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第281話 使い魔と社員旅行


 のんびり回が続きます。

「はーい、皆さん準備良いですか?まだ来ていない人はいませんね?」


「大丈夫ですティッチ先輩!」


「それじゃあ4号車準備オッケーです。他の車両は大丈夫ですか?」


『マッシュ#3・他車両も準備オッケー。それじゃあ出発するよ。』


 魔動車のエンジンがかかる。魔導装甲車と違い装甲板はなく、丈夫なバスくらいのものである。50人乗りのこの魔動バスは定員ギリギリまで乗せている。そのまとめ役はルシュール領のミチナガ商会で出世して3号店の店長を任せられているティッチだ。


 他の車両にもミチナガ商会で働いている人々が乗り込んでいる。これから数日間、ルシュール領のミチナガ商会の店員の半分は使い魔主催の9泊10日の社員旅行だ。移動だけで往復6日使うのでこのくらいの長期旅行にしないと社員旅行ができなかったのだ。


 なぜこんな社員旅行を企画したかといえば従業員たちが冒険者を見て、あんな風にどこかへ行ってみたいというのを聞いた使い魔が面白がって社員旅行を企画したからだ。さらに都合の良いことにミチナガつながりでルシュール領とブラント国が貿易提携を結び、街道整備を行ったからでもある。


 つまりこの社員旅行の行き先はブラント国だ。ミチナガが移動した時は馬車で2週間はかかったが整備された街道に加え、この魔動バスがあれば3日もあれば到着する。


 早速走り出した魔動バスはすごい速度で進んでいく。道中には他にも商人の馬車や街道の警備に当たっている人々がいる。そうなれば事故も起こりそうなものだが、街道を広く作った上に魔動バイクに乗った使い魔たちが先行して通り道を開けている。


 それから半日ほど走り昼頃になると昼食をとるために魔動バスは停車する。その停車した場所は街道沿いにあるミチナガ商会の料理店だ。街道ができたことで交通量も増えたため、街道沿いに食堂や宿が作られるようになったのだ。ミチナガ商会も同じように食堂兼ホテルを作った。


 すでに到着は使い魔経由で伝えられていたためすぐに昼食が提供される。どれもシェフが作った逸品だ。1時間半ほど休憩をとると再び魔動バスは出発する。そして夜は再び街道沿いのミチナガ商会のホテルに全員泊まる。


 ただ移動するだけでも疲れがたまるはずなのだがそれでも全員大いに喜んでいる。今回は申請すれば家族まで連れてくることを許可したため、これが初めての家族旅行になったものたちも多い。


 ホテルでは全員宴会騒ぎで大いに楽しんでいる。また明日も移動のため朝が早いというのに御構い無しだ。そして翌日も同じように魔動バス移動をし、ホテルに泊まりその翌日の夕方ごろ、ようやく目的地であるブラント国にたどり着いた。


 初めて見るブラント国に歓声が上がるもの半分、元冒険者で何度かブラント国にきたことがあるものは懐かしいと感慨深そうにしている。一応現在もA級冒険者であるメリリドは子供達にブラント国を見せているのだが、あまりにも様変わりしたブラント国に自身も驚いている。


「うわぁ…ブラント国って発展しているんですねぇ…おっきな建物がいっぱい……」


『マッシュ#3・え〜目的地まであと30分ほどです。皆さん降車の準備を。ちなみに今日泊まるホテルはえ〜っと…ブラント国で3番目に高いビルの最上階です。一番上から10階貸切にしたから好きにして良し!明日明後日は自由時間だから観光は明日まで我慢するように。』


「え!3番目って…あ、あれですか!だ、大丈夫なんですか!そんなお金!」


『マッシュ#3・まああのビルほとんどうちのビルだから。向こう側3つはもう売り払っちゃったけどね。』


 マッシュの眷属の言葉に驚愕しながら魔動バスはブラント国の検問所に到着した。ここから一人ずつ検査にかかるため入国まで時間がかかる。誰もがそう思うとこの検問所の責任者らしき男が近づいて先頭の1号車の運転席の隣に立った。マッシュが窓を開けると男は敬礼する。


「お待ちしておりました!予定時刻ちょうどであります!それではどうぞお通りください!」


『マッシュ・ありがとう。仕事ご苦労様。』


 それだけ言うと魔動バスは検問所を通過していく。検査など何もない。マッシュの顔パスだ。従業員たちはこのブラント国でミチナガがかなりの権力を握っていると言う話は聞いていたがまさかここまでとは思ってもみなかった。


 泊まる予定のホテルに到着すると数十人のホテルマンが並び立ち到着を出迎えてくれた。そのままホテルの最上階まで案内される。最上階は食事会場だ。そして全面ガラス張りで外の景色がよく見える。


 そこからはブラント国の全て、いやブラント国周辺全てが見えるほどの絶景だ。そしてちょうど沈みかけている夕日が世界を茜色に染めていた。


『マッシュ・それじゃあこれから部屋の鍵を渡していくからどんどん受け取って部屋に移動するように。夕食は2時間後ね。お風呂は共同大浴場が25階にあるからそこに入っても良いし、部屋風呂に入っても良いよ。共同大浴場は他のお客さんもいるから静かに使うように。』


「「「はい!」」」


 全員興奮しながら部屋の鍵を受け取るとすぐに部屋に移動する。部屋は広々と作られており部屋でゆっくりするだけでも十分楽しめる。本来上階10階はスイートクラスだ。一泊するだけで金貨数枚飛んでいく部屋を大胆に貸し切って従業員とともに楽しむなど異常だ。


