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第208話 使い魔の商人

「いやはや…まさかまさかの1日だったな。」


 冒険者ギルドでの俺の冒険者登録の更新後、俺の身分は保証され無事この国に入国することができた。しかし俺が魔王クラスだと分かった後の門番や受付嬢の対応の変わりようには驚いた。まるで国賓かのように丁重にもてなし、お詫びということで高級ホテルに1週間無料で泊まらせてくれた。


 しかし魔王クラスといえどもたかが魔王クラス。上の魔帝クラスもいるのに俺のもてなし方は良すぎじゃないのかと思い、使い魔達に他国で調べさせた。その結果、俺の魔王クラスというのは普通の魔王クラスとは違うものだということがわかった。


 まあ俺が特別なのではなく、商人の魔王クラスというのが特別なのだ。魔王クラスに上がるために必要なのは世界への影響力。それは一般的には強さとして知られているが、商人の場合それは数カ国に及ぶ商売による影響力に換算される。


 強さによる魔王クラスというのは一般的に一国の騎士団長などの地位までいける強さが必要になる。一国に仕え、周辺各国に俺がこの国を守るという畏怖を与えることで世界への影響力が出る。まあナイトのように戦えばめちゃくちゃ強いみたいな潜在的な影響力もあるがそれは置いておこう。


 そして商人の場合、特に俺の場合は強さによる影響力は皆無だ。つまり俺の場合、商人の場合は商売によっておきる国への、国民への影響力が全てだ。しかしこれが難しい。例えば俺が米を売ったとする。しかし他にも米を売る人間がいる場合は俺の影響力というのは下がる。


 このように競合相手がいればいるだけ影響力は下がる。それこそ国一番の大商人になったところで魔王クラスには至れない。数カ国で国一番の大商人レベルにならないと魔王クラスに至ることはできないのだ。


 つまり俺が魔王クラスに至ったということは数カ国で国一番の大商人ということだ。そんな俺に何かあれば数カ国から非難を受ける。下手をすれば俺によって戦争にまで発展するレベルの重要人物になったのだ。


「なんかそんなこと急に言われても全然わからん。すごいすごい言われても全然そんな気がしない。てか俺ってそんな大商人になったの?現状はどうなのよ。マザー、説明頼む。」


マザー『“現在、ミチナガ商会が展開する国及び村々は10以上になります。その半数以上でミチナガ商会は重要な位置にあると言えます。”』


「え?うち今そんなことになっていたの?やべぇ…全く知らなかった。全部お前らに任せっぱなしだから……あ、だから魔王としての名が使い魔の商人なのか。なんとなくわかっていたつもりだけど、そう思うとすげぇ納得。」


 現在ミチナガ商会が展開し、トップとして君臨している場所はアンドリュー子爵の領地、ルシュール領、ブラント国、ユグドラシル国などがある。特にユグドラシル国は人間街、ドワーフ街、エルフ街、獣人街があるがその全てでトップに君臨している。


 さらに言えば南国フルーツのアマラード村、ナイトの助けた糸の村、ギュリディアと共に学園都市建設中のウィルシ領、世界樹の枝葉を寄贈したことによって信頼を得たエルフの国などでもトップに君臨している。


 さらに世界貴族の伯爵ともなれば魔王クラスという地位はごくごく自然なものであった。実は随分前から魔王クラスではあったのだが、ミチナガはそれを確認しなかったので今まで知らなかっただけなのだ。


 これだけの偉業を成しているミチナガだと考えれば、門番たちが不敬をなんとか払拭しようと高級ホテル1週間無料宿泊させたことなど安いものだ。むしろミチナガがゴネればもっと色々要求することすら簡単だったのだが、ミチナガは気がついていない。


「しかし…ミチナガ商会の商会長でブラント国とユグドラシル国では貴族になって英雄の国で世界貴族伯爵になって魔王クラスの商人になって……肩書き多すぎてよくわからんな。」


『ポチ・本当にすごくなったものだね。』


「あ、おかえり。無事集められた?」


『ポチ・無事ではないよ。最後にあのダンゴムシにやられて戻ってきちゃった。けどすごい数集まったよ。問題は加工することができないってこと。このダンゴムシ固すぎるんだよ。スミス経由でグスタフさんにも聞いてみたけど加工できないって言われちゃった。』


