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第220話 困惑の極み


「ほ、本当に良かったの?城にあるものほとんどもらっちゃったけど…」


「それがお役に立つのなら構いません。むしろ喜ばしいことです。」


 時刻は明け方近い。これまでの間、延々と城の中にある使えそうなものを貰っていった。額にしたら金貨数百億枚はいくだろう。歴史的価値のあるものが多くありすぎる。ミチナガでは価格をつけられないものばかりだ。


『ヨウ・ねえねえヴァルくん。このお城も移動させることできないかな?このお城もあると絶対いいと思うんだ。』


「お、お前、さすがに城まで欲しがるのはちょっとやりすぎだろ。」


『ヨウ・でもでも、考えてみてよ。これから作るテーマパークが人気になった時に、このキャラクターたちはここで作られたって言えば観光名所になるよ。間違いなく人気になるよ。』


「まあ確かに…聖地みたいなものだもんな。」


「ふむ、ヨウ殿がそういうのなら運んでしまいましょう。一度城から出てもらえますか?」


 運べるのかよ、というツッコミは我慢してブラールたちにも声をかけて城の外、さらには城壁の外まで出る。さらにもう少し離れたところで、ヴァルドールはもう大丈夫だと声をかけて来た。


 そこからヴァルドールは魔法を行使するのだが、魔法の完成までしばらく時間がかかるらしい。かなり大掛かりな魔法ということで呪文も長く、集中力も魔力消費も桁違いだ。やがて1時間ほど経った頃だろうか。朝日が登って来た頃に魔法は完成した。


 突如巨大な地響きが起こり、まともに立つことすらできなくなる。地面が砕け、亀裂が走る。すると突如地面から青紫色の何かが飛び出して来た。その飛び出して来た何かは城壁を、庭を、古城を一飲みにし、さらに勢いで空へと飛び上がった。


 よく見ればそれはカエルだ。ちゃんと腹のあたりを見ればカエルのような手足がついている。これほどまでに巨大なカエルがいるという事実を脳内で否定しなければこれは間違いなくカエルだとわかる。


 こんなカエルがいれば生態系はめちゃくちゃになってしまうだろう。そんなくだらないことを気にしていると、そのカエルはヴァルドールの首元から伸びる漆黒の鎖に絡め取られ、みるみる小さくなり、吸収されてしまった。


「終わりました。今のはパープルヘッドフロッグの暴食種です。悪魔たちの住む魔界にのみ生息するカエルで一度に大量の食事をして冬眠する珍しい種です。大きな荷物を運ぶのに便利で昔捕獲しておりました。」


「へ、へぇ〜……すごいカエル…だね。」


『ヨウ・すごーい!魔界ってどこにあるの?暴食種ってことは他にもいろいろいるの?』


「ええ、パープルヘッドフロッグは生まれてから5年の間に様々な種に変わります。一番多いのは猛毒種ですね。暴食種は50年に一度誕生するかしないか、非常に稀な種です。魔界というのは魔国からのみ通じる悪魔たちの住む異次元の世界です。私が生まれる前はよくそこから出て来た悪魔と争っていたと言われています。当時の初代神魔が入り口を封印したので、今では出てくることはありません。こちらから入ることは可能ですがね。」


 当時の初代神魔によって封印されたので安全ということだが、よほど信用されているらしい。すでに初代神魔が亡くなってから1000年以上の月日が経っているというのにそんな神魔の封印が今でも問題ないと信用されている。これはよほどの人物だったのだろう。


「さて、これで全て終わりました。それでは…私は早速テーマパーク建設に着手したいと思うのですが、場所は…」


『ヨウ・えっとね、ヨーデルフイト王国って言って英雄の国の南西の方角にある国なんだ。場所は…ボス、スマホ見してくれる?』


「ちょっと待っていろよ…今いる場所がここでヨーデルフイトがここ。距離はかなりあるから時間かかるぞ。それに…ヴァルくんが行くなら一度勇者神に挨拶した方が良いだろうな。俺の名前出せばなんとか話聞いてくれると思うから。使い魔の方からも話をつけておこう」


「なるほど…勇者神…今代の魔神ですか。ええ、一度行ったことがあるので場所は存じております。しかしかの土地に踏み入るのはいつぶりか…。わかりました、一度挨拶をしてから着任致しましょう。それでは善は急げ…フフフフ……まさか私がこれほどまで急ぎたくなるとは。では王よ、あなた様の使命を必ず果たしましょう。」


