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第215話 使い魔とモデル産業の始まり

「あ、店長!お疲れ様です!」


『ムーン#1・そっちこそお疲れの様子だねメリア。少し休まないと体壊すよ。』


「な、なんだか毎日楽しくて…それにこんな研究所兼工場まで建ててもらったのに不甲斐ないことなんてできなくて…」


 ここはアンドリュー子爵の領地にあるミチナガ商会の化粧品研究所兼工場。随分前から工場建設を始めており、現在60%まで完成している。すでに建設費だけで金貨1億枚をかけている超ビッグプロジェクトだ。


 最新の魔道具や機密情報の保護のために様々な防衛魔法を組み込んでいる。この辺りは英雄の国の研究所を参考にさせてもらった。ミチナガ商会の化粧品関連は全てこの研究所で作られている。情報が漏洩すればなかなかの痛手となるため、機密保持に余念はない。


 ちなみにメリアはすでにこの研究所と工場の主任を任せられている。部下も数十人いるほどの出世っぷりだ。もうメリア無しにミチナガ商会の化粧品産業は成り立たない。今日も数十種類の化粧品の試作品が完成している。


 その1次チェックはメリアの部下たちに任せているが、最終チェックはメリアが行なっている。ちなみに許可が出るのは1%以下の確率だ。ムーンによって妥協は許さないという感覚がメリアに深く根付いている。


「それで店長はどんなご用件ですか?」


『ムーン#1・うん、実は新しい事業を立ち上げるんだ。そこにメリアの力を借りたい。基本的なことは他に任せられる人を育てるつもりだけど間違いなくメリアは関わる。これが書類ね。確認してみて。』


「拝見します。……モデル業ですか。化粧品と服飾の宣伝が目的…映像産業も巻き込んで……すごい。こ、これすごいです店長!ビックプロジェクトじゃないですか!わ、私も関わっていいんですか?」


『ムーン#1・もちろん。むしろ関わらないと成り立たないでしょ。それから部下も数人貸して欲しい。研究所にこもっての研究も大切だけど実地研修も間違いなく役立つでしょ。使えそうな人いる?』


 そういうとメリアはどこからか一冊の本を持ってくる。それはこの研究所で働いている従業員全員の名簿だ。そこには事細かに従業員一人一人の能力や普段の行動が書き連ねてある。メリアはそれを見ながら自身の記憶を呼び起こし、役立ちそうな人材を選ぶ。


 すぐに十数人を選抜し、呼び出して面接をする。呼び出されたものたちは全員突然のことで緊張して固まっている。中にはクビになるのではと泣き出すものまでいる。しかしそんなことは御構い無しに面接を行い、6人を選抜した。


「まず初めに言っておきます。クビなどではないので落ち着いてください。いい加減泣き止むように。あなたたち6人には新しい事業のために移動してもらいます。そこ、表情を変えない。左遷ではありません。資料があるから全員それを読みなさい。」


 メリアは使い魔たちと会っている時とは全く口調が違う。上に立つものらしい堂々とした振る舞いだ。ただ集められた6人のなんとも情けない表情に少し不安げでもある。


 6人が書類に目を通している最中もどんどんメリアは説明していく。この事業がどれだけ今後の化粧品産業に関わってくるか、失敗は許されないどれだけ大事な事業であるか。


 その一通りの説明を聞いた面々は目の色を輝かせ始める。自分の腕にこの先の化粧品産業の未来が関わっていると知り、不安に陥るものもいる。しかしそれでもやりがいは間違いなくある。


「私からの説明はここまで。ここからは直属の上司となる方々を紹介するわ。それではお願いします。」


『メイ・初めまして。メイク担当のメイです。それからこっちも…』


『メーク・同じくメイク担当のメーク。人手が必要になるのでメイク担当はこの二人になります。』


『ヘア・ヘアスタイリスト担当のヘア。よろしくね。』


『デザ・服飾担当のデザ。誰かしら常にアシスタントについてもらう予定だからよろしく。』


『カメ・アシスタント兼カメラマンのカメです。カメさんって呼んでね。』


 突如現れ、直属の上司と紹介されたのが使い魔ということで全員驚きを隠せない。中には笑いそうになるものまでいるが、そこはメリアが目で睨みを効かせる。実はここで働いている人間は使い魔をみたことがほとんどないのだ。


「どう思ったのかはあえて聞きません。しかし言っておきますが彼らはあなたたちよりも優秀です。私の上司も彼らと同じです。失礼なことをすると…私は庇えません。そういう立ち位置にいると知っておきなさい。以上です。ではあとはお願いします。」


 選抜された6人はメリアの上司なんて存在すると思ってもいなかった。尊敬する上司の上司となれば6人は動揺と緊張でもう思考回路がおかしなことになる。しかし使い魔たちはそんな彼らを見てすぐに行動に移す。


『メイ・それじゃあとりあえずご飯行こっか。お昼近いしちょうど良いよね。』





「こ、ここってミチナガ商会が最近始めた海の魚を食べられるっていう高級料亭…一食金貨数枚は当たり前っていうところだよな……」


『カメ・ほらほら、早く入って。席はとってあるからすぐに入れるよ。』


 メイたちは6人の従業員をミチナガ海鮮料亭へ連れてきていた。まだ先月オープンしたばかりだが、毎日満席になるほどの人気だ。この辺りでは絶対に手に入らない海の幸をふんだんに使った料理を提供する唯一の店ということで周辺の貴族たちはこぞってやってくる。


