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第23話 久しぶりの商売

 3日後。俺は再び護衛を引き連れ街に来ていた。今回の目的は買い物ではない。

 今日は商売にやって来たのだ。何しろ俺の手持ちはもうわずかだ。

 この街に来てからというもの何も商売をやってこなかったため支出ばかりが増えて収入は0だった。

 今度あの醤油の商人が来た時に金を払うためにも少しでも良いので収入を得る必要があったのだ。


 俺がやるのは鰻の蒲焼だ。ただし、この街には米がない。

 なので切り分けたものを串にさして売る串焼きスタイルだ。

 相場も多くの露店を回ったので見当はついている。銀貨まで行くと誰も買わなくなってしまう。

 しかし銅貨では赤字になる可能性が高い。なのでその間の大銅貨1枚という選択だ。


 安いようにも思えるが露店の食べ物の相場は大体銅貨5枚だ。

 それに比べると倍の値段ということでそこそこ高級志向な店となる。

 これでは人はあまりこないんじゃないかとボランティは言っていたが勝算はある。

 普通ならかなり高額になる材料費もかかっているのは醤油代と塩くらいなのでかなり格安なのだ。


 それに鰻の蒲焼は昔から匂いで食わせると言われている。

 その場で焼いていればその香りにつられて人がやってくるはずだ。場所はすでに確保した。では早速始めよう。


 やることはものすごく簡単だ。鰻の白焼きのレシピはすでに入手しているので串焼き状態で白焼きを作っておく。

 あとはそれを取り出してタレにつけて焼くだけだ。

 炭も買ってあるので炭火焼きの鰻の串焼きができる。

 タレをたっぷりとつけて焼くだけの簡単な作業。だが…


 ジュウゥ…


 こんなにも簡単な作業だというのになんとも凶悪な香りと音を立てている。

 思わずよだれが溢れて来た。後ろで見ていたボランティも思わず喉がなっている。


 しかし香りと音につられて人は寄ってくるのだが誰も買ってはいかない。

 おそらくだが値段と名前と見た目全てに原因があるのだろう。値段は他のものよりも高く、聞いたこともないような名前。

 さらに見た目は黒いタレがかかっていて初めて見る人にはとてもじゃないが美味しそうには見えないのだろう。


 しかし一度でも食べてもらえればわかるはずだ。この国の食事には甘辛いというのは俺の知る限りない。

 それに甘味はフルーツ以外それなりの値段がする。甘さというものには飢えているはずだ。

 食べてもらえさえすればきっと誰かは虜になってくれるはずだ。


 試食も考えたが試食というのはこの国では一般的ではない。

 下手に試食をして問題が起きても面倒だ。

 とりあえず今できることというと護衛の彼らに食べさせて見るくらいしかない。まあ彼らにサクラになってもらおう。


「試しにどうぞ。味の感想をお願いします。」


「よろしいのですか?ありがとうございます。おい、お前らも礼を言っておけ。」


「「ありがとうございます。」」


 護衛の彼らに一本ずつ手渡していく。香りは問題ないようだが見た目のせいでなかなか勇気がいるようだ。

 しかしもらったものを食べないわけにはいかないし、良い香りがするのでそこまで時間もかからず食べてくれた。


「おお!これはなんとも面白いですな。しょっぱいのに甘さもある。この街に来る途中でみたあの魚がこのような美味なものになるとは驚きです。」


「「美味しいです!」」


「それは良かったです。この街の人たちにも人気出ますかね?」


「これだけ美味しければ大丈夫ですよ。こんな美味しいものを食べないのはバカですよ。」


「ほう?それは聞きずてならんな。」


 急に会話に入って来た声の主の方を振り向く。すると店の前に4人の男女がいた。

 腰には剣を下げるものや杖を持つものなどがいる。見た目から察するに冒険者というやつだ。

 前の街にも大勢いたが正直戦いとは縁遠い俺とは住む世界の違う人種とも言える。

 今声をかけて来たのはこの冒険者の中にいるひときわ図体のでかい男だろう。


「おい…俺たちはこれからクエストなんだぞ。飯は帰ってからにしろ。」


「そうだぞぉ。いい加減その食い意地なんとかしなよ。」


「戦士たるもの飯は大事にしないといけないんだよ!後衛のお前たちにはわからんだろうな。それに俺が見たことも聞いたこともない料理なんて興味をそそられるじゃないか。いい匂いもするしな。」


「確かにいい匂いはしますが…値段も少し高めですね。あなたは止めても聞かないだろうし一本だけにしてくださいよ。」


「ありがとよ!てなわけで一本くれ。食わないとバカなんだろ?」


「ありがとうございます。ちょうど焼きたてですよ。味は彼らの保証付きです。」


 今日初めての客だ。少し他のものよりも大きいものをサービスしておいた。

 お金もあるようだし見た目からかけだし冒険者というより中堅以上だろう。

 まあ冒険者の違いなんてかけだし以外はあまりわからない。客として以外にそんなに興味はないしな。


 受け渡した瞬間男はすぐにかぶりついた。

 初めて食べるものだというのに躊躇も何もないというのは冒険者らしいと言って構わないのだろうか。

 単にこの男ががさつなだけと言った方が正しいかもしれない。

 男は食べながら何やら色々考えた表情を浮かべている。

 周りの仲間の冒険者もその様子が珍しいのか男を見ている。


「うまい。この味付けは初めてだ。食べた瞬間甘いと思ったが噛み締めていくにつれて塩辛さと独特の旨味がある。この甘さはおそらく蜜の実だが塩辛さが何かは全くわからない。この肉も初めて食べたが値段から察するにモンスターの肉か?この感じにはあまり覚えがないが…」