 そういうとヴァルドールはその場からふっと姿を消してしまった。やがてヴァルドールが消えたことにより周囲の幻術は解けて、周囲が露わになる。どうやらここは岩山の山頂で、馬車や魔動車などは決して走ることのできない場所のようだ。


「あー…行く前に俺たちを山の下まで下ろして欲しかったなぁ……」


『ヨウ・なんなら英雄の国まで連れて行ってもらいたかったね。』


「確かに。ま、まあそれはせっかくの旅だしいいってことにするけど……こりゃ街道に出るまで歩きか。やばい…どれだけ歩く必要があるんだろ……」


 その後、ミチナガたち一行はミチナガが足を引っ張ったことも相待ってその日の夕方になんとか街道にたどり着いた。その後、その場所でもう一泊する羽目になり、結局出発したのはさらに翌日の昼間だ。ミチナガが筋肉痛で文句を言わなければもう少し早く出発できたのだが、もうどうしようもない。






「陛下!緊急事態です!西の方角から急速接近する巨大な魔力反応です!」


「何?神魔か?」


「い、いえ、それにしては魔力反応が乏しいです。し、しかし魔力量は魔神クラスの化け物です。すでに12英雄の方々も招集しております。」


「良い判断だ。こんな夜更けに一体何者だ……」


 ある日の夜、国の一部の猛者だけに緊急の招集命令が下った。すぐに参陣した英傑たちは勇者神の城に集まる。あまり国民を不安にさせてはならないと公には発表していない。なんせ大国を相手にできるだけの戦力が一堂に会しているなどと言えば間違いなく混乱が起きる。


 やがて城にいるすべてのものが接近してくる何者かの気配を感じ取った。感じ取ったもののほとんどは冷や汗が滝のように流れ出している。そして現れた何者かは厳重に防備されている勇者神の城をいともたやすく突破し、玉座の間に現れた。


 現れたその男はいくつものコウモリの集合体を引き連れている。しかもその男はこれだけの戦力が一堂に会しているというのに眉ひとつ動かすことなく涼しい顔をしている。


「ふむ…大方の目安をつけて飛んできたが、随分と小綺麗になっているではないか。私の知っているこの城はもう少し無骨であったぞ。随分と時代が変わったものだ。して…お前が今代の勇者王…勇者神か?」


「そうだ。私が勇者神アレクリアル・カナエ・H・ガンガルドだ。だが人に名を訪ねておいて自分は名乗らないのか?」


「これは失礼をした。我が名はヴァルドール。お見知り置きを。」


「ヴァルドールだと!!」

「馬鹿な!物語の人物だぞ!」

「あ、ありえない…史上最強の吸血鬼の王だなんて…」


「皆静まれ!……まさかとは思うが…かの吸血鬼神ヴァルドールか?」


「いかにも。しかし私の名をそこまでちゃんと知っているとはな。やはり黒騎士とやりあった影響か?どうやら今は…そうか、そうだな。黒騎士も生きていないのか。」


 ヴァルドール、実は英雄の国に住む人々…というより英雄の話を聞いたことのある人間なら誰でも知っている名前である。英雄たちの敵であり、物語の悪役の一人にして最強の吸血鬼。子供達にヴァルドールの名前を使って脅かせば、皆泣き叫ぶほどだ。


 英雄譚の中にはその最後をヴァルドールにやられて終わるものもある。そして英雄の国の大英雄、黒騎士が戦い、勝つことも負けることもなかった好敵手。ヴァルドールが幾千の吸血鬼を率いて戦った戦争は恐怖の物語として知られている。


「黒騎士様はとうの昔に亡くなられた。しかし、かの大英雄の意思は我々が引き継いでいる。彼のように最後まで戦い抜く漢の意思を継いで我々はここにいるのだ!!」


「「「ウォォォォォォ!!!」」」


 雄叫びが上がる。己を鼓舞するように挙げられた声は城を揺らす。雄叫びが終わる頃にはヴァルドールに畏怖する人間などそこには誰もいなかった。しかしそんな英傑たちを目の前にしてヴァルドールはなぜか笑っていた。


「何がおかしい。何がおかしいというのだヴァルドール!!」


「いや、これはまた失礼をした。しかし…酷いのはお前たちであろう。黒騎士のような漢にとは…あまりにも可哀想だ。それでは彼女は死にきれんだろ。」


「……は?か、彼女?」


「なんだ、そのあたりは伝わっていないのか。黒騎士殿は女性だ。しかも私が初めて戦った時はまだうら若き乙女であったぞ。」


「え?…あ?……え?」


「まあ普段からあまり喋らず、鎧兜のせいで声もこもっていたから時折間違えられていたがな。それに女扱いされることも嫌っていた。…まあ例外もあったようだがな。それから何やら武闘派を集めたようだが、私に戦闘の意思はないぞ。戦いには飽き飽きしているんだ。」


