第200話 託された希望、羽ばたく…
第200話です!記念に何か…と思ったのですが普通に続きます。
「これがこの手記の内容だ。役に立てたかな?」
「…ありがとうございます。ついでにこの使い魔たちに読み方を教えてもらってもよろしいですか?」
岡上は暇だからちょうど良いとすんなり引き受けてくれた。俺はその場を後にしてミラルたちの元へ向かう。用件はもちろんあの話に出て来た白虎の獣人の話だ。ミラルたちは何か知っているのだ。
ミラルたちは部屋に急に押し入って来た俺に対し何一つ文句も言わずにこちらを見ている。いや、目では文句を訴えかけているようにも思える。しかしそんなことはどうでも良い。今はそんなことよりも重要なことがある。
「ミラル、詳しく話せ。なんで昔の日記にお前たちの仲間の話が出て来た。何も知らないとは言わせないぞ。」
「残念ですが知りません。そもそもなんのことかよくわかりません。私たちはそれぞれに役割を与えられました。預言の全てを一人が知ることはできません。幾人もの仲間にそれぞれ別の預言が与えられています。その日記に出て来た仲間の役割がどのようなものかは知りません。」
「ちゃんと話せよ。お前ら何を隠しているんだよ。一体俺に何をさせたいんだよ!」
一人感情的になり声を張り上げる俺に対してミラルたちはその時が来るまで話せませんの一点張りだ。俺は血の上った頭を冷やすためにその場を後にして外へ出る。外は今日も零下30度以上の寒さだ。頭が冷えるどころか寒すぎて頭痛までして来る。
人に頼られると言うのは嬉しいものだ。都合よく利用されるのではなく、俺にお願いされるというのは充足感がある。しかしこれはさすがに話が大きくなりすぎだ。一体、俺は一体何人の人間から託されているのだろう。
一体こんな俺に何ができるというのだ。それにこの世界には魔神という最強の奴らがいる。俺に頼るのではなくもっと他に頼れる奴がいるだろう。俺はただのちっぽけな人間だ。それがなぜ
預言の元に俺に全てを託されなくちゃいけないんだ。
『ポチ・一体何を悩んでいるの?』
「…俺に何でもかんでも任せないで欲しいってところだ。それに俺は今だに何を任せられたのかまるでわかっちゃいない。俺は一体何をするんだ?俺に託そうとしている人たちは俺に何を隠しているんだよ。」
『ポチ・ボス…一言言うけど…最近調子に乗っているんじゃない?初めて出会った頃を思い出してみなよ。毎日毎日なんとかして金を稼いで、すぐに課金してお金がなくなって…そんな人が何でもかんでもできるわけないじゃん。だいたいお店だって僕たち任せだし。』
「それは!……まあそうだけど…」
『ポチ・僕たちは自由気ままに旅をすれば良いよ。身近なことからやっていこうよ。そのぐらいが僕たちにはちょうど良いでしょ。』
「…ポチ、お前言うようになったなこのヤロウ。だけどまあお前の言う事が正しいよ。そうかもな、最近俺は仕事も順調だったし調子に乗っていたのかも。突拍子も無い行動も増えたしな。預言とか関係なしに動いてみるか…でもこの旅の目的も預言に沿っているような…」
『ポチ・忘れたの?元々は幻の果実を食べるためだよ。』
「…それを言うなよ。手に入らないんだから。」
俺はフッと息を吐く。それから大きく吸い込んだ空気はなんとも冷たくて喉まで凍りつきそうだ。しかしこの痛みで我に帰れた気がする。この国を出たら一度どこかでゆっくりと体を休めよう。少し気持ちを切り替えないとこの先どこかで大きな失敗をする。
「部屋に戻るか。さすがに寒くなって来た。」
『ポチ・そうだね。それじゃあ…って危ない!』
「ん?どうし…うわぁ!」
突如肩を掴まれたと思ったらそのまま俺は空に向かって飛んで行った。一体何事かと思い見上げるとそこには巨大な羽毛の塊があった。いや、俺はこれを知っているし食べたこともある。この国のワシだ。突如飛来したワシが俺のことを持ち上げてそのまま飛び去って行ったのだ。
まさか人間を軽々と持ち上げてしまう鳥がいるとは思いもしなかった。まあ正確にはモンスターなのでこのくらい造作もないのだろう。ただこれは非常にまずい事態だ。俺はこのままでは鳥の餌になってしまう。
この緊急事態をどう解決するかと呑気に悩んでいると、いつの間にか俺の足にしがみついていたポチがそのまま俺の体を登り、鳥の体に飛び移っていた。そして口の中から何かを取り出すと鳥の顔に何かをふりかけた。
すると鳥は急にもがき、俺のことを振り落としてしまった。真っ逆さまに地面に向かっていく俺はただ悲鳴をあげているしかなかった。するとスマホから現れた使い魔たちによって何かを装着され始めた。そして何やら紐を引くとバッと言う音と共にパラシュートが開いた。
『社畜・いざという時のために開発しておいてよかったのである。残り少ない空の旅を満喫するのである。』
「た、助かった…さすがにもうダメかと思ったけど、なんとかなるものなんだ……お、おい。あれ何?」
九死に一生を得たのもつかの間、遠くの方からこちらに火の玉が向かってくる。いや、あれは隕石だ。隕石が向かってこようとして来ているのだ。まさかの隕石という事態に驚いている俺に使い魔が肩の上でそれが何かを確認しようとしている。
『エン・隕石じゃないよ。真横に飛んで来ているし…あれは人間みたい。』
「人間!?そんな人間がいるか!」
『八雲・そう…そんな事ができるのは……れ、煉獄だぁぁ!!』
煉獄、準魔神クラスの超危険人物だ。この緊急事態にすぐに地面に着地した俺たちは急いで魔導装甲車を取り出して乗り込む。ここからは一刻一秒を争うときだ。急いで街まで避難しなければならない。フルスロットルで魔導装甲車を走らせようとしたのだが、なぜか進まない。氷に足を取られているのかとも思ったが、何かが違う。
『エン・外ものすごい暴風雪!風で車体が引っ張られている!』
「そんなバカな事が…って本当みたいだな。しかもめちゃくちゃ寒くなって来た。だ、暖房も最大でやってくれ。」
暖房をガンガン焚いて全速力で走っているが一向に進まない。そんな中、外の様子を見ていたエンから興味深い報告を受けた。
「どでかい氷の柱が立っている?しかもどんどん大きくなっているのか?」
『エン・遠くの方に見えたけど多分氷神の城の方だと思う。煉獄を迎撃するために氷神が動いたんじゃないかな?』
なるほど、つまりこの突風は氷神が氷を生成した時に出た温度変化による突風か。エンの報告によるとそれはそれは巨大な氷の柱が立っているらしい。氷神の城は街とは反対方向にあるので街には被害が出ないようだ。
「ん?ちょっと待って。俺たちは街に戻ろうとしているから街の方角目がけて進んでいるんだよな?だとしたらなんで進まないんだ?なんで氷の柱の方に引っ張られていくんだ?」
普通冷やされた空気とは下降気流を生むものだ。つまり氷の柱の方から空気が流れてくる。しかし今は氷の柱の方に向かって空気が流れている。これは少しおかしい。
「使い魔のみんなに質問です。なぜ氷の柱の方に吸い寄せられるように空気が流れているのでしょうか。」
『エン・実はあれはただの氷じゃないとか?』
『社畜・可能性はあるのである。例えば…空気を凍らせたとかどうであるか?』
「なるほど!空気を凍らせたのなら凍りついた気体の体積は小さくなるから吸い寄せられる空気の流れになってもおかしくないな!だけどそんな事ができる奴がいるものかよ。」
俺は声をあげて笑う。使い魔たちもそれを見て面白そうにしている。そしてひとしきり笑ったところで俺は顔を真っ青にさせた。普通ならできるはずがない。それこそ絶対零度を作り出す事ができるようなものだ。
だが相手は氷神、この世界最強の10人の一人。そのくらいのことはできてしまうだろうと予見している俺がいる。俺はすぐに頭を巡らせる。そして一つの方法を思い浮かべた。
「信号弾を上げろ!今すぐにだ!」
『エン・了解!』
すぐに真っ赤な信号弾を打ち上げたのだが、風に流されて何処かに消えていってしまった。それでも諦めずに何発も信号弾を上げ続ける。やがて魔導装甲車を殴りつけるような巨大な衝撃が走った。
重力がかかるとかそんなレベルではない。飛行機の加速やそれこそ戦闘機の加速以上の衝撃だろう。俺は一瞬のうちに意識を失った。ただ一つ言えることはちゃんとシートベルトをつけておいてよかった。
ミチナガが気を失った瞬間、一体何が起こったのか。それは窓から外の様子を伺っていたミラルたちならすぐにわかった。空から隕石のように降って来た準魔神クラス、煉獄が氷神の氷とぶつかり合ったのだ。
ミチナガたちの読み通り、氷神の作り出した氷は大気を凍らせたもの。凍らせた大気は煉獄の炎とぶつかった際の熱で元の気体に戻る。すると数百倍に膨張した気体によりそれこそ巨大な爆発のような暴風が巻き上がる。
こんな事が起きれば街もひとたまりもないはずなのだが、煉獄に襲われるのはよくある事だ。そのため街には完全防御の仕組みが徹底されている。しかし街にいないミチナガたちがその恩恵を受けられるはずもなく、どこか遠くへ飛ばされていってしまった。
このことを知ったミラルたちはうろたえるが、今もなお煉獄と氷神はやりあっている。この街から出ることは不可能だ。ただただ無事でいることを願うほかない。
なんか100話の時もそうでしたが、100話ごとに話のターニングポイントが来ている感じがします。