 そんな硬いものをスパスパ斬ってしまう神剣はやはりやばいな。しかも素材が硬すぎて加工できないため、買い取り価格もひどく安いとのことだ。そのため、現在は社畜とアルケによって様々な実験を行なっているとのことだ。


『ポチ・それから魔導装甲車は回収したけど修理は不可能。エンジンから何から何までかじられて使えるところが残ってないや。今新しく新造中。時間かかるからしばらくこの国でゆっくりしておいて。』


「りょーかい。まあ足がないんじゃどうしようもないよな。それに俺も疲れたよ。しばらくはゆっくりさせてもらう。それから明日神剣…イッシンの所にお礼に伺うから手土産用意しておいて」


『ポチ・おっけい。お酒とかがいいかな?』


「う〜ん…少し話した感じ子煩悩だから子供が喜んだりする方がいいだろうな。お菓子とかフルーツとかでいいんじゃないか?」


『ポチ・じゃあシェフに伝えておくね。最高の食材を使っても問題ないって言っておく。』


 かなり金がかかることになりそうだが、命の恩人だし魔神だしケチケチするというのは良くない。良いものを作っておいてもらおう。俺は今日の疲れを少しでも癒そうとベッドに横になるとそのまま眠ってしまった。




「ん……あれ?…そうか…寝ちゃったのか。夕飯食べそびれたな。うわ、ちょうど朝日が昇ってきたところだし。……はぁ…なんだか目が冴えちゃったな。少し散歩でもしてくるか。」


 スマホから緑茶を取り出して飲みながらホテルから出て周辺を散歩する。旅行の日の朝のようなふわふわとした不思議な感覚に陥る。しかし考えてみれば今は旅の途中。こんな感覚はごくごく普通の感覚だ。


 随分と心安らげながら歩いて行くと遠くの方から子供たちが走ってきた。どうやら朝の稽古の一環でランニングをしているようだ。こちらから挨拶するとなんとも元気よく挨拶をみんなで返してくれた。


「はぁ…子供って素直でいいなぁ。自由に生きていけているし。俺も子供に戻りたいよ。」


 そんな独り言を言っていると後ろから笑い声が聞こえた。振り向くとそこでは汗を流した60代と見られる男がいた。ミチナガは独り言を聞かればつが悪そうに笑っている。


「旅の人かな?この街は初めてのようだね。ならこの先をまっすぐ行って大きな道場を見学して来な。この国最大の剣術道場がそこにあるよ。朝なら稽古を観られると思うから。」


 これだけ剣術が盛んな国で最大の剣術道場と言うのならばそれは観ておかないと損だ。男に感謝して言われた通り歩いて行くと巨大なコロシアムのような建物があった。そこからは男たちの気合いを入れる雄叫びが聞こえて来た。


 その建物の入り口にいた男に見学したいと言うとすんなり通してくれた。中に入ると数千人の人間が皆一様に稽古に励んでいた。俺はその様子を見ながらフラフラと歩いて行くとどうやら剣術のレベルが上がるごとに列の前に行けると言うことがわかって来た。


 そしてそのまま歩いて行くと列の最前列、その先に立つ一人の女の姿が見えた。その女はなんとも美しかった。それは美貌もあるが、その剣術だ。あまりにも華麗な剣さばきに思わず声が漏れてしまう。


 あんな姿を見ると自分も剣を振ってみたいと思うが、この貧弱な肉体ではあそこまで華麗に剣を振るえないだろう。人にはできることとできないことがある。だから俺は商人として生きよう。


 一通り剣を振るい終えると道場の中央へ移動して行く。どうやらこれから実践稽古をするようだが、その戦い方がおかしい。戦うのはあの華麗な剣術をする女一人に対して10人の屈強な男たちだ。しかも女の方は木剣で男たちは真剣だ。


 しかも観た感じ男たちは魔帝クラスの実力者だろう。こんなのまともな稽古になるはずがない。そして俺のその予感は的中した。しかしそれは俺の想像とは真逆の的中の仕方であった。


