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第252話 繋がった命

「だぁぁぁぁ……もうダメだと思った…マジで終わったと思った……」


『ポチ・お疲れ様。こっちもうまくいくかヒヤヒヤしたけどなんとかなってよかったよ。自爆装置改良しておいて大正解。』


 その日の夕方、椅子にもたれかかって座るミチナガの表情は死んでいる。何歳も年老いたような表情だ。しかしそれは仕方ないだろう。道ゆく人々もなぜ今も生きているのか不思議に思うような表情をしているものがほとんどだったからだ。


 まさか城門を破壊されたのちに再び城門が修復されるなどと敵も味方も思ってもみなかった。あれから敵は妙に空回るような戦いばかりを繰り返し、結果的にあの城門修復後は特にこれといった大きな戦いの変化は起こらずに今日という日の戦いを終えた。


「とりあえず今日もまた作戦会議やるんだろうけど…その前にポチ、あれはなんなのかちゃんと教えてくれよ…」


『ポチ・魔道科学兵器のことね。いい加減機体の名称も決めた方がいいんだけど、まあまだ開発途中だからね。簡単な説明はされたからもうちょっと詳しく説明するね。』


 そういうとポチは機体を取り出して改めて説明をし始めた。改めて間近で見たミチナガはどこか男心をくすぐられるメカメカしさにワクワクしていた。


『ポチ・この機体のオリンポスでの当初の開発目的は自立型行動機械の作成、魔法的にいうと高性能ゴーレムの作成っていうところ。だけど計画は直に頓挫した。機体を動かすのと自立型として思考させるのに魔力を食い過ぎるし、性能向上を求めすぎて不具合がですぎたんだ。せいぜい荷運びくらいにしか使えないっていうことで研究の見直しをしていたところ、オリンポス国の消滅で研究が終わった。』


「超大国ができなかったことをお前らがやってのけたのかよ。すげぇな。研究だって残ってなかっただろうし。」


『ポチ・研究なら残っていたよ。死の湖覚えている?あそこの湖底にオリンポス国の超重要研究施設があったんだ。そこの研究が全部残っていて全部引き継いだわけ。それがなかったらまず間違いなくこの機体は作れなかった。それからもっと重要なのは零戦の所有者、ヤマダさんの完成させたこの機体のいくつかの設計図がなくちゃここまで作れなかった。』


 ポチはヤマダの日記に隠されていた秘密を解き明かし、発見した設計図を見せてくれた。そこには5種類の機体の設計図が書かれていた。


『ポチ・ヤマダが残してくれたのは第1世代から第5世代までの5つの設計図。第1世代は試作行動型。この機体の原型になる機体だけど少し動かすだけでやっとの戦闘はできない機体。そして今使っている第2世代は行動型。動かすことができるけど長時間運用は難しい。今戦えていたのも魔力を大量消費させて無理やり動かしたからなんだよ。第3世代は運搬型で長時間運用が可能な機体。そして求めているのはこの第4世代戦闘型。ここまでくれば問題なく戦えるんだけどまだそこまでいけていない。そして最後、第5世代完成型。ここまでくれば破壊されない限り動き続ける。』


「道のりは遠いなぁ…ちなみに……今日やられた機体はいつ直る?」


『ポチ・あそこまでやられたらもう直すとかって問題じゃない。新しく作り直すってレベル。なんとか戦える機体は生き残った500機だけだよ。それ以上の戦力はない。』


「そっか……はぁ…よし!しけたツラすんのはお終い!作戦会議がそろそろ始まるだろうし、軽く食って明日のことを考えよう。」


 無理やり軽食を詰め込んで作戦会議に臨んだが、会議の大半は今日の使い魔たちが用いた兵器についてであった。そしてそれを今後も頼ろうと考えていたようだが、ミチナガはすぐに事情を話しもう使えないことを話した。


 あれはとっておきの隠し球で、今後はもう何もない。そう伝えられた指揮官たちはその表情を暗くする。今日のあのインパクトは非常に強く、敵も味方も相応の反応を示していた。それがもう使えないとなると落胆の色を隠せないのも無理はない。


「それで今日の戦果報告もしたいと思うんですけど、よろしいですか?」


「はい。それが……」


 さらに戦果報告を始めようとすると指揮官たちの表情は険しくなる。一体どういうことかというと今日の激しい防衛戦であまりにも被害が大きいということだ。細かく味方の死傷者の数を計算していくと最悪の事態が判明した。


