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第21話 懐かしさと契約

 翌日、俺は朝早くから街へ出ていた。早朝から露店は大にぎわいだ。

 前に来た時とは違った店も多く、目新しいものが増えているように思われる。

 今日もボランティを含んだ護衛3人を引き連れて買い物をしている。


「朝早くからすみません。買い出しなので無駄に時間もかかってしまうのに。」


「いえ、これも仕事ですから。それにしてもパーティの際に出される食事を任せられるというのは流石ですな。」


「ははは、安請け合いしてしまってどうしようかと悩んでいますよ。」


 本当に悩んでいる。というかマジで困った。

 面白そうな料理などいくらでも思い浮かぶには浮かぶ。

 しかしそれの作り方が知らなかったり材料がなかったりと問題が山積みだ。

 料理人なら今あるものから考えつくのだろうが俺にはそんな才能も能力もない。決められた材料をきっちり使ってやるしか方法が浮かばない。


 昨日は料理を頼まれた後屋敷でいくつか案を考えていたのだがどんなに考えても結局最後は材料がないで終わってしまうのだ。

 面倒だから素材の味を生かした味付けに、とも思ったがあの時釣り上げた魚では焼いただけでは土臭さが残りまともに食べられなかった。

 血抜きはしても泥抜きをしていないので匂いを隠すように濃い味付けが好ましいだろう。


 先ほどから匂いをごまかすために香草をいくつか見ているがどれもピンとこない。

 そもそも洋風の味付けは料理長が作るので俺が作る必要がない。やるなら和風、和食がベストだろう。

 しかし和食は実に難しい。和食は素材の味を生かすものが多いので今回のような食材では選択肢が少ない。


 その後も何かないかと散策していると、ふと懐かしい匂いがした。この匂いは何度も嗅いだことのある匂いだ。

 もしかしてと思い、その匂いにつられて足を運ぶとなにやら怪しい露店にたどり着いた。


 周囲を歩く人々はクスクスと笑いながらその露店の商人を横目で見ている。

おそらくどこかの村からやって来た出稼ぎ商人だろう。

 いくつものツボが並べられているが商人の服は赤黒く汚れている。

 この国の人間にはただ薄汚れた侘しい商人にしか見えないだろう。しかしこの汚れ、この匂いは間違いない。


「おっちゃん。その壺の中身って見てもいいかい?」


「構わんよ。お客さんこの辺りの人じゃないね。この壺を買って行くのはうちの村出身のやつくらいなもんさ。この匂いと色味が好かれないらしくてね。全く売れないんだよ」


 確かに誰も買いに来る様子もない。むしろこの店で商品を買っていたら変人扱いされそうだ。

 壺を開けてみるとそこには黒い液体が並々と入っていた。しかもこの独特の匂い…間違いなくこれは…


「醤油だ…」


「ショウユ?そんな名前は初めて聞いたがお客さんはこれ知ってるのかい?うちの村の特産品なんだけど人気もないし名前もまだないんだ。ショウユってのは響きもいいし今度からそう呼ぼうかな。」


 嘘だろ。まさかこんなところで醤油に出会えるとは思いもしなかった。

 試しにひと舐めさせて貰うと俺が知っているものとは味がだいぶ違った。なんというか塩味が薄いのだ。

 醤油独特の風味はあるが塩味があまりに薄い。そのまま飲めるんじゃないかと思うくらい味が薄いのだ。


「塩味もっと効かせた方がいいんじゃないか?」


「塩は値段も高いからそうそう手にはいらないのさ。味が濃いのがよかったらこっちの壺の方がいいよ。」


 そう言って出された醤油を舐めてみるとまだ塩味が薄いがそれでもだいぶ良い。

 なんと懐かしい味だろうか…最高だ。


「随分と喜んでもらってるようだね。このショウユってのがそんなに嬉しいのかい?」


「そりゃもう…もう二度と食べられないんじゃないかって思ったよ。村ではたくさん作っているのか?」


「まぁ伝統みたいなもんさ。その昔豆を水に浸して塩で味付けした飯を村人全員が食べていたんだが、ある時持ち運ぶために皮袋に入れておいたやつを森の中で無くしてね。それから数年後に発見されたんだがそれがなかなか味の良いものになっていたのがこのショウユの始まりさ。」


「じゃあもしかして味噌はないのか?水分がなくてペースト状のやつなんだけど。」


「ミソ?ペースト状って言ったらこれのことかい?水不足の時に作られたショウユでない何かなんだがお湯に溶かして飲むとなかなか美味いんだ。」


 おお!味噌もあった!