「え?…だ、だったら何用だ!こんな夜更けにいきなり現れて!」


「む…話がついているのでは?…まあいいか、すまない。太陽の光は特に問題ないのだが、やはり夜の方が勝手がよくてな。つい私の時間に合わせてしまった。許してほしい。気持ちがせいているんだ。」


 全く予想とは違うヴァルドールの対応に周囲もざわつき始めている。アレクリアルもどうしたら良いかわからなくなり混乱している。正直心の中では戦いに来てくれた方が楽だとも思い始めているほどだ。


「じゃ、じゃあ本当になんでここに来たんだ?」


「よくぞ聞いてくれた。実は我が王…失礼、この国ではミチナガ伯爵と呼ばれているんだったな。ミチナガ伯爵の下に帰順した。今はミチナガ商会の一員ということになる。実はこの国で働くことになってな。ミチナガ伯爵からは一度挨拶に行った方が良いと言われた。それで来た次第だ。」


「す、少し待て…お、おい、誰か。ミチナガ伯爵の使い魔、ユウをここに呼べ。急げ…」


 アレクリアルの命令通り、すぐにこの城で働いている使い魔のユウが連れてこられた。ユウはこの騒動の中、ぐっすりと寝こけており、今も寝ぼけ眼を擦っている。


『ユウ・どうしたんですアレクリアル様……あ、あれ?ヴァルくん!?なんでここに?え、うそ!もう来たの!?明日にでもアレクリアル様に伝えようと思っていたのに!出発したの今朝でしょ!』


「ヨウ殿…ではないのか。ユウ殿ですか。何、居ても立っても居られず、こうして参陣したのだ。まずかったか?」


『ユウ・アレクリアル様今日忙しそうだったから明日伝えようと思っていたんだよ。だけど…これは僕のミスだね、ごめん。アレクリアル様、こちらのヴァルくん…ヴァルドールくんはミチナガ伯爵の下、ミチナガ商会の一員として任命されています。今後はヨーデルフイト王国で事業の手伝いをしてもらう予定です。』


「そ、そうなのか…し、しかし過去にはヴァルドールによる甚大な被害が出ている。そう簡単に許すことはできない。」


『ユウ・ちょ、ちょっとタイム!ヴァルくんヴァルくん、こっち来て。』


 ヴァルドールとユウは座り込んだまま何か秘密の会議をしている。それから10分ほどだろうか、ヴァルドールとユウはすくっと立ち上がりその場で頭を下げ始めた。


『ユウ・アレクリアル様、ヴァルくんは今後のうちには欠かせない人材です。しかしアレクリアル様のいうことも十分理解しております。そこでヴァルくんにこの国の研究の手伝いをさせます。それに有事の際にはヴァルくんも戦います。それからミチナガ商会からは払えるだけの慰謝料を払います。必要なものもなんでも揃えてみせます。だから…だからヴァルくんを許してやってください。』


「すまないことをした。本当に申し訳ない。私にできることはなんでもしよう。だから…この通りだ。」


 想像もしていなかったヴァルドールの謝罪。これにはアレクリアルも困惑を極める。正直今だけは勇者神の地位を誰かに変わって欲しいくらいだ。アレクリアルはその場でしばらく考え、口を開いた。


「わかった。ヴァルドール、君の罪を不問にしよう。あの頃はお互いに殺し殺されあった。そういう戦争だった。それに君の部下も我が国が大勢殺している。だというのに君だけを罪には問えない。私も頭に血が上っていたのだろう。しかし聞きたい。そこまでしてやりたいこととはなんだ?」


「それは」


『ユウ・人々に夢と笑顔を…だよねヴァルくん。』


「ああ…世界中に夢と笑顔を与えられる仕事をしたいと思っている。私が数百年生きて来てようやく見つけた私の存在理由。私の答えだ。」


 ユウとヴァルドールは今日一番の笑顔で笑いあっている。ただ、アレクリアルとその他大勢だけは困惑を極め、翌日の仕事はすべて休んだという。


 この日のことを後世の人間は文献を見て知ることになるのだが、あまりにも酷い偽造された歴史だということで即刻処分されたという。




 去年のこの日あたりから急激にアクセス数やブックマーク登録が増加しました。この作品の記念日とも言える日です。なんだか飛び上がるように喜んだのを思い出しました。


 今後とも頑張っていくので、よろしくお願いいたします。


 

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