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第238話 セキヤ国にきた避難民のお話

「な、なあ…俺らこうやって連れてこられているけど……大丈夫かな?」


「大丈夫…って思いたいけどな。正直不安だ。なんせ話がうますぎる。飯も家も仕事もなんでもある国ができて俺たちを保護してくれるんだろ?夢物語だ。だけど…俺には子供達がいる。妻が最後に守った子供達だ。だから少しでも飯をくれたこの人たちについていくさ。」


 揺れる馬車の中、人々はこれからの境遇に不安を覚えているが、もう彼らには選択肢はなかった。彼らがこうしてこの馬車に乗ったのは3日前、突如周辺国から大量の馬車がやって来て避難民を収容する国があるのでそこに行けということだった。


 そんなことを急に言われても受け入れづらかった彼らだが、道中の食事と移動は全てやってくれるということだ。その代わり、この話を拒めば火の国へ強制送還するという。そこまで言われてしまってはもうどうしようもない。


 久しぶりに腹いっぱい食事をとったのちに何日も馬車で運ばれていった。途中、ほかの輸送隊と合流して総勢1000人近い避難民の輸送になった。道中不安で逃げ出そうとしたものもいた。そういったものたちは誰もが捕縛されて無理やり運ばれていった。


 もう周辺国も避難民問題を強行的に排除しようという流れなのだろう。人々は日が経つにつれ不安を大きくしていく。もしかしたら明日ここにいる全員が殺されて穴に埋められてもおかしくはない。そういう雰囲気であった。


 しかし翌日、そんな彼らの目の前には大勢の避難民が一堂に会している、なんとも和気藹々とした避難所があった。向こうでは獣人たちが肉を食い、そちらではドワーフが酒を飲んでいる。中には獣人もドワーフもダークエルフも皆肩を組んで酔っ払っているものまでいる。


「ここまでご苦労様でした。輸送隊の方々は今日そちらで泊まっていってください。避難民は全員こっちだ。まずは風呂に入って体を清めてもらう。男女で分かれているから並んでどんどん入っていってくれ。時間は一人15分だ。さあどんどん並んで。」


「お、おい……風呂だってよ。そんなの村に住んでいた頃から入ったことねぇぞ。」


「どうせ水浴びだろ?まあ汚れているしちょうど良いんじゃないか?あ、急ごう。こういうのは遅くなると前のやつが体洗った後のドロドロの水になるからな。」


 人々は体を洗えると喜び、急いで並んでいく。水でもなんでも良いから久しぶりにまともに体が洗えるかもしれない。そう思った人々の目の前には並々と貯められた大量のお湯があった。


「それじゃあ一人ずつどうぞ。私たちが洗うので椅子に座ってください。」


 浴場には一人に一人ずつ体を洗ってくれる人がついてくれる。避難民は椅子に座るとシャンプーを使って体を洗われるのだが、一度では泡も立たない。2度3度と洗いようやく泡が立ち始め綺麗になる。そして体を綺麗に洗った人々は浴槽に浸かり5分から10分ほど湯を楽しむ。


「温かいお湯に入ったのは初めてだ……最高じゃねぇか…」


「こんなに気持ち良いんだな…だけど…なんでこんな温かい湯に入れてくれるんだ?それに体まで洗ってくれて…」


 人々はなぜこんな待遇を受けられるのか不思議に思う。もしかしたらこの後俺らを丸呑みするために綺麗に洗ったんじゃないかとふざけて脅かすように喋っているものもいる。しかし冗談だと思いたくてもそれが本当なんじゃないかと思ってしまう。少し恐怖に震えると馬鹿なことを言うんじゃないと体を洗ってくれた人が教えてくれた。


「あんたたちはいろんなところから来たからね。体に汚れと一緒に病気がついていることがあるから綺麗に洗って病気の元を除去したのさ。病気が私たちに移ったら大変だからね。この後も検査があるからさっさと風呂から上がって受けてきな。」


「検査って…俺たち…医者にかかれるのか?か、金なんかないぞ?」


「全部無料だよ。この国の太守様は神様みたいな人だよ。本当に感謝しないとね。」


「太守…王様とは違うのか?」


「まあ王様だよ。太守っていうのはどっかのやつが言っていたのさ。この国には火の国のあらゆる国や村の人々が集まっている。その昔はいくつもの国を治めた人を太守っていうんだとさ。この国はね…火の国が一つだった頃の…同じ光景が見られる。戦争なんかしなきゃこんな暮らしができていたんだよ。馬鹿だねぇ…私たちはなんで戦争なんてしたんだろうねぇ……おっと、嫌だよ。年取ると涙もろいんだから。ほら!あんたたちはとっとと上がりな。次行くんだよ。」


 その場の全員が涙ぐみながら風呂から上がり、用意されていた綺麗な服に着替える。そして再び案内人に連れて行かれると先ほどのおばちゃんに言われた通り、身体検査が行われるようだ。


「次の方。はいそこに座って。まずは名前とどこの国や村から来たか教えてくれ。」


「な、名前はケラーだ。生まれは…ムラリエって小さな村だ。山の上で…えっと…」


「え!お前ムラリエか!!俺は隣山のケケーラだ。昔そっちの村から羊が逃げて来たっけな。どっかのバカが逃したって言って謝りに来た。」


「そ、それ…うちの親父だ…おっちょこちょいで……な、懐かしいなぁ…あの時許してもらったからそっちの村にちなんでケラーって名前なんだ。今は…もうなくなっちまって…それで…」


