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第221話 新しい土地と思いつき


 今日から8月、そして奇数日投稿に変わります。


「らっしゃいらっしゃい。美味しい野菜いっぱいあるよ〜肉も魚も揃っているよ〜…はぁ…久しぶりに接客したな。」


『ポチ・ほらボス、もっと頑張って。稼ぎ時なんだから。』


 ミチナガたちはようやく次の街に到着したのだが、ここで足止めを食らっていた。なんでも次に向かう予定だった国への街道が土砂崩れで封鎖されており、復旧までしばらく時間がかかるということなのだ。


 すでにブラールたちはこの街にある道場で稽古に励んでいる。また新しい護衛を雇わなければならないのだが、復旧工事も相まってなかなか良い人材が見つからない。しかしこの土砂崩れにより良いことが起きていた。


 それは流通の低下である。土砂崩れによって物資の輸入ができなくなり、物価が高騰していた。ミチナガたちはそこに目をつけ、この街に来た翌日から露店を開き、かなり稼いでいる。おかげでウハウハなのだが、人を雇う時間がなく、ミチナガが久しぶりに表に出て仕事をしているのだ。


「はいはい、これにこれにこれね…はい、ちょうど預かりました。また来てね〜。はい、お待たせしました。」


 使い魔たちの手伝いもあってかなり捌けているのだが、それでも他と比べても随分と安い価格設定で売っているので人の行列が途切れることがない。よほど食料に困っていたのだろう。するとそこにボロボロのフードを被った、獣人の母親が赤ちゃんを抱えてやって来た。


「お、お願いします。食べ物を…一口でも良いんです。分けてもらえませんか?」


「お?どうしたん…」


「また獣人よ。臭いったらありゃしない。」

「獣人の物乞いかよ。場所を考えろっていうんだ。」


 他の住民から反感が起こる。どうやらこの国では獣人はかなり嫌われているらしい。しかしミチナガはユグドラシル国では獣人街に店を構えているし、獣人も多く雇っている。なので全く嫌う要素はない。ミチナガはすぐに使い魔に食事を提供するように指示をする。


 店の裏手で食事をさせながら、横目で観察をするのだがどうにもただの乞食には見えない。食事を食べて安堵する母親を見ながら接客を続けるミチナガに住人から少しずつ不満が漏れていた。


「はいお勘定ちょうどね。ありがとう。あ、ちょっといいかな?この街に来たばかりなんだけど…獣人が多いのかい?」


「なんだ知らないのかよ。また火の国の戦争さ。結構でかい戦争らしくて逃げて来た獣人が大勢いる。そういった奴らが裏路地にいっぱいいるぜ。それに奴ら…揉め事ばかり起こす。スリに窃盗、殺しまでやるって話だ。被害にあったやつなんていっぱいいるぜ。」


 どうやらこの母親は乞食ではなく、避難民のようだ。その後も接客をしながら情報を収集し、情報の正否を頭の中で取捨選択しながらより正しい情報を作り出す。


 つまるところ戦争によって逃げて来た人々は近くの国に避難しているのだが、この辺りでは獣人の信頼と優先度が低く、なかなか受け入れてもらえない。逃げて来た獣人はより遠くのこの街まで避難して来たということだ。


 犯罪を起こしているのは避難民のせいで金を稼ぐ方法がなく、獣人ということで誰も雇ってくれない。生きるために犯罪を犯して生きているのだろう。


 その後、ミチナガは露店を早めに店じまいにした。単純に疲れたという理由もあるが、獣人たちを放っておけないという理由もあるのだろう。店の裏手で休んでいた母子に声をかける。


「あんたみたいな獣人たちが集まっている場所を知っているか?知っているなら案内してくれ。何、悪いようにはしないよ。」


「…わ、わかりました。こっちです。」


 獣人の母親の案内の元ついていくと、どんどん街の裏側に入っていく。うす暗い路地裏、汚物の匂いが服に染み付きそうだ。そんな場所を進んでいくと徐々にやせ細った獣人たちが目に入るようになる。


 やがて到着した場所はボロ切れや木の棒でなんとか雨風をしのげるようにした場所に身を寄せ合って住む獣人たちだ。しかも女子供がよく目立つ。


「女子供が多いのはなんでだ?」


「お、男はみんな戦争で稼ぎに……ですがみんな戦争で…私の主人も……う、うぅ…」


「すまん、辛いことを思い出させた。みんなに伝えてくれ。配給をするから集まるように。腹いっぱい食べたら心も少しは休まるだろ。」


 ミチナガはすぐに準備をしてその場にいる獣人たち全員に配給を始める。最初は不審がっていた獣人たちも空腹には逆らえず続々と集まって来た。ミチナガの配給する暖かく、お腹いっぱいになるまで食べられる食事を、涙を流しながら食していた。


