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第286話 トウと再会1


 覚えていない人は第210話あたりで書かれています。私自身忘れてました…

 森の中。そこでは昼間から煙を立ち上がらせて火を燃え上がらせている男と使い魔がいる。やがてしばらくたった頃、燃えている炭を散らして中から金属の球体を数個取り出した。


「ふぅ……これで500個完成だ。一度に作れる数もずいぶん増えてきたが…まだまだだな。」


『スミ・お疲れ様です!向こうにお茶とお菓子用意したんでどうぞ!』


 超一流の炭焼き職人にして超一流の錬金術師のトウは完成した賢者の石の球をスミに渡す。不思議なことに、つい先ほどまで燃え盛る炭の中に入っていたというのに一切の熱量を感じさせず、むしろ冷んやりとした冷たさを感じる。


 この不思議な賢者の石の球体が白獣の村で見つけた不可思議な砂粒の完成体である。しかし完成したとはいえ、その運用方法は未だ謎のままである。最近ではトウの錬金術の腕を上げるために作っていたに過ぎない。


 そしてこの500個というのは一つの目安にしていた。それだけ作れば錬金術師として、炭焼き職人として誰に会っても恥ずかしくない腕前の持ち主であるとトウ自身が思えるために。


 お茶とお菓子を軽くつまみながら深呼吸をするトウであったが、その手は震えたままである。それは先の賢者の石づくりによる疲労からではない。この後のことを考えて緊張しているからだ。


『スミ・今麓に連絡したので後10分ほどできてくれると思いますよ。…よろしいですか?』


「お、おう……大丈夫だ。……それに先にあのバカに会うんだろ?そこで少し一服させてもらうつもりだ。」


 それから10分を少し過ぎた頃。突如空間に裂け目が入り、そこから一人の男、神剣イッシンが現れた。そして裂け目を塞ぐとこちらに向かって笑顔で歩いてきた。


「すみません。少し長い出張になりそうなんで子供達のために食事を用意していまして。…それじゃあ行きましょうか。」


「…おう。よろしく頼むぜ」


 トウがそう言うとイッシンの横に再び空間の裂け目ができる。そこから顔を覗かせると、その先には海が広がっていた。


「もう少し強めに切ってよかったか。う〜〜ん…どうせなのでここからもう一度切りますね。」


 イッシンがそう言うと裂け目の先に新しい裂け目ができた。その様子を見ていたスミであったが、やはり何も見えない。しかしこの一連の空間の裂け目はイッシンが空間を切り裂いて作ったものだ。


『スミ・やっぱり規格外だよなぁ……あ、先に確認しますね。えっと…目的地は南西に600キロですね。』


「まだそんなに離れていたか。…このくらいでどう?」


『スミ・あ、ちょっと行き過ぎですね。北東に59キロ。』


「あ、行き過ぎちゃってた?う〜〜ん…これでオッケー?」


『スミ・あ、ちょうどですね。それじゃあトウ師匠呼びましょう。』


 すぐに呼ばれたトウは目の前にいくつもある切り裂かれた空間の中に飛び込んでいく。海の上、森の上、山の上を飛び越えた先には枯れた世界樹がそびえ立っていた。


「おお!本当にあっという間だな。イッシンの坊主は流石なもんだ。」


「お褒めに預かり光栄ですよ。それじゃあ私は子供達のお土産買っているんで。」


 そう言うとイッシンは切り裂いた空間全てを元に戻し、どこかへ行ってしまった。一応スミの眷属がついて行っているので、後で合流することは可能だ。スミとトウはそのまま歩いていく。


「しっかし…またこの世界樹を見れる日が来るとはな。街並みはずいぶん変わっちまったが、あれだけはまるで変わらねぇ…」


『スミ・この先を右に曲がってまっすぐ行くとドワーフ街だよ。』


「おお、そうか。楽しみだな。」


 トウは100年以上ぶりのユグドラシル国を満喫していた。そして徐々に記憶を思い起こしながら昔はそこに八百屋があっただの、そこの通りで喧嘩をしただのと語ってくれた。


 そしてドワーフ街に入るとその表情は穏やかなものに変わっていた。100年前とは変わっているがそのまま残っている部分も多いと言う。


「あの通りなんて昔はもっと小汚かったけどな。随分綺麗になったがまだ変わらないとことも多い。ああ、あそこなんて……」


『スミ・思い出いっぱいなんですね。ああ、この先の通りを左に曲がったら目的地ですよ。』


「おおそうか!」


 トウはスミの案内通りに進んで行く。するとそこには立派な建物があった。中からは鉄を打つ音が絶えず響いている。守衛二言三言話すとすんなりと中に入れた。普段ミチナガ商会として出入りしているので簡単に入れる。


 中に入るとトウは若いドワーフ達に目をつける。一心不乱に鉄を叩いている姿を見てトウは昔を思い返し、つい声をかけてしまった。


「むやみに叩くもんじゃねぇ。よく見ろ、ここの部分ばかり叩いているから鉄が伸び過ぎている。これじゃあここから折れるぞ。」


「え!…本当だ。ありがとうございます!」


 トウはその後もそこらへんの若いドワーフ達に声をかけて行く。トウ自身は鉄打ちの才能は無いと言ったが、それでも見る才能だけは錬金術の影響で磨かれている。その後も声をかけ続けて行くと徐々に人が集まりだした。そしてその様子を何事かとグスタフも見に来た。


「え!トウの兄貴!一体いつの間にこの国に…」


「よう悪ガキ。ついさっき着いた。そんなことよりお前、ちゃんと弟子のことも見てやらなくちゃダメだろうが。」


「流石に全員毎日見るのは無理だ。だけど週に一度は全員のこと見てるぜ。そんなことよりもこっち来てくれ。俺の傑作集を見せてやる。」


 以前使い魔達による映像通信で話したとはいってもちゃんと出会うのは100年ぶりだと言うのになんとも軽い出会いだ。グスタフについて行くとそこには部屋があり、壁一面に武器が飾られていた。


「トウの兄貴からもらった素材で作った。見ていってくれ。」


「ふ〜〜ん……まあ中々じゃねぇか。ん?…こいつは良いな。流石は俺が作った合金だ。」


「っけ!自分を褒めてやらぁ…まあなんだ……おかえり…それから……またこうして会えて嬉しいよ。もうトウショウの弟子も生きているのは何人もいないからな。」


「っへ…そんな沁みたれた挨拶はやめろ。まあお前も腕を落としてなくて何よりだ。お師匠様にも挨拶したい。桜花はどこだ?」


「前と変わらずあの離れだよ。お師匠様の作業場だ。ついて来てくれ。」


 グスタフは桜花の保管されている建物に塔を案内する。トウは言われるがままついて行くとすぐにどの建物かわかった。何も変わらず、100年前と同じように建っているその建物を見て自然と涙が溢れて来た。


 そして建物の前に着くと、そこには見事に咲き乱れる桜が咲いていた。トウは思わずその桜に見入っていた。その場から一歩も動かず、ただただ眺めていた。


「見事なもんだろ。これがお師匠様が求めて止まなかった桜だ。ミチナガから貰ったんだ。今この桜を増やして桜だらけの公園を作ろうと張り切ってんだ。もう数年経てばそりゃ見事な桜の咲く公園が完成するぜ。……これで少しでも師匠孝行できればってな。」


「おめぇにしちゃやるじゃねぇか。こいつが桜か……なんと美しく…なんと心に染みる美しい花だ。それじゃあ桜花を見せてくれ。」


 グスタフは桜花が保管されている建物の戸を開く。そして目の前にさらけ出された桜花を見た瞬間、トウは涙がとめどなく溢れ出していた。


「おお!おお!!桜花だ…まさしく…本物の桜花だ……この100年、お前の姿を何度夢で見たことか……お師匠様…このトウ…またこの地に帰って来ました……」


 その場で崩れ落ちながらトウは、今は亡きトウショウへ帰還の言葉を述べた。100年ぶりの弟子の帰りを喜んでいるかのように、光に照らされた桜花は光り輝いた。





 近々登場キャラクター一覧やる予定です。今回の話も読み返していた際に気がつきました……


 そして皆さん、メリークリスマス!私は例年通り半額ケーキと半額チキンを食べて過ごします(笑)


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