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第278話 ナイトとムーンと地獄の入り口

『ムーン・はい軽食。冷たい飲み物ばっかりだとお腹に良くないから常温のお茶も飲んでいきな。今回の休憩は…6秒だね。前方からS級の群れ。数300。』


「…問題ない。」


 ナイトは瞬時にムーンから渡された食事を飲み込む。そして再び突撃するとS級モンスターが宙を舞った。あれだけの数だというのに全てのモンスターが急所を一撃で破壊されている。ムーンはすぐに眷属たちにモンスターの回収を行わせる。


 ナイトとムーンがこの洞窟に潜り込んでからすでに3週間。初めのうちは侵入して来たナイトに気がついたモンスターたちが押し寄せて来たので移動もできなかった。しかし3週間も倒し続ければその怒涛のラッシュも終わる。そしてようやく洞窟の奥に向かって移動を始めたのだ。


 奥に進むに従ってモンスターの強さは増していく。そしてそれに伴い価値も増していく。すでにスマホの中に送られたモンスターの値段はセキヤ国の国家予算と同等だ。そして何よりこの辺りのモンスターは全て炎熱系。炎熱系のモンスター素材というのは利用価値が高く、人気がある。


 現在ミチナガ商会を通して世界中で販売しているが大きな値崩れも起こさず、順調に売れている。本来炎熱系のモンスターというのは生息域が限られており、数も少ないのだ。


 そしてその後も潜り続けること数日。洞窟内の温度が急上昇し、かいた汗がすぐに蒸発するほどになった頃、懐かしい光景が現れた。


『ムーン・炎龍だ。懐かしいね。ユグドラシル国のドワーフ街に作った高炉の素材になったやつ。すっごい珍しいから探し求めても出会えるかどうかわからないっていう話だったけど…群れできたね。』


「ああ…初めて見た。」


『ムーン・1、2、3…10はいるね。あ、まだ後ろから来てる。あの素材欲しいなぁ〜〜…』


「問題ない。」


 そういうとナイトは駆け出して炎龍との戦闘を始めた。お得意の罠魔法を使えばすぐに方がつけられそうなものではあるが、素材を傷つけないために全て素手で倒している。だが以前炎龍と対峙した際はさすがに素手だけでは難しく、いくつか魔法を行使した。


 しかしそれが今はどうだ。炎龍と素手だけで渡り合えている。いやそれ以上だ。あの時よりも筋力も増し、さらに以前対峙したあの法国の武術家の技をいくつか覚えたため、素手での戦いが数段増している。


 元々武術の一つも知らず、腕力だけで戦っていたため武術の技を少し覚えるだけで随分違う。その後3日かけて炎龍十数匹を倒し終えた。どれも状態は良く、高値がつくこと間違いなしだ。


『ムーン・いやぁこれだけの炎龍どこに売ろうかなぁ。セキヤ国にも1つ…2つくらい回してうちで使うのを5つほど。あとはアレクリアル様のとこかな?海神と氷神の所は使い道なさそうだし…神剣のとこは買ってくれるかも。さて、とりあえずこっちは良いとして…あれは何?』


「わからん…気を抜くな。」


 ナイトが警戒心を高める。ナイトがここまで警戒するのは余程の強敵だ。ムーンはすぐに調べるがなかなか情報は出て来そうにない。


 大きさは先ほどの炎龍の倍、放熱している熱の温度は数倍、そして発する魔力から察するに実力は炎龍の数十倍。間違いなく楽に勝てる相手ではない。そしてムーンは使い魔の情報網から敵の大まかな情報を入手した。


『ムーン・勇者神の大図書館にそれらしき情報があったよ。9大ダンジョン煉獄のムスプルヘイムの最奥にしか生息していない煉獄龍。討伐記録はあるらしいけど……もし倒せたら討伐記録の5本の指に入ると思うよ。』


「そうか…楽しみだ。」


『ムーン・このバトルジャンキーめ。人前でその顔しない方が良いよ。圧だけで人が死ぬよ。』


 ナイトと煉獄龍との戦いが始まる。先手はナイトの高速移動からの右腕による正拳突き。人が殴ったとは思えない音を発したと思うと急に気温が上昇を始める。すでにこの辺りの温度は炎龍との戦いで1000度を超えている。ムーンもナイトの魔力壁を纏っていなければ即座に燃え尽きている。


 しかしそれを超える高温。ムーンはすぐにその場から退避を始める。ナイトもムーンを庇いながら戦うには強敵すぎる。徐々に周囲の足場が溶け始める。まともな足場は残っていない。ナイトは魔力で足場を生成するが体外に放出した魔力があまりの高温に耐えられず徐々に霧散していく。


 ナイトは試しに罠魔法を使ってみるが、空間にまともに残しておけるのは数十秒。さらに今後温度が上がればもう罠魔法は役に立たないだろう。煉獄龍を倒す手段が徐々に削られていく。こんな空間すべてに影響を与えるほどの熱を放出し続けて平然とした顔をしていられるのは煉獄龍の強さを物語っている。


「そうか…あまり使う気は無かったが……仕方ないようだ。」





『ムーン・いやぁ暑くて暑くてしょうがないよ。まともに近づけるようになるまで3日はかかったね。それで…これどうするの?素材に使いにくそう。内臓系もボロボロだし。』


「強かった。」


『ムーン・満足いただけて何よりだよ。水飲んどきな。使える部分は全部回収しておくから……次のお客さんもお願いね。今度は内臓系はしっかり残しておいて。』


 ムーンの眼前。そこには手足をもがれ、胴体がいくつも分かれている煉獄龍の亡骸があった。そしてその奥から新たな煉獄龍が3体群れをなしてやって来た。しかも先ほどの個体より体が大きい。どうやら個体差があるようだ。そして今戦ったのは一番弱い個体ということらしい。


 はっきり言って絶望的状況。ナイトもこの連戦で疲れている。次の戦いに向けてコンディションは悪いというのに、ナイトは笑っている。これだけの苦境、死を感じさせるほどの境地にいるというのにナイトは満足そうに笑っている。


 ナイトにとってこれはまだ準備運動だ。なんせこの最奥からは目の前にいる煉獄龍よりもはるかに恐ろしい何かの存在を感じる。それと戦うその時までは全てのモンスターが準備運動でしかない。


 ナイトは雄叫びをあげて再び煉獄龍との戦闘を開始する。先ほどの戦いで、ある程度要領は掴んだ。あとはどれだけ素材としての価値を残したまま倒すかだ。


 それからのナイトの戦いは熾烈を極めた。煉獄龍を1体倒したと思うと新たな煉獄龍が現れる。さらに煉獄龍以外の同等の強さを持つモンスターが現れナイトを襲う。さすがのナイトも血を流し肉が削げる。


 しかしナイトは傷ついた側から瞬時に魔力を集中させ傷を癒す。ちょっとした傷がパフォーマンスに影響を与える。そしてその影響が死につながる。ナイトは怪我の治療、魔法の行使、攻撃の回避、戦闘の組み立て全てを同時に思考する。少しでも計算ミスがあればすぐ死に直結する。


 その後もナイトは戦い続け、ムーンは食事の用意、その眷属は倒したモンスターの回収、そしてスマホの中では使い魔達が四六時中討伐されたモンスターの解体、そして販売が行われていく。


 そしてナイトが目指すこの洞窟の最奥。地獄の底のようなその場所ではナイトの来訪を待つ怪物が眠っていた。


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