第228話 国誕生
「あんな状態から3ヶ月でよくここまでできたな。住民はもう移り住んでいるのか?」
『ポチ・明日には移り住んでもらう予定だよ。人のいないうちに一度見てもらおうと思ったんだ。みんな早く家を持ちたくて必死にやってくれたおかげだよ。』
以前から3ヶ月がたった。随分と毎日忙しく働いてくれたおかげで今では100軒以上が立ち並ぶ居住区が誕生した。基本的にアパートの分類で一軒当たり4家族は入れる広さの家にした。1家族平均4人が多いこの世界では1棟当たり16人は入れる。つまり約1600人が住むことのできる居住区が誕生したのだ。
しかしこれでもまだまだ居住区は足りない。避難民は以前の5000人から1万人まで増えた。正直ミチナガの手に負えるキャパシティーを超えている。使い魔たちだって300人、眷属を合わせても1800人の上、この国に手を貸せる手の空いているものは1000人もいないだろう。
まあそれは3ヶ月前のままであったらだ。実は随分と使い魔も増えた。というのもヴァルドールの資産の中に大量の白金貨があったのだ。さらに使い魔たちがミチナガ商会を通じて白金貨を集めておいてくれた。中には妙に油臭いものもあって一体どんな入手の仕方をしたんだと心の中で思った。
そして久々の使い魔ガチャを楽しもうとしたのだが、全く楽しめなかった。というのもいきなり100回ガチャを回したミチナガに待っていたのは100回すべてノーマルという悲しい現実だったのだ。
ふてくされたミチナガは仕事そっちのけでふて寝をした。しかしその間に使い魔たちが他の人が引いたら上手くいくかもと、街へガチャを回して貰う旅に出た。そんな上手くいくはずがないと思ったのだが、これがなんとも悔しいことにレア以上3割という好成績を収めた。それを聞いたミチナガはさらにふて寝をしたという。
「やっぱあれなのか…日本の生み出した奇跡のシステム、物欲センサー感知システムは本当にあったん」
『ポチ・あるわけないでしょ。』
「あるもん!絶対あるもん!」
『ポチ・いい年こいたおっさんがあるもんとかいうんじゃないよ。』
そんな一問答を起こしながらも使い魔たちは総勢700人まで増えた。眷属も合わせれば4200人という大人数だ。これなら基本的なこの国の見回りに2000人常時貸し出しても問題ない。こうして1万人という避難民が問題を起こさずにしっかりと管理できる国の運営を可能にした。
『ポチ・それからここを抜けた先に新しい居住区を作ったらしいよ。こっちの整然とした感じとは真逆なんだって。』
「へぇ〜面白そうじゃん。」
まだ面白そうなものを作ってあるということなのでゆったりと歩きながら移動する。しかしなんともゆったりと歩きやすい街並みだ。道路の舗装は石畳になっている。アスファルトにする手も十分あったのだが、この方が街並みにはあっているとのことだ。
まあ確かにこうして街並みを楽しむのにはぴったりだ。コツリ、コツリと歩く音もなんだか気持ちの良いものだ。道路も歩道も広く取ってあるので交通量が増えても問題ないだろう。それから景観などのために街路樹も植えられている。
景観など、といった理由はこの街路樹、通称ランプの木にある。実はこのランプの木はその名の通りその木に明るく光る実をつけるのだ。なんでも聖樹の一種らしく、穢れを祓う力もあるらしい。そんなとんでも能力を持った木などこれまでどの国でも見たことがなかった。
まあそれもそのはず、なんせこの木は魔国でしか確認できていない特殊な木なのだ。たまたま英雄の国へその種が持ち込まれたところをミチナガ商会で研究用に購入。ドルイドが暇つぶしがてら研究していたら魔国にしかない特殊な鉱石を用いることで栽培できることが判明。そうして今、街路樹にできるほど量産できたのだ。
さすがは森の大精霊の弟子ドルイドである。正直、ドルイドは植物関連に関してはチートである。まあ植物系の大精霊三柱へ使い魔を弟子として預けている時点でミチナガは植物に関してはなんでもできてしまう。
そんな美しい街並みを抜けると唐突にだだっ広い広場に出た。ここは一体何かと言うとこの国の中心である城の建設予定地だ。まだ城の建設に着手できるほどの暇がないので予定地として場所を開けている。そんな広場の向こうになんだか目の痛くなるような建物が立ち並んでいる。