 10人の男たちが一人の女に軽く翻弄されているのだ。その技の多種多様なこと。まさしく手本となる剣さばきである。相手がこう攻めて来たらこの技で返す。この技できたならこの返し技を使う。教科書のような剣さばきだ。


 しかしそれをこの敵の強さ、この敵の数でこなしてしまうと言うのは並大抵の実力ではない。やがて30分も経つ頃には男たちは誰も立っていなかった。女の方は軽く汗をかいている程度だ。


「今日の見稽古はこれで終わりよ。今見たことを忘れないように実際に剣を振るいなさい。それからそこにいる…見学者ですか?もっと近くに来ても良いんですよ。」


「あ、気がついていたんだ。」


 俺は声をかけられたので周囲の注目を集めた。これだけの大人数に注目されると言うのは未だに慣れないな。俺はその女の方に近づいて行く。そして近くまで行ったところで軽くお辞儀した。


「朝早く起きたものですから見学させていただきました。旅の商人ミチナガです。もう少し見学させていただいても?」


「構わないわ。ん?旅の商人…ミチナガ…もしかして。」


 そう言うと女は上空を見上げる。俺もつられて見上げてしまったがそこにはなんだか見覚えのある空間の切れ目があった。そしてその空間の切れ目から男が現れた。男は上空から落ちてくるとなんとも不恰好に着地した。


「やあミチナガさん。昨日ぶりですね。この道場からミチナガさんの気配を感じたから見に来ちゃいました。」


「現れ方が独特すぎて驚きにくいですよ。おはようございますイッシン様。」


「随分珍しいじゃない。ちょうど良いわ、今日こそは泣かす…」


 突如現れたイッシンであったが女に目をつけられ勝負だ勝負だと急遽試合が決まってしまった。これにはイッシンも困り顔なのだが、慣れたように場所を移動して行った。そしてお互いに向かい合ったところでイッシンが声を発した。


「今はミチナガさんを朝食に誘おうと思って来ただけなんだけど……まだ朝ごはんもできてないし。だから……ね?」


「朝食の時間をずらせば良いだけよ。今日はいつもより調子が良いの。それに技も改良してある。今日こそは一本取ってやる……」


 そう言うと女はイッシンに向かって奇襲を仕掛ける。イッシンはまだ構えてもいない、と思ったのだが特に関係ないようだ。女の連撃をいともたやすくさばいて行く。やがてイッシンの剣速が上がり、女は防戦一方になった。


 しかしイッシンの目に見えない連撃を耐えるこの女は本当にすごい。だがすぐに防戦すらできなくなりあっけなく敗れた。女からは滝のような汗が流れている。イッシンはと言うと苦笑いしながら頭を掻いている。この女程度では汗もかかないのか。


「この前より強くなっているよ。技のキレも上がっている…と思う。…ごめん、技の良し悪しがよくわからなくて。」


「そんな……ことは…いいのよ……全く…あんた……まだ…本気の…1%も…出してないんだから。」


「ご、ごめん。あ、ミチナガさん。お待たせして申し訳ありません。是非とも朝食をご一緒しませんか?…少し時間がかかりますが。」


「え?あ…はい。ご相伴に預かります。」


 イッシンはいつものように空間を切り裂き家に帰る。俺はそのあとに続いて行くのだが、なぜか女も俺の後について来た。移動した場所は日本庭園のような美しい枯山水の庭であった。


「ふぅ…汗流してくる。朝食の時間までには必ず行くから。」


「うん。急いで用意して待っているね。」


 なんともこなれた会話。それにこの女とイッシンのこの感じ。もしかして…


「あの女性ってイッシン様の奥様?」


「ええ、そうです。あ…言っていませんでしたっけ?って、妻とは今朝あったばかりですよね。ロクショウ・サエと言います。先代の剣神の孫で現在道場の師範をしているんです。魔帝クラスで剣聖って呼ばれているんですよ。」


 魔神の中でも最強の3人の1人である神剣の嫁は魔帝クラスか。最強夫婦ここにあり…か。




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