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第244話 マクベスの話3

「残念ですが…今、息を引き取りました。」


「そうか…ご苦労であった。」


 先ほどの爆発に巻き込まれても何とか息のあった大臣の一人が今、息を引き取った。生き残ったのは大臣の護衛数名だけだ。王は報告を受け、力なくうなだれる。これでこの国の重役はこの場にいなかった数名くらいしか生き残っていない。


「それにしても…ウィッシとやら、大義であった。しかし…何故精神干渉系魔法が発動していると思った?それに防衛魔法も随分と詳しいようだが…」


「我々は以前国ひとつが洗脳魔法によって占領されていた場所に居合わせたことがありました。その時に我々も洗脳にかけられ…護衛対象者を危険な目に合わせました。それからというものこういった精神干渉系魔法の恐ろしさを知り、その対策は十分にやっております。」


 ウィッシはブラント国のカイによる騒動があってからというものマックたちとも相談して精神干渉系魔法に対抗する魔法を覚え、魔道具による防衛も備えていた。普通、精神干渉系魔法自体がかなり珍しい魔法なので、それに対抗する魔法や魔道具も少ないのだが、英雄の国で何とかそれらを揃えていた。


 だからこそ今の王子王女たちの相手の怒りを煽る煽動魔法に対抗することができた。しかしまさかそんな魔法が使われているとは思ってもみなかった。そのため国王には基本的に精神干渉系魔法に対抗する魔道具が義務付けられ守られているが、大臣たちはそこまで備えていなかった。


「だが…子供たちには魔法を行使できないように魔封じの手枷がつけられていた。それに魔道具の類は全て没収してあった。なのに何故…」


「おそらくですが…体内に仕込まれていたのでしょう。魔封じの類は本人の魔法の行使ができなくはなりますが、魔道具を介しての魔法は使えてしまいます。…おそらく、王子たちも何者かによる精神汚染を受けていた可能性があるでしょう。」


「そなたもそう思ってくれるか。……王子であるというのに、特に王女が自身の体内に魔道具を仕込むとは思えん。」


 王はせめてもの救いだと涙をこぼす。まさか自分の子供たちが何者かの精神汚染を受けていたとは思いもしなかった。しかしこれである程度の事態の収拾ははかれる。王子たちの反乱ではなく、何者かによる攻撃の方が外聞は良い。


 しかし胸を撫で下ろしたのも束の間、外から爆音が聞こえてきた。急ぎ何が起きたのか報告させるとそれは想像を超える出来事であった。


「び、備蓄庫が爆破されただと…」


「申し訳ありません…騒動のせいで情報共有がうまくされておらず…備蓄庫の全てで同時爆破にあいました。現在消火活動に当たっていますが…おそらく8割以上はダメになったと…武器も食料もほとんどが無くなり、騒ぎがさらに大きくなっております。いかがいたしましょう。」


「……城内にある備蓄を出して何とかするのだ。残りの食料と武器の量を正確に計り、そこから日数を計算するのだ。どれくらいでできる?」


「そ、それは…」


 報告に来た兵士は言い難そうにする。何故すぐにわからないのかと王が叱咤すると兵士はありのままに報告した。先ほどの王子王女たちの反乱の際にそういったことに関わる役人が多数殺されているというのだ。そのせいで現在も情報の精査もできておらず現場は混乱しているという。


「何…ならば…ならば今すぐにでも代わりのものを登用せよ!誰かいないのか!」


「そ、そういった情報を知るものも殺されており…」


「何という…何ということだ……」


 そこで王はようやく気がついた。ここまでが全て敵のシナリオであるということを。ここまで敵が攻勢に出て来て、こちらにとって都合の良いと思われていたこの戦争の全てが敵の掌の上だったのだ。


 まず第1段階として激しく攻めることで城壁周辺に注意が向く。そして第2段階で王子王女たちが反乱を起こして国の運営に必要な人材を殺害していく。ここでそのままうまく重役たちも殺害すれば良いが、そこまでうまくいくとは考えていなかった、


 そこで第3段階として王子王女たちが捕縛され、王たち重役の前に連れ出される。そこで煽動魔法を行使して周囲を怒りのまま行動させる。そして十分近づいたところで自身を爆弾とする人間爆弾で重役たちを殺害する。


 ここで王も殺せれば良かったのだが、殺害することが叶わなかったため、第4段階として騒ぎに乗じて備蓄庫を爆破した。敵としても備蓄を奪いたかったであろうが勝つために切り捨てたのだろう。


 この4つの作戦によって今やこの国は壊滅状態だ。今も敵が攻め込んで来ないのは現場の指揮官たちがうまくやってくれているおかげだろう。しかしどんなに頑張ってくれようとも後方支援が脆弱になった今、このまま崩れ落ちるしかない……はずだった。


「僕がやります!必要な情報を全て集めてください。陛下、僕に現場を指揮する権限をください。」


「マクベス…しかし…これは遊びではない。数万という人間を管理するのだぞ、お前にできるわけが…」


「できます。そういったことは全て学びました。何ならここで披露しても良いですがそんな時間はありません。事態は一刻を争います。」


 マクベスは自信満々に告げる。本当は恐怖と不安で押しつぶされそうなはずだ。しかしマクベスの言ったことは嘘ではない。使い魔のヘカテによってそういった勉強は全て学んでいる。なんせ使い魔たちはすでにセキヤ国で10万を超える人間の食料管理、作業管理などを行っている。