「あれ…何?すごいカラフルだけど…」
『ポチ・…知らない。あっちは親方とガルディンに完全に任せておいたから。』
ミチナガたちは小走りでその場所に近づいていく。そこは赤や青や緑や黄色といった色とりどりな一軒家が建っている。なんとも目がチカチカしそうな建物だが、改めてよく見ると…結構いい感じになっているようだ。
「あ、ガルディン!なんだかすごいことになっているな。」
「おお、ミチナガ太守。すげぇだろ、正直こんなのどうかと思ったんだが、作ってみると意外といい感じなんだな。」
『親方・こうしてみるといい感じっすよね?イタリアのブラーノ島とか南アフリカのボ・カープみたいな感じっす。まあ色的にいうとどっちもある感じっすかね?あの家なんてなかなかきついショッキングピンクっす。』
『ノコ・親方に変わり言っておきますとこれは避難民の意見を取り入れた色になっています。戦争が絶えない火の国ではこんなカラフルな街は造れませんから。色くらいは明るくしたいという要望でたんです。』
「なるほどね、そっか。けど一軒家っていうのは…むこうはアパートだし文句出るんじゃない?」
『親方・その辺は問題ないっす。こっちは3世帯以上の住民限定になっているっす。獣人は基本3世帯が多いらしいっす。それこそ兄弟が両親とそれぞれの家族引き連れて住む予定もあるっすよ。』
つまり向こうのアパートでは3世帯の家族が住んだら他に1世帯しか入れず、その1世帯の居心地が悪いことになる。そうなるなら一軒家に住ませた方が良いということだ。
さらに税金として家賃を払ってもらう。もちろん一軒家の方が高いので、そこでアパートとの区別ができるということだ。使い魔たちはこの国の運営資金は家賃と消費税の二つを主軸にするように考えている。
だが基本的にこの国内に出回る貨幣は基本的にミチナガ商会の資金だ。つまり定期的な外貨獲得ができないとこの国の運営が、というよりミチナガ商会にとって打撃になる。しかし今の所外貨獲得はコーヒーとサフランしかない。
単価は高いのでそれなりの収入にはなっているが、この国造りにかかった費用を取り戻すのにも数年単位でかかる。つまり当面この国の運営は赤字、というより借金のままである。他に外貨獲得の手段があれば良いのだが現状では難しい。
「とりあえずこの国に出回る分くらいは外貨稼げないと国民一人一人が貯金を始めたら大変なことになるぞ。数年でこの国潰れるかもしれない。1万人が金貨1万枚の貯蓄をしたら…金貨1億か。あれ?意外となんとかなるな。」
『ポチ・それに銀行業もあるから貯蓄しても問題ないかも。しかもこの国は猫森の中だから普通には入ってこられないから貨幣の流出もないよ。まあ気長にやればいいんじゃない?』
「あ〜…そうだな。意外となんとかなるのか。だけど今後公共事業もしていくことも考えたらやっぱり外貨獲得考えないと儲けになるの当分先だぞ。」
『ポチ・う〜ん…色々繊維産業とか工業系の仕事も考えたけど、元手かかるからね。しばらく仕事が落ちついてからにしようと思うんだ。』
「そっかぁ…まあお前らしっかり考えてくれているからね。気長にやるか。」
『ポチ・あ、待って……連絡が入ったよ。入国者が来た。アレクリアル様のとこからの使者みたい。応接室に通しておくから急いで向かおう。』
なんとも唐突に、というわけでもない。一応こちらに使者が向かっているので来たらよろしくと使い魔経由で連絡が来ていた。そのため一応来客用に応接室などは用意しておいた。ただ、いつ来るかはわかっていなかったので服装など特に準備はしていない。
「急いで行かないとな。車で向かっちゃおうか。」
『ポチ・それならいいのがあるよ。今こっちに向かって来ているから少し待ってて。』
すると遠くの方から巨大な何かがやって来た。巨大な箱状のそれはどうやらバスのようだ。しかもオープントップバス。一体どうしたのかというと住民たちの通勤用、および買い物用に作ったらしい。
すでにバス停と時刻表、運送ルートも決めてある。随分と便利なものだが、今のところこの世界では見たことがない。英雄の国あたりなら作っていてもおかしくはないのだが、今の所魔動車は製作に莫大なコストがかかる。