 しばらくしてから配給は使い魔たちに任せて情報収集に移る。獣人からの情報を聞けば戦争の現状や周辺国の対応の仕方がよくわかる。しかし食事を提供してくれたミチナガのことをまだどこか不審がっている。これではまともに話はつけられそうにない。


「やっぱ俺だけじゃ無理か…ピース、トーラに連絡はついたか?」


『ピース・もう準備も完了しました。いつでもどうぞ。』


 ミチナガは使い魔を用いて映像を投影する。そこにはユグドラシル国獣人街のゴウ・アルダスが写っていた。突如投影された他国の獣人の姿にその場にいる獣人たちは注目している。


『こいつはひでぇな…俺はゴウ氏族族長ゴウ・アルダスだ。そこにいるミチナガという人間の要請を聞いてお前たちに話しかけている。しかし…まさか同胞がこんな姿になっているとは……今すぐにでも助けたい、だが俺はユグドラシル国というそこから離れた別の大陸にいる。助けに行くのは不可能だ。だが、そこにいるミチナガという男は我が氏族の恩人であり、我らの同胞である。その男は人間にしては信用できる男だ。そいつを信用してほしい。それとミチナガ、何か必要なものがあればなんでも言え、俺たちは同胞を見捨てない。腹一杯飯を食わせてやってくれ。』


「任せときな。それから急な要請に対応してくれて感謝する。まだ忙しいからまたそのうちゆっくり話そう。」


『ああ、我らが同胞をよろしく頼む。それから同胞たちよ、その男を信じてくれ。』


 そこで映像は終わった。効果があるかどうかはまだわからなかったが、もう一度獣人たちに話しかけてみると今度は警戒しつつもなんとか話をしてくれた。徐々に集まってくる情報のおかげで彼らの故郷、火の国の実情がわかって来た。


「あの国は…統一戦争の真っ只中なんです。火神が亡くなられてからすでに長い年月が経ちました。国はいくつも別れ、火の国と呼べるのは中央国と呼ばれている一帯のみです。しかしかつてのように統一されていた国家を目指すために争いが絶えず…まるで意味のない戦争が絶えず続いているのです。」


「そんなに酷いのか?」


「酷いなんてものじゃありません!人が死ぬのが当たり前になっているんです。かつては戦って死ぬことに誉がありました。だけど今の戦争には…もう何もない!ただ無意味に戦争が起こり、ただ無意味に人が死ぬんです!今の火の国には統一した国を治めるだけの王がいないのです。」


 国同士の戦争でどちらかが勝っても、弱ったところを他の国に襲われて国が取られる。戦争で勝ち続けても軍部が反乱を起こし新国家を樹立し、再び戦争が起きる。もう戦争をするために戦争をしているようなものだと彼女たちは語った。


 それを聞いたミチナガは愕然とした。そこまで酷くなっているとは思いもしなかったからだ。そして一つのことに思い当たった。思いたくもないそのことをミチナガは震える声で問うた。


「ポチ、ピース…誰でも良い。答えてくれ。マクベスの国は…無事なのか?」


『ポチ・……今のところは、っていうしかないね。正直…緊張状態は続いているよ。だけどそれは火の国全体でそうなっているんだ。まだマクベスの国は平和的な方だよ。だから一度顔を出すのも良いって言ったんだ。…会えるうちに。』


「…くそっ!!……ありがとうな。言ってくれて。」


 おそらくポチたちのことだ、ミチナガの身を案じて黙っていたのだろう。ミチナガはこんな情報ひとつで悩まされ、まともに寝付くことも難しくなる。図太い神経をしつつも、身内のこととなると、どうしようもなく心配してしまうのだ。


「はぁ…よし!まずは目の前の問題からどうにかしよう。獣人の避難民はどのくらいいるんだ?」


「わかりません。ですが数百という数ではないでしょう。」


『ポチ・もうそれじゃあ一つの国レベルじゃん。ボス、正直全員助けるのは不可能だよ。それにお金だってかかる。』


「ミチナガ商会のモットーは金にならないことはやらない!だからな。儲けられるように…それでいて全員が良い結果になる…そうなるためにはどうするか…か。」


『ピース・こ、これだけ人がいるなら……い、いっそ…国作っちゃう?』


「アホか……って言いたいけど面白いかもな。作っちゃう?国。」



 今回の話

 書く前の作者「流れはそうだな…避難民出してどっかの村救ってそこに住んでもらおう。そんな感じで良いな。」


 書き終わった後の作者「『…作っちゃう?国。』よし完成!………は?何言ってんだお前?」


 何故こうなった……すげぇ不思議。


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