表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/573

閑話 ヴァルドールの夢


 更新1回休んじゃいました。まあ新章始まったら少しだけ連続投稿する予定だったので、その分のお休みということにしてください。


『……ヴァルドール…貴様は一体なんのために戦う?貴様からは…どんなに戦っても何も感じない。』


『フハハハハハハ!!なんのために戦うかだと!くだらぬ!実にくだらぬ!!己が本能のまま、己の思うままに戦う!それの何が悪い!』


『……そうか。お前は…空っぽなのだな。お前はただ吸血鬼という血に囚われている。私はお前を自由だと思っていたが違ったようだ。…お前はこの世界で一番不自由な人間だ。血に囚われた哀れな吸血鬼だ。』


『くだらぬ問答にこれ以上答える気は無い。さあ再び始めようではないか黒騎士よ。生きるか死ぬかの戦いを!!』


 数百年前、世界が100年戦争と呼ばれる動乱の時代。幾度となく戦った吸血鬼神ヴァルドールと大英雄黒騎士クロの戦い。物語として後世にも伝えられている伝説的な戦い。本来魔神と呼ばれるヴァルドールに分のある戦いであったが、黒騎士のその強さの前にヴァルドールも勝つことはできなかったとされる。


 しかし現実は違う。ヴァルドールが強くて勝てなかったのではない。黒騎士が強くて勝てなかったのだ。黒騎士は生涯魔神になることはなかった。魔帝クラスと魔神クラスの戦い。それであるのに魔帝クラスの黒騎士に分があったのだ。


 ヴァルドールは驚異的な再生能力で死ななかっただけである。ヴァルドールはなぜ黒騎士に勝てないかまるでわからなかった。なぜこれほどまでに黒騎士一人に苦戦するかまるでわからなかった。


 そんなあるとき、どうしてもその理由が知りたくなったヴァルドールは聞いた。なぜ黒騎士がそんなに強いのかを。なぜここまで苦戦させられるのかを。


『単純な話だ。貴様の攻撃は軽いのだ。』


『軽いだと?私の一撃は山をも粉砕するぞ。』


『そうではない。そういうことではないのだヴァルドール。貴様には信念がない。野望がない。ただの暴力でしかない。だから貴様は私に勝てないのだ。本来なら…貴様はもっと強い。だが今の貴様にはまるで負ける気がしない。……お前に夢はないのか?』


『夢?夢だと?そんなものがなんになる!くだらぬ質問をしたようだな。戦いを始めようか!』


 その日、ヴァルドールは手酷くやられた。今までで一番の惨敗だ。物語ではここで受けた怪我が原因でヴァルドールは人知れぬ場所で死んだとされている。しかし現実はそうではない。ヴァルドールは黒騎士に言われた言葉が深く心に刺さったのだ。


 ヴァルドールには信念がなかった。野望がなかった。夢がなかった。ヴァルドール自身が考えぬように心の奥底に閉じ込めていた思いを黒騎士によって掘り起こされ動揺したのだ。だから戦いにも惨敗した。だから…戦いから身を離し……誰も近づかぬように山奥に隠れ、周囲を霧で覆った。


 ヴァルドールは信念を求めた。野望を求めた。夢を求めた。どんなことにも挑戦した。なんでもやってみた。しかし10年、100年経ってもヴァルドールは何も見つけられずにいた。


 ヴァルドールはかつての面影がないほど心を病んだ。せっかく建てた城もボロボロになり、一つの部屋に閉じこもった。もう生に執着することもなかった。しかしヴァルドールの驚異的な生命力のせいで死ぬこともできず、生きながらにして死んだように暮らした。


『ああ……つまらぬ。なんとつまらぬ人生だ……我が人生とはなんだ?私はなんのために生きている……わからぬ…どんなに考えてもわからぬ……ああ……』





「っぬ!……いかん…寝ておったか…しかし…嫌な夢を見た……」


 ヴァルドールは目を覚ました。今いるここは小さな部屋だ。ぬいぐるみに囲まれたかつてと同じような部屋。しかしあの頃とまるで違う。生命力に溢れている。寂しさも虚しさもない。ヴァルドールは己にかけられていた一枚の毛布から心温まる何かを感じた。


「つい疲れて寝てしまったか。丸3日寝ずに作業していれば当たり前か。む!いい話を思いついた!」


 ヴァルドールは何かを思いついたように一心不乱にペンを動かす。そして1時間ほどすると満足したように頷き部屋を出た。そして向かった先の部屋では使い魔と眷属たちが今も必死に作業をしていた。


「ヨウ殿ヨウ殿。新しく4本ほどシナリオが完成しました。いかがでしょうか?」


『ヨウ・あ、起きたんだね。ちょっと待って、今確認するねぇ……この話は少し内容が難しいかも。ショートアニメじゃなくて長編アニメでやった方が良いね。…これはちょっとなぁ……世界観ぶれちゃうかも。あとこれは…うん、オッケー。最後のこれはいいね、世界観が実によく出てる。この2本は問題なし。それからこっちはボツで、こっちは長編アニメ作るときに使おうね。』


「了解した。…アニメの方は順調でしょうか?」


『ヨウ・う〜ん…けっこう難航しているね。最初はヴァルくんのファンシーパペットの魔法使って実写アニメみたいな感じで行こうと思ったけど、良い感じの雰囲気が出なかったからね。結局手書きで全部やっているから慣れるまではかなり時間かかると思う。まあ焦らずにゆっくりやろ。テーマパーク建設もまだまだ時間かかるし。』


