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第272話 変わりすぎた未来

『リュー・また新しい同盟加入希望者来たよ。書類まとめておいたから。』


「ああ、リューくんありがとう。こっちももう少しで終わると思うから…」


 アンドリュー子爵はあれから毎日のように加入者の対応に追われている。本当は好きな釣りをしたいのだが、せっかく立ち上がったアンドリュー自然保護連合同盟のために毎日勤しんでいる。


 また仕事の合間にアンドリュー自然保護連合同盟の加入者へ向けた会報を作成している。とはいっても会報の内容は基本的なアンドリュー自然保護連合同盟の方針と自然保護のために行う活動内容くらいなものだ。


 アンドリュー自然保護連合同盟の行うことは自然保護区の設定、並びに自然保護区への保護活動だ。自然保護区の設定とどう保護していくかは今後会員と協議し決めていく。まだできて間もない同盟であるため、決めるべき点が数多くある。そのあたりは慎重に決めていかねばならないため、慎重に考えをまとめている。


 それから会報にはアンドリュー子爵の特別映像がついている。それからサイン付きオリジナル本もだ。もちろん内容はアンドリュー自然保護連合に関するものだ。しかしこれだけ聞くとアイドルなどの後援会のようだ。


 まあこのまま何もしなくては本当に後援会になってしまう。そのため今度会合を開く予定だ。会合はこの加入者ラッシュが終わり次第開く予定ではあるのだが、もう少し時間がかかりそうだ。



 それから一月後。初めてのアンドリュー自然保護連合同盟の会合が行われた。しかし会合の場には人の姿はない。あるのはアンドリュー子爵と使い魔たちだけだ。すると使い魔たちから光が投影される。そこにはアンドリュー自然保護連合同盟の会員たち、諸国の国王が映し出されていた。


『おおこれは…』


『なんと便利だ。』


『これは魔神たちの大国で使われる転移投影魔法か?』


『あれは不完全な魔法だ。どんなに複雑な魔法にしても横から読み取られる可能性がある。』


『これも読み取られるのでは?』


『…実は失礼を承知で我が国の解析魔法をかけております。今その報告が……なんと素晴らしい。解析に失敗したようです。この投影に使われる魔法はあまりにも高度で難解です。読み取りはまず不可能かと…』


『貴国の解析魔法で失敗するか…一体どこの魔法学なのか…もしやかつての古代文明の魔法?』


「ああ、皆さん。興味をお持ちのところ申し訳ありません。その…話を始めさせていただいてよろしいでしょうか?」


『アンドリュー子爵だ!』

『おお!本物のアンドリュー子爵!』

『おい!皆静かにしろ!申し訳ありません。お話を始めてください。』


「ありがとうございます。ゴディア国王陛下。それではまず始めに…皆様に感謝の言葉を。私のような若輩者にこのような大役を与えてくださいましてありがとうございます。私の思いに賛同して集まってくださった皆様には感謝の申しようがございません。そして皆様からの期待に応えるべく励まさせていただきます。」


 アンドリュー子爵はさっそく本題に入り今後の方針、そしてアンドリュー自然保護連合同盟加入者に対する規則と法律を定めた用紙を使い魔経由で全員に送る。そしてここからが本番だ。受け取った会員の皆はその用紙を読んでそれに対する質問、及び改善点を意見する。


 アンドリュー子爵は早速きた質問に対しすぐに返答する。その返答した答えはその場にいる全員を納得させた。その後も質問と意見が次々とアンドリュー子爵に寄せられるが全てに対応してみせる。


 そのあまりにも完璧な対応ぶりに思わず感心したと言わんばかりの声が漏れる。このアンドリュー自然保護連合同盟の初の会合。これは今後に関わる、いやこの連合同盟の存続にも関わる重要な会合である。


 この連合同盟の加入者の中にはアンドリュー子爵からこの連合同盟の同盟長の座を奪おうと考えていたものたちもいた。自然保護には興味もなく、ただ巨大な組織を我が物にするために加入してきたものたちが多くいる。


 しかしアンドリュー子爵はそんなものたちでさえも納得させ、自身の有能さを見せつけた。もう誰もアンドリュー子爵をナメてはいない。多くの国王たちの前でアンドリュー子爵はこの連合のトップであると示して見せたのだ。


 その後、自然保護区を設定し、次の会合の日時を決めて数時間に及んだ初めての会合は終了した。アンドリュー子爵の表情には疲労と、それ以上の達成感が浮かんでいた。


『リュー・お疲れ様。完璧だったよ。』


「リューくんがあらかじめ全てつくってくれたからね。私はそれを暗記して答えたに過ぎないよ。」


『リュー・それでもだよ。立ち振る舞い、声の発し方、間の取り方。どれも完璧だった。』


「ありがとう。だけど…さすがに疲れた。部屋で休ませてもらうよ。」


 アンドリュー子爵はふらふらと部屋へ戻っていった。暇になったリューはそのままぶらぶらと散歩をする。すでに外は夜だ。暗く、月明かりだけがこの暗闇を照らす。するとそんな月明かりの下で一人たたずむ女がいた。