「兵隊どももあんな山の上まで来るなよな。うちも同じ頃に逃げた。羊も置いて急いで逃げた。辛かったなぁ……あ、すみませんソンさん。こういう話はまた後にします。え?本当ですか!」


 検査員の男は隣にいる使い魔から指示を受けているのだが、ケラーは文字が読めないので、ただ座っている。すると検査員の男は使い魔に何か言われて号泣し始めた。やがて少し落ち着くとケラーに話出した。


「こ、この国でも近々牧羊を始めるから俺たちに羊飼いを任せてくれるってよ!一緒にやってくれるか?」


「ほ、本当か!ま、また羊飼いができるのか!も、もう諦めていたのに…よかった…よかった……」


『ソン・あー泣くのはいいけど後が詰まってて…お、おーい!だめだこりゃ。メーデーメーデー。誰か代わり寄こしてくれる?定期的に人員入れ替えないと仕事にならないよ。』




 検査所で身体検査、血液検査、名前や出身地の情報を記録し、戸籍を完成させるととりあえずその日来た避難民は10日ほど隔離避難所で待機させられる。その間に伝染病などの発症が起きないか確認するのだ。


 そしてなんの病気の発症も起こらなかった人々は次なる避難所に移される。移された避難所では居住区の完成待ちだ。この避難所に移された人々は仕事も割り当てられる。人々はここまで衣食住全て満足いくものを無償で提供してもらった礼だと言って一生懸命働いてくれる。


 その頑張りのおかげで作業も順調に進んでいる。今日もいくつかの家族が新しい我が家に引っ越してく。皆その表情は嬉しそうだ。しかし嬉しいことはそれだけではない。彼らが本当に喜ぶのはまた別のことだ。そしてその嬉しい知らせを伝えるために今日もまた人がやって来た。


「えっと…こちらにミンドさんはいらっしゃいますか?」


「ミンドは私だが何か?」


「ああ、貴方ですね。シュルさんとミシュリーちゃんという名前に覚えはありますか?」


「あ、ある……まさか…」


「ええ、こちらに避難しております。現在居住区に移動しておりますので、これから荷物をまとめて移動願えますか?」


「ま、まさかそんな……生きていた…生きていたのか!!ああ…神よ…ありがとう…ありがとう…ありがとう……ああ、今すぐ用意します。すぐに用意しますので……ああ、どうしたら良いんだ。」


 男は離れ離れになっていた家族が生きていたと知り、喜びのあまりパニックを起こしてどうしたら良いか分からなくなっている。そんな男を見かねて周囲の避難民たちが男の手伝いをしてくれる。皆家族に再び出会えるという喜び以上の喜びはないのだ。そして誰もがその喜びを共に祝ってくれる。


 こういった離れ離れになっていた家族が再び再開するということは日に数度必ずある。きちんとした戸籍情報管理の賜物だ。なお避難民に家族が生きているということを知らせるのは隔離避難所を出てからだ。伝染病対策には余念がない。


 なお、時折例外として先に家族の無事を伝えることがある。というのも自暴自棄になった状態でやって来て、もう生きているのが嫌だと言い続ける奴が来ることがあるのだ。そういう奴には先に伝えて生きる希望を持たせる。


 それから日に数度、ミチナガがやって来る時間がある。というのも避難民のほとんどはこの国の王であるミチナガの顔も知らない。そのため、アピールとして日に数度、必要物資の確認ついでにやって来るのだ。


 随分と身近な王様ということで威厳も何もあったものではないのだが、これが逆に平和的な王様だというアピールに繋がって人々は喜んでいる。戦争から逃れて来た人々にとっていかにも強そうな威厳ある王よりもミチナガのようななんとものほほんとした王様の方が好まれるようだ。


 まああまりにものほほんとしていると統治力の心配などもされるが、現状何一つ問題なくやれているこの手腕から支持率はほぼ100%だ。ミチナガに対する信頼は厚い。


 そんなミチナガが治めるセキヤ国の噂は徐々に広まり、馬車を出さなくても勝手に人が集まって来ている。そして今日も団体がやって来たという報告を受けて使い魔たちはせわしなく動いている。今日の団体さんはどうやら火の国からやって来たようだ。





「私の名はイシュディーン!戦火を逃れてここまでやってきた。少しで良い、水や食料を分けて欲しい。」


「ちょ、ちょっと待っててくれ。俺たちは作業員だから何も持ってないんだ。今偉い人呼んだから。あ!おいみんな!ミチナガ様だ!太守様が来られたぞ!」


「みんなご苦労様。あとは俺が話をするから作業に戻って良いよ。待たせたな!俺がこの国の王のセキヤミチナガだ。」


「私は砂防の魔王イシュディーン。私の後ろにいるのは戦火を逃れてやって来た2000人の人々だ。頼む、水と食料を分けて欲しい。私にできることはなんでもする。だから頼む。この通りだ。」


「頭を上げてくれ。よくここまでみんなを守って来た。この国は火の国の避難民が集まってできた国だ。さっきまで話していたやつも元は避難民だよ。あなた達全員をこの国で受け入れよう。水も食料も家もある。今必要なものを用意しよう。少しここで休んでいてくれ。」


「ほ、本当か!ありがとう…ありがとう……もうみんな限界で…」


「いいから頭上げてくれって。今うちの使い魔達が水と食料を分けている。あんたもとりあえず飲んどきな。あ、そういやいうの忘れていたな。」






「ようこそ、セキヤ国へ。」






 章を作ったことで区切りの良い感じの終わりを作ることができました。


 次回から新章になりますが、章の題目をつけるのは少し後になります。今後ともよろしくお願いします。

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