 しかしミチナガ商会の高級路線の料亭だというのに一般庶民もやってくる。値段は高いが、味と品質はミチナガ商会ならば保証できるということで夫婦の記念日などでやってくるのだ。もちろんやってきた客は全員満足して帰って行く。


 すでにこのあたりの国や町では人生で一度は食べに行きたい店と思われるようになった、そんな誰もが憧れるこの店をなんとも気軽に連れてきてもらえたことに6人は大いに喜ぶ。店に入るといきなり正面に巨大水槽が現れ、その中で幾種類もの海の魚が泳いでいる。


 そんな圧巻の光景に度肝を抜かれていると使い魔たちはどんどん先へ進んで行く。置いて行かれないようについて行くと、案内された部屋は貴族専用の特別室だ。そこの壁一面はまた巨大水槽で食用ではない幾種類もの色鮮やかな魚たちが泳ぎ回っている。


 この光景に圧倒され続けながらもなんとか席に座るとすぐに注文を入れるのだが、どうしたら良いのかわからない。おどおどしている6人を見ながら使い魔たちは勝手に注文を行ってしまう。


『メイ・今日は美味しいやつ何が入ってる?』


「はい、本日はクリスタルロブスターとクイーンサーモンが入っております。」


『ヘア・お、いいの入ってるじゃん。じゃあそれお願いしちゃおうよ。』


『デザ・飲み物は白ワインにしようかなぁ…日本酒もいいなぁ…面倒だしどっちもボトルでもらおうか。シェフさんに料理に合うオススメのやつ選んでもらって。みんなもそれでいいよね?』


「え!あ…それでお願いします。」


 ある程度おまかせで注文すると続々と料理が届く。どれもこれも普段食べることのできない料理ばかりだ。そんなものを食べるとなると緊張で味もわからなくなる。しかし使い魔たちの無礼講な話し方と接し方、それにお酒も入ったことで6人は徐々に緊張がほぐれ、和やかなムードになってきた。


『カメ・いやぁ…楽しくなってきたね。料理もまだまだあるからどんどん食べてね。お残し厳禁だよ。』


「はい!どんどん食べます!それにしても本当に美味しいですねぇ…」


『デザ・まあミチナガ商会の専属料理人が作ってくれているから。シェフさんっていうんだけど、この店の料理人が育つまではここで働いているんだよ。シェフさんがいる間だからこそ食べられる料理だからしっかり堪能しな。』


「ありがとうございます。しかし…こんなに良い思いをさせてもらっても良いんですか?」


『カメ・今日は顔合わせだからね。みんなで打ち解けることで仕事もうまく行くようになるから。それに今回やるモデル事業にはこういった料理店も関わってくる。例えば美味しい料理を出すお店の女性店員を対象にして撮影を行えば、化粧と衣装のPRの他に料理店のPRにもなる。』


『ヘア・料理店のPRをすれば料理店に通っている人たちも映像を見てくれる可能性がある。さらに映像に人気が出てくればお金を払ってうちに撮影依頼をしてくる店も出てくる。まあうちで取り扱うのはあくまでちゃんとしたお店だけだ。料理のまずい店を紹介すればうちにも悪影響が出る。みんなには今後、店の選定なんかも頼むからね。美味しいものを覚えてもらわないと。』


『メーク・料理店だけじゃないよ。骨董品や魔道具を取り扱う店なんかでも撮影をする。それこそ観光名所で撮影なんかもね。幅広くやらなくちゃダメ。それから専属モデルも雇って行く予定だよ。まあまだ候補もいないんだけどね。』


『メイ・君たちのこれからの仕事は現場での顧客からの情報の収集。研究室ではわからない現場での生の意見だ。そういった意見から有用なものをまとめて研究所に送って商品開発のさらなる向上を促す。君たちが育ってきたら君たち一人一人に部下をつけて組織を大きくする。頑張ってくれよ。』


「「「はい!よろしくお願いします!!」」」


 実に元気の良い返事だ。まあそれもそのはずだ。なんせ彼らは今後のミチナガ商会モデル産業の幹部候補なのだ。彼ら自身そのことには十分気がついている。かなりの重役だが、それだけ期待されていると思えば嬉しいものだ。


 その後もやりたい放題に飲んで食べて騒ぎまくる。使い魔たちの大盤振る舞いだ。しかしそんなこと、ミチナガはもちろん他の使い魔たちが許すはずもない。酔いが冷めた頃にはメイたち使い魔5人はシェフの眷属によって正座させられていた。


『シェフ#3・それで?飲み食いだけで金貨200枚超えているんだけど。ちょっとやりすぎじゃないかな?どう思う?』


『メイ・こ、これも従業員と打ち解けるためで…立派な仕事と言いますか……』


『メーク・あ、遊んでいたわけじゃないんですよ。仕事なんです。だから……ね?経費で落ちますよね?』


『シェフ#3・落ちるわけないでしょうが。しばらくおやつ抜き。雑用も増やすからね。』


『カメ・そ、そんなぁ……』




 本編関係なくちょっと愚痴ります。

 

 京アニの火災…もうテロですよね。ニュースを知って呆然としました。

 令和元年始まって早々の21世紀、いや戦後最大の被害を出した殺人事件が起きるとは…


 しかも私の誕生日に。心境がめちゃくちゃです。これから毎年誕生日がアニメファン悲劇の日になると思うと色々辛いです。亡くなった方々にご冥福をお祈りします。


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