『リュー・あれ?どうしたのミラル?』


「ん?…あぁ。リューか。いや…月を見ていただけだ。」


 ミラルは何か考えながら月を見上げる。その表情と白獣の白い体毛が月明かりに照らされ、まるで絵画のような美しさを感じさせる。リューはそんなミラルに近づき、お茶を渡す。ミラルとリューの月を見ながらのティーブレイクだ。


 暖かいお茶は一口飲むだけでホッと息が漏れる。ミラルはお茶を飲んで少し落ち着いたのか、リューに月の下で何を考えていたのか話し出した。


「アンドリュー子爵は…ミチナガがこの世界に来てすぐに出会ったんだな?」


『リュー・すぐって言っても1ヶ月以上経ってからだよ。アンドリュー子爵がどうかしたの?』


「……アンドリュー子爵と言う名は初めて聞いた。我々白獣は未来のために、ミヤマ様から多くの情報を聞かされている。特に未来を託されたミチナガについては多くの情報を聞いた。だが…アンドリューという貴族と出会ったと言う話は聞いていない。」


『リュー・そこまで重要と考えていなかったとかは?もしくはどこかでアンドリュー子爵の情報だけ消えてしまったとか。』


「我々が聞き覚えた未来の情報を失わせることはない。それにアンドリュー子爵とミチナガの出会いは重要だ。貴族との出会いなんて絶対に残すべき記録だ。…まあ私はまだ完璧に預言を教えてもらったわけではない。一度お婆様に尋ねてみる必要がある…」


『リュー・そう言うことならこっちで聞いておくよ。僕たちならすぐだしね。まあ今日はもう遅いから明日にでも聞くよ。それよりそろそろ部屋に戻ろう。今日は風が冷たいよ。』


「……そう…だな。考えても仕方がない。お婆様に尋ねてみてくれ。それで全部わかるだろう。」


 ミラルはリューを抱きかかえて部屋へと戻っていった。考えてもわからないことは考えても疲れるだけだ。ミラルは随分と外にいたらしく、自分の指先が冷え切っている。寝る前にもう一杯リューとティーブレイクする必要がありそうだ。





「アンドリュー子爵かい?そうだねぇ……知らないね。」


『ハジ・ええ!そ、そうなんですか……ミラルさんがきっと何か知っていると思っていたみたいで。』


「そうなのかい?だけどねぇ…そもそも全ての預言を私が託されたわけじゃないんだよ。」


 そう言うとお婆様は語り出した。預言にはいくつもあり、その全てを叶えるためには世界中に散らばって使命をなす者が必要であった。そのためいくつかの預言だけを託されて動いている白獣もいると言うことだ。


 そういった白獣は少なくない。そしてそんな者たちの預言は白獣の村長でもあるお婆様も聞かされていない。だから誰にも知られずに預言を為した白獣もいれば、為せずに死んだ白獣もいる。


 だから預言の全貌を知らないお婆様がアンドリュー子爵について知らないことがあっても別に不思議ではない。しかしそんなお婆様は隠していたことをハジに話した。


『ハジ・え!預言のミチナガと今のミチナガが別物過ぎるって…どう言うことですか?』


「それは私も聞きたいよ。私たちが託されたのはね、ミチナガは疲れ切った様子で、世界に絶望しながらこの地を通るというものだよ。なのに私たちの元に来た時は生き生きとしていた。正直ミチナガが本物か少し疑ったが…まあ本物なのは間違いない。おそらく仲間の誰かが成し遂げたんだろうね。」


『ハジ・疲れ切って世界に絶望?……今までの旅の中に何かそんな要素あったっけ?』


「きっと未来が大きく変わったんだよ。私たちはそのために動いている。しかしあれだね…仲間がどこかで努力して…未来を変えてくれたんだね。こういった形で知ることができて嬉しいよ。」


 その後、いくつか話をしてハジはいつもの仕事に戻っていった。どうやらアンドリュー子爵は特に預言に関係のある人物ではないようだ。まあ今までも特に預言を気にして動いたことはなかったので気にせずに楽しく過ごすだけだ。








「彼の地にて長きに渡る水を求める戦あり。やがて戦は周囲を巻き込む大戦になりにけり。そして戦火は飛び、誰にも止められぬ戦になる。…預言にあったこの戦争は間違いなく……ミヤマ様の預言の中でもこの預言は変えられぬ預言として伝えられて来た。しかしその戦争は止められ、周辺国は一つになった。なんともおかしなものだねぇ…アンドリュー子爵…本当に何者なんだろうねぇ。」



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