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第265話 新たなる旅の始まり

「以上が英雄の国までの道中付き添う者達です。全部で94名になりました。」


「これまた随分と……まあ楽しい旅になりそうだ。半数が護衛でもう半数がメイドや執事か。移動手段はあるんだよな?」


『ポチ・魔道装甲車増産しておいたから大丈夫だよ。カモフラージュ用の馬車もあるから何も問題ないと思う。1台に12人乗れるから8台あれば足りるね。』


「しかしミチナガ様、やはり私も…」


「イシュディーンはこの国にいないとダメだって。やらなくちゃいけないことが山ほどあるんだから。任せられるのはお前だけだよ。」


 今回のミチナガの英雄の国への旅路にはイシュディーンのような腕利きは同行しない。なんせ法国の心配は無くなったとは言っても火の国の戦争は続いている。セキヤ国がいつ巻き込まれてもおかしくはない。セキヤ国を守るためには腕利きを残しておかなくてはならない。


 イシュディーンはもちろんそのことをわかっているし、ミチナガに頼られていることを嬉しく思ってもいる。しかしそれでもミチナガの身の安全を第一に考えてもっと腕利きを護衛に入れるべきだと考えている。


「イシュディーンの心配はもちろんわかっているって。だから今回は途中途中で腕利きの冒険者を雇うつもりだ。うまいこと魔王クラスの冒険者のつながりを持てれば何かあった時に役に立つからな。」


「必ずそうなさるようにしてください。本当に…皆が心配しておりますから。」


 ミチナガはイシュディーンの心配を理解した上で、それを解決しながら利益を生む最上の手を考えた。それが道中様々な冒険者を雇うことだ。ミチナガはマック達を雇った経験から冒険者とのつながりを持つのは何かの時に役に立つと思っている。


 そこで今回はA級冒険者以上を雇うことで上位冒険者とのつながりを多く持とうと考えている。うまくいけば準魔王クラスかそれ以上の冒険者を仲間に引き入れることができるかもしれない。金はかかるがそれでもこの出費は価値あるものになると考えている。


 ミチナガは同行者の書類を確認し、判を押すとこれで正式にミチナガの英雄の国への出発の日程も決まった。あとは出発日までに荷物の準備をするだけである。しかしミチナガの場合、基本的なものはスマホの中にある。もし足りなくてもすぐに取り寄せられるため荷物の準備などは必要ない。


 それに必要なことは他の同行者達がやってくれるだろう。だからミチナガのやることは出発のその日まで仕事をこなすことだ。それから街に出ていろんな人に会いに行くくらいなものだろう。しかしこういうことが意外と大事だったりするものだ。


 ミチナガはその日の仕事を夕方までに終えた。あとの時間はゆっくりできると思い、こっそり仕事場から抜け出す。もちろん目指すのは街の居酒屋だ。本来護衛もつけずに街に繰り出すなど危険な行為であるが、セキヤ国にいる人間でミチナガを傷つけようとする輩はまずいないだろう。


 フードを被って街を散策するミチナガは周囲の人の流れを見ながら行く場所を決める。なるべく人の流れの多いところは避けるようにする。ミチナガがいることがバレれば間違いなく騒ぎになる。その騒ぎを小さくするためにも人の少ない方へ向かう。


 本来普通の街では人の少ないところへ向かえばスラム街にたどり着く。しかしセキヤ国にはスラム街は存在しない。常に治安と秩序を守っているため危険な場所というのはない。


 ミチナガはふらふらと歩いて行くと、とある店が目に入った。飲食店のようだがその店には人が少ない。スマホで使い魔達から情報を集めたところ、昨日オープンしたばかりらしい。どおりで店構えから何から何まで妙に新しいわけだ。


 ミチナガはその店に入ることにした。オープンしたてで人もまだ少ないというのは何かまだ誰にも知られていないお宝を発見した気になる。問題はそのお宝が良いものか悪いものかだ。


「いらっしゃいませ!どうぞこちらの席へ!」


 元気の良い看板娘に案内されて席に着く。獣人の中ではポピュラーな猫の獣人だ。どうやらここの料理長の娘らしい。父と子で店を切り盛りしているのかと厨房をのぞくと奥の方にチラリと母親らしき姿が見えた。どうやら父母娘の家族経営のようだ。


