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第284話 リリーと継承された力


 約1週間ぶりの投稿。ここまで日にちが空いたのはもしかしたら半年以上……え?1年ぶり?

 とある部屋の中。その部屋からは独特なハーブの香りがする。しかしそれは人が嗅いで良い香りのする類のものでは無い。その部屋の壁一面に陳列されている本を虫喰いから守るために焚かれた虫除けの香りだ。


 そんな部屋の中からはカリカリと何やら物音がする。そこでは1人の少女が今も夢中になって本を片手にノートへ何かを書いている。そんな少女の元へ1人の女が静かに近づく。少女は女の足音には全く気がつかない。そしてその女はその少女の肩を掴んだ。


「リリー様!今は虫除けの香を焚いているのでこの部屋に入ってはいけません!」


「あ、ごめんなさいメリアッド。どうしても気になっちゃって。それに私この香り好きよ?」


「好きでもダメです!人に害のないよう作られた香ですが、万が一のこともあります。さぁ、部屋から出て少し運動してきてください。」


 そういうとぶーたれながらも渋々リリーは部屋を出て行った。リリーはふてくされながらそのまま歩き続けて屋敷の外へ出る。


 屋敷の庭には辺り一面に花々が咲き乱れている。大半は以前のリリーの身体を治すためにリカルドが集めた薬草だ。最近ではリリーが気に入った花を自分で育てているため、種類が増えている。


 これだけ数多くの植物があると管理が非常に大変だ。しかしリリーはこの1年以上の間にそれぞれの植物の薬効や育成方法など全て頭に叩き込んだ。


 リリーはあの呪いのせいで何年もの時をベッドの上で過ごした。そのせいで精神面も幼いままであったのだが、日々の勉強のおかげで肉体年齢と精神年齢が見合ったものに近づいている。


 そんなリリーの元に使い魔が近づいてきた。リリーの世話役を買って出たプリーストである。リリーが勉強していた間、プリーストは庭の手入れをしてくれていた。


『プリースト・おや、リリー様。蔵書の確認はよろしいので?』


「メリアッドに香を焚いているからって追い出されちゃった。それで外に出て運動してきなさいって。プリースト、少し付き合ってくれる?」


『プリースト・もちろんでございます。それでは……かくれんぼでもしましょうか。』


「やった!それじゃあ私探すからプリーストは隠れてね。」


『プリースト・はい。今回も10分以上隠れ切ってみせますよ。』


 そういうとリリーは椅子に座り数を数え始めた。プリーストはすぐに隠れ始める。こうして、かくれんぼで喜んでいるリリーを見るとやはりまだ子供なのだと思う。


 そしてプリーストが隠れ終え、リリーも時間を数え終えたのだが、何故か一向に目を開けることも、探し始めようと立ち上がる素振りもない。するとリリーは小さく息を吸い込んだ。


「探せ……草の根分けてかの者を追え…草の揺らめき…汝らが見たものを写せ…」


 リリーはその場で魔力を放出させると周囲の植物はまるでネズミや虫のように地中から根を引き抜いて歩き始めた。


 これは植物系の精霊魔法の一種であるが、その中でもひときわ珍しい眷属化の魔法である。己が魔力を媒介に植物を一時的に擬似精霊に変えて意思を持たせるこの精霊魔法は上位精霊でなくては使えない。


 しかしリリーは肉体を精霊化はしていない。本来精霊魔法は精霊、もしくは肉体を精霊化した者でなければ使えない。そんな本来使えないはずの精霊魔法が使えるのはリリーが今も手に握っている世界樹の枝による影響だ。


 この世界の世界樹はすでに失われている。だからリリーの持っている世界樹の枝はスマホの中で成長した世界樹だ。その世界樹の枝によってリリーはこの世界の人間唯一の世界樹魔法が扱える。そして今使っている精霊魔法はその世界樹魔法の副産物のようなものだ。


 世界樹の持つ力は精霊の力に酷似している。もっと正確に言うのであれば精霊魔法の上位にあたる魔法だ。そんな世界樹魔法が扱えるのであれば精霊魔法も問題なく使える。


 リリーが用いた魔法により植物たちは周辺の感知を行う。この感知魔法は実に精巧で確実に対象を発見する。しかしリリーは5分経ってもまだプリーストを発見できずにいた。


 それはリリーが精霊魔法をまだ扱いきれていないという点もあるが、プリーストの隠密能力の高さによるところでもある。プリーストは毎日のようにリリーとかくれんぼをしていたため、その隠密能力が高まっているのだ。


 聖職者とは思えないプリーストの隠密能力とリリーの精霊魔法の対決は13分間隠れ仰せたプリーストに軍配が上がった。


「あ〜〜…また負けちゃった。最近全然見つかんないなぁ。」


『プリースト・いつにも増してリリー様の感知能力は高かったですよ。私は仲間たちからの情報で隠密に必要な技術を伝授されていますから。知識の差でまだ私の方が一枚上手です。』


 プリーストは隠密技術を、使い魔経由でナイトから教授されていた。ナイトの隠密能力は魔帝クラスの中でもトップクラスだ。そんなものをわずかでも覚えればリリー相手には十分通用する。むしろそんなプリーストを13分で見つけられるリリーの能力の高さを評価できる。


