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第27話 金貨の秘密

 悔しい。悔しい悔しい悔しい。


 これほど哀れなことがあるだろうか。ウキウキと大儲けができると思いやってきたは良いが結果はこの有様。なんともみっともない。


 これほどみっともない男だ。俺ほどみっともない奴はいないだろう。


「これで商談はお終いですかな?では、ルアーと釣竿の作成費用を引いたぶんのお支払いをしましょう。」


 だから、


「これほど良い商売をしたのは久しぶりですよ。またご贔屓に。」


だからもっと、


「…みっともなくなってやるか。」


「何かおっしゃいましたか?」


 俺はポケットの中のスマホから箱を取り出した。それはファルードン伯爵の保存庫に大切に収められていたコショウの入った箱だ。


「これに見覚えはありませんか?」


「それは……うちの商会の紋章が入っていますね。それとその紋章はファルードン伯爵様の紋章ですね。ああ、うちがコショウをファルードン伯爵様に送った時の箱ですか。それが何か?」


「では…これは?」


 俺は蓋を開けて中身を見せる。数粒のシンドバル商会からファルードン伯爵に売った時の残りだ。


「うちで取り扱っていたコショウですか?こうしてみるとあなたのものよりも随分と品質が悪いですね。当時は手に入れるだけで精一杯なのです。色も少し汚い黒ですがそれでもちゃんとしたものですよ。」


「ちゃんとしたもの?っふ…あはははは!これがちゃんとした黒胡椒だと!そうおっしゃるのですか!」


 俺は声高らかに笑う。いいんだ。みっともないのはわかってる。だけど俺にはこれしかないんだ。やりたくはなかった。俺にだってプライドはある。だけど、だけどもうプライドなんてどうだっていい。


「何がおかしいのですかな?」


「くっくっくっく…ハロルドさんこれを一粒手に取ってください。」


 不審に思いながらもハロルドは一粒手に取り眺める。いたって普通の黒胡椒。普通はそうとしか思えないはずだ。


「これが何か?」


「これは失礼。ハロルドさんは俺みたいな小僧程度の商談では手汗の一つもかきませんな。」


 俺は一粒の黒胡椒を手に取る。俺の手は汗でベトベトだ。普通香辛料を扱う際には水分に気をつける。余計な水分で香りが飛んでしまうからだ。だからこそ気がついた。俺みたいに無神経だったからこそ。


 さて、俺はコショウをスマホのファームファクトリーのアプリ内で育てた。その種となったコショウはファルードン伯爵のものを借りた。この目の前にあるこの黒胡椒だ。

 そして以前俺は言った。黒胡椒とは未成熟の胡椒の実を乾燥させたものだと。


 ここに矛盾が生じる。未成熟の種を植えたところで芽は生えない。成熟した種が芽をつけるのだ。では、この矛盾を解決する方法は?


 コショウは実際に育っている。つまり種は本物だ。しかし種は黒い。成熟したコショウの実は赤いはず。つまりこの矛盾を解決するには。


「い、色が落ちて…」


「これは黒胡椒ではないんですよ…」


 この黒胡椒が偽物ということだ。


「ば、バカな!そんなことあるはずがない!」


「こちらではこの成熟した赤い実を使った白胡椒はあまり知られていません。先日、貴族の方々に提供した時も知っている人はいませんでした。だからでしょうね。運んできた商人は、一生懸命高く売れると信じて持ってきたコショウを泣く泣く黒く染めたんです。料理に使えばバレそうなものですが、細かくしてしまえばわかりづらいですから大丈夫だと思ったのでしょう。」


 取引の最中もきっとバレないように手袋か何かさせたのかもしれない。もしかしたら当時はきっちりと黒く染められていたのだが、経年劣化によって塗装が剥げやすくなっていたのかもしれない。