 この国では両親のどちらかが欠けていることは珍しくない。むしろそういった家族は多い。戦争によって家族を失ったものが多い中、こうやって家族全員で飲食店を経営できるのは幸せなことだ。


「ご注文はどうされますか?」


「どれも初めて聞く料理名だ。よくわからないのでオススメを。」


「?………あ、すいません。わかりました。」


 オーダーを受けた娘は何やら不思議そうな表情をしている。どうやらミチナガの声を聞いてどこかで聞いたことがあると気がついたようだ。しかしまだ誰かは気がついていない。ミチナガはせめて料理を味わうまでゆっくりしたいので気がつかないでくれと心の中で願う。


 料理を待つ間、水を飲みながら店内を見回す。少し独特な装飾の店内ではあるが、火の国ではよくあるもののようで、今までセキヤ国で見てきた飲食店とあまり変わらない。しかし地域ごとに少しずつ違うようで、わかる人はすぐにどこの地方か言い当ててしまう。


 さすがにミチナガはそこまでわからないので少しずつどういう点が違うのか観察眼を養っていく。観察しながらいつの間にか飲み干したコップへすぐに店員の娘が水を注ぐ。気配りができている。まあ単純に客が少ないのですぐに対応ができるのだろう。


 ちなみに今も普通に飲んでいるこの水だが、この世界は無料で水が飲めるところが少ない。店舗の近くで井戸水が湧いているところなんかは無料で出してくれるが、基本的に水も飲み物代として料金を取られる。水だってそう簡単に提供することはできないのだ。


 むしろ今では無料で水を提供するところは怪しいとさえミチナガは思っている。大国ならば水の浄化魔法がついていることが多いが、小国では浄化魔法は一般に普及できていない。つまり浄化のできていない汚れた水を提供されることがあるのだ。


 水の浄化魔法がついている店舗は浄化魔法代として料金を取る。だから安心して飲むことができるのだ。なおセキヤ国ではミチナガが水くらい安心して飲みたいという希望の元、この国で供給される水全てに浄化魔法が施されている。


 金はかかったが、このミチナガの対応を国民はひどく喜んだ。そもそも水不足が多かった火の国であったのに、今では誰もが綺麗な水を安定して飲むことができるのだ。


「お待たせしました!どうぞ、お召し上がりください。」


「ありがとう。」


 そうこうしているうちに料理が届いた。見た目はパンだ。それからスープとサラダつきである。先ほど目に入ったのだが、この店の野菜は全て国産らしい。自分たちで育てた野菜なので大事に盛り付けられている。


 早速メインのパンを頬張ってみる。すると中から肉やら野菜やらが出てきた。どうやらパンではなく肉まんに近いもののようだ。しかし肉まんよりも皮の部分がもっちりしている。それに肉はモンスター肉のようで野性味がある。


 しかし獣臭さなどは感じない。しっかりと香辛料で臭みを消しているようだ。食感といい中の餡といい、どうやら餃子と肉まんの間のような感じの食事だ。炭水化物も多いのでしっかりと腹にたまる。手軽な仕事飯にもちょうど良いだろう。ちょうどよくない点は盛り付けられた量が多いことだ。ミチナガの胃袋ではこの半分で十分だ。


「お〜い、今日も仕事終わりに来たぞ。」


「あ!いらっしゃいゲオルリグドさん。今日はお友達も連れてきてくれたんですか?」


「同じ衛兵の仕事仲間だよ。今日も平和なこの街をパトロールしてきたってことよ。何も異常がなくてよかったよかっ……え?」


「……あ…」


「な、何しているんですかミチナガ様…」


 ミチナガはつい衛兵のゲオルリグドと目が合ってしまった。つい先週衛兵たちと共に食事に行った際に小隊長のゲオルリグドと軽く話したことがあったせいですぐにバレてしまった。というよりこの国の衛兵なのにミチナガに気がつかないのはありえないことだ。