「蜜の実!?そんなの高級食材じゃん!しかもこの国の冒険者の中でも食通で通ってるあんたが全然わかんないのも珍しい!」


「蜜の実が味付けに入っているのならこの値段も納得です。少し興味が出て来ました。私たちにも一本ください。」


「うえぇ…俺はいらねぇ。甘いのにしょっぱいとかゲテモノじゃねえか。何かわからない肉なんて食いたくもねぇ…」


 残りの女性2人は買ってくれたが残りの男、おそらくリーダーと思われる男は買ってくれそうにない。

 女性陣に渡してやるとなんとも美味しそうに食べていた。

 気がつくと最初に渡した男はすでに食べ終えていたのだが何か難しそうに考え込んでいる。


「この柔らかさから言って魚類系だな。しかし値段も考えたらそんなに高いものは使えない。生臭さも感じないし魚でも上等なものだぞ。一体何を…」


「まだ考えていたのか。残念だがこれ以上時間を食うとクエストに支障が出る。もう行くぞ。」


「ま、待ってくれ!せめて2本だけでいいから買わせてくれ!」


 結局その後2本追加で購入し食べながらこれはなんだとブツブツ呟きながら去って行った。

 その後は客も来るには来たがほとんど売れることもなく1日を終了した。



 翌日、今日こそはやってやると意気込んで店の準備を始めていると何やら冒険者と見られる集団がこっちに向かってやって来た。

 何事かと思うと先頭に前日に来たあの食通と仲間に言われていた男がいた。


「お!これから準備か?昨日は何かわからなかったが今日こそはその謎を解き明かしてみせるぜ。ついでに昨日の夜にこの話をしたらこいつらが気になるっていうもんだからつれて来たぜ。」


 これはなんとありがたい。30人近くいるようだ。全員買えば銀貨3枚分にはなる。

 そう考えると今まで簡単に金貨を稼いで来たけど金貨ってものすごい価値があるんだな。改めて再確認できた。


「いらっしゃい。すぐに準備するんで待ってください。」


 先ほどまでよりもペースを上げて準備を始める。

 昨日のうちに焼いておいた鰻の串焼きがあるのでそれを温め直す必要はないのだが出したものをそのまま渡すというのもなんだか変なので温め直すフリだけはしておいた。


 どんどん温め直すふりをしたものを売り渡して行く。なかなか好評のようで皆美味しいと口々にしている。

 そのおかげか昨日までは買いに来なかった他の一般市民も買いに来てくれた。

 しかし冒険者にはこれではお腹いっぱいにはならないだろう。

 どうせなので焼き魚のストックも山ほどあるので売りに出すことにした。


「新メニューの焼き魚です。どうです一本?」


「魚かぁ…いいんだけど味気がなくて…って塩がこんなにかかっているのに銅貨2枚だと!2本くれ!」


 どうやら塩がかかっていることで焼き魚の評価がぐんと上がっているらしい。

 まあ確かに塩は高い。塩しか経費はかかっていないがそれでも利益ギリギリだ。

 他の冒険者や人々も塩につられて大量に購入して行った。


 しかし魚というのは脂はのっていても水分を取られるものだ。何か水っ気のあるものを売ろう。

 ここは無駄に在庫を抱えてしまっているプルージュースと味噌汁なんかでいいだろう。

 味噌汁は4日前から何度か作っていたのでレシピを金をかけずに手に入れられている。


 器はいくつか買っておいたものがあるのでそれを売ってそれに注いでもらうことにした。

 返却した場合には器代を返すというふうにして器が戻って来なくても損害は出ないようにした。

 売り出した途端全員が目の色を変えて味噌汁を買い出した。どうやら好評のようだ。


「おい!この汁こんなにも具材が入っているのにこの値段だぞ。しかも味がしっかりついていやがる。」


「独特の風味だな。だが悪くない。それに値段も安いしこれは大当たりだな。」


 群れるように俺の屋台に群がる人々。正直飯の在庫ならいくらでもあるのだが人手が足りない。

 あまりにも大変なので護衛の人々にも手伝ってもらっているがそれでも間に合わない。


「そ、そうだ。シェフとポチにも手伝ってもらおう。今は猫の手も借りたいくらいだ。」


 使い魔でも金をもらって商品を渡すくらいならできる。俺はひたすら在庫の補充だ。

 しかし他に安いものが増えすぎたため鰻は売れなくなってきている。

 ここは値段を落とすべきかとも思ったがここはあえて高級路線で行こう。


 新たに売り出すのは鰻巻きだ。蒲焼にした鰻を卵で包み焼くだけだがこれがうまい。

 卵は以前買った鶏から20数個取れているので多少は作れる。

 それにこの卵は一つで普通の鶏の卵の数倍はある。鰻巻きも20数人前あればおそらく足りるだろう。


「新商品の鰻巻きだよ〜一つ大銅貨5枚だけど味は格別だよ〜」


「大銅貨5枚は高過ぎって…そりゃ卵か!そんな高級品よくこんなとこで売りに出したな。けど卵の黄色が濃くて色鮮やかだなぁ…ええい!一個くれ!」


「まいど!」


 この鰻巻きはかなり練習してやっとの思いでレシピを解放したのだ。

 卵を焼くときに決して焼き色をつけてはいけない。

 焼き色をつけてしまうとせっかくの卵の色鮮やかな黄色い輝きが損なわれてしまう。

 それに卵も大量に飼料用のトウモロコシであるゼアを食べさせたことによってオレンジに近い濃い黄色になっている。


 気がつけばかなりの人だかりができている。商売二日目にして大盛況だ。

 この調子なら売り上げもかなり良いものを見込めるだろう。


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