 まあ今更どんな経緯があったかなどどうでもいいか


「さて、ハロルドさん。あなた…伯爵相手に嘘の商売をしたわけですね。」


「こ、こんなもの知らな」


「知らないわけがないじゃないですか。この箱を出した時も、この中のコショウを見せた時もあなたはうちのものだとはっきり言っていましたよね。」


「う…ぐぅ…」


 俺も本当はこんなことしたくはなかった。しかし、あれだけボロボロにやられてしまったのだからしょうがない。俺だってやるときはやってやる。


「さて…ハロルドさん。これで最後の商談をしましょう。このコショウ…いくらで買い取りますか?」


 先ほどまで冷静だったハロルドの額から汗が一筋流れる。今までとは立場が逆転した。


「金貨…5万枚でいかがでしょうか?」


「安すぎますね。金貨10万枚!」


「それはさすがに…金貨8万枚で…」


「これほど大きな商会ならば払えるでしょう?金貨15万枚!!」


 一瞬、ハロルドがほくそ笑んだように見えた気がした。気のせいか?それとも苦し紛れに笑っただけ?なんだろう。


「さすがに…金貨8万でなんとか……」


「私もこれまでの商談で損させられましたからね。今更下げる気なんてありませんよ。そうだ。先ほどまでの商談の差し引きも全て合わせて金貨20万枚にしましょうか。」


 俺がそう言った瞬間。なぜかハロルドは笑い出した。こんなに声高らかに笑い出してどうしたというのだろうか。すると俺の背後にいた護衛が何かに気がついたのか俺に話しかけてきた。


「い、いけません!すぐに値段を下げましょう!」


「は?な、なんで?」


「なんでもです!いいから早く!」


「もう遅いですよ。そちらから言い出した条件なのですから、今更変えるのは無しですよ。」


 一体どうしたっていうんだ?金貨20万枚もらえるんだからいいじゃんか。

 どういうことはわかっていないとハロルドは何やら書類を持ち出して色々と書いている。


「魔法による誓約書です。これを破れば死の呪いが降りかかります。記述内容に問題がなければサインしてください。」


 俺は誓約書を受け取り内容を読んでいく。全くもって問題のない誓約書だ。取引内容、破った場合の罰則など申し分ない。だが、最後の支払いの部分におかしな点が見つかった。


「国法にのっとり流通制限金貨による支払いを行う?」


 どういうことは理解できずにいるとハロルド…の代わりに俺の後ろに控えていた護衛の一人が説明してくれた。


「流通制限金貨とは昔、転移者という異世界からきた人間がこちらの世界でダンジョンを踏破したり、金貨王と呼ばれる男によって大量の金貨が世界中に蔓延したんです。それは世界の金貨による経済を破綻させ混乱に導いたのです。」


「ダンジョンの踏破で金貨?お金はダンジョンから取れるのですか?」


「そうですけど…今はどうでもいいんです!それで世界中に蔓延してしまった金貨の大半に当時の魔神全員と複数の魔帝による封印術が施されたんです。それが流通禁止金貨と流通制限金貨です。流通禁止金貨は国の宝物庫で封印されているものです。これは一切街には出回りません。流通制限金貨は個人や大きな商会が扱うもので基本的には出回りません。しかし金貨20万枚を超える取引の場合特別に運用することが許されているのです。」


「えーっと…何と無く分かりました。つまり俺は街に出してはいけないお金を手に入れたと。」


「そういうことです。しかもその金貨の保管には流出しないように特殊な金庫が必要なのです。土地代に建物代と多数の問題が発生するんです!今からでも謝って金額を減らしましょう!」


「ダメですよ今更。取引は成立したんですから。」


 なるほど、俺はまた調子に乗ってやりすぎたということか。だけど今はなんだか頭がスッキリしている。それに考えてみよう。俺は以前から一つの悩みがあった。


 それは金貨の消費だ。俺が金貨を使用する場合、その金貨は街から、世界から消える。このスマホの中で消費されてしまうからだ。そんなことを続ければ世界からどんどん金貨が消えてしまう。そんなことは避けなければならない。


 しかし今日、新しい事実を知った。それは俺がこの世界に来る以前に異世界人がきていたということ。そしてその異世界人によって大量の金貨が流出したということ。

 この世界においては余分な金貨が大量にある。それは消え去ることに問題が起こるどころか、消え去ることによって問題が解決されるのだ。


 なんというか運命じみたものを感じる。俺がこの世界に来たのって、今まで異世界人によって荒らされて来たこの世界を少しでも元通りにするためなのではないだろうか。


 まあそんなことが義務付けられているとかどうでもいいか。俺は俺の好きなように生きるだけだ。楽しく生きるついでにやれることをやるだけだ。


「別にいいですよ。だけどそんな金貨で商売させるというのでしたらもう少し金額をあげてもいいですかね?」


「ほう?何か策があると。しかし金貨20万枚は大金です。これ以上は値段をあげるつもりはありませんよ。」


「まあそれは確かに。これ以上ふんだくったら夜道が怖いですからね。この辺にしておきましょうか。では先に支払いを済ませましょう。」



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