 さらに英雄の国でもそう言った情報を集めている。そこで学んだ帝王学の全てを惜しげも無くヘカテはマクベスに教えた。マクベスはその情報のありがたみを分かった上で一言も忘れないように学んだ。


 王はそんなことは知らないが、マクベスの自信に満ち溢れるその表情を見て破れかぶれといった感じで許可を与えた。マクベスはすぐにマックたちを護衛として引き連れ現場に向かった。


 現場では右往左往の大混乱を極めていた。今ならちょっとした情報を引き出すのにも一日かかるだろう。マクベスはマックたちを使い一度その場にいる全員を落ち着かせて指示を出した。役人たちもまさか王の妾の子のマクベスに指示を出されると思っておらず、さらに混乱しているが王からの許可が出ていることを話し、素早く指示を出すと皆それに従った。


 もう何でもいいからまとめ役が必要だったのもある。しかしそれ以上にマクベスの出した指示は的確であった。混乱を極めていた現場はまとまりを見せ、情報をまとめることができた。そして何とか夜が明ける頃に現在残っている食料の総量と大まかな人口を割り出すことができた。


 そしてこの日の戦いが始まる頃に残りの食料が何日持つか計算ができた。マクベスはその結果を持って王の元へ急いだ。王は普段いる広間は爆破されたため、別の会議室に移動したようだ。


 マクベスはそんな部屋で護衛に囲まれた状態の王を見て息を飲んだ。たったの一晩、たったの一晩で随分と老け込んでしまった。年にも負けない若々しい国王の、父親の姿はそこにはなかった。年齢以上に老け込んでしまったその表情からは悲壮感しか感じられない。


「陛下、ご報告に参りました。」


「…話せ……」


「…残りの食料と人口から考えて…今までと同様の食料を提供すると1週間、戦意を保つだけの食料量まで減らしても…10日と持たないでしょう。」


「そんな…そんななのか?もっと…もっとどうにかできんのか?」


「今は上の混乱を戦場に立つものたちに知られてはなりません。下手をすればそれだけで…戦意が喪失します。あからさまに食料を減らせば…戦意は無くなるでしょう。それこそこのまま負けるようなものです。しかし陛下、10日あれば…今の敵の勢いのまま来させれば勝てます!まだ勝ち目はあるのです!」


 マクベスは自信満々に答える。確かにマクベスの言う通り敵は1週間で数が半分になるほど攻め込んだ。つまりもう1週間あれば敵は消える。まあそこまでうまくいかなくても10日あれば打開することが可能だ。


 そしてマクベスの言う通り敵の勢いは変わらず、そのまま攻め込んできた。おそらく城内で騒ぎが起きているからこのまま攻め込めば勝てると思ったのだろう。しかしそうはうまくいかない。


 マクベスの指示のもと兵士たちが動き、何と5日間で敵の数をさらに半分まで減らすことができた。もう敵の数は大したことはない。あくる日には一斉突撃の指示が出た。ここで敵を掃討してしまえばこの戦争は終わる。


 城から打って出た兵士たちの戦意は高い。食料は少し減ったがそれでも満足に動けるだけの食事は取れている。敵はどんどん数を減らしていき、このまま勝てる。誰もがそう思った。


「お、おい…あれ…なんだよ……」


 それは一人の兵士のつぶやき。それを聞いたのは隣にいた兵士だけだ。こんな時に何をしているのかとその兵士が見ている方向を見る。すると眼前の丘の上におびただしい数の兵士がいた。


「て、敵襲!敵襲!敵の増援だ!」


 新たなる敵の出現を知らせる。しかしその声は少し遅かった。もっと早く気がつくべきであった。丘の上から大量の敵兵が一目散に駆けてきた。しかし敵はこちらに向かってきてはいない。その敵は今も開け放たれている城門へと向かっていた。


「た、退却!退却!急げ!城内に一目散に走るのだ!」


 指揮官の慌てふためる声に気がついた兵士たちは何事かと周囲を見回してようやく事態に気がついた。敵兵が城門にたどり着く前に城門を閉めなくてはならない。つまり間に合わなかった味方は問答無用で置き去りにされて、敵に殺される。


 兵士たちは急いで走った。しかしそんな兵士のことを敵が見逃してくれるはずがない。一目散に逃げる兵士の背を情け無用に切り裂いてくる。次々と兵士たちは倒れるが誰も助けようとはしない。今は自分の命の方が大切だ。


 そして味方の兵士が半分ほど入った時、城門は徐々に閉じられていった。結果的に出撃した兵士の3割ほどが城外に取り残された。すぐにでも城門を開けて助けてやりたい。しかしすでに敵は城門のすぐそばにいる。もう…開けることは許されない。


 取り残された兵士たちの悲惨な声がこだまする。助けを求める必死な声は徐々に変わり、怨嗟の声に変わる。なぜ俺たちを見捨てたのか、なぜこんなにも助けを求めるのに助けてくれないのか、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……しかし、そんな声もやがて敵の声だけに変わる。


 こうして開戦から10日以上たったこの日、この戦争は振り出しに戻った。ただし、こちらは兵士の数が半分以上減り、食料が残り4日分しかないと言う条件で。



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