そんな莫大なコストをかけるなら馬車を使えば良い。そうすると馬車の街中を走る数が多くなり、速度のまるで違う魔動車を走らせると事故の元になる。つまり魔動車のバスを一般化させるためには制作コストを削減し、馬車の使用をやめさせて一斉配備する必要があるのだ
そんなことを大国の英雄の国がやるにはコストも時間も人々への理解のための説明も必要になる。はっきり言って当分先のことだろう。しかしこの国は今できたばかりのほやほやだ。先に金をかけてこう言った設備を完成させ、一般化させれば良い。
『ポチ・もう10台は作ったから数もなんとかなるよ。今は試験走行だけど、しばらくしたら避難民の仮設住宅から仕事場まで走らせるつもり。』
「…半端ない金かけているな。魔導装甲車ほどではないにしても…10台全部で金貨5000万は軽いだろ。」
『ポチ・そんなの軽い軽い。まあ時間の節約になるならいいでしょ。ほら、とりあえず乗り心地確かめるためにも乗るよ。』
そのままバスに乗って移動する。まあ乗り心地はどうとか色々言われたが、まあ普通のバスだ。本当に普通のバスに乗っている気分なのでまあ悪くはないのだが、驚きもない。しかし車両2階のオープン席はなかなかに良い。風が程よく気持ち良いのだ。
実はウィザの魔法陣の能力を使ってこのオープン席は水を弾く結界と一定以上の質量を弾く結界が施されているらしい。つまり石などが飛んで来ても弾いてくれるということだ。とはいえ戦闘向きではないのでゴミを通さないくらいの結界でしかない。
そんな説明を受けていると目的の役所にたどり着いた。ここでは戸籍の管理や公共事業の管理など雑務をこなしている。ミチナガが普段書類仕事をしているのもここだ。ここに応接室も併設しておいた。
部屋に入るとそこには三人の男女がいた。一人は12英雄の一人フィーフィリアルだ。それにエルフの男がもう一人、あとは女が一人だ。挨拶をして席に着くと簡単な自己紹介をしてくれた。
「俺はいいとして…こっちはメールスだ。同じ12英雄の一人、隠匿のメールス。それからこっちはこの周辺のエルフの国の者だ。シェリクという。ちょうど良いから紹介しようと連れて来た。」
「シェリクです。ミチナガ様、あなたの話は長老からも聞いております。我らエルフの大切な恩人であると。そんな恩人が近くにいるというのに今まで挨拶にも来られず申し訳ありません。」
「いえいえ、こちらも国の仕事で忙しく周囲のことまで気を回せず申し訳ありません。ああ、それから一応名乗っておいた方が良いですね。セキヤミチナガです。この国、セキヤ国の…まあ領主ですね。王と名乗るほどのものでもないですし。」
セキヤ国、国名を考えるときに色々悩んだ末についた名前だ。本当は他にも色々考えたのだが、国名をつけると領主であるミチナガはその国名を名前に入れないといけない。まあ入れなくても良いという場合もあるのだが、獣人たちにとって国名を領主が名前に入るのは当たり前だということなので入ることになる。
そうなると名前が長くなって面倒なので、元々の家名、苗字であるセキヤを国の名前にしたのだ。ミチナガ国ということにしたらという案も出たのだが、それだと正式にはミチナガ・セキヤミチナガという変なことになる。もしくはミチナガ・ミチナガ?これじゃあまるでゴリラの学名のようだ。
「さて、本題に入ろう。まずは陛下から正式に国として認める書状だ。それから資金の足しになればといくらか持って来た。それからこの書類とこの書類と…こんなもんだな。まあ面倒な話はここまでにしよう。それからシェリクからも話があるんだ。」
「ええ、実はミチナガ様がいるという話を聞いて我々は是非とも国交、交易をしたいと考えています。いかがでしょうか?」
「そういうことなら是非。うちとしても交易国ができるのは嬉しいですから。」
どうやら以前エルフの国に世界樹の枝を送ったのがずいぶん効いたようだ。とはいえ世界樹の枝を送った国とはまた違うエルフの国の様ではある。しかし世界樹というビックネームは全てのエルフたちの耳に入ったようだ。
「では一度我が国へおいでください。是非とも会いたいというエルフたちが大勢いるのです。」
「そういうことなら…ちょっと待ってくださいね。ポチ、俺がいなくてもここは大丈夫か?」
『ポチ・問題ないよ。もとよりいなくても問題ない国の運営を考えていたし。それじゃあここでずいぶんゆっくりしたし、行こっか、エルフの国。』
「いや、それ俺のセリフ。」