「…今日1日で残りの味方が1万切りましたか……」


「申し訳ない。必死な防衛戦で防御を無視した徹底攻撃をしたため死傷者が増えました。つまり…防衛に必要な最低限の人数に到達してしまい……もう明日は……」


 この国の防衛に必要だと考えていた必要最低限の人数1万人を下回ってしまった。ここからは人手不足で防衛の穴が増えていくだろう。そして敵はその防衛の穴をついて攻撃してくるはずだ。また一斉攻撃でも仕掛けられるようなことでもあればもう本当にお終いだ。


「…いかが……しましょうか………」


「……守るしかないだろ。最後の一人になるまで戦い抜く。それ以外にやれることはない。」


「……投降しては?」


「国の王子たちを使って人間爆弾攻撃してくるやつらにか?投降してお前たちも爆弾となって敵に突っ込みたいなら良いぞ?奴らはこの国の食料庫も破壊した。この国を潰すのが目的だ。もし殺されなくても奴らが起こす戦争の際には最前列に立たされることになるだろうな。」


 投降するのは一つの手なのかもしれない。しかし今までの戦いの中で奴らは一度も投降しろなどと言わなかった。殺すことしか考えていなかった。そのことを疑問に思ったミチナガは以前使い魔たちとそのことについて考えてみた。


 そしてその結論、それは火の国の人々を殺すことに意味があると考えた。この戦争の裏で暗躍する法国の人間は唯一絶対なる神を信仰する自分たちこそが尊き存在であり、神を信奉しない他の人間は汚れた存在だと考えている。


 つまりこれは法国の人間による世界の浄化と考えるのが正しい。そう使い魔たちが各国で集めた情報を元に考えた。だから投降しても殺されるのは間違いないだろう。そして今敵として攻めてきている彼ら兵士も、捨て駒にしか考えられていない。


 法国の人々にとっては我々汚れた存在は死ぬことでしか救済を与えられないと考えているのだろう。ミチナガはそのことを考えた時に憤りを通り越し、返って何も感じなかった。世の中にはそういうことしか考えられない人間もいるから仕方ないんだとなぜかそう納得して終わらせてしまった。


 結局有意義な作戦会議は行われず、味方の士気を保つためになんとか気力をふり絞らせた。しかし今ある士気は前日の搾りかす程度だろう。あってないようなものだ。


 そして翌日、再び戦闘が始まったのだが何か敵の様子がおかしい。攻撃が散漫的で敵兵士の動きもおかしいのだ。どういうことなのか使い魔たちが城壁の上からゆっくり観察しているとじきにその答えがわかった。


『黒之拾弐・あれって…確実に兵士の訓練をしているよね?』


『アルファ15・いやそんなわけ……あるね。多分…指揮官を集中して攻撃したから指揮官不足になったとか?』


『ポチ#3・そんな甘いものじゃないよ。奴らは次の戦争のために準備しているんだ。おそらく…この国を潰すのはもう確実だから翌日到着予定の味方の増援が合流するのを待っているんじゃないかな。多分全軍合流してこの国と落とした際に連携力を増加させて次の戦いに備えているんだと思う。』


『黒之拾弐・この後に及んで戦争ですか?まだ殺し足りないと?』


『ポチ#3・奴らは全滅するまで戦いをやめないよ。……やめさせてもらえないんだよ。法国の人間にとって汚れた人々は目障りなんだろうね。指揮系統を担当する人々が洗脳されているんじゃないかな。もしかしたら直に法国の人間が乗り込んでくるんじゃない?』


 結局その日の戦いは空振りに終わった。なんとも騒がしいだけで終わった1日であったが、どうやらこちらの被害は大きいようだ。搾りかす程度は残っていた士気も今や空になっている。もう戦争は終わったようなものなのだから、敵の連合の団結力を上げるために頑張ってくれと言わんばかりだ。


 そしてその日の夜遅く、敵の元へ敵の増援と思われる人々の明かりが加わるのが確認された。これで敵の総勢は8万までは無いが7万5000ほどはある軍勢と化した。兵力差7倍以上。しかもこちらの軍の士気はもう0だ。怒りどころかもう笑う気力もない。


 報告を受けたミチナガは作戦会議をしたところで意味はないと思い、今はとにかく休むことに専念させた。ミチナガもベッドに横になる。あまりのことでこれは眠れないのではないかと思ったが、すんやりと眠ることができた。いや、脳の処理が追いつかず気絶したといったほうが正しいかもしれない。