「え!?え!?み、ミチナガ陛下!」


「あ〜…もう、ゆっくり遊びに来ていたんだからバラすなよゲオル。」


「す、すみませ…じゃなくて何護衛もつけずに出歩いているんですか!」


「大丈夫!よくあることだから!それよりもどうせなら相席しないか?これなかなか量が多くて食い切れそうにないんだよ。それに他の料理も食べて見たいし。」


「よくあるって…仕事終わりにこんなことになるなんて……わかりました。相席しますけど帰りは我々が護衛させていただきますからね。あ、それじゃあ色々と料理持ってきてくれ。それから酒…はやめておくか……また仕事だからな。」


「いいよいいよ、酒飲んじゃえよ。俺も少し飲むからさ。仕事はもう終わってんだ。文句言われたら俺に無理やり飲まされたって言っていいから。」


 ミチナガの申し出に断るわけにもいかず、それじゃあと遠慮気味に酒を頼むゲオルリグド。しかしミチナガが来たこと知って喜んだ料理長の父親が、いろんな料理を食べての欲しいと様々な料理を提供するとそれに伴って酒が進んでしまう。気がつけば顔は真っ赤になり、どんどん酒瓶を開けていく。


「よ〜〜し…今日は……ここまで!…明日も仕事…それにカミさんが待っているからな…」


「何ぃ…おいゲオル!もうおしまいか!うっぷ……やめておくのが懸命だ。だけど…帰るのめんどくさいから…今日泊めろ!みんなでお泊まりだ!」


「うぇぇ?この2人も…待っている人がいるんでダメですよ…泊まるならミチナガ様だけです!」


「えぇ〜〜…まあそれでいいや!それじゃあ勘定ここ置いておくから!それじゃあいくぞ!」


「え!み、ミチナガ陛下!き、金貨4枚もいただけません!それに代金はいただかなくても…」


「酔っ払い4人が騒いだ迷惑料だ!気にせず取っといてくれ!それから店主!美味い料理をごちそうさま!いい腕しているよ!」


 ミチナガはそう言い残すと店を後にした。そして道ゆく人々にミチナガ陛下だ、と言われながら酒に酔ったまま醜態を晒し続け、ゲオルリグドの家へと向かった。そして言った通りゲオルリグドの家に一泊した。


 本来ならミチナガの醜態はありえないものだ。こんな国王など見たことも聞いたこともない。しかし街の人々はその様子を笑いながら見ているだけだ。なんせこれが初めてではない。度々酔っ払って誰かの家に泊まっているのだ。いい恥さらしである。


 しかし何故かこんなミチナガを見て人々はさらに好感度を高めている。それはミチナガがこの国の人々を信頼してくれている証しだと考えているからだ。普通命の危険があると思えばこんな真似はできない。自殺行為に等しい。


 しかしミチナガはこの国の人々が傷つけてくるわけがないと信じている。その信頼を裏切るわけにはいかないとこの国の人々もミチナガを信頼し、秩序をもって生活している。


 ミチナガは本当にこの国の人々と信頼し、信頼される関係を築き上げた。そしてそんなミチナガがこの国から出立するとなれば人々は大いに関心を持つ。






「ミチナガ陛下ー!いってらっしゃいませー!」

「道中の無事をお祈りしております!」

「ミチナガ陛下ー!」


 ミチナガのセキヤ国出立の日。その日は別にパレードも何も行う予定はなかった。しかしミチナガを見送りたいと国中の人間が仕事を休み、ミチナガの出立する様子を見に来た。ミチナガは15万人を超える人々に囲まれながらゆっくりと魔道装甲車を走らせ、その上から手を振っている。


 時間をかけずにゆっくりといく予定であったが、これだけの人が集まっているのにそそくさと行ってしまうことはできない。ミチナガは2時間かけてセキヤ国の中を走り抜けた。そしてようやくセキヤ国の関所を抜けて外に出たのだが、外に出てもミチナガを見送る声が響いてくる。


 その声はミチナガの目にセキヤ国が見えなくなるまで続いた。やがて魔道装甲車の走る音だけになった頃、ミチナガは車内に入った。


『ポチ・それにしてもすごい声だったね。』

『ピース・みんなすごかったです!』

『社畜・良い臣民を得たのである。誇りに思うのである。』


「うん…こればっかりは金では買えないな。得難いものを得ることができたよ。……彼らは俺の誇りだ。俺のかけがえのない友人だ。仕事を終わらせたらまた帰ってくるぞ。それまでの運営はお前らに任せたからな。」


『ポチ・まっかせといて!』



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