ?」
『ポチ・まだ船酔いキツイみたい。大きい船だから揺れも軽いはずなんだけどね。獣人は三半規管が敏感すぎるみたいだね。まあ他の種族の人たちもまだ慣れていないみたいで疲れは出ているみたい。』
セキヤ国を出発し、漁村で1ヶ月間足止めをくらい、ようやく出発してから1週間後。ミチナガたち一行は周囲に海しか見えない海のど真ん中を風に乗ってゆったりと進んでいた。
海に慣れていない獣人やダークエルフなどの同行者たちは皆船酔いで寝込んでいる。しかし1週間も立ち始めると徐々に動けるものが増えてきた。しかしそれでも動けるだけで何か働けるというわけではない。
「早い所上陸して休ませてやらないとかわいそうだよな。今航海はどんな調子なんだ?どこに到着するみたいなのはあるのか?」
『ポチ・全然決まってないよ。このあたりの地図はないし、僕たちも来るの初めてだからスマホにマップ登録されていないからね。今は風と潮の流れに沿って向かっている感じ。速度優先で向かっているよ。』
「それが一番だな。アンドリュー子爵やミラルたちとは合流できるんだよな?」
『ポチ・あ〜〜…それなんだけど……マップ見て。』
なんとももどかしい返事を返すポチだが、言われるがままスマホのマップを確認すると今船がいる位置はアンドリュー子爵の元にいるリューから方向がずれていっている。
『ポチ・速度優先で行ったらこんな感じになっちゃったんだよね。多分このままいくと大陸の下側に着くと思う。』
「なるほどなぁ…大陸の上側なら俺が初めてこの世界に来たアンドリュー子爵の屋敷があった辺り、大陸の中心なら今アンドリュー子爵たちがいる辺りか。下側は何があるんだ?」
『ポチ・正直わからない。情報は集めているけど、あの辺りは諸王国が乱立しているから横の繋がりみたいなのは薄いんだよ。やっぱりミラルたちと合流できるように今からでも進路変更した方が良いよね?』
「ん〜〜…良いんじゃない?このままで。みんな辛そうだから早く上陸することが優先でしょ。それに…冒険している感じがして良いじゃん。ミラルたちとの合流はまあなんとかなるでしょ。」
ミチナガはあくまで上陸速度を重視した。このまま船酔いで衰弱していったら、何か病にかかる可能性もある。そうなったら船というこの限られた空間内の場合、全員に感染する可能性が高い。とにかく皆の体調を考えてすぐに上陸することを優先させるのが最善だ。
ミチナガは航路をこのまま任せて自身はスマホを弄ったり、釣りをしたりと随分と船旅を満喫している。それから4日後、遠くに大陸が見えて来た。このまま直進してすぐに上陸と行きたいところだが、周辺の安全確認も必要だ。とにかく近づいてから誰かを小舟で送り出してコンタクトを取らないといけない。
「この中でまともに動けるのって……俺だけか。」
『ポチ・みんなだいぶ良くなってはいるけど交渉ごとはやめさせておいた方が良いだろうね。』
仕方なくミチナガは準備を始める。そして大陸に近づいていくとそこには沿岸部一帯に広がる大きな街があった。白く塗られた家の壁は美しい港町を見事に映えさせている。
ある程度まで近づいたところでミチナガは一人小舟に乗ってその港町に向かうと、向こうからも一艘の小舟が近づいて来た。
「どこ所属の船だ?旗を見ても知らない国だ。」
「セキヤ国所属のミチナガ商会という商会の船だ。武の国の方から来たんだ。この辺りは詳しくなくてな。波に乗って来たらここにたどり着いた。」
「商会船か。荷を改めさせてもらうが良いか?それから乗船者全員の名簿を作る。何か問題があるならすぐに引き返しな。」
「問題ない。とはいえ今回は商売目的じゃなくて英雄の国に用事があるから来ただけなんだ。荷はないぞ。」
そこで話をつけるとすぐにミチナガたちの船は波止場へ向かう。そしてすぐに船の中をチェックされ、乗員たち全員もチェックされていく。そんな中先に小舟で行っていたミチナガはアイスコーヒーを飲みながらその様子を眺めている。そんなミチナガの元へ男が近づいて来た。
「あんたの書いた名簿通りだ。これで何にも問題はない。これが入国書だ。それからお仲間さんは船は初めてなのか?全員船酔いで弱っている。早い所宿に連れて行ってやんな。」
「ありがとう。ついでに良い宿はあるかな?全員が同じところに泊まりたいんだ。値段とか細かいことは気にしなくて良い。」
「ここは港町だからな。同じような客は多い。いくつか候補はあるが…あの高台にあるホテルはどうだい?老舗なんだが良いところだ。まあ立地の問題から移動が大変なんだけどな。高台だから上り坂が急でな。でも良いところだ。俺たちも騒ぐ時にはあそこにいく。」
「それじゃあそうさせてもらおうかな。じゃあみんな連れて行ってくる。世話になった、ありがとうな。」
ミチナガはそういうと皆の元へ行き、そのまま全員引き連れてその高台にあるホテルへと向かって行った。
「面白い船でしたね。船は立派なのに乗組員は全員船酔いだなんて。」
「ああ、全くだ。よくこの街までたどり着いたもんだよ。」
「あれ?すみません隊長。ここなんですけどね?一番上に書かれているこのセキヤミチナガっていうのは誰ですか?」
「ん?セキヤミチナガ……ああ、違う違う。セキヤ国のミチナガ商会ってことだ。名前の欄に書いちまったのかあの兄ちゃん。直しておいてやんな。」
「わかりました。てっきり名前かと思いましたよ。もしそうならあれですか?このセキヤ国っていう国の王子か誰かがやっている商会っていうことになりますよね?」
「もしくは王様がやっている商会かもな!まあそんな商会あるわけないだろ。王族は王族であるだけで生きていけるから仕事なんてしないぞ。まあ元王族の商人だったらいるかもな。」
「あれ?じゃああの小舟で来た男は誰ですか?名簿にありましたっけ?」
「ん?どっかでチェックしたんだろ。まあ小間使いなんてそんなもんだよ。それより次の仕事をするぞ。予定外の来船で仕事が押しているんだ。早くやらないと残業になるぞ。」