第241話 必要なことは
『ポチ・やっぱりナイトとヴァルくんへの応援要請はだめ?』
「ダメだろ。ナイトにこんな人間同士の愚かな殺し合いの戦争に加担させたくない。あいつには…自然の中で生きていて欲しいんだ。ヴァルドールに至っては表に出したらまずいだろ。人類の敵対種族とか色々言われていたんだろ?戦争に出て来たら関係ないところで討伐隊が組まれるぞ。それこそテーマパーク作りなんて不可能になる。あいつの夢を奪ってやるな。」
ミチナガ商会が保有する最強の2人。共に魔帝クラスのナイトとヴァルドールだが、ミチナガのわがままに付き合わせたくないということで今回の戦争には巻き込まないことが決定づけられた。この二人が参戦してくれればマクベスを助け出すことなど簡単なことだろう。
しかしミチナガの決意は固く、この二人を絶対に呼ばないと約束づけられた。こうなってしまってはどうしようもない。他の手を考えるしかない。
それからセキヤ国の住人を戦争に加担させたくないというミチナガの要望も出た。それに関しては使い魔達もすぐに納得した。避難民達を再び火の国の戦争に参加させるなどもってのほかだ。だからミチナガがこの国を出るときは英雄の国で野暮用があるなど他の理由をつけていくつもりだ。
それから使い魔達が避難民から火の国の細かい情報を集めて地図を作成していく。戦争の絶えない土地に行くのに地図もなく行くのはあまりにも危険だ。それこそシェイクス国にたどり着く前に他の戦争に巻き込まれて死んでしまう。
なんとかここからマクベスの元までの地図が完成したが、予想以上に険しい道のりだ。最短距離でも歩いて一月以上はかかるだろう。魔導装甲車でもそれなりの日数がかかりそうだ。しかも戦争に巻き込まれないように比較的安全な場所を通ろうとすればさらに時間がかかる。
おまけにそこら中に野盗がいるのでまともに休む時間もなく移動することになるだろう。正直ミチナガ達だけで行くのは不可能だ。地図があってもやはり土地勘のある者が必要だ。そこでミチナガと使い魔達は一つの判断を下す。
それから1時間ほど経った頃、ミチナガのいる部屋がノックされた。扉を開くとそこにはかつて火の国から多くの避難民を連れてきた男、砂防の魔王イシュディーンが立っていた。ミチナガは協力者としてイシュディーンに火の国の案内を頼むつもりであった。ミチナガは正直に経緯を話し、協力を仰ぐ。
「…つまり火の国にいる友人を助けるために火の国の…シェイクス国へ向かいたいと。正気ですか?そんなものは死ににいくようなものだ。あなたは…」
「わかっている。わかっているよイシュディーン。それでもさ…大事な友達なんだ。見捨てたくないんだよ。頼む、この通りだ。俺をただの嘘つき者にしないでくれ。友達一人救えない惨めな思いはしたくないんだ。頼む。」
ミチナガは深々と頭をさげる。ミチナガにここまでされてしまうと流石のイシュディーンもこれ以上止めるのは難しくなる。考えれば考えるほど無謀な作戦であるのだが、なんとかイシュディーンを説得することに成功した。
「私は砂を用いた魔法が得意です。私の隠蔽術を使えば誰にも見られることなく近くまでたどり着くことが可能です。しかしあくまで近くまでです。敵が城を包囲していれば私の隠蔽術で切り抜けるのは不可能です。」
イシュディーンの隠蔽術は相手が10m以上離れていればバレずに行ける自信があるらしいのだが、それ以上近くなるとミチナガの存在を隠しながら移動するのは難しいということだ。
近くに行った後のことをどうしようかと悩んでいるとポチが現れてそこからの作戦は考えついているから問題ないと言った。どういう作戦かは今準備中なのでまだ話せないということだ。
「それでは…陛下、お願いがございます。せめて救出部隊を近くに待機させてはもらえませんか?あなたが死んだら誰が我々を導くというのですか。」
「今でも俺がいなくてもこの国は保たれている。みんなで力を合わせれば問題ないよ。それに…俺だって死にたくはない。いざという時は友達連れて逃げる。だけどこんな俺のわがままにみんなを付き合わせるわけにはいかないだろ?みんなもう戦争にはこりごりなんだ。嫌な思いさせたくない。」
「我々にはまだあなたが必要です!あなたのためなら!」
「…頼むイシュディーン。この国に住む人もみんな俺の友達だ。もう家族みたいなものだ。友達が傷ついて泣くところは見たくない。家族が死ぬのは絶対に嫌だ。だから…頼むよ。不甲斐ない俺でごめんな。弱い俺でごめんな。だけどさ…こんな俺でも守りたいものはあるんだよ。せめて…せめてそのくらいの強がりは言わせてくれ。」
「…くっ……わかり…ました……ですがお約束ください。……必ず生きて帰ると…」
「ん……わかった。約束する。…約束するよ。」
ミチナガはイシュディーンの協力をなんとかとりつけた。これでシェイクス国にいくまでの道中の心配は無くなった。力なく部屋から出て行こうとするイシュディーンを励ますようにポチが付いて行った。これで心変わりする心配などもないだろう。
出発はできるだけ早い方が良い。明日の深夜、避難民たちが寝静まってから出発する。そうすれば普段の仕事でも外に出ることの少ないミチナガがいなくなったことに気がつく人は出ないだろう。
ミチナガは震える手足を押さえつけながらじっと前を見つめる。この震えは恐怖の震えか、それとも友を助けにいくという気持ちの武者震いか。はたまたどちらも合わさったものか。
「そういえば…自分から戦うのってカイの時以来か?いや、あの時もメリリドさんのバックアッププランで戦うって話だったからな。だけど…やるぞ。俺にできることなんか限られているけど…それでも俺も……やる時はやってやるんだ。」
「何か…何か手立ては…」
『ポチ・ごめんねイシュディーン。こんな無理を言っちゃってさ。』
「い、いえ…陛下のやろうとしていることは…誇らしいことです。実に誇らしい。ですが…やろうとしていることと実力が見合っていない。これでは…ただの犬死に…あまりにも……っは!す、すみません。こんなことを言ってしまい…」
『ポチ・まあわかるわかる。あまりにも無謀だからね。…そこでねイシュディーン。何人か口が固くて信用できる人材を集められる?5人か…10人くらいで十分なんだけど。』
「…可能です。しかし…何故?」
『ポチ・僕たちだってね、気持ちはおんなじなんだよ。ボスを殺させるわけにはいかない。それは絶対にさせちゃいけないことなんだ。だからボスの言葉を守りながらやれることをやる。明日の昼までには集めておいて。よろしく頼むよ、イシュディーン。』
また隔日に戻ります。