 けどこの世界では醤油と味噌の発見は逆なのか。醤油と味噌って使用する材料は全く一緒だ。

 日本の場合味噌が先に作られて味噌を作った際に出る水分が醤油の元になったんだよな。

 だから味噌と醤油の違いを簡単に言うと水分量の違いだ。

 水タップリに作ったのが醤油、水からっからなのが味噌みたいな感じだ。


「醤油はこの塩分濃いのを欲しいな。味噌は…全部味薄いけどまぁいいや全部でどれくらいある?」


「それなら醤油は3壺で味噌は5壺だな。いくつ欲しいんだ?」


「全部」


「は?」


「だから全部。あるだけくれ」


 俺の申し出になにやら表情が無くなっている。呼びかけてみるが返事がまるでない。

 何度か揺さぶってみるとようやく我に返った。


「す、すまん。あまりの申し出にビックリした。まさかこんなに売れるとは思いもしなかったよ。けど村出身のやつにも売ってやりたいから1つは残しておいて…」


「これでどうだ?」


 そう言って金貨を3枚渡す。すると商人は声にもならない声を上げている。

 何度も金貨を握り、目を擦っている。


「この壺3つ金貨1枚で買い取ろう。今回は壺1つ分おまけしとく。村にはまだあるんだろ?」


「え、ええ…あります。ありますけど…壺3つで金貨が…そんな…嘘だろ……」


「村にまだあるなら持ってきてくれないか?往復で何日かかる?」


「え、あ…馬車で3日ほどの距離です。往復だと荷積みも合わせて7日もあれば十分かと…」


「よし、じゃあ頼むわ!あ、けど商品残っていると帰るのに時間かかるな。どうせだから残りも全部買うよ。並べてあるの全部でさっきの金貨も合わせて金貨10枚でどうだ?」


「10!金貨が!もちろんです!持って行ってください!」


「じゃあ交渉成立だな。また1週間後…いや余裕を持って8日後にするか。じゃあよろしく!」


「はい!ありがとうこざいます!」


 よっしゃ!これで醤油と味噌の確保完了だ!金はかかるがしょうがない。

 最初に金を多く渡すことによって今後の生産量を増やしてくれる可能性が増える。

 醤油も味噌も作るのに時間がかかるからな。金貨10枚程度を投資するくらい安いものだ。


 それに醤油と味噌は間違いなく流行る。いや流行らせて見せる。

 ここで金を使ってもその分以上を稼ぐことだってできるはずだ。今の俺にはその材料がすべて揃っている。


 その後も買い物を続けるとまた何やら良い匂いがして来た。

 その匂いに釣られて行くと今度は他の露天と違い少々高級そうな露店があった。

 並んでいるものはどうやら卵と乳製品のようだ。


「お!いらっしゃい。お供を連れたそこの旦那。どうです?うちの店はいいのが揃っていますぜ?」


「へぇ〜いいのが揃っているね。それにこの卵は大きくて良さげだ。産んでからどのくらい経つ?」


「そこに並んでいるのは1週間は経ってますぜ。こっちのは今日産んだばかりさ。こうして雌鶏と雄鶏も連れて来てるからね。肉がいるなら今から裁くこともできるよ。」


 そう言って店主が取り出した雄鶏は俺の知る鶏よりも大きく、抱え上げるほどだ。見た目から凶暴さが伝わってくる。

 今も羽をつかんでいる店主の手の中で大暴れしている。しかしこれはちょうどいいかもしれない。


「できればその雌鶏と雄鶏の両方を生きたままで欲しいんだが売ってくれるかい?」


「雄鶏は構わないが雌鶏はなぁ…雄は1羽銀貨5枚で雌は大銀貨2枚ならいいぜ。」


「じゃあそれで頼むわ。雌は売れるだけ買おう。雄は…雌次第だな。」


「売れるだけって…今連れて来た雌は全部売っても構わないぜ。雌は10羽、金貨2枚だな。雄はどうする?」


「喧嘩されても困るしな。雄は1羽でいいや。それと新鮮な卵と…チーズもあんだよなぁ。」


 ぱっと見ではわからなかったが手が回らないほど大きな円盤状のチーズが並べられていた。

 初めはただの丸太かと思ったがその横に並べられているカットされたものを見てようやくわかった。


「これはうちの村の特産品だ!焼いてパンの上にかけるとうまいんだなこれが。手間もかかるから値段も高くてそう簡単に手に入る代物じゃないんだが金を持ってる冒険者なんかには売れるんだ。1カット大銀貨5枚だけどどうする?」


 40等分ほどにカットされているがそれでも元々が大きいのでそれなりの量はある。

 チーズって作るのに手間暇がものズゴイかかるからなぁ。どうしてもここにあるような硬くなった熟成ものは値段が高くなってしまう。


「しょうがない。必要経費だ。チーズも一つ貰おうか。」


「まいど!サービスでこの大きくカットしたやつをやるよ。」


「いや、丸のまま買うよ。全部で金貨13枚あれば足りるだろ?」


「そのままですかい!?お金もちゃんとある…羽振りがいいですねぇ…」


 だいぶ大盤振る舞いをした気がする。

 まあ事前にアンドリュー子爵から経費として金貨30枚をもらっているのでなんの問題もない。

 いくら使おうが俺の懐は痛まないのだ。大人買いサイコー!


 代金を手渡しいつものように買ったものをしまっていると問題が起きた。

 チーズや卵はしまえたのだが鶏がしまえないのだ。あたふたしていると護衛のボランティが声をかけて来た。


「ミチナガ様。失礼ですが生きたままの生物は収納袋に入りません…」


「え、そうなの?」


「いろいろと説はありますが収納袋自体に生物を収納するための魔法が書き込まれていないのです。」


 初耳だ。それにおかしくはないか?植物や種などは生きたままでも仕舞える。

 取り出して再び育てることだって可能だ。

 動物だけができないというのは何か他の要因があるのではないだろうか。


 それにそうなると俺のファームファクトリーで家畜を育てる場合はゲーム内課金でしか買えないということなのだろうか。

 こっそりスマホを確認してみると何やら通知が来ていた。


『購入したことにより所有権を得ました。対象はアプリ内での育成が可能です。契約し収納しますか?』


 どうやら契約をすれば収納することができるようだ。

 イエスボタンをタップすると鶏たちの周りに何やら難しそうな魔法陣が現れた。

 その魔法陣は輝き、弾け消えると先ほどまでいた鶏たちが消えていた。

 おそらく今ので収納することができたようだ。


「あ、大丈夫みたいです。」


「え、えぇ〜…」


 何かいろいろ言いたそうにしているが原理も何が起きたかも俺自身よくわかっていないので追及される前にその場を後にすることにした。

 何か聞かれても正直魔法ってすごいねくらいで終わってしまうので勘弁してくれ。




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