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第279話 使い魔とメリア1

「おい、そっちの薬品貸してくれ。」


「まだこっちも使っているから待って。……よし、これで大丈夫。視察今日よね?」


「そうだ。俺たちの成果を見せる時だ。」


 とある研究所。そこでは日夜研究者たちが薬品の調合を行なっている。しかし今日は普段と違い全員がそわそわしている。今日はお偉いさんが来てこの研究所の視察を行うのだ。成果物も問題ないように厳重に保存されている。


 今か今かと待っていると駆け足で男が一人やって来た。その男は対して走っていないのに息が上がっている。緊張から呼吸が乱れているのだろう。


「来たぞ!全員整列してお出迎えするぞ!」


 男の合図で研究所職員全員が一堂に会し、綺麗に整列した。緊張の面持ちで待っているとそこへ一人の女がやって来た。研究職員というよりもモデルのようなその女は足早に部屋へと入って来た。


「お待ちしておりました、メリア所長。用意はできております。」


「わかりました。一つずつ確認します。」


 それはミチナガ商会に所属するメリアだ。そしてここはミチナガ商会所有の香水専門の研究所。メリアは香水の試作品のチェックにやって来たのだ。今やメリアはミチナガ商会の化粧品、服飾、モデル産業全てを任せられている。


 そしてその影響力は絶大なものになっている。近年始めたモデル産業によってミチナガ商会の化粧品、服飾品は絶大な人気を誇り、メリアの名もそれに伴って知れ渡っている。この香水も化粧品ブランド、メリアの大事な主力商品となっている。


 すぐにメリアの香水のチェックが始まる。メリアは1嗅ぎするごとに魔道具を用いて鼻についたにおいを消している。そのチェックの速度は凄まじい。


「香りが甘すぎる。これはバランスが悪い。これは私の8番を模倣したものね。変わりばえがないわ。これは……これを作ったのは誰?」


「わ、私です!」


「なかなか良いできよ。だけど製品にするにはまだ調整が必要ね。余計な香りが混ざっている。それにもう少しアクセントが欲しいわね。あなたの腕の見せ所よ。」


「あ、ありがとうございます!」


「試作品はこれで全部ね。それじゃあ会議に移るから移動するわよ。」


「「「はい!」」」


 メリアの指示のもと研究所の職員全員が大会議室に移動する。そしてメリアから現在の香水の売れ行きと今後の研究について数点要望が伝えられる。しかしメリアが重要な話をしているというのになぜか職員たちは落ち着きがない。


「さて、話は以上よ。何か質問がありそうね。」


「あ、あの!現在メリア所長と一部の研究員で行なっている香水研究はどうなったのでしょうか……」


「製品は完成したわ。今度オークションで大々的に売り出す予定。生産数が限られるから普通に売り出すのは無理ね。研究費用も馬鹿にならないし。」


 メリアの言葉で大きなどよめきが起こる。メリアが言っている香水研究というのは金貨数億枚を投資して行なった最高の香水開発のことだ。香水は貴族の間で人気が高いため、貴族や王族向けに超高級香水を作ろうと始めたプロジェクトである。


 研究に数ヶ月、これまで培った香水の知識全てをつぎ込んで完成させた珠玉の逸品である。量産することが難しく、香水1瓶作るのに1週間以上かかる。しかも材料も希少なものばかりのため月に1本しか売り出せない。そんなものに金貨数億枚つぎ込んだため採算を取るのが無謀に近い。


「ちなみに…オークションのスタート価格はいくらにするつもりですか?」


「そうね。軽めに白金貨3枚ってところかしら。」


 いきなりの大金に職員たちはざわめく。白金貨3枚、つまり金貨3万枚だ。現状メリアの香水の最高価格が金貨3000枚であった。その10倍の価値、いや白金貨はその価値が国によって変動する。それ以上の価値があると考えてもおかしくない。しかもそれがスタート価格というのはあまりにも自信に満ち溢れている。


「この話の続きは次のオークションが終わってからにするわ。他には何かないの?」


「で、では私から。実は最近巷にメリアの香水の模倣品が出回っていて……」


 報告によるとメリアの香水の模倣品が安く街に出回っているとのことだ。値段は10分の1以上安くなるものが多く、今の所売れ行きに影響は出ていないが今後出て来る可能性があるため取り締まる必要があるのではないかという。


「すでに商業ギルド、衛兵に声をかける準備はできています。ですから…」


「必要ないわ。」


「え?」


「その報告は私も小耳に挟みました。そして対処する必要はないと判断しました。好きにやらせておきなさい。」


「で、ですが…」


「対処する必要はありません。他に報告することは?」


 その後、細々とした報告を続け会議は終わった。そしてこの会議ののちに数名の研究員は疑念を抱いた。メリアは商品開発においては優れているが商売という面ではどうなのかと。


 そして数日後、ミチナガ商会主催でオークションが行われた。参加者は会場に集まった200人、さらに使い魔の映像通信を用いて他の会場と繋ぎ、計数千人規模で執り行われた。


 まずは前座としてナイトの討伐したモンスター素材が売り出される。これらはどれも質が良いため、高値でどんどん取引される。さらにミチナガ商会の服飾ブランドとして月夜、メリアの新しく立ち上げた服飾ブランドの一点ものも売りに出された。


 どれも高値がつく中、ついにメリアの最高級香水がオークションにかけられた。スタート価格が白金貨3枚ということで男たちからは嘲ける声がうっすらと聞こえた。しかし女性陣にはそうではない。すぐに価格が更新されていく。


 価格は様子を見るようにゆっくりと上がっていき、やがてその価格は白金貨47枚で止まった。メリアの最高級香水が初値で白金貨47枚まで上がったことに喜ぶ研究員一同。そんな中メリア自身はこの値段に満足していないようであった。


「メリア所長!白金貨47枚ですよ!化粧品でこれほどの高値がついたのは初めてのことです!」


「そうね…この倍は行くと思ったんだけど……私もまだまだね。」


「え、えぇ〜〜……」


 メリアの香水がオークションで売られた頃、街中では異変が起きていた。メリアの香水のコピー品の廉価版が町中で話題に上がっているのだ。それもその話は日に日に大きくなり、そこら中から香水の話が聞こえて来るのだ。


「うちも買ったわよメリアの香水。まあ安いやつだけど。」


「私も買ったわよ。安いって言っても結構いい香りよねぇ。わざわざあんな高い値段出して買う必要ないわよ。」


「高けりゃ良いってもんじゃないわよねぇ。」


 あまりにも大きくなった騒ぎはもちろん従業員の耳にも、研究員の耳にも届いた。もっと早く対処していればこんなことにならずに済んだものを。そう悪態をついてももう止めようがない。研究員達は仕方なく安い材料で香水を作れるように努力を始めようとした。しかし…


「何をしているの?…コストカットのための材料選び……こんな無駄なことをしている暇があったら新商品の開発を急ぎなさい。」


「で、ですが所長!今では町中で廉価版の話が…」


「好きにやらせておきなさいと命じたはずです。」


 メリアの一蹴で廉価版開発はすぐに中止された。研究員達はこれではメリアに未来はないのではと見切りをつけ始めたもの達もいる。このままここで働いていてもそのうち採算が取れなくなりクビになると。





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― 新着の感想 ―
[一言] 高級ブランドの客層鑑みれば、スルーで妥当なんだけどね……。貴族が廉価版なんて使ってたら下に見られるし、元々の価格じゃ庶民は買わないし。 客層じゃない所が関心を持てば、いずれその中の意識高い(…
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