 そんな中、同行した使い魔のマッシュは一人ホテルから出て足早に何処かへ向かった。向かった先にあるもの。それはこの国で一番高い高層ビルだ。そしてマッシュはなんの迷いもなく最上階に移動する。


 使われているエレベーターは研究に研究を重ねられた魔導エレベーター。重力魔法を利用することでより素早く、そして揺れを抑えたこの世界トップクラスの速度と乗り心地を誇るエレベーターである。


 到着した最上階はまるまる1フロア、部屋に改良された特別室である。そこにはこの国を牛耳っている4人がいた。


『マッシュ・今到着しました。それにしてもすごい発展ですね。』


『ブラドウ・見事なものでしょ。それから道中の道はどうだった?かなり頑丈に作っておいたけど。』


『ブラン・ホテルもなかなかなものでしょ。ユグドラシル国で入手した高層ビルの設計図を基に作ったんだけどね、魔法があるおかげでかなり丈夫なビルだよ。大砲打ち込まれても窓一つ割れない強度だからね。』


『マッシュ・道は走って見た感じかなり安定していました。ただ今後のことも考えるともうすこし道路の幅を広くするか、いっそのこと魔導バス専用道路を作るのもありかと思います。ホテルは皆喜んでいましたよ。』


『ラント・みんな喜んでいるようで何より。ああ、この国の観光マップ完成したからあとでみんなに配ってあげて。』


『ランファー・それからうちの牧場の直営店行くなら店員にいくつか商品の取り置きさせておいたから。最近すぐに売り切れになるからみんなが買えるようにちゃんと確保しておいたよ。』


『マッシュ・何から何までありがとうございます先輩方。それにしても…こうして自分の目で見ると改めてこのブラント国ではミチナガ商会の地位が確たるものであると実感します。』


『ブラン・この国でミチナガ商会は大商会だって言われるようになったからね。それを僕たちが潰してしまっちゃダメだ。ブラント国王も僕たちがここまで大きく成長したから税収が上がって随分楽しく満喫できているみたいだよ。おかげでカイの被害者に対して支援金が問題なく払えているしね。』


『ラント・まだカイの被害にあってから何年も経ったわけじゃない。まだあの時の傷が癒えていない人が多くいるからね。彼女たちの面倒を見ている教会には感謝しているよ。仕事も少し斡旋しているからそのうち社会復帰できるんじゃないかな。』


 ミチナガ商会はこのブラント国に強く根付いている。このブラント国にある数多の商会の中でミチナガ商会は大差をつけて利益を得ている。さらにその利益を用いてブラント国で様々な建築物のテストを行っている。


 今セキヤ国に建築されている家々もこのブラント国で何度か建築していたことがあったためすんなりと立てることができた。このブラント国で色々と建築テストを行っているためミチナガがいた頃とは街並みが様変わりしている。


 それもこれも洗脳の能力を持った異世界人カイのせいである。カイによる被害でブラント国の人々は他国へ逃げてしまい人口は大きく減った。その際に空き家となった家屋を大量買収してブラント国へ資金援助をした。そして買収した家屋を潰してビルや新しい建築物を立てたのだ。


 そして発展を遂げて、この高層ビルが建ち始めると人々はブラント国へ集まってくる。ブラント国の発展を知り今後のブラント国はさらなる発展を続けていくと感じたのだ。さらにミチナガ商会で優秀な人材を積極的に高待遇で雇っているため、日々技術力も増している。


 しかしこのブラント国の発展のせいで周辺国の人口減少が日々続いている。そしてブラント国は人が増えれば増えたぶんだけ発展していくため、周辺国は人材の流出が止まらない。これだけ人口が増え続けても、今でも様々な公共事業をブラント国、ミチナガ商会共同で行っているため仕事はいくらでもあるのだ。


 あと数年もしたらブラント国はこの一帯で一番の王国になるだろう。この発展はすでに勇者神の元へも知らされており、近々鉄道の開発を行われるようだ。


 これだけ大きく発展を続けていくブラント国。そしてそこには必ずミチナガ商会がいる。そしてミチナガ商会はこのブラント国を救った恩人でもある。もうこの国でミチナガ商会を悪く言うものたちは新しくやってきた商人くらいなものだろう。


 しかしどんなに悪く言っても決して手は出さない。いや出せないと言った方が正しい。それだけ強大な組織にこの使い魔4人は変えたのだ。


『ブラン・さてと。それじゃあしばらくは時間あるんでしょ?食事でもしながらルシュール領のことも聞かせてくれる?マザーを通して情報は伝達されるけどさ、やっぱりこうして顔を合わせて話すって楽しいし。』


『マッシュ・ええ、向こうのことは眷属たちに任せてありますから。とは言っても僕が知っているのはキノコ工場と一部のミチナガ商会のことだけですけどね。死の湖の石油産出のことはオイルに聞いてください。あっちは来月もう半分のミチナガ商会の従業員連れてやってきますから。』


『ランファー・僕としてはそのキノコ工場のことが気になるけどね。今こっちの牧場では牛、豚、鳥を育てているんだけどさ。その家畜の糞を使って農業も始めようと思うんだ。今でも簡単なのはやっているけど、なんか面白いのやりたくて。キノコ工場の技術で何か使えそうなのないかな?』


『マッシュ・そう言うことなら。うちでは木材の加工時に出る木屑とですね…』


 街の光に照らされながらこの国で天に輝く星々に一番近いところで雑談が始まる。いつでもスマホの中で顔をあわせることはできるのだが、やはりお互いに多忙な身であるためゆっくりと話せることはあまりない。


 彼らの雑談会は朝日が登るまで続き、また仕事があるからとスマホの中に戻って眠りについた。



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