 ミチナガは翌日、朝日とともに目が覚めた。綺麗な朝日だ。なんと美しい朝日なのだろうか。こんな朝日が見られるなら今日は良い死に日和かもしれないと妙に納得してしまった。こんな日に死ねるのは幸福かもしれないと表情なく思ってしまった。


「そういや…俺がこの国に来てから今日でまだ10日しか経ってないんだな。」


 ふとこの国に来て一体何日経ったのかと考えるとまだ10日しか経っていないことに気がついた。なんと濃密な10日間なのだろうか。この世界ではこんなことが時折あるので随分と1年が長く感じる。


 ミチナガはいつものように服を着替え、顔を洗う。その一瞬一瞬が愛おしく感じる。もうこれ以上服を着替えることもないのだろう。もう顔を洗うこともないのだろう。そう思うと今着ているこの服を愛おしく思う。顔を洗う水に心の中で感謝の言葉を述べてしまう。


 そして使い魔たちから用意させられた朝食はなんとも普通な白いご飯に味噌汁と数品のおかずだけであった。もっとこう…高級寿司や霜降り肉なんてものを食べても良いものではないかと思った。しかし逆にこういう食事は心が休まって良いかもしれない。


 朝食を終えたミチナガは無理を言って城壁の上まで上がらせてもらう。登りきった城壁の上はなんとも景色は良く、清々しい風が吹いている。城壁の上なので少し風が強いかとも思ったが、まあこのくらいなら許容範囲だ。それから敵が戦闘準備に入るまでずっと景色を眺めていた。


 敵は夜遅くに増援が到着したということもあり戦闘準備は実にゆっくりとしたものであった。連携を取れるように細かく指示を出している。ミチナガはその様子を見て思わず笑ってしまった。ミチナガにはそれが子象が蟻を踏み潰すのに右足で踏もうか、左足で踏もうか、はたまた後ろ足で踏もうかと考えているように見えたのだ。なんとも滑稽な様だ。


 そしてようやく敵の戦闘準備ができた時にはもうすぐ正午になる時間であった。随分と時間をかけたものだが、ようやく終わったかとミチナガはその場で立ち上がり腰を伸ばす。これから先は戦いの邪魔になるだろう。そうならないように城壁の上から降りようとすると敵が前進を始めた。


 ようやく死刑台に登り始めたとはっきり自覚し始めたミチナガはその場で身震いを起こす。死というものを漠然と意識していたミチナガであったが、こうして死の足音が近づいてくると徐々に恐ろしさを増していく。


 そんな中、スマホからポチが飛び出して来てミチナガの肩に座る。ここはポチの特等席だ。ポチが肩に乗って来たミチナガは少しだけ体の震えが治った。


『ポチ・ねぇボス。この世で強いものってなんだと思う?』


「ん?そりゃまあ…数かな?あれだけ人間が群れを成しているのを見るとはっきりそう思うよ。」


『ポチ・えぇ〜ボスならこんな時でも俗物っぽい考えかと思ったのに。』


「俺をなんだと思っているんだよ。最強は金って言って欲しかったのか?今この場面で思うかよ。金があったってちゃんと使えなきゃ意味はない。むしろ金の弱さをありありと見せつけられたよ。」


『ポチ・まあ使わない金に意味はないよね。それは一理ある。使わない金に価値は無しってね。じゃあ…価値あるお金の強さってやつを少し見てみようよ。』


「価値あるお金の強さ?なんじゃそりゃ。まさか……此の期に及んで新兵器を隠し持っているとか言ったら逆に怒るぞ。」


『ポチ・新兵器なんてないよ。ただね、ミチナガ商会の保有するお金の強さってやつを…少しばかり見せてやろうって話だよ。敵も随分ゆっくりとしてくれたもんだよ。実に愚かで実にありがたい。切り札ってやつはね、1枚だけじゃ心もとないんだよ。切り札は2枚あったほうが実に頼もしい。そしてその切り札……使わせてもらおうかな。』


「何を言って……」


 その時、味方の兵士に動揺が走った。突如起きたその動揺に城壁から降りようとしたミチナガの足は止まり、その場で敵の方へ振り返った。ミチナガが顔を向けた敵の後方。そこにはいくつかの旗が立っていた。



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[気になる点] いや、金の弱さじゃなくて主人公の雑魚さだと思うけど。まともに知能がある人間なら金でこの状況なんとか出来るよ。
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