 現在ヴァルドールとミチナガ商会共同でのヨーデルフイト王国に建設予定のテーマパークは基盤を作ることに専念している。まだテーマパークらしいものは一つも作れていない。まだテーマパーク開発の構想が一つも完成していないため大きく動くことができないのだ。


 今必要だと考えているのはヴァルドールが作成したキャラクターの設定と物語作りだ。キャラクターの物語を作成し、それにあった世界観でアトラクションを作成する必要があるため、テーマパーク建設はしばらく先延ばしになっている。


 アニメ制作は現在使い魔10人とそれに付随する眷属50人がかりで行なっているが、かなり難航している。アニメ作成に関する技術と情報がほとんどないため、使い魔達は毎日毎日手探りで行なっている形だ。


 とりあえず練習として10分アニメを作ろうと考えているが、たかだか10分という短いアニメ作成にもかかわらず制作開始から2ヶ月経った今も1つも完成していない。


「ふむ…私にもそちらの方で手伝えることはありますか?」


『ヨウ・手伝う…のは難しいかなぁ……というかまだどうやったら良いかわからない感じだし。』


「そうですか…では私はまた新しいシナリオを…」


『ヨウ・あ、ちょっと待って。』


 ヨウはそう言ってヴァルドールを引き止めるといくつかの紙を取り出した。そこには何種類もの絵が描かれていた。


『ヨウ・いい加減このテーマパークの名前を決めようと思うんだ。それにロゴもね。いくつか案が出ているからそれを形にしたんだけど、ヴァルくんも何か案ある?』


「名前にロゴ…ふむ……では私の人生という長い物語の最後に出会えたということでファイナルふぁ…」


『ヨウ・うぉぉぉい…それはダメだよ…本当にだめ…』


「良いと思ったのですが……ではこの運命的な出会いから考えて…ディスティニー…そのままだと面白くないので少し変えて…ディズ…」


『ヨウ・もっとダメなの来ちゃった!それはもっとダメだよヴァルくん!ハハッ!』


「そうですか…意外と難しいですな。ではこの案の中から選んでみましょう。」


 選んでみるがどれもピンとこない。一つ一つチェックしていくがどうにもダメだ。気に入らないわけではないようだが、逆に気にいるわけでもない。結局出された案はどれもピンとこなかったようだ。するとヨウはもう一枚別の紙を取り出した。


『ヨウ・これはちょっと…って思ったんだけど…まあ一応どうかなって思ってね…』


「ほう!これは良いではないですか!私は気に入りましたよ。」


『ヨウ・そ、そう?それじゃあ…一応仮決定にしておこうかな?』


 あまりにも気に入ってしまったようなのでヨウはそれで仮決定するのだが、今後何かあれば変更するつもりだ。しかしスキップしながら次のシナリオを書きに戻ったヴァルドールを見る限りおそらくこれが本決定になるだろう。


 部屋に戻る途中、ヴァルドールは空を仰いだ。澄み渡る青い空を小鳥が飛んでいるなんとものどかな光景だ。かつてヴァルドールは自身を隠すように霧で覆った。太陽の光の影響を受けない真祖の吸血鬼だというのに太陽から己を隠した。


 あの時は特別な意味はないと思っていたのだが、こうして空を仰いで太陽を見るとあの時は太陽が己を見透かすように思えたのだとわかった。何もなかった自分を照らして、見透かして欲しくなかったのだ。


 しかし今は違う。燦々と照りつける太陽がなんとも気持ち良い。そしてふと黒騎士を思い出した。今思えば黒騎士は黒き鎧で己を包んでいたが、戦場であいまみえた彼女は戦場で輝く太陽のようであった。そう思うときっと己を見透かしていた黒騎士を太陽から何か感じたのだろう。


 もう黒騎士が生きていたのは遠い過去のこと。しかし黒騎士は今なお誰しもに愛される大英雄だ。ヴァルドールにとっては己の人生を狂わされた相手……いや、それは違う。己の人生というものを気づかせてくれた恩人なのだろう。


「黒騎士よ、見ているか?私はようやく信念を持てたぞ。野望を持てたぞ。夢を持てたぞ。今ならお前の言っていたことが、お前の持っていたものがよくわかった。もう一度お前に会いたいものだ。今ならお前にも負けない気がする。私はこの夢のために命をかけられる。…さて、もう一踏ん張りするか。」


 ヴァルドールは今日も生き生きと仕事に励む。やがて叶える己の夢のために……







『名無し・あれ?結局この案にしたんですか?パクリっぽいからやめておこうって言ったのに。』


『ヨウ・…いや……その…だって…ねぇ?ヴァルくんが気に入っちゃったんだもん。』


『名無し・まあいいんじゃないですか?VMTランド。ヴァルドール、ミチナガ、使い魔ランドの略称でしょ?大丈夫ですって、ユニバーサルな感じはないですから。最後にランドなんてついているし。というかそこは略さないっていうね!』


『ヨウ・せめてものあがきと思ったんだけど、なんかどっちもパクったみたいな感じなんだよね。まあこの世界にはないから良いんだけどさ……なんかねぇ?』


『名無し・なんだかんだヴァルくんとヨウさん似ていますよね?まあ仲良しなのは良いことですよ。そんなことより作画手伝ってくださいよ。最近ようやく作画落ち着いて来たからもう少しですよ。』





 次回から新章始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