「ね!もう一回!もう一回!」


『プリースト・わかりました。ではもう一度…』


 その後3戦もするとリリーの魔力と精神力が消耗され継続が困難になった。初めのうちは2戦もすると限界を迎えていたので十分成長していると言える。するとリリーは椅子に座ったままウトウトとし始めた。


 そしてそのままゆっくりと瞼を閉じ、眠ってしまった。よほど疲れてしまったのだろう。プリーストはそんなリリーに毛布をかけようと考えたが、その判断をやめた。毛布をかければ暖かいだろうが、今日の気温はそれなりに低い。このまま外で寝かせては身体に障ると考えた。


 そこでプリーストは人型魔導科学兵器を取り出して搭乗する。あの戦争の時よりも改良が加えられ、滑らかな動きを実現したそれでリリーを抱きかかえて屋敷の中へ向かう。道中で会う人には驚かれたが、すぐにリリーが寝ていることに気がつき口を閉じる。


 そしてプリーストはリリーを部屋へと連れて行き、ベッドの上に寝かせ、部屋を後にした。すると部屋を出たプリーストの視線の先にリカルドが立っていた。


「その姿はやはり慣れないな。プリースト、リリーは部屋か?」


「はい。現在は眠っておられるので用事があるのでしたらしばらく待ってからお願いします。」


「そうか。それにしてもその声も慣れんな。いつものように振舞ってくれた方がまだ良い。」


「もう少し音声サンプルが手にはいればそんなこともなくなるとは思いますよ。この機体にも慣れないといけないので今日はこのまま外で土いじりでもしようと思います。」


 この人型魔導科学兵器の声は今まで撮影した人物の音声データを組み合わせて作った人工音声である。まだサンプルが少ないため、音声にムラがあり、なかなか聞き慣れない。するとそのまま庭に出ようとしたプリーストをリカルドが止めた。


「実はリリーのことでドワーフたちが数人やってきたんだ。それもハイドワーフの重鎮がな。」


「そのような方々が一体なぜ?まさかリリー様を愛でるためではないですよね?」


「実はな…リリーが母の巫女姫の力を継承している可能性があるとのことだ。長らく継承者のいなかった巫女姫を妻が継承し、その後継にリリーを選んだ……本来巫女姫の力は正しき継承の儀を行わなければならないはずなのだが、なぜか上手くいった可能性があるとのことだ。」


 リカルドの言う巫女姫の力というのは、ドワーフにのみ伝わる特別な能力のことだ。森に生きるエルフと違い、炭鉱や鉱山で生きてきたドワーフは採掘中に不思議なものに出会うことが度々あった。


 古の都の残骸や、いつから存在していたかもわからない地下帝国の残骸。そんな中、かつてドワーフたちは一つの遺跡を見つけた。それは人が立ち入ってはいけないと感じさせるほどの神聖な地。そこで一人の女のドワーフが強大な力を授かった。


 それが巫女姫と呼ばれる力。その力は封印や浄化に特化しており、力を授かるだけで魔王クラス、魔帝クラスに至れるだけのものであった。ドワーフたちは何代も何代もその力を継承し続けてきたが、ある時気がついた。巫女姫の力が弱まっていることを。


 これほど強大な力を継承さえすれば授かれる、なんとも容易いものだと考えられていた力だったが、その力は消耗することしかできず、力を回復することができなかった。そもそも何のために、この巫女姫の力があるかわかっていなかった。


 だからドワーフたちは巫女姫の力の継承をやめた。やがて必要になるその時のために。


 しかしそんな力をリリーの母は継承した。理由は簡単。ドワーフたちの気まぐれだ。ドワーフたちとしても長らく継承をやめていた巫女姫の力がどの程度残っているか知っておきたかったのもある。


 そして再び継承された巫女姫の力は全盛期近くまで回復していた。どうやら時間とともに回復してくれるとわかったドワーフたちはリリーの母に巫女姫の力を好きに使わせた。


 そしてその力を今度はリリーが継承した。それはドワーフたちとしても一大事であった。なんせ再び巫女姫の力の継承をやめて力を蓄える必要があると考えていたからだ。


「つまり…リリー様から巫女姫の力を取り返しに?」


「いや、私もそう思ったのだが、そうではないらしい。巫女姫の力は強大であるためリリーの体に何か起きる前に耐えられるようにしてもらおうと考えたようだ。リリーが巫女姫の力を継承しているのがわかったのも、つい最近祭壇の掃除をしているドワーフにお告げが来たらしい。こんなことは初めてだからどうしたら良いか分からずここに来たということだな。」


「なるほど。まあドワーフの方々がリリー様に何かするとは考えられませんからね。ではしばらくその方々と話をしても?リリー様が起きるまで時間があるでしょうから。」


「それもそうだな。向こうも疲れて寝ているといえば待ってくれるだろう。」


 プリーストとリカルドは待っているドワーフたちの元へ向かう。リリーが目覚めるまではまだしばらくかかるだろう。時間稼ぎのためにその手に酒瓶